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第二章 クラブチーム・シェラネマーレ Ⅸ

 龍介は耳を疑いまた面食らった。 

「あ、あの、ガルドネさん。この人は」

「話すと長いから、馬車の中で話すわ。さあ乗って!」

 召使いの女性がいつの間にかそばにいて、馬車の扉を開けた。


「どうしましょう?」

「やむを得ぬ、シェラーンお嬢様のご厚意に甘えなさい」

「ガルドネさんは?」

「私は一時城に帰ろう。大魔導士としての仕事もあるでな」

「ええ~……」

 ガルドネがいてくれれば心強いのだが、当てが外れた。


「取って食いやしないわよ! さあ乗って!」

 促されて龍介は馬車に乗った。馬車の中の前後に座席があり、対面する格好になった。召使いさんは御者の隣。

 ガルドネは馬車を見送って城に戻った。


 マーレの都は賑やかだった。多くの人が行き交い、店舗が開かれ人が出入りし、活況を呈していた。その中にいながら、やっぱり不安な気持ちに襲われてしまう龍介がいた。

 想像が追い付かない。やっぱりここは異世界、ということだった。


「自己紹介が遅れたわね。私はシェラーン。クラブチーム・シェラネマーレのオーナーよ」

「シェラーンさん? ……あ、名前は君の名前から?」

「そうよ、マーレのシェラーンって意味よ」

「そ、そうなんだ……」


 しかしなんということだろう。異世界に吹っ飛ばされてわけもわからないうちにサッカーをすることになったが、所属するクラブチームのオーナーが自分と同世代の女の子だなんて!?


「あの、こんなことを聞くのもなんですが、貴族?」

「……そうね。貴族よ。私たちの一族は代々王国に仕えているわ」

「そうですか」

「驚いた? 19になったばかりの小娘だものね」

「いやそんな……。ってかオレと同い年なんですね」


 シェラーンはじっと龍介を見据えている。気の強そうな感じで、気を緩めれば取り込まれそうだ。

「あなたの練習を見せてもらったわ。今夜期待しているわね」

「でも試合に出られるかどうか」

 練習ではついてゆくのがやっとだった。まさか異世界の住人たちに苦戦を強いられるなんて、というショックは禁じえなかったが。


「あなたにはいいところがあるわ」

「いいところ?」

「素早い動きと、ボールの予測よ。ジェザにいいアシストをしたじゃない」

 あれがアシストと言えるかどうか微妙だが(いや言わないだろう)、アシストという言葉まで取り入れられているとは。


 やがて自分の世界と異世界の区別なんてなくなるんじゃないかと思った。

 そうこうするうちに馬車は大きな屋敷に着き、従者の出迎えを受けながらシェラーンと龍介は馬車を降りて。中に案内される。

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