第三章 試合に臨む Ⅳ
彼女は他の貴族たちやバジョカ大王とともに特別室で観戦するという、そのため入ってしばらくして別れたが。
「健闘を祈るわ」
と微笑んで親指を立て、龍介も親指を立ててそれに応えた。
控室にゆけば、選手たちやレガイン、ドドパらが勢ぞろいだ。ガルドネもいた。
軽い挨拶をかわし、着替えを済ます。
今夜の試合についての打ち合わせをする。相手のクラブ名はヴァゼッラといい、シェラーンと同じ貴族が所有するクラブで。ヴァゼッラはオーナーの名そのものだという。
何かボードゲームの盤のようなものが机に置かれている。それには青い球と赤い駒が置かれて、それらの玉をあちこちに配置してレガインが試合でのフォーメーションを説明する。
「基本的にフォーバックの、4-4-2で行くぞ」
4-4-2とは、後ろからフィールドプレーヤー4人・4人・2人のフォーメーションを基本に試合をするという事だ。
それから、出場する選手の名を読み上げる。その中に龍介の名もあった。
(出す出すといわれてはいたけど、やっぱり異世界に来ていきなりはきついなあ)
喉がひりひりする緊張を禁じ得ない。ジェザとのツートップだ。もちろんリョンジェもいるが、彼は一番後ろの4人の一番右側だった。
でもどうしてオレなだんだ、と思いつつ、彼がいるならいけるかもという安堵感もあった。
様々な気持ちを抱えながらも、結局は、
「ままよ」
と試合に臨むしかない。
レガインはどのように試合を展開するか、盤の駒を用いて話をする。その話が終わると。
「よし、行くぞ!」
レガインが言えば、
「おうッ!」
という怒号のような雄叫びが轟き。控室を出てピッチに出て、試合前練習をして体をほぐす。
外は夕暮れ時で空が茜色に染まりつつあった。
観客席にはすでに観客が来ていて、それも相当な数で。熱心な観客が、
「うおー!」
と、声援でコロッセオを揺らすかのような声を張り上げる。そこから、何かの歌の大合唱だ。チャントを歌っているのだ。
「うおお、すげえ」
試合会場の規模や観客数、そして雰囲気。すべてが地域リーグを上回って。Jリーグに勝るとも劣らない。異世界にこんなものがあるなんてとあらためて驚かされた。
さすがに昔の中世な世界なので大型ビジョンやアナウンスを告げるスピーカーはないが、観客席のあちこちに声を張り上げて観客に向かってなにやら喋っている者がいる。それはピエロの格好をしていた。
それらが龍介の世界で言うところのスタジアムDJの役割を担って、様々なアナウンスをしているようだ。




