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幽霊さがし  作者: 梨鳥 
11/13

愛子ちゃん

 いない。

 お菓子を、あげに行きたいのに。

 今日も私は、玄関を潜る。

 出て来て。話をしよう。

 それから教えて。

 答え合わせをしようよ。


 階段を上がって二階。

 両親の寝室と、弟の部屋と、私の部屋。納戸。トイレ、向かいに洗面ドレッサー。

 どこにもいない。

 私の部屋で、あなたの日記がパラパラ風に捲れている。

 窓を閉める。閉めて行く。

 風が、滞る。

 誰もいない。誰も。



 日記、読みますか?

 それは、なんて魅惑的な言葉だったでしょう!

 悪魔って美しいのね。

 無垢な、あどけない顔をして……なんていう誘惑をするのでしょう。

 あんなに綺麗な子を見るのは、久しぶりでした。

 貴女の居た家に、高校生の女の子が住む事になったのを知った時、私は一体何を期待したんでしょう。頭がおかしいのです。おかしくなっていたのです。

 あれから……平穏に生きました。でも、私は平穏に納得がいかなかったのです。

 貴女を失ったというのに、狂気に堕ち入れない自分を責め続けていました。

 なので、きっと、狂気を装いたかったのでしょう。

 暇があれば、気が赴けば、といった様に、貴女の家へ行きました。

 あの日、菓子パンを届けに行った日の事、書いてくれたそうですね。

 嬉しいです。半分コした事は、あの子は言ってなかったけれど、半分コ、しましたね?

 何もかも……菓子パンの様に……分ける事が出来たなら。

 貴女のかつての部屋を見詰めながら、あなたの名前を呟きました。ああ、狂えていた……立派に、狂えていたのかもしれません。

 窓が開きました。

 貴女かと、思いました。

 時が巻き戻ったのかと……なんて残酷な仕打ちを、と私は今でも思いますよ。だって、どれだけ胸がときめいたか……! 狂気が晴れた時、本物の狂気が待っているのです。

 でも、ええ。貴女の方が美しいですよ。だって、貴女は女でしたから。

 でも、ええ。あの子も空恐ろしいですよ。美しいのは罪と言いますが、全くそう思いますよ!

 大きな綺麗な瞳をしていましたよ。貴女みたいに、お人形さんの様な。親御さんは、さぞ自慢の娘さんでしょう。お行儀も良かったです。私をつっかけ(・・・・)で追って来ましたけどね。

 私は現実的な狂気の中で、急ぎ足に立ち去りました。

 不審者と思われたくなかったのです。溺れ切れておりませんでした。

 そして、名前を呼ばれました。

 もう、溺れているのかいないのか、訳が分かりませんでした。

 貴女に会いたがりました。

 素直にそう言うので、私は「私もよ」と答えました。

 日記は断りました。当時ならかじりついていたかもしれませんが、探さない事が、貴女に出来る唯一の誠意だと、その時勝手に悟りました。

 そして、私は幽霊探しをお終いにしました。

 先生の事は、今でも恨んでいます。私をオールドミスにしました(大丈夫です、私は石の様に、何も先生に吐いたりしませんでしたよ)。きっと、あの方以上に心惹かれる方にお会いする機会はもうないでしょう……。結局、貴女を媒体にしたからこそ、と、思います。私は昔から元々おかしいのでしょう。

 日記の中で、貴女がどうしていようが構わない。

 目の前で微笑む貴女をとても好きでした。

 本当に少しだけ貴女の話をあの子としました。何だか、同い年の友達みたいに気安くよ。半分コ、するみたいに。

 あの子は泣いてくれましたよ。それから、言ったのです。

「愛子ちゃん、ごめんね。私もう行かなきゃ」

「そうね、お母様に怒られてしまうわね。さようなら」

「また会える?」

 少し考えました。良くない事だと、思いました。

「いいえ。ご迷惑をかけてしまうかも知れないし、もう来ないわ」

「……卒業式だね」

 聡い子だ、と思いましたよ、ええ! 

「さようなら」

「はい。愛子ちゃん、真愛ちゃんはね、本当に愛子ちゃんを好きだったよ」

「……嬉しいわ」

 夢うつつで呟きました。

「ホントにホントに、大好きだったよ」

 狂気がね、見せたのね。

「愛子ちゃん、さようなら!」

 一線を超えて、追いかけてしまいそうでしたよ。でも、駄目なのね。

 私は境界線を踏み止まって、「かつて愛子ちゃんだった」「小母さんの顔」で、手を振りました。

 さようなら。

 真愛、真愛……。

 ああ……。幾らでも、幾らでもあげます。

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