エピローグ
龍介は召喚されてからのことが、脳裏に走馬灯のように駆け巡る。
3戦いずれも激戦だった。辛い思いもしたが、帰る段階になって、なぜか何もかもが懐かしく、いとおしい思い出となっていた。
「みんな、さようなら……」
そう言って、手を振って。
すとん、と落ちるように目の前が真っ暗になって。
「うーん」
と、瞼を開ければ。バイトに行く途中の道で。自分は座り込んでいて、自転車は倒れていた。
服は、その時の服に戻っている。
この世界と異世界のはざまで着替えもさせてもらったのだろうか。魔法はつくづく便利なものだと思った。
「大丈夫かね?」
と、通りすがりの人に声をかけられる。
「いい若者が雷の音に驚いてこけちゃだめだよ」
「は、はい、すいません」
言いながら龍介は自転車を起こしてまたがり、その場を離れた。周囲の人からは、雷に驚くあまりこけたと見えたようだった。
ちょっとカッコ悪いが、その一瞬の間に異世界に行ってたなど言っても信じてもらえないだろう。
それから……。
地域リーグで優勝し、全国から地域リーグの激戦を戦い抜いた強豪が集う地域チャンピオンズリーグに出場した。
地域チャンピオンズリーグは3ヶ所で行われる1次ラウンドと、2次ラウンドとあり。4クラブが参戦する1次で3戦しての成績で順位を決め、各所の1位と最も成績の良い2位の4クラブが2次に進み。
2次も1次と同じく3戦しての成績で順位を決め、1位と2位になったクラブは晴れてJFL(日本フットボールリーグ)に昇格できる。
龍介のクラブは激戦を戦い抜き。1次を勝ち越え、2次も激戦を勝ち越え。1位と優勝して、JFL昇格を決めた!
この戦いにおいて、異世界で経験したことが存分に生きて得点源となり。厳しい監督も「よくやった!」と太鼓判を押してくれた。
もう歓喜も歓喜、大歓喜である。
JFLは日本のアマチュアサッカー最高峰リーグと言われる。
そこからJリーグに昇格するためには、ホームスタジアムが5000人規模以上で、観客の平均数が2000人を越えればJFAからクラブにJ3ライセンスが発行されて。JFLのランキングが4位以上になれば、Jリーグ3部のJ3に昇格し、J3リーグに参戦できる。
その過程で、地域リーグからJFLへの昇格が一番難しいと言われるが。その難関を越えたのだ。
異世界での残留劇に、元の世界でのJFL昇格劇と。龍介のサッカー人生は大きく動き出した。