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幽霊さがし  作者: 梨鳥 
12/13

仁君

 いない。どこにいるの?

 どんなに醜い姿で現れたって、私は怖がったりしないよ。

 自分の部屋の姿見に、私が映ってる。



 休日に、息子がとうとう家にカノジョを連れて来た。

 病院に息を切らして飛び込んで来た子だ。

 俺はちょっと信じられない。こんな綺麗な子が、息子を?

 息子はカノジョの手を引いて、リビング兼、俺の部屋と自分の部屋を隔てる引き戸の向こうに入って行く。

「入ってくんなよ」と俺を脅して、ピシャンと引き戸を閉めやがった。

 コイツが五つの時に、マイホームを買った。

 コイツの母親が、欲しがったから……。

 でも、ある日出て行った。

 あの女は、何かにつけ突っかかって来てた。

 手当たり次第に遊んだ末に、俺の人生にちょっとだけ引っ掛かった女……。

「貴方は私を見てない」「私を見てくれない」「結婚すれば、変わるかと思ったのに」「子供が出来れば」「私達を見てない」「家を買えば」「私って、貴方の何?」

 そう言われる度に、真愛への気持ちが幽霊みたいに……。

 厭で厭で、思わず言ったんだ。女房にじゃないよ。幽霊になんだ……。

『煩い! 出て行け!』

 人生で稀に見るホームランだった。バッドエンド過ぎた。

 ……それから、新築を売り払い、アホらしくてずっと1LDKだ。置いてきぼりされた俺と子供と二人暮らし、それで足りたから。

 でも……。そろそろ2LDKなのか……。

「相羽君……あ、あんまりくっつかないで……」

「いいじゃん……」

「だって……ほら、先生のおススメの本、読もう?」

「そんなのつまんねぇよ」

 休日くらい、家でゆっくりさせてくれ。そわそわしちまうじゃねぇか。

 デレデレしやがって。父の孤独を少しは解れよな。

 なんでいつも俺は蚊帳の外なんだ?

 チクショウ。

 大事にしてたのに。

 ちゃんと愛して来たのに。

 鬱陶しそうに、扉を閉めやがって……。

 二人で嗤ってんだろ。邪魔な親父(オヤジ)だなぁって!

 そうはいくか!

「おい、牛乳飲むか!? 牛乳!」

 ガラッと引き戸を開けてやった。

 必死で拒むカノジョの服の中に、手を入れようとして躍起になってる息子がいた。

 何度も妄想しては苦しんだシーンを現実に見せられた気がして、俺は頭に思い切り血が上った。

「開けるなっていったろ~!?」

「その子から離れろ! 今すぐにだ!」

「ハ~!? あっち行けよ! 邪魔なんだよ!!」

 やっぱりか! やっぱり俺は邪魔ものなのか!!

 その時、可愛らしい声が部屋に響いた。

「邪魔じゃないです!」

「「へ?」」

「お、おじさん、ここに居て下さい!」

「ミ、ミチル~……」

「よ、よ~し、いいぞ。トラ、トランプでもするか!?」

 女の子が笑って、牛乳を渋々取りに息子が席を離れると、こう言った。

「おじさんがいて、良かった」

「またやったら引っぱたいて良いからね」

 恥ずかしそうに、うふふ、と顔を手で覆って笑う仕草が余りにも可愛らしくて、息子よ、俺はお前の気持ちが今、世界で一番わかるかもしれない。

「ミチルは俺が嫌いなんだ」

 口を尖らせて牛乳を持って来る息子に、彼女は首を振って

「嫌いじゃないよ」

 俺は当てられて、ちょっと小さくなって牛乳をすする。

「だってサ、嫌がるじゃん」

「好きだよ、相羽君」

 ドキッとした。結構、大胆な子なんだな、と驚きつつ、俺も「相羽君」なので訳も無く喜んでいたり……。

「だったら……」

「でも、おうちではおじさんに守ってもらうから」

 そう言って、俺の方を見た。

「頼りにしてます!」

「はぁ~!? え、てか何オヤジ!? 何泣いてんの!?」

 笑い話にしか聞こえないだろ?

 笑い話さ。

 こんな風に、冗談でも良かった。

 頼りにされたかった。

 お前は大切な人に必要とされたい気持ちを、嗤う様なヤツじゃないよな……? 

 そうだよな。真愛。

 そうしてくれたのは、アイツだったのに、まだお前に語り掛けるなんて、俺は死ぬほど馬鹿だ。

 アイツ、許してくれないかなぁ……。

 くれないよなぁ……。

 そりゃ嗤うよなぁ……いいさ。ずっと、嗤っててくれ。俺が死ぬまで。

 真愛……。真奈……。


六月二十日・晴れ

 相羽君のお父さん、可愛い。

 今日、相羽君に真愛ちゃんを探してる事を打ち明けた。馬鹿にされるかと思ったら、相羽君が『あ、俺会った』と言った。

 ある日、物凄い綺麗な女の子が夢にでてきたんだって。『見つけてくれてありがとう』って言ったんだって。

 それから、『やっぱり頼りになるわ』って笑ったそう。

 なんの事か私も相羽君もサッパリ解らなかったけど、相羽くん、デレデレしてたに違いない。だって、ちょっと気まずそうに話すし、私に黙っていたんだもんね!

 ちょっとふくれていたら、相羽君が慌てたように提案したんだ。

 アメ食べる? とかなんとか言いながらね。

『いるとしたらさ、リフォーム前じゃねぇ?』

 成る程、相羽君、頼りになります。

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