第三章 試合に臨む Ⅰ
手を合わせて「いただきます」と言って、ナイフとフォークを使って肉を口に運んで、いい感じに弾力があって噛み応えもあり、味もよくついてて、龍介はご満悦だった。
シェラーンはその様を微笑ましく見ている。彼女は何かチップスのような菓子をつまんでいる程度だ。
自分ばかりもりもり食って悪いなあとは思ったが。
「笑うんですね。厳しい人たと思ってた」
「私をなんだと思ってたの……」
(あ、やべ!)
機嫌を損ねてしまったかとぎくっとしたが。
「正直ね。嫌いじゃないわ」
と再び微笑んで、ほっとする。
「貴族だから、本心で接してくれる人も少なくてね」
「……」
まだ社会経験の浅い龍介だから、その意味をよくわからなかったが。下心をもって近づく輩がいるだろうことは予想がついた。
「高貴の家に生まれるのも大変よ。サッカーのクラブチームを持つのも、市民への奉仕のひとつよ」
「奉仕!」
龍介は驚きながらも、「かまわずに食べて」というシェラーンの言葉に甘えて、食べ続けた。
もりもり食うその食べっぷりを見て、シェラーンは微笑んでいて。なんだか照れくさかった。
(しかし、サッカーのクラブチームを持つのが市民への奉仕だなんて!)
この世界は貴族は貴族で義務を負っているのかもしれない。聞けば学校や図書館、病院など公共の施設も貴族の財産で建てて、維持しているという。
権利も大きい分、果たすべき義務も大きいというところか。
シェラーンの場合は娯楽の提供というかなんというか、それが義務だと聞かされて、現代日本人の龍介はぴんと来なかったが。大変そうな感じはした。
「おかわりもあるわ」
「ああ、いや、そこまで甘えるのは」
「遠慮しなくていいわ。食べたいものがあったら何でも言って。私はあなたを歓迎するわ」
「あ、ありがとうございます」
ステーキを平らげて、まだいくらか入りそうだったが。試合もあるので調子に乗って腹を膨らませるのは避けたかった。
「ごちそうさま。ありがとうございます」
自分と同世代ながら、年上じゃないかとつい思ってしまうシェラーンに龍介は自然と敬語が出る。
それだけの威厳が彼女にはあり。
食べ終わると、
「時間までここでゆっくり休むといいわ」
と言う。




