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第8話 王都反乱

前話より多少時間が戻ります。

王都での出来事のため、ユウトは出て来ません。

16/4/8 誤字修正

16/6/28 誤字修正

16/9/29 7話から移動

 ユウトがガロを発つ四日前。夜も更け家々からは明かりが消え、眠りについた頃に王都ではある事件が起きた。

 ある者が、アルシールの西にある隣国エイシスの兵を国内に招きいれ、それを利用して王城を占拠しようと画策し、クーデターを起こした。

 事件の発端は、夜更け頃の警備の気が緩む時間を狙って、王城の地下水道からエイシス兵が進入したことにある。しかし、そもそものことの発端は、それよりも数日前に遡る。




 豪華な装飾が施された部屋に一人の男が入ってくる。


 「陛下。御報告が」

 「申せ」


 恭しく膝をつき頭を下げる鎧姿の男に対し、陛下と呼ばれた玉座に座した初老の男が尊大な態度で頷いた。この部屋は王が謁見を行う場だ。玉座に座す男は、アルシールを統治する王――レオンハルト・ドリィ・アルシールだ。

 アルシール王の斜め前には身なりの良い壮年の男が立ち、王と部屋の入り口の間には二十以上にも及ぶ白銀の鎧姿の騎士が等間隔に整列している。


 「王都より西の国境付近にエイシスの軍が集結しているとの連絡が入りました」

 「数は?」

 「今は二万とのことですが、続々と集まっているようです。最終的な数は四万ほどになるかと」

 「ふむ、随分と多いな……」


 アルシール王は微かに眉をひそめると、数度顎を撫でる。数秒の間沈黙すると、斜め前にいる男に視線を向け、口を開いた。


 「どう思う? 大臣」

 「そうですね……示威行為か、侵略か、判断つきかねますな。どちらにせよ防備のため兵を出す必要はあるでしょう」


 大臣と呼ばれた男は、すかさず自分の意見を述べる。男の名はグランツと言い、アルシール国内でも有数の貴族の出だ。自尊心が高すぎるという欠点があるものの、優秀な男だった。


 「……そうだな。大臣、軍を編成させるゆえ雑事を任す」

 「はい」


 一礼すると大臣は謁見の間を後にした。大臣が出て行った後、報告に来た兵を退出させる。謁見の間に残ったのは、アルシール王と、白銀の鎧を着込んだ騎士たちだけだった。

 アルシール王は白銀の鎧を着込んだ騎士たちのうち、一番手前にいる三十歳になるかならないか程度の金髪の男に目を向ける。


 「セインよ。どう思う?」

 「おそらくは……黒かと」

 「そうか……そうだな。残念だ」


 アルシール王は、目を閉じて溜め息をついた。

 アルシール王は、その日のうちに王都の兵三万を西に向けて出すよう指示をした。

 兵を出すとなれば手間がかかる。兵の準備は勿論、物資の調達、手続き、王都に残る兵の配置変更など、多岐に渡る。本来ならばその準備で数日かけるのが常だ。それを考えると、いくら既に国境付近に敵軍がいる以上急ぐ必要があるとはいえ、その日のうちに兵を出すのは異例だ。

 出兵を急ぎ、性急にことを進めたその皺寄せは王都に残った兵にいった。兵への連絡や手続きが間に合わず、王都を守る兵に混乱が生じる結果になった。




 天上に輝く月と星の光が王都を照らし、その部屋の中にも光が差し込む。蝋燭の灯りのないその部屋を、月と星の明かりのみが薄暗く照らしていた。そこには、二人の男の姿があった。その一方はヴァルドだ。魔術師然とした身なりをしており口元に薄く笑みを湛えている。


 「ヴァルド殿、準備は整っておりますかな?」


 もう一方の男がヴァルドに声をかける。男の声に、待ち遠しいという思いが込められているのが手に取るように分かる。


 「問題ありませんよ。念のためとっておきを連れてきていますしね」

 「ほう。それはありがたい。ククッ……それにしても、愚昧な王だ」


 男の顔が歪む。その顔には愉悦と嘲りしかない、見下すだけの醜い笑みを浮かべていた。

 男は自らが王の器だと信じて疑わなかった。優れたい家柄、類稀な能力、自分こそが選ばれた、王にふさわしい人物なのだと思っていた――思い込んでいた。


 「国境の軍の殆どは農民などを集めただけの張りぼて。多少の混乱は見込めると思っていましたが」

 「自ら兵を混乱させ、城の守りを薄くしおった。大方軍と聞いて怯えたのだろうよ」


 男は完全にアルシール王を見下している様子だった。ヴァルドは鋭い視線を男に向けたが、男は気付いていないようだった。


 「……そうかもしれませんね。こちらとしては好都合でしょう」

 「では、明日」

 「えぇ、貴方が王となる日です。楽しみにしていてください」


 そう言うとヴァルドは部屋を後にした。


 「……ふん、エイシスの狗が。この国さえ手に入れば貴様など用済みだ」


 ヴァルドがいなくなったのを確かめると、残された男は吐き捨てるように呟いた。




 「それはこちらの台詞なんですがね。中途半端な者ほど扱いやすくて良い。簡単にかかる(・・・)。とはいえ、少々かかり過ぎてますかね」


 ヴァルドが先程まで自分のいた部屋を遠くに見ながら呟いた。ヴァルドが予想していたよりも効きが深い。多少正常な判断ができない程度で良かったのだが、今は思い込みが激しくなっているようだった。



 「まぁ、誤差の範囲ですか。この段階までいけば、アレがどうなろうと関係ありませんね。こちらの目的は別にありますし」

 「そうだな」


 思いがけない声を聞いたヴァルドが眉を寄せる。


 「……また貴方は」


 ヴァルドの後ろにいつの間にかフードを被った男が立っていた。

 ――この男は、毎度毎度音も気配も無く現れて……

 ヴァルドは心の中で唸った。


 「心臓に悪いので、やめて貰えませんか? メイザース殿」

 「アレの様子はどうだ?」


 聞く気がないと判断したヴァルドは、溜め息をついてから答えた。


 「貴方のかけた精神操作のおかげで滞りないですよ。多少効きが強すぎるみたいですが」

 「そんな塵のことではない。駒の方だ」


 あぁ、とヴァルドが頷いた。


 「そちらでしたら、まだ粗はありますが、精神のほとんどは掌握済みです。十分に使えますよ」

 「ならば良い。私もすべきことがある、こちらは任せる」

 「お任せあれ」


 あたかも幽霊のように音も無く姿を消したメイザースに、ヴァルドは目礼を返してから笑みを浮かべた。




 急な出兵により生じたその混乱は容易くは収まらず、クーデターが起こる日まで続いていた。その日も混乱のため、本来当直になる兵が、出兵しているため穴になっていた。通常、何かの理由でいない場合には、代わりの兵に連絡がいくことになっているのだが、現在はそれすら機能していなかった。なにより、指揮をとるべき隊長クラスの兵士が圧倒的に少なかった。

 空に浮かぶ月が城の敷地を照らし、城内は差し込む月明かりと蝋燭の火が通路を照らしている。何事も無く今日を終え、日が昇るまで城内を見回るだけ、城内の誰もがそう思っていた。

 夜が更け、皆が寝静まった頃、変化があった。城内を警邏中の兵がガコンッという何かが外れる音を聞いた。


 「ん? 何だ今の音」


 音を聞いた兵が、手にした燭台を音がした方に向けると、黒い影が動いた。


 「なっ、ぐぇっ」


 声をあげようとした兵は、その間もなく何者かに喉を切られた。驚愕の表情を浮かべ、喉から血を噴出しながら倒れた兵が絶命しているのを確認すると、何者かは腕を振り合図を出した。

 闇に染まった部屋の隅からアルシール兵とは異なる真っ黒い鎧を着けた兵士風の男たちがどこからともなくゾロゾロと現れた。鎧の一部には、盾の上に剣と槍が交差したエイシスの紋章が刻まれていた。


 「制圧せよっ!」


 数百人ほどのエイシス兵が揃うと、エイシス兵の隊長が命令を出す。その命令に従って、エイシス兵が一斉に部屋の外へ駆け出した。

 外へ駆け出すエイシス兵と入れ替わるように、一人の男が姿を現した。


 「ご苦労」

 「これは大臣殿。いえ、もうすぐ国王陛下、になられるのでしたな」

 「まだ気が早かろう。だが、もうすぐだ。ククッ、胸が踊りおるよ。なぁ……レオンハルト」


 ここには居ない初老の男を思い浮かべ、大臣は欲に塗れた面貌に歪んだ笑みを作る。

 出兵の混乱で兵が少ないことを見越した奇襲、ヴァルドを通じてエイシス兵を引き入れ、限られた者しか知らない地下水道を利用して城の中にまで通した。

 ――最早私が玉座に座るのも時間の問題だ。

 大臣は心の中で勝利を宣言する。


 「では、参りましょうか。貴方の玉座へ」


 エイシス兵の隊長は口の端を歪めた。




 大臣は我が物顔でエイシス兵の隊長と共に謁見の間へ向かっていた。

 城内では、いたるところで怒号と悲鳴、金属のぶつかり合うけたたましい音が響いている。周囲を見渡せば、通路や壁、天井にまで、血が飛び散っており、剣や槍が刺さったままの両国の兵の死体がそこらじゅうに散乱していた。その死体は、エイシス兵よりもアルシール兵のほうが多かった。

 元々は城内に入り込んだエイシスの兵よりも城内で警備にあたるアルシールの兵の方が多い。しかし、現在急な出兵の影響で兵のみならず、その指揮系統にまで混乱し、浮き足立っていた。さらに、夜更けで最も集中力を欠き、油断する時間帯を狙った、城の内部からの急襲。アルシール兵にとって不利な条件が多すぎた。

 エイシス兵が侵入した部屋の近くにいたアルシール兵は混乱の中で何もできずに殺された。少し離れたところにいた兵がようやく異変に気付き、仲間に注意を喚起した。

 しかし、それがまた逆効果になった。エイシス兵急襲の報を聞いた兵たちは、突然の事態に更に浮き足立ち城内全体が混乱した。優秀な指揮官や隊長がいれば混乱は避けられただろうが、その殆どが出兵やら連絡の手違いなどで王城には不在で、指揮をとるべき人間がいなかった。その結果、兵たちの混乱が長引き、連携が取れずにバラバラに動いてしまい、多くの兵が容易に殺されることになった。

 謁見の間までの通路がエイシス兵に制圧されるのに、大した時間はかからなかった。


 「現国王は謁見の間に?」

 「そうだ。謁見の間の奥に王の自室がある。出てきてないならそこにいるだろう」


 まるで自分の城であるかのように、威風堂々と通路を歩む。大臣にとって、既に王座は奪ったようなものだった。あとは、無能な王にどのような屈辱を与え、偉そうに今まで自分を使っていた非礼を詫びさせようかと想像を膨らませていた。

 謁見の間に続く扉の前に立つと、堪えきれない笑みを無理矢理押し留めたように口元が醜く歪んだ。


 「陛下。グランツです」

 「入れ」


 扉を開け中に入ると、玉座に座すアルシール王の姿があった。アルシール王は大臣の後ろにエイシス兵がいるのを見て、微かに眉を動かした。

 ――やはり、か。

 アルシール王は溜め息をつくと、口を開いた。


 「大臣よ。お前の後ろのエイシス兵どもは何だ。人質にでもなったか?」

 「ご冗談を。彼らは私の協力者ですよ」

 「クーデター……というわけだな」

 「クーデターとは心外ですね。私はこの国のため、無能な陛下に王位を退いて頂きたいだけなのですよ」

 「それをクーデターというのだろうに。……私は無能か?」


 威圧感のある瞳を大臣に向けるが、大臣は気にも留めなかった。大臣にとっては、既に王は地に落ちた虫と同じ、どれだけ凄まれようと恐れるに足りない。


 「そうでしょう? 今現在の状況がその証明になるかと」

 「それで? お前がこの国を導く賢王だとでも抜かすつもりか?」

 「えぇ、そうですとも! 申し上げたでしょう? この状況がその証明だと!」


 大臣はまるで演劇の舞台にあがった役者のように、仰々しい仕草で振る舞う。それを見たアルシール王は溜め息をついてから、重々しく口を開いた。


 「王城の地下に流れる地下水道の入り口は王都内に何箇所もある。しかし迷路のような構造になっているため、迷い込めば出るのは勿論目的の場所に向かうなど不可能に近い。だが、王家と歴代の大臣にはその地図が渡されている。いざというときの避難路とするためだ」

 「えぇ、存じ上げておりますよ。おかげでこうして彼らを容易に引き入れることが出来た」

 「だが、王家には地図だけではなく地下水道の各入り口に設置された、ある道具のことが伝えられている」


 王の言葉に反応し、動きを止めた大臣をよそに王が言葉を続ける。


 「大臣……いや、グランツよ、あそこにはな。侵入者を察知する魔道具が仕掛けられているのだよ」

 「馬鹿な、そんなわけがっ」

 「確かにあれは避難路になっているが、逆に言えば進入路にもなるのだ。今回、貴様が用いたようにな。信頼の置ける大臣にしか渡していないとはいえ、どこから漏れるかは分からない。故に魔道具のことは王家の者にのみ口伝で伝えられたのだ」


 思いがけない話を聞いた大臣は、呆然とした表情を浮かべた。


 「ならば何故……」

 「何故、無理を通して出兵を早めたのか、か? 最早言わずとも分かろう」


 エイシス兵が地下水道に侵入していたのは分かっていた。それを知りながら出兵を早め、城内の兵士を混乱させたのは、誘い出すためだ。

 仮に、動き出す前に、王が大臣を捕らえようとすれば、言い逃れる術はあった。地下水道のことは王自身が言ったように、どこから漏れるか分からないのだから、大臣が漏らしたと言う証拠はない。その他のことについても、周到に証拠を作らず、消していたため、大臣が内通者である証拠は存在していない。唯一、最後の仕上げであるこのクーデターに大臣が参加していることを除いて。

 アルシール王は大臣が有能で疑り深い性格であることを知っている。故に証拠も残していないだろうと踏んでいた。そして、その自尊心の高さも誰よりも知っていた。だからこそ、最後の最後には自身も動くと確信していた。

 アルシール王の意図を理解した大臣は顔を青くする。


 「ここで貴様を殺せば何の問題も無い! 殺せ!」


 動揺した大臣は、焦ってエイシス兵に向けて指示を放つ。――しかし、エイシス兵は動かなかった。

 大臣は動きの無いエイシス兵に違和感を覚え、後ろを振り向いた。


 「早く奴をっ! ……ぁ」


 大臣の視線の先では、倒れ伏したエイシス兵が動かなくなっていた。そのすぐ後ろには白銀の甲冑を身に着けた十数人の騎士たちが、斬り殺したエイシス兵を見下ろしている姿があった。


 「近衛騎士っ……」


 ギリッと歯を噛み締めながら、言葉を吐き捨てた。

 近衛騎士は、アルシール王国の騎士の中でも特に戦闘力に秀でた三十人の国王直属の護衛部隊だ。精霊銀で作られた剣と鎧を身につけることを許された。謂わば騎士のエリートだ。その戦闘力はAランクの冒険者に匹敵する。


 「貴様を誘い出すためとはいえ、敢えて警備に穴を開けたことで、多くの犠牲をだすことになってしまった。……私は確かに優れた王とは言えぬだろうよ。だがな、貴様のような売国奴に王位を譲ってやるほど愚かでもない。既に城内には近衛を行かせてある。犠牲は出たが、最早鎮圧は時間の問題だ」

 「ぐ……」

 「私欲に塗れ、己の分をわきまえぬ愚か者め。貴様には聞くことが数多ある故、しばらくは生かしておいてやる。捕らえて牢に入れておけ。近衛は数人を残して城内の鎮圧を手伝いに向かえ。一人も生かして返すな!」


 下された命令に従い、近衛騎士が動き出す。


 「放せっ! 私はこの国の王となる男だぞ! 触れるな無礼者がっ!」


 恥辱に顔を歪ませながら、なおも妄執に囚われた男は近衛騎士に組み伏せられ、地面を舐めることになった。近衛騎士に引きずられて牢に連れてかれていく間、大臣は見苦しく叫び続けていた。

 その後、まもなくして城内の鎮圧は完了した。

 こうして、大臣のクーデターは多くの犠牲者を出しながらも鎮圧された。




 城内で大臣が王と対面したのとほぼ同時刻、ヴァルドは一人の男を連れて歩いていた。

 男は、外套を頭から被っており、フードで顔が見えなかった。

 城内でクーデターが起こっていることを知らないかのように、二人は緊張感もなくゆったりと歩いていた。

 そこに、城内を歩く不審者を見つけた一人の騎士が、剣を抜いて、二人の前に立ちふさがる。


 「貴様らエイシスの者だなっ! 覚悟しろ!」


 剣を振り上げ襲い来る騎士に、男はゆったりとした動作で右手の手の平を騎士に向けた。


 「“ライトニング”」


 ポツリと呟いた若い男の声は、雷鳴にかき消された。男の手から放出された雷撃は騎士の腹部を貫いた。雷撃が通った騎士の腹部には大穴が開き、焼き焦げた臭いを撒き散らした。

 二人は何事も無かったように先程と同じ調子で歩きだす。二人が通った後の道には幾つもの死体が転がっていた。


 「あぁ、ありましたね」


 二人が今いるのは王城と同じ敷地内にある聖堂だった。荘厳さを感じさせる造りながら、中は静寂に満たされ、別世界にいるような錯覚をさせる。

 聖堂の最奥には、神を模した像がある。ヴァルドはそこに近づくと足元を少し探り、隠し階段を見つける。ヴァルドは蓋となっている床を外し、そこにあった階段を下りた。階段の先には人が一人通れる程度の広さの地下道が伸びていた。

 二人は、光すら差し込まない地下道を魔術の火で照らしながら進んでいった。数分歩いたところで通路の先から光が差し込んでいるのが見えた。

 その先には広い空間があった。自然の大空洞だろう。壁は岩肌そのままで、人の手が入れられた様子はなかった。だが、そこには不釣合いな――明らかに人の手によって作られた神殿のような建造物があった。


 「見つけましたよ。ここが聖櫃……”あの御方”の眠る場所」


 ヴァルドは感動に胸を震わせる。そこに冷や水を浴びせる声が響いた。


 「立ち去れ! ここは王家の守りし聖域。何人たりとも立ち入ることは許さん」


 姿を現した精霊銀の鎧を身に着ける六名の白銀の騎士を見て舌打ちする。


 「近衛騎士……こんなところにいるとは思いませんでしたね。ここを聖域としているということは、ここのことをアルシール王は聞き及んでいるということですか」

 「そのようなことはこれから死ぬ貴様には知る必要の無いことだ」

 「立ち去れと言っておきながら、殺すの前提ですか……まぁ構いませんが、こちらもそうそう引くわけにはいきませんね」


 ヴァルドは手を先頭の近衛騎士に向けた。


 「“フレイムランス”」


 近衛騎士は高速で飛来する炎の槍を抜き放った剣で切り払った。


 「……厄介ですね」

 「総員、抜剣っ! 奴らを逃がすな!」


 剣を抜いた近衛騎士がヴァルドたちに向かって走り出す。

 フードをかぶった男が雷撃を放ち牽制する。単発では容易に避けられると踏んだフードの男はまるで雨のように雷撃を放つ。

 さすがの近衛騎士も降りしきる雷撃を避けきることは出来ず、剣で払いのける。直撃はさせられなかったが確実に足を止めることには成功した。

 その隙にヴァルドが広範囲の魔術を繰り出した。


 「“フレイムピラー”」


 地面を炎が走り、近衛騎士たちの足元を炎が包みこむと、炎の柱が立ち昇る。

 近衛騎士たちを炎の柱が飲み込むと炎が消える。

 そこには火傷一つ無い近衛騎士たちが立っていた。


 「化け物どもめ……」

 「我らは王国を守護する最高位の騎士だ。貴様のような賊風情に、陛下より賜ったこの白銀の鎧を傷つけることが出来ると思うな」


 精霊銀は魔力が込められ変質した銀だ。その製法は既に無く、ミスリルとも呼ばれる。現存しているもの以外では、とある迷宮の中に存在するのみだといわれている希少な金属だ。アルシールの近衛騎士が三十人なのは王家に存在する精霊銀の剣と鎧が三十人分しかないためである。

 本来銀は鉄よりも脆い、にもかかわらず精霊銀は鉄よりも硬く、軽く、さらには魔術に対する耐性もある。しかし――無敵ではない。

 断末魔の叫びをあげて近衛騎士の一人が倒れる。

 驚いた近衛騎士たちの視線が一斉に集まった。倒れた近衛騎士の鎧は白銀の輝きを保っていたものの、鎧を着ている騎士自身は全身が黒く焼き焦げていた。


 「フードの男に注意しろ!」


 一早く気を取り直した近衛騎士の一人が注意を促す。他の近衛騎士はフードの男に注意を向けると、絶句した。

 フードの男は膨大な、常識外ともいえる魔力を漂わせていた。


 「あぁぁぁぁぁっ!」


 フードの男は咆哮をあげると、魔力を稲妻に変えて周囲に放つ。先程の雷撃の雨とは一本一本の雷撃の太さと威力が段違いだった。無差別に降り注ぐ雷撃は、地面を抉り破壊を撒き散らす。


 「くそっ! なんだ奴は!?」


 騎士の一人が当り散らすように怒声をあげた。

 当たれば先程殺された騎士と同じ末路を辿ることになる。無差別に降り注ぐ破壊の雷は、近衛騎士をジワジワと追い詰めていた。

 しかし、一見優勢なフードの男は、魔力を制御できずにいた。今の状態は、身の内に眠る膨大な魔力が暴走し、直前に使おうとした雷撃の形で放出されているだけだった。

 人外ともいえる魔力量を持つ男だったが、まったく制御されずに魔力を垂れ流しにしている状態では長くは持たない。凄まじい速さで魔力を消耗していた。

 しばらくすると男の魔力が底を尽き、破壊の雷は霧散した。後に残ったのは雷で抉られ破壊しつくされた地面と、無残に焼き焦げた三体の屍。直撃はしなかったものの、体の節々を焼き焦がした三人の騎士とヴァルドだった。

 満身創痍の騎士たちとヴァルドはフードの男を注視したまま、すぐには動けなかった。すると、立ち尽くしていたフードの男がフラリと体を揺らし地面に倒れた。


 「予定外のことが起こりましたね……残念ですが失礼させて頂きますよ」


 そう言うとヴァルドはフードの男に近づき、懐から何かを取り出すと、二人はまるで闇の中に溶けるように消えていった。

 二人が消えた後、近衛騎士たちは消えた場所を調べたが何も分からなかった。


 「なんだったんだ奴らは。特にあのフードの男の魔力量は異常だ」

 「エイシスの魔術師……でしょうか?」

 「もしそうなら脅威だな」

 「そういえば、あのフードの男が倒れたとき、微かに見えたのですが。黒髪の少年のようでした」




 「申し訳ありません、メイザース殿」

 「失敗したか」


 暗い部屋の中、椅子に腰掛けたヴァルドが肩を落としていた。


 「制御が甘かったようで、魔力が暴走してしまい……」

 「まぁ良い。私も近衛騎士が全員王城に残っているとは予想していなかった」


 二人は床に倒れ伏しているフードの男に視線を向ける。


 「魔力量が多すぎることもあるだろうが、これ自身の魔力制御が甘いのだろう。まともに使うにはもう少し時間が必要だな」


 特に気にしていない様子で淡々と言葉を続ける。


 「しばらくは警戒が強くなるためアルシールは難しいだろう。改めて準備を行い、機を待てば良い」

 「はい。次こそは“あの御方”の解放を」

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