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幽霊さがし  作者: 梨鳥 
6/13

貌万華

 無重力感の最中もなか、相羽君の名を、心臓を差し出す位の気持ちで呼ぼうとした。

 その瞬間、清水君の顔が浮かび上がった。

 彼を筆頭に、私と仲の良いクラスメート達が、相羽君の後ろにズラリと並んだ。そうしてボンヤリと虚ろに、私を見ているのだった。

 相羽君は、なんて数の幽霊を背負っているのだろう!

「ミチル……?」

 私は自分でも顔色が変わったのがわかった。

 相羽君の普段は飄々とした表情が、後悔と苦痛に歪んだ。

 咄嗟に、という感じで、相羽君が歯切れ悪く言った。

「今のウソ……ウソウソウソ……ウソだ、ミチル……」

「ごめんなさい、か、帰る」

「ミチル! 今の、ウソなんだよー! ウソだ、ウソだ!」

 ホームへ続く階段は、昇りだったかしら? 下りだったかしら?

 ウソだ、ウソだ、と繰り返す相羽君の声が遠ざかる。

 私に言っているの? 自分に言っているの?

 頭の中が、機械みたいになった。

 ここから二駅目、駅を降りて、バスに乗って、バスは三駅目で降りて、真新しい電柱の角を右へ曲がり、真っ直ぐ行って……。

 

 部屋で泣いた。

 毛布を被ってワンワン泣きたかったけど、泣き声すら出なくて、口を歪めてザラザラした息を、吐き続けた。


 

十月二日・雨だけど晴れ。でも、やっぱり雨?

 今日で五回目。先生のアパート。

 先生の裸に触った。(くしゃくしゃと二行程消されている。薄っすらと見えるけれど、割愛)

 先生、好き。


十月八日(天気の記載は無し)

 先生、理化学の先生を車に乗せて、何処かへ行った。

 理化学なんて大嫌い! 大嫌い! 大嫌い!! 私は私がもし教師になったらマニキュアなんてぬらない! ピンクのカーディガンなんて着ない!! ショートカットは男の子みたい! それに――― ―――割愛―――― 死んじゃえ!!(消してある。薄っすら筆圧が残っている)


十月九日・晴れ

 身内の方に、不幸があって、それで送って行ったそうです。

 私は、恥ずかしいです。

 恥ずかしくて、死んでしまいそうです。

 理化学の授業の度に、私が私に鏡を見せると思う。

映っているのは、昨日の私の酷いかお


十月十日・晴れ

 先生は、その時だけ私を「真愛」と呼ぶ。

 私は、声が熱いなんて知らなかった。

 私はまだ恥ずかしくて、「先生」と呼ぶ。


十月二十日・晴れ

 愛子ちゃんが、おかしい。

 私の様に、先生を目で追っている気がする。

 廊下の南方面に私、北方面に愛子ちゃん。私も愛子ちゃんも、お互いに近寄ろうと歩き出した時、仁君のクラスからヒョイと私と愛子ちゃんの中央に現れた先生。

 愛子ちゃんの視線が私より早く、先生を追った。それから直ぐに、私の方を見た。

 私は先生を見ずに、そんな愛子ちゃんを見ていた。

 疑問をここに書きたいけれど、文字で見たくない。だから、吐き出せない。


十月二十八日

 愛子ちゃんに先生と先生の部屋でした事を話した。

 先生が、どれだけ熱い声で私を「真愛」と呼ぶか、愛子ちゃんに聞かせた。

 素直に愛子ちゃんは喜んでくれて、話の内容に頬を赤らめたり、口を手で覆ってクスクス笑ったりした。

私は安心した様な、つまらないような気がした。でも、その内に愛子ちゃんは元気を失くして、最終下校の鐘が鳴ると、ホッとした様な顔をした。

 「先生を愛してる」と私は大胆に言った。何かをぶつける様に。

 「わかってるよ」と、愛子ちゃんは微笑んだ。「死ぬほど伝わってくるよ」

 愛子ちゃん、愛子ちゃん、愛子ちゃん。私の大好きな友達。(ページが濡れて所々歪んでいる)

 真愛、あなたなんて、大嫌い!!


 

 十月は、真愛ちゃんにとって、随分辛い月だったよう。

 私はこれを初夏に読んで、泣いたんだ。

 ドラマみたいって、そんな、能天気な涙だったけれど。

 真愛ちゃんは今、どこにいるんだろう?

 相羽君は、「ババア」と言った。

 きっとそうなんだろう。

 でも、歳なんてどうでも良かった。

 もしも叶うなら、真愛ちゃんと話してみたい。

 だって、彼女の気持ちがこんなにも判る。

 日記の中には、嘘も虚栄も幻も無い。(それだらけに書かれているけど、……解るでしょ?)

 書かれているのは真実だけ。この女の子の。


 ―――着信音―――


 私はバッとスマートフォンに飛びついた。

 グループメールに着信。ポイとベッドに投げ出して、やっぱり気になって画面を覗く。

『宮地さん、インフルエンザなの?』

『もう一週間~(泣)大丈夫~?』

 一人がメッセージを入れると、連鎖してスマートフォンがキンコンキンコンキンコンキンコン……。

 ポッポと現れ続けるフキダシを暗い顔で眺める私が、画面の黒縁に反射してる。

『ノート、とっとくからね! 安心してゆっくり休んで』

『ミチルちゃん、皆心配しているよ』

『寝てるのかな? 熱高いのかも。返信良いから、寝ろよ!』

『社会見学のプリント、ファイルしといたから、また登校したら説明するね』

『十二月十二日な~』

『パン工場!』

『出来立てお菓子食べれるよ! それまでに元気になってね』

『寂しいよーミチルー。一緒にトイレに行って~』

『一人で行け(笑)』

『俺、行ってやろうか?』

『バカ、ユータ変態!』

『お前ら、宮地がうるさいかも知れないだろ、もう別でやれ』

『王子キター!』

『きゃー、王子―!』

『王子! 王子!』

『馬鹿! 宮地、早く元気になれよ。俺も寂しい』

 

 どうしてそんな風に、貴方達は眩しいの。

 私は目が眩んで、眩しさにかき消されてしまいそうだよ。

 私は、何かの皮を被って優しさを貪っているんだ。後ろめたくて醜いんだよ。

 皆を幽霊なんかにして……。きっと自分の事が一番可愛いんだ。最低なんだよ。


 同時進行で、相羽君からもメッセージが来た。

 悪魔の仕業としか思えない。


『ミチル』

『俺』『と、ツレら』

『一人にされたミチルを、寂しくないようにしようとしたんだけど、俺達アホだから。女子たちイミ解んねぇし、それにもちょっと動揺してて、見捨てられた気分ってゆうの? そうゆうので、カラ元気出してた。ミチルまで帰ったら、本気で俺ら、「要らない」って言われてるみたいで、そうゆうので、バカだから、ミチルを引き止めた』

『後から聞いたら嫉妬つってた。俺達って本当に、アホなんだ』

『ミチルはドアの外ばっか見てた』

『笑わせたかったけど、全然笑わなくて』

『怖がらせて、ゴメン』

『本当は、俺の事ずっといやだった? 怖かった?』

『あの日も』

『もう』

『二両目に乗らねぇから、安心して』

『俺は蛇使いになる』


 相羽君、貴方の幽霊を教えてくれてありがとう。

 何がそんなに怖いのって、笑っちゃいそう。らしくないよ。

 相羽君、私の幽霊はでも、本当に醜くて、相羽君に見せてあげられない。

 だって好きなの。

 私は私が大嫌い。

 大嫌いなヤツが、自分の好きな人達を好きなのが許せない。

 ……真愛ちゃんに、会いたい。

 どこにいるの?

 手掛かりは、私の家に、以前住んで居た事。

 ―――辿れるかもしれない。


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