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第三章 試合に臨む Ⅲ

 っていうか、シェラーンが来たということは、近くにいたってことか。

「隣の部屋にいたら呻き声がして、びっくりしたわ」

「え、隣の部屋にいたのか」

 てっきり離れた自分の部屋にでもいるかと思ったが、まさか隣の部屋にいたなんて。


「時間が来たら教えてあげようと思ってね」

「誰かに頼んでやってもよかったんじゃないか?」

 龍介は半身を起こしてベッドに腰掛けていて、気が付けばその隣にシェラーンが腰掛ける。

(……。勇ましいな)

 近くで見れば改めて、その男装の麗人っぷりがうかがえ。勇ましさを感じる。それは頼もしさにもつながる。


「あなたは大事な選手だからね。何かあったら私の責任よ」

「そんなことを考えているんですか?」

「そうよ。これでもオーナーとしての責任を自覚しているわ」

「そ、そうですか……」

 よくしてくれるのは素直にありがたかった。しかしどうして、こうまでしてくれるのだろうか。


 シェラーンは龍介をしっかりと見据えた。凛々しくもまだあどけなさの残るシェラーンに見つめられてどぎまぎしつつも、龍介は目が離せない圧力を感じた。

「私のクラブは弱くてね、それを打破するためにガルドネ大魔導士に相談したら、あなたを呼んでくれたの」

「え?」

 要するに自分は助っ人という事か。しかし、それはランダムに選ばれたことだ。助っ人をランダムに選ぶなんて。


「すべてに意味がある。神と魔法を信じろ」

 そんなことをガルドネは言っていたが……。

「そろそろ時間だから、行きましょうか」

「うん」

 シェラーンに導かれて馬車で屋敷からコロッセオに向かう。


 馬車の中では無駄口をたたかず、ふたり静かなものだった。嵐の前の静けさのように、試合前の緊張感を噛みしめた。

 丁度良くリョンジェもコロッセオの前にいて鉢合わせした。


「よう、今夜はやってやるぜ」

 親指を立てて意気盛んなところを見せ、馬車から降りて龍介も同じように、

「頑張るよ」

 と親指を立てた。シェラーンはそれを好もしそうに眺めている。


(そういえば、現実世界みたいにバスで、サポーターに迎えられながら現地入りするんじゃないんだなあ)

 という違いを感じながら、門番の兵士がうやうやしく一礼するのをお辞儀で返しながら中に入る。

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