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第三章 試合に臨む Ⅱ

「ご厚意はありがたいんですけど、気持ちを落ち着けたいんで個室で……」

「そうね、ひとりで静かにするのもいいわね」

 微笑んで、「来なさい」とシェラーン自ら部屋に案内してドアを開けて。龍介は変なドキドキを覚えてしまった。


「時間が来たら言ってあげるから、ここでゆっくり休むといいわ」

「……ありがとうございます」

 部屋の中に入れば、「じゃあまたね」とシェラーンはドアを閉めて去ってゆく。


 部屋は簡素ながらフカフカそうなベッドがある。カーテンが陽光をややさえぎりほどよく薄暗い。龍介は靴と靴下を脱いでベッドに横たわれば、満腹のリラックス感から心地よい眠気に襲われて、寝息を立てて眠りについた。

 

…………


「ダメだったか」

 ひどく落ち込む。

 Jリーガーを目指しながらも叶わず、失意に沈む。なるだけ早くなりたかったから、大学進学の意図はなかった。


 どうしようかと悩んでいると、地域クラブのトライアウトを受けたらどうだと顧問からアドバイスを受けて、その通りトライアウトを受けて、合格しクラブ入りした。


(もっと上でやれる自信はあるんだ)

 そう思えばこそ、地域リーグのピッチを駆け抜けた。

 相手選手とぶつかり、芝に倒れると思ったが、そのまま落下。


「え!?」

 ひゅー、と井戸に投げ込まれたような感覚に襲われて、

「うわー!」


 恐怖のあまり悲鳴を上げてしまった。

 Jリーグはおろか地域リーグで戦うこともできないのか、やることなすこと全部ダメになのかと、暗い穴に落ちてゆく惨めさが湧き上がる。

 惨めでみじめで仕方なかった。


…………


「どうしたの!」

 どんどんどん! と強くドアがノックされる音がして。そこで「はっ」と目が覚めた。


「夢か……」

「開けるわよ!」

 シェラーンの絶叫にも近い声がし、ばん! とドアが勢いよく開けられて、龍介は「うわ!」と驚いて悲鳴を上げてしまった。


「どうしたの、何があったの!?」

「え、あ、いや。……夢にうなされただけだよ」

「え、それだけ?」

「うん」


 シェラーンの必死そうなまなざしに圧されるのを感じながら龍介は頷いた。

「はあ、よかった」

(あれ、怒らないのか?)

 夢くらいにうなされるなんて、だらしない! と喝を入れられるかと身構えたが。あにはからんやシェラーンはほっとした表情を見せた。

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