第三章 試合に臨む Ⅴ
「ほらほら、あそこ」
リョンジェが指差す先に、観客席と分けられた別のスペースがあり、見ればバジョカ大王とシェラーンの姿が見える。他の人もいる。そこがコロッセオの特別室のようだ。
「試合前練習やめ!」
審判が声を張り上げて言い、選手たちはピッチを離れて奥に引っ込んでゆく。
「そろそろ始まるか」
深い呼吸をする。
するとガルドネが木の杖を両手で握りなにやらぶつぶつ言っている。
「呪文だよ」
リョンジェが言う。すると、なにか身が軽くなったように思えば、
「あれ?」
なんと、自分の手が半透明になってゆき、どんどんと薄まってゆくではないか。それから気が付けば、なんと、あろうことか自分たちはコロッセオ上空にいるではないか!
上空の選手たちを眺めて、観客たちはやんやの喝采を送る。
上空から降下してゆく。
龍介は茫然としっぱなしだが、他の選手は慣れたもので眼下の観客たちに勇ましい顔つきで身振り手振りで心意気を伝えていた。
同じように上空に、小さな太陽のように光り輝くものが浮かんでいて。これが暗くなるコロッセオを照らしていた。その明るさハンパなく、まるで昼のような明るさで、これなら確かに夜でも試合ができるだろう。
「とんでもないところだ!」
魔法の力がいかんなく発揮されているのを見せつけられる。
やがて皆ピッチに降り立つ。さながら神の降臨のようで、観客の興奮も高まってゆく。
(やっぱりここは異世界なんだなあ)
こんな感じでこれからも結局は何かで驚かされそうだ。
それはさておき、赤いユニフォームのフィールドプレーヤー、ゴールキーパーは緑の相手選手たち、ヴァゼッラの選手たちも審判も同じようにして降りてくる。
喚声がコロッセオを包み込んで揺らす。そんな中で相手選手と審判と握手しオープニングセレモニーをおこなう。
特別室のバジョカ大王が椅子から立ち、月桂冠を頭に載せた威厳ある姿を大衆に見せれば。これに対しても大歓声が轟く。
その左右に、シェラーンと中年の男の貴族、ヴァゼッラが立つ。真剣な顔つきだ。こうして見ると、なるほどシェラーンは貴族なんだと実感し、威厳を感じる。
「諸君、今宵の試合、存分に楽しんでくれたまえ! 両雄の健闘を期待する!」
「すげえ……」
龍介は雰囲気に飲まれそうなのをかろうじてこらえていた。
観客もどのくらい入っているだろか、軽く二万から三万はいそうで、J1並ではないか。
それがバジョカ大王の言葉にも熱狂している。まさに熱狂の渦がコロッセオで巻き起こり、コロッセオを包み込んでいた。
第三章終わり 次章に続く




