第二章 クラブチーム・シェラネマーレ Ⅵ
「……!」
リョンジェも加わり、他の選手とともに練習メニューをこなすのだが。まずスピードに驚かされた。走れば龍介より速い。それでいて、足を見れば丁寧な動きもしている。速さ技術があるということだ。
それから、一対一でのボールの取り合いをしてみたが。相手は巧みな足さばきでボールを操り、龍介に触らせない。
それでもどうにかボールを取ろうとしたが、肩と肩が当たり、龍介はもろくも吹っ飛ばされて、転倒した。
急いで起き上がったが、相手は得意そうに不敵な笑みを浮かべてボールを龍介に渡した。
「オレからボールを守ってみろ」
言われて一対一で向き合い、ドリブルをし相手からボールを守ろうとしたが。足が伸びたと思わせるほどに伸びてきて、あっさりとつま先で掻き出されるように取られた。
「……!」
(なんだこれは!)
レベルが高い!
異世界が龍介の世界からスポーツを取り入れていると聞いて、漠然とレベルはそんなに高くないみたいに考えていたが。とんでもない、レベルは高い。
学生時代に今の地域リーグと試合をこなしてきたが、軽くそれを凌駕するレベルだ。
「地域リーグでもトップクラスはJ2J3と遜色ないレベル、たまに規格外でJ1と同等がある」
と言われて、龍介も自分はJ1まで行かずともJ2J3レベルだと思っていた。それが、このざまである。
「ぼっとするな。ボールを追え!」
相手から言われて、龍介はハッとする。相手の名前は、ジェザといったか。身長はリョンジェと同じように190センチくらいありそうな長身で、黒目に黒髪ながら彫が深く鼻が高いラテン系っぽい感じだ。そのジェザは龍介にハッパをかけて自分を追うように言う。
「おいおい、今夜試合なのに」
ドドパが心配そうに言うが、レガインは無言で成り行きを見守っている。ガルドネも同じようにしている。
「くそ」
龍介は意気込んでジェザ目掛けて駆けた。
ジェザも逃げずにドリブルしながら龍介向かって駆けたが、ボールは足に吸い付いているかのように離れず。上手く曲線を描くように、ひらりひらりと龍介はかわされ、つま先でボールに触れることすら叶わない。
「だれあの子?」
観客席ににわかに現れた者たちがいた。
年配の女性と若者。母親そとの子どものようだが、ともに褐色の肌をしアフリカ系っぽい人だった。
その子どもっぽい方は年ごろ、十代後半のようで。長い髪の毛を後頭部でまとめたポニーテール。目鼻立ちもくっきりしている。
パンツルックスで、一見男の子かと思ったが。年配の女性の方が、
「お嬢様」
と呼んだ。女の子だ。
男物の服を着ており、一見男の子っぽかったが。女の子なのだ。
男装の麗人として、凛々しさを感じさせる。そんな女の子は、龍介を見て不思議そうな目を向ける。