第二章 クラブチーム・シェラネマーレ Ⅴ
石造りのごついコロッセオは広いが、段状にせり上がる観客席は近く圧迫感も感じる。いざ試合となって観客がいたら、どんなことになるんだろうか。
地域リーグはよほどのことがない限り観客が一千はおろか、五百人に達することはまれで。三桁いけばいい方だった。
観客がいる状態での試合を想像し、にわかに緊張を覚える。が、それは夢にまで見た願望、まさに夢ではなかったか。
「現実で叶えられなかった夢を、異世界で叶えるか……」
「おい。だけど試合は真剣にやってくれよ、オレだって不真面目にされたら怒るぜ」
「う、うん」
少しぼーっとしたところがあり、足の動きが鈍りボールもころころと力なく転がる。それを見てリョンジェがハッパをかけた。
他の選手たちも練習に励む。
ピッチにはもちろんゴールがある。それを見て、龍介は猛然と駆けた。
「おッ」
リョンジェはにんまりと笑って少し後ろをついてゆく。
ピッチを踏みしめ駆ける感触、ボールを蹴る感触。思わず夢中になり、全てが生きている実感につながる。
位置は、目の前にセンターラインが見える。あと数歩で越えられそうだ。が、龍介はドリブルを続けず。駆けながらボールを思いきり蹴り上げた。
「おーそう来たか!」
リョンジェも同じようにボールを蹴り上げた。
蹴り上げられたボールは弧を描いて宙を駆けるようにゴール目掛けて飛び、下降し落下してゆき……。
ぼんッ!
という音が聞こえそうな感じでネットを揺らした。その一瞬後にリョンジェのボールはゴールライン内で地面に落下して跳ね返ってネットに当たった。
「やったあー!」
何気に蹴り上げたボールが見事ゴールに入って。龍介とリョンジェも自分でもまさかという気持ちながら、やはりシュートが決まったのは心地よく。
思わず笑顔でハイタッチをかわした。
「ほう」
レガインとドドパは感心し、ガルドネもよしよしと得意そうに頷く。
他の選手たちも、
「少しはやるようだ」
と、つぶやきはする。
存分にドリブルをし、気まぐれに蹴り上げたボールがまさかのナイスシュートで龍介は興奮気味だった。
「オレはやれるんだ」
自ずと自信を持つ。
「龍介君、来なさい」
ヘッドコーチのドドパは手招きし、他の選手と一緒にメニューをこなすように言い。龍介もそれに従った。