第二章 クラブチーム・シェラネマーレ Ⅶ
ジェザとの一対一の勝負に夢中で龍介は気付かない。
「おいおい、今日の練習は誰も入れるなと言ったのに」
「すいません。押し通されてしまいまして」
苦笑するレガインに警備の兵士は詫びる。
練習は公開するときもあるが、戦術の流出を防ぐために非公開にすることもある。夜に試合を控えた今朝の練習は、非公開であった。
しかし、押し通されたという。ガルドネはやれやれとため息をつく。
「シェラーンお嬢様も強引なところがあるからのう」
「そうですね、召使いの女性も困っているようです」
一見母と娘のようだったが、一緒にいる年配の女性は召使いだという。で、若い娘の方はお嬢様とつけられる。
そのお嬢様は観客席から移動し、裏の通路に消えた。それを見てレガインとドドパは「来るぞ」と苦笑した。
やがて召使いの女性を従えてお嬢様がやってきた。選手たちも気付いて視線が集中した。もちろん龍介も気付いたが、練習についてゆくのに必死でかまう余裕などない。
ジェザとボールの取り合いをしていたが、監督とコーチがやめさせて。二手に分かれてのミニゲームに移っていた。
フォワードなので前についたが、ボールすら触ることもままならない。
「彼が、まさか?」
「そう。異世界より召喚したフォワードです」
「ちょっと戸惑いがあるようだけど、丈夫なの? 大魔導士さん」
「はい、この世界にまだ慣れていませんが、いずれものになりましょう」
「いずれと言わず、今夜からものになってほしいんだけど」
「くそお!」
ガルドネは普通の声で言ったが、あろうことかシェラーンお嬢様は声を大きくして言った、それが、近くに来ていた龍介に聞こえて。
半ばヤケでボール目掛けて走った。
ミスをして野次られたこともあるが、異世界でもまああるのかもしれないが、さっそく練習のざまを見られて変な心配をされているようで。
どうにも辛い。
(馬鹿にするなよ!)
そう思うものの、ボールを自陣の奥まで運ばれて。一番後ろに4人並んでいるが、その右側につくディフェンダーのリョンジェは「いかせるか」と相手からボールをうまく奪って。
しばらく前に運んだあと、いいところに味方がいたのでそれに渡せば。
そこからまた手近な味方に渡され、その間にボールを持っていない選手が前に進み出て、龍介も同じように前に進み出て。
前に進み出ながら、ボールをパスしあった。
(ミニゲーム前に少し説明してもらったけど、なるほどパスサッカーだ)
サッカーの試合には様々なパターンがあり、必要に応じてパスも長くなったり短くなったりするが。このチームは短めのパスをつなぎ合わせながら前に出るパスサッカーを基本にしているようだ。
ただこれは運動量が求められスタミナも消耗させられるが、上手くはまれば短いパスをつなぎ合わせることで相手を右往左往させて、翻弄できる。