あの時(思い出したくない)
三話目です!
「ね、私が誰に殺されたか知りたい?」
中学二年の終わりの秋に死んだ坂本貴音は、悪戯を思いついたかのように笑いながらそう言った。
「あ、当たり前だろ!」
「そっか〜じゃ、クイズ形式で教えてあげるね」
彼女はあの頃と変わらない笑みを浮かべながら、ゆっくりと黒板まで歩いていく。
俺も自然とその後をついて行き、黒板に一番近い席に座る。
「じゃあ、まず1問目!実は私はイジメられていた!丸かバツか答えてね」
彼女は本日3度目にはなる爆弾発言を落とし、クイズを始めた。
聞き返しても、意味は無いと思った俺は彼女がイジメられていたかどうか記憶の中から探し始める。
しかし、彼女がイジメられていたかどうか全くと言って良いほど記憶が出てこない。
…ふと、違和感を覚えた。
俺は彼女に恋をして、はたから見ればストーカーのように思われるかもしれないが、いつも彼女のことを見ていた。
少なくとも、彼女を見ていなかったということはなかった筈だ。それなのに、彼女に関する記憶が蘇ってこない。ある記憶は彼女の声や髪の匂い、初恋の相手であるということのみ。
そこまで考えて、彼女が答えを待っていることを思い出し、とりあえずバツと答えておく。
「バツ…だろ」
「ぶっぶー、外れ。実はね、私はイジメられてたんだ。君は覚えていないだろうけど」
俺が出した答えはハズレ。つまり、彼女はイジメられていたのだ。俺の知らないところで。
そんなイジメられていたという過去を言ったのに、彼女は悲しそうな表情をせずにただ笑顔でそう言った。
「じゃあ、2問目ね。私はどこで死んだでしょうか?君なら、知ってるよね」
彼女は最後の部分を強調するかのように2問目の問題を提示する。
この2問目は同じ中学だった奴なら、知ってる筈だ。
教室から一番近い男子トイレの奥にある個室で、彼女は死んでいた。手首をリストカットしたかのような傷跡を残し、彼女は息絶えていた。
「男子トイレの奥にある個室…だろ?」
「うん。大正解!じゃあ、最後のクイズを出すね!」
最後のクイズ。彼女が誰に殺されたか知るために始めたこのクイズも、もう終わりを迎える。
滲んだ手汗を拭うかのように俺はズボンの膝部分を握りしめた。
何故だろう。動悸が激しい。頭が警告する、この記憶を、最後のクイズを聞いてはいけないと。
「ーー私を殺したのは、だーれだ?」
彼女はあの眩しいような笑顔が消え、無機質。無感情。作り物のような顔で、何の感情も込められていない声音でそう言った。
三話目を読んでくれた方、ありがとうございます!