第四章 キックオフ! Ⅲ
ボールをリョンジェにパスし、さらにギャロンにパスされ。前に出た他の選手にパスし。どうにか奪われずに前進できている。
龍介もジェザも駆ける。
パスはつなげられている。相手は奪い取ろうと迫るが、その前にパスを出し相手には触らせもしない。
「前出ろ前出ろ!」
最後尾のリョンジェが龍介に叫ぶ。ボールは前後左右の四方八方を細かく転がりつなげられ、リョンジェの足元に来た。
龍介は言われた通り前に出れば、リョンジェはボールを蹴り上げて、長いパスが龍介向かって落ちてくる。
気合を入れて蹴り上げたおかげか勢いもありまるで隕石のようだ。
相手の選手がボールを奪おうと迫ってくるが、ボールを受けようと止まったと同時に相手も駆ける速度をゆるめて身を寄せて、ボールを奪おうとし。
肩と肩が触れ、押し合いとなったが。龍介は力を逃がすように少し後ずされば、相手選手はよろけて。
その隙にボールは落ちて、すかさず奪い取って。ボールを蹴りながら駆けるドリブルでゴールに迫り。シュートの体勢をとった。
すると、ゴールキーパーがボールを奪おうと迫ってきて。再びドリブルで駆け、迫るゴールキーパーの脇を駆け抜けてゆく。
さっきのはフェイントだったのだ。
バジョカ大王は大王用の椅子に腰掛け、試合を見ていたが。
「よしいけ!」
と、観客たちと同様に喚声を上げた。
ヴァゼッラは顔をしかめた。
シェラーンは「頑張って!」と声援を送る。
「しまった!」
相手ゴールキーパーはうめきながら龍介を追い、他の相手選手ふたりゴールの前に急いで戻った。
「行けー!」
「うわーやめろー!」
などなど、観客のどよめきが音の塊となってコロッセオを揺らすように響く。
それすら意識できないほどの集中し、龍介は狙いを定めて、左足でシュートを打ち放った――。
ボールはゴールに吸い込まれるように飛んで、ネットを揺らした。
「うおおおぉぉぉーーー!!!」
というどよめきが轟きコロッセオの空を揺らす。
龍介は自分でも得点できたことに驚き、一瞬呆気にとられたが。真っ先に駆け付けたリョンジェに抱きつかれて、自分が得点したことを実感した。
他の選手も「やるじゃねえか」とゴールを称える。あのジェザでさえ、
「見直したぜ」
と笑顔で言う。
これで同点だ。
「……。オレ、ゴールしたんだ!」
やっぱり驚く龍介。しかしこの驚きは異世界への驚きではない、自分への驚きだった。




