第十四章 そして運命は決した……! Ⅸ
試合終了まで、時間にしてわずか20数分なのだが。疲労と、負けられない、勝たねばならない使命感が重荷になってしまい、調子を崩しかねないこともある。
そのために時間がやたらと長く感じ、そのためさらなる疲労感に襲われて隙を作りやすい、魔の時間帯だ。
勝利の女神はどれを選んで微笑むのか。それはこの魔の時間帯をより持ち堪えられるかどうかにかかっている。
「ボールを動かせ! 止まるな!」
ルーオンが味方の動きが鈍くなったのを見て、細かなパス回しでボールを回すように叫んだ。
ファセーラも疲れが出てきているのは同じはずなのだが、ダライオスは虎視眈々とボールを狙い。まさに影の薄い幽霊のようにいつの間にかボールに迫り、そこからさらにゴールに迫るところを何度見せたことか。
それから逃れるためには、ボールを動かしてダライオスから逃げるしかない。
そして、逃げながら遠目の味方に長いパスを出す。下手に近くの味方にパスをしようとしても、ダライオスが割って入って奪ってしまう。その対策として、遠目の味方に長いパスでつなぐというやり方が採られた。
さらにそこから、センターの龍介にパスしてゴール目掛けて突っ走らせるという、やや強引な策も採られた。
ボールを受けた龍介はドリブルで、相手ディフェンダーと並走し駆けた。そこから、ペナルティエリア手前でシュートを打ち放って。
それは外れるか、フォザンが、ポールかバーが弾き返すかを繰り返していた。
それを見てドラグンは眉をひそめてつぶやく。
「素人みたいなやり方だが、なかなかどうして……」
「異世界人フォワードは守備の場面でもセンターで控えていましたから、疲労も少ないようですね」
アルカドがつぶやきに応える。
「なかなか、割り切ったもんだな。思い切りのよいことだ」
皮肉ではなく本心から感心する。
この崖っぷちの一大局面にあって、そんな素人じみたやり方で挑戦者に対抗しようなど。
「勝つためなら何でもやる。まさに手負いの獣だ」
「味方につなげ、シュートで終える。形にこだわらず、サッカーを徹底しまいますな」
「……。サッカーをしろー!」
ドラグンはピッチ上の選手たちにそう叫んだ。
「目の前にぶら下がった夢に浮かれるな! お前らはサッカー選手だ、サッカーをしろおー!!」
天も割れよとばかりの咆哮に近くにいた者は驚いたが、それは選手たちにもしっかりと届いて、
「おうッ!」
という雄叫びが返ってきた。
「残り時間も少ない」
「PKで決着?」
「いや、わからないわ」
もはや3人娘となったテンシャンとローセス、シェラーンは、声援に包まれながら手に汗握り戦況を見守っていた。