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第7話 初依頼、そして王都へ

今後ちょくちょく魔物が出てきます。

名前や姿形が、どこかで見たことのあるものかもしれません。

でもそれは気のせいです(ォィ

16/4/8 改訂

16/6/28 誤字修正

一部削除 「仮想の相手との模擬戦――シャドーボクシングを行なう」の「――シャドーボクシング」を削除

16/9/29 6話から移動・ラストに旧8話の一部挿入

 暁方、ユウトが目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。

 半分寝ぼけたまま顔を動かして辺りを見回した。


 「どこだ……? ってこれは前にやった」


 頭を振って、寝ぼけた意識を覚醒させた。

 ユウトはベッドから出ると、武器と綺麗な布を持って部屋を出た。

 宿の裏にある井戸に行き、そこで顔を洗うと眠気の残る頭をすっきりさせた。

 ――さて、始めるか。

 ユウトは軽く準備運動をしてから、周囲に気をつけながら鍛錬を始める。

 村でやっていた訓練よりもずっと軽い内容だが、調子を確かめ、腕が鈍るのを防ぐためには十分だ。

 体の調子は日によって違う。どんなに気を配っても調子の悪い日や良い日が必ず出来る。冒険者の活動は些細なミスが死に繋がりかねない。それを極力避けるためには、日ごとの若干の調子の違いを把握しておく必要がある。

 また、冒険者になったからといって毎日のように魔物と戦うわけではない。依頼を受けない日もある。そうすると体を動かさず、剣を振らない日が生まれる。一日剣を振らなければ、その分体は鈍る。ランドたちからも、鍛錬は欠かさず行なえと言われていた。

 一通りの訓練を終えると、冷たい井戸水で濡らした布で体を拭いて汗を拭う。

 部屋に戻ると宿を出る準備を整える。

 

 「さて、お仕事頑張りますか」


 中身を確かめるように硬貨を入れた財布に触れながら呟いた。

 宿を出る前に、槍を預けておいた。

 連泊する場合、ほとんどの宿はこうして荷物を預かってくれる。冒険者のように手荷物が邪魔になる場合があるためサービスの一環として行なっている。

 Fランクが受けられる依頼は手伝いか採取だ。採取の場合、町の外に出るため武器は必要だが、戦闘はメインではない。槍はむしろ邪魔になる。

 ユウトはギルドに着くと、早速クエストボードを確認した。

 クエストボードはランクごとに分かれており、パッと見た限りだとFランクの依頼は他のランクに比べて数が少ないようだった。

 

 「ミサイ草の採取、ワモノ草の採取、荷降ろしの手伝い、倉庫整理の手伝い。どれもこれも似たり寄ったりだなぁ」


 一枚一枚依頼の内容を確認していく。

 Fランクの依頼は、町の近くで採れる薬草の採取や、力仕事関係の手伝いだ。依頼の報酬は銅八十から銀一銅二十くらいだった。Eランクにあがれば、近隣の魔物の討伐依頼が受けられ、報酬も倍近くになるため、早くランクを上げたかった。そのためには、より評価を得られそうな依頼を数多くこなすことが必要だ。

 ――手伝いよりは採取の方が評価高そうだよな。一応は外に出るわけだし。それに採取なら運がよければ同時に複数の依頼を達成できるかも。

 どうせ外に出るのだ、複数の薬草を探して持ち帰れば、それほど手間をかけずに複数の依頼を達成できる。

 ユウトは採取に絞って依頼書の内容を改めて確認する。

 ――ミサイ草とワモノ草の採取か。この二つの見た目は分かるし、そこそこ見つけやすいはずだ。

 ミサイ草の採取は根の部分を十本、報酬は銀貨一枚だ。ミサイ草の根は解毒薬の材料になる。珍しいものではなく、群生していることが多い。

 ワモノ草は茎の部分が同じく十本で、報酬も同じだ。ワモノ草は茎の部分が止血剤の材料だ。ミサイ草と違い群生はしないが、草原や森など比較的どこにでも生えている。

 ユウトはカインから野草、特に薬草や毒草の類は覚えておくように言われていた。ユウトは言われた通り、孤児院にあった手書きの図鑑でその形や効能を勉強した。小さな村では、ちゃんとした薬師がいることは少ない。そのため薬草などは良く使われるため、必須の知識だった。

 ユウトはミサイ草採取の依頼書をクエストボードから剥がし、それをもって受付に向かった。


 「すみません。これを受けたいのですが」

 「はい。ギルドカードを出して頂けますか」


 昨日登録して貰ったときと同じ女性職員だった。

 言われた通りギルドカードを渡すと、職員は机の下から紙の束を出しペラペラと捲る。目当てのページを見つけ手を止めると、別の紙を取り出してその紙とカードに何かを書き込んだ。

 書き込みはすぐに終わり、ギルドカードをユウトに差し出した。


 「依頼の受領は完了です。初依頼ですね。頑張って下さい」


 職員がニッコリ笑って、ユウトを送り出した。

 ユウトは、ガロの町を出ると、近くの森に向かっていた。ミサイ草の群生地は、森や林の中に多い。ワモノ草はどこにでも生えているため、うまくいけば森で両方揃うはずだ。

 ――ついでに魔物がいれば、倒して素材を売ろう。

 金欠は割りと切実だった。

 皮算用を始めるユウトの腰には、左右でそれぞれ剣と刀が下げられている。町を出てから二時間ほど歩いたところで森の中に足を踏み入れた。

 ユウトは気を引き締める。

 平原などに比べて、森のように人があまり踏み入れず、見渡しの悪い場所には魔物が多い。この森は、それほど深く茂っているわけではないが、それでも平原や街道に比べれば魔物は多い。そのはずなのだが……

 ――いないな。

 “探査”を行なっているが、魔物らしき魔力は察知できなかった。

 もっとも、ユウトの“探査”では察知できないだけという可能性もあるため、ユウトは警戒を怠らずに森の奥に進んだ。

 二、三十分ほど歩くと、泉を見つけた。


 「お、ミサイ草の群生地発見。ワモノ草もあるな」


 泉の周囲には野草が生い茂っており、目当ての薬草もあった。

 ユウトは膝をついて採取を始めた。根を出来るだけ傷つけないように少し離れたところから土を掘り返し、すくい上げるように土ごと持ち上げる。根についた土を軽く払うと、持って来ていた布に包みバッグに入れる。

 依頼はミサイ草の根だが、薬草は部位によって違う使い道があったり、傷つけると品質が下がってしまうものもある。そのため、出来る限り丸ごと持ち帰る方が良いと教えられていた。

 同じようにワモノ草も丸ごと採取した。

 幸運にもミサイ草もワモノ草も十本以上生えていたため、その場で依頼の達成に必要な量を採取することが出来た。

 ――上か。

 採取を終え、歩き出したユウトの足元に黒い影が落ちた。


 「おっと」


 その場から飛び退くと、直後に大きな音を立てて黒い塊が着地した。

 ギチギチと八本の脚が音を立て、黒の体に黄色の模様を混ぜた蜘蛛が身を起こした。


 「でけぇ……」


 ユウトは身を起こしたクモを見る。体高がユウトの胸くらいまである巨大な蜘蛛だった。

 ジャイアントスパイダーというDランクの魔物だ。森などに生息し、綺麗な水場の近くに巣を張り、近づいてきた獲物を襲う。素材として使える部位は頭部にある一対の牙のみだ。脚には鋭い棘がついている。

 呆気に取られていると、ジャイアントスパイダーはユウトを狙って突き刺そうと脚を伸ばす。伸ばされた脚はユウトに避けられ、地面を穿つ。

 襲ってくるジャイアントスパイダーの脚を避けながら、刀を抜き、魔力で体内を満たす。

 ジャイアントスパイダーはその巨体の通り力は強いが動きが遅い。“強化”で身体能力が上がったユウトの動きは速い。ジャイアントスパイダーの動きでユウトを捉えるのは困難だ。 

 ジャイアントスパイダーの動きを見切るために、観察を続けていたユウトに対し、攻撃が当たらないことに業を煮やしたのか動きが大きくなった。無駄な力が入った一撃は、今まで以上に動きが遅く、隙が出来た。


 「ハァッ!」


 ジャイアントスパイダーの一撃を僅かに動くことで避けたユウトは、素早く踏み込んだ足に力を込めて、刀を薙いだ。

 振られた刀は、甲高い音を立ててジャイアントスパイダーの脚を半ばから斬り飛ばした。

 斬った際に違和感を感じたユウトは舌打ちする。

 おそらく今のは刀の振り方としては適切じゃない。正しい形を知っているわけではないのだが、直感的にそう感じた。

 脚を斬られて怒ったジャイアントスパイダーが頭部の牙を擦り合わせてギチギチと音を鳴らす。

 ユウトは襲い来る脚を避けながら、一度大きく距離を取る。ジャイアントスパイダーがユウトを追って前に出たタイミングに合わせて、踏み込んだ。ユウトは、今度は脚の関節部を狙って刀を斜めに切り上げる。音も無く切り裂かれた脚が飛び、一度距離を取る。

 ――なるほど。

 手ごたえを感じ、笑みが浮かぶ。

 刀を正眼に構えると、今度はユウトから攻める。

 二本の脚を失ったジャイアントスパイダーが戦意を失い後ろに下がる。

 的を絞らせないよう左右に動きを散らしながら距離を詰める。狂乱したジャイアントスパイダーが半ばから斬り飛ばされて短くなった脚を振り回すが当たらない。

 一足の間合いに入った瞬間、“強化”された脚力を活かし一瞬でジャイアントスパイダーの懐に飛び込んだ。


 「セェアァァ!」


 裂帛の気合と共に二度刀を閃かせた。

 胸部を十字に切り裂かれたジャイアントスパイダーは崩れ落ち、傷口からは青い体液を流して絶命した。

 ――悪くないな。

 機嫌良く刀を鞘に納めてから、剣で頭部の牙を切り落とす。牙を取り終えると、ユウトは森を後にした。

 ジャイアントスパイダーの死体はそのままだが、町の中でもない限り、他の生物が死体を食べるので腐ったりする心配は無い。

 森を出て早々にガロに戻ったが、まだ日が高かったため、町中には入らず、近場で刀の訓練を行なうことにした。

 刀を抜き、正眼に構えてから、素振りを行なう。何度か確かめるように刀を振った後、今度は踏み込んだ足に力を込めて刀を振り下ろす。次は踏み込んだ足に体を支えるだけの力を入れて刀を振り下ろす。

 ――やっぱりか。

 ユウトの体感だが、踏み込んだ足の力の込め具合で刀を振る際の鋭さに差が出ていた。

 踏み込んだ足に力を込めすぎると、力が入る分鋭さが鈍る。体が崩れない程度に力を込めた際は、無駄な力が抜け鋭い一撃になった。

 ――おそらくこれが刀と剣の違いだ。

 剣の重心は剣先に寄っているため、遠心力も加わり一撃が重くなる。その一撃を生かすためにも、踏み込んだ足に力を込める必要がある。でなければ体が剣の重さと遠心力に負け、崩れてしまうからだ。しかし、それ故に連撃に向かない。

 逆に、刀は重心が鍔元近くにあるため、遠心力は剣ほどには出ず、軽い。その代わり、一撃が鋭く、重心が手元に近いため斬り返しが速い。

 踏み込んだ足に込める力が、刀と剣で違う。

 だがそうなると、刀を満足に使いこなすには、今まで積み重ねた訓練によって身につけた剣の癖を一新しなければならない。意識的に使い分けることは可能だろうが、いざというときに無意識に動けなければ意味が無い。

 そうと決めたユウトは、体に染み込ませるため、ランドとした訓練を思い出しながら刀を振り始めた。模擬戦は出来ないためあくまで反復練習のみになるが、繰り返し刀を振り続けた。

 暗くなりはじめてからようやく依頼の報告を行なっていないことに気付いたユウトは、慌ててギルドへ向かうことになった。



 

 その翌日も同じように早朝に採取の依頼を受け、終わり次第鍛錬を行なった。今度は忘れないように先に依頼の報告を行なった。その後、再び町の外に出て、刀の鍛錬をした。

 その次の日、防具を完成する日は早朝に採取に行った後、昼頃に戻ってきたユウトは、防具を受け取りに向かった。

 完成した胸甲と腰鎧、それにサイズを合わせた篭手と脚甲を受け取り、残りの代金を渡した。

 この二日の依頼とジャイアントスパイダーの素材で銀四を手に入れた。防具の代金を差し引いても銀三は残っている。

 ユウトは受け取った防具を一度宿に預けてからギルドに向かった。今朝採取した薬草を渡して依頼の報告をするためと、王都に向かう次の旅馬車の日を聞くためだ。

 アルシール国内では、王都と町を行き来する旅馬車と呼ばれる運輸機関が存在し、王都から国境近くの大きな町までの間を繋いでいる、あくまで王都と各町を繋ぐもので、町同士を繋ぐものではない。これは、王都を交通の中心にすることで人や物の流れを王都に集中しやすくするためだった。

 ある町から他の町に行きたい場合、場所によっては王都を経由するのは遠回りになるが、旅馬車の代金が安く護衛もつくため、利用者は多かった。

 旅馬車は国の施策の一環だが、各町に支部が存在し、護衛依頼がギルドの管轄であることから、ギルドに管理が任されていた。そのため、旅馬車を利用したい場合はギルドに申し出る必要があった。

 ユウトは、受付で採取の依頼の報告を済ませた後、旅馬車について職員に聞くことにした。


 「王都へ行く旅馬車って次はいつですか?」

 「王都行きですか。確か明日のはずですが……」


 職員は机の下から資料を漁り、目当ての物を取り出した。


 「えぇと、明日の昼にありますね。空きもありますが、どうしますか?」

 「お願いします」

 「分かりました。代金は銀三になります」


 銀貨を三枚取り出して渡すと、職員が何かを思い出した様子で口を開いた。


 「そういえば、今朝情報が入ったのですが、王都でクーデターが起こったという話は知ってますか?」

 「クーデター? いえ、初耳です」

 「まだ詳しい情報までは入ってないのですが、三日ほど前にエイシスの兵を引き入れて王城を占拠しようとした者がいたらしいんです。結局鎮圧されたようですが、結構な被害が出たと。多分、今は王都もピリピリしていると思いますので、お気をつけ下さい」

 「情報ありがとうございます。気をつけます」


 これから向かう先の情報が手に入ったのは幸運だった。そんな状況だと場合によっては動きを制限される可能性もある。分かったから何かできるというわけでもないが、心構えが出来るだけでもありがたかった。


 「それから、王都へ向かうとのことですが、活動拠点を王都に移す、ということでよろしいのでしょうか?」

 「あ、はい」

 「……そうですか。寂しくなりますが、あちらでも頑張って下さい。……着いたらきっとビックリすると思いますよ」

 「はい?」


 悪戯な微笑みを浮かべた女性職員にユウトは首を傾げた。

 結局、何のことだかは教えて貰えないままに、ギルドを後にすることになった。

 その日は町の中を散策することにした。ユウトはガロに数日いたが未だに町中をちゃんと見ていなかった。本来なら記憶の手掛かりを探すため、何を置いても見て回るべきだったのだが、金欠やら刀の訓練やらで頭が一杯になっていた。

 ――いずれ戻ってくる機会もあるだろうけど、折角いるのに見て回らず出て行くのも勿体無いよな。

 鼻歌交じりでガロの中を歩き回る。

 普段は泊まっている宿、ギルド、店の並ぶ大通りくらいしか行かなかったユウトだが、今回はそれこそ端から端まで見るつもりでゆっくり回った。

 実際は全体を見て回るほど時間に余裕は無かったので、兵舎などがある方には行かなかった。――つまらなそうだったので。

 住宅街と思われる民家が並ぶ場所では、子供たちが遊んでいた。

 裏通りには小さな店があった。大通りにある店とは趣向が違い、珍しいものを取り揃えているようだった。

 大通りにも今まで気に留めなかった店を見つけた。

 日が落ちるまで町の中を歩き回ったが、結局記憶の手掛かりは見つからなかった。




 旅馬車の出る日、ユウトは普段通りに目を覚まし、朝の鍛錬を行なう

 今日は依頼に出ることは無く、昼間で時間もあるため、いつもよりも本格的に訓練を行なうことにした。

 準備運動を終え、槍を構える。

 槍を突き、引いて、払う。決まった動作を繰り返し、素振りを行なう。

 素振りを終えると、仮想の相手との模擬戦――シャドーボクシングを行なう。想定する相手は槍の師匠でもあるカインだ。

 カインとは村で何度も模擬戦を行なった。カインの動きは容易にイメージできる。――できるが、勝てるイメージは湧かなかった。

 結局、技で捌かれて終わった。

 鍛錬は勝ち負けでなく技術の習熟を主としているため、“強化”を使っていない。そのため、技術面ではまだまだ遠く及ばないカインには勝てない。

 一戦しただけで、息は乱れ汗が流れる。

 ――“強化”が無きゃまだまだ未熟ってことだよな。

 ジャイアントスパイダーを容易く倒したとはいえ、まだまだ自信を持つには早すぎる。分かっていたことだが、こうしてイメージ上とはいえ師と戦うと自分の未熟さを実感して溜め息が漏れる。

 落ち込んでる暇は無いと奮起し、槍を置いて刀を抜く。

 正眼に構え、素振りを行なう。

 唐竹、袈裟切り、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、右切り上げ、左切り上げ、逆風、刺突と基本動作を繰り返す。刀の動作はまだ体に染み付いているとは言えないため、素振りの量を多くする。

 一振り一振り感触を確かめ、違和感があれば正し、また刀を振る。

 鍛錬が一通り終わり、火照った体を冷ます。


 「良い動きだったぜ。お前さん、冒険者か?」


 声をかけられ振り向くと、そこには男がいた。

 男は二十歳くらいで、白に近い灰色の髪を短く刈った男だった。背はユウトよりも頭一つ大きく、鍛えられ隆起した筋肉を持つ大男で、男らしい精悍な顔つきをしている。

 何気ない様子で立っているだけだが、その佇まいからユウトは自分より上のランクの冒険者だと判断した。


 「えぇ、駆け出しですが」

 「あれでか。見た限り、実力はCランク相当だと思ったが」

 「ありがとうございます。師に恵まれたので」

 「ほぉ、お前さんの師匠か。……おっと、ギルドに行かなきゃならないんだった」


 気持ちの良い笑顔を浮かべ、男は去っていった。

 「お前さんとはまた会いそうな気がする」という男の去り際の言葉が印象に残った。

 ユウトは朝食を済まし、一度部屋に戻って荷物を確認した。

 その後、装備を身につけてから宿を出た。

 大通りの店を回り、保存のききそうな食料と普通の食料を二日分買い、井戸水を入れた竹の水筒を何本か用意した。念のため旅に必要そうな物も買った。肩掛けのバッグでは小さいので、背に背負うタイプの大き目のバッグも一緒に購入した。

 旅馬車はその料金が安い分、食料などは基本的に自分で用意することになっている。ガロから王都までは七日かかるが、その間にある幾つかの町や村にも寄る。とはいえ、一日二日はかかる場合もあるので、準備は必要だった。

 準備を整えた頃には昼近くになったため、町の外に出た。

 門を出たすぐのところに、旅馬車が停まっていた。ユウトは旅馬車のそばにいたギルドの職員に確認を済ませた。

 ガロはアルシールの南西部では最も国境に近いため、旅馬車の出発地にあたる。もうすぐ時間のはずだが、それほど乗客は多くないようだった。

 ――この先の町や村で増えんのかな?

 そんなことを考えながら、様子を見つつ待っていた。


 「よう。お前さんも王都へ行くのか?」


 聞き覚えのある声に振り向くと、鉄の鎧を着込んだ今朝の男がいた。


 「やっぱりまた会ったな。……そういやまだ名乗ってなかったな。俺はギルツ。Cランクの冒険者だ」

 「……Fランクの冒険者、ユウトです」


 


 車輪の回る音とそれに合わせて揺れる馬車の振動が心地良い。

 ガロに来る際は、車輪の音がうるさく、馬車の振動は鬱陶しく思ったが、慣れればむしろ心地良いものだと今は実感する。――この真横で延々と語りかけてくるむさ苦しい大男に比べれば。


 「だからよぉ、俺には商人なんて向いてねぇって何度も言ったんだよ。弟の方が頭の出来も人当たりも良いんだからあいつに継がせろってよ。だってのに長男なんだからお前が継げってうるさくてな」


 ユウトはうんざりしていた。

 ガロを出てから二日経つが、ギルツの出生から始まり、とうとう家を飛び出したところまで話が進んだ。


 「話を聞かないのは親子そっくりなんだな」

 「そう言うなって。ここからが面白いんだぜ?」


 責めるような目でギルツを見るが、全く意に介した様子はない。

 ギルツは何故かユウトを良く構った。ガロを出た当初は乗客が少なく、他の護衛についた冒険者は年が少し離れているため、比較的年が近く同じ冒険者であるユウトに話しかけたのだろうと思っていたが、乗客が増えてもあまり変わらなかった。

 ユウトも最初こそ丁重に相手をしていたが、延々自伝を聞かされた結果、うんざりしたユウトがギルツをぞんざいに扱うようになったことについては誰もユウトを責められないだろう。実際他の乗客は我関せずとばかりに距離を取っている。

 余計手に負えないのは、ぞんざいになったユウトの態度の方がギルツとしては気楽で良いという事実だ。むしろ気の置けない仲になったとばかりに余計馴れ馴れしくなっただけだった。

 

 「そもそも、なんでそんなに俺に構うんだ? ガロで会ったばかりだろ」


 ユウトが呆れたように言うと、ギルツが考える仕草をした。


 「俺も良く分からないんだよな。初めて会ったときに、何となくこいつとは長い付き合いになりそうだな、と」

 「仮にそうでも、敢えて俺に構う必要は無いと思うんだが」

 「いや、どうせ長い付き合いになるなら仲良くしたほうが良いじゃんか」

 「今お前がしていることは全くの逆効果だからな?」

 「長い付き合い、そういうこともあるだろうさ」

 「俺とお前の付き合いはまだ三日だからな!?」


 ユウトが声をあげると、ギルツが笑った。

 ギルツは誰彼構わず馴れ馴れしくするわけではない。相手の様子を見ながら距離を測るくらいの配慮はできる。

 本人も良く分かっていないが、ギルツはユウトに懐かしさのようなものを感じていた。勿論会ったのはガロが初めてだが、その時昔馴染みに再会したような懐かしさと親しみを感じた。だからこそ、遠慮せず接することにしていた。


 「楽しそうだな、坊主」

 「これが楽しそうに見えるんですか? アベルさん」


 背中からかけられた声に溜め息交じりで答える。

 アベルは旅馬車の護衛をしているBランクの冒険者だ。年は三十後半といったところだろう。懐が広く、親切な男だ。ユウトとは年が離れているせいか、坊主と呼び子ども扱い……とまではいかないが、大人扱いはされていなかった。


 「なんだかんだで楽しそうに見えるぞ? なぁタロス」

 「あぁ」


 タロスもアベルと同じ護衛についたBランクの冒険者だ。年はアベルより少し若いくらいだ。一見怖いが、無口なだけで優しく気配りもできる男だった。

 二人は面倒見が良く、まだ若いユウトに親切にしてくれた。

 特に、戦闘面に関しては色々なことを教えて貰った。教えて貰ったとはいっても、手取り足取りというわけではない。まず戦う姿を見せてくれた。

 ガロを出てから二日、途中町に寄りもしたが、基本的に街道をずっと進んでいたため、何度も魔物の襲撃を受けた。

 出てきた魔物自体はDランク程度の魔物だったが、ギルツも含め、三人の実力の高さは実感できた。

 アベルとタロスはBランクに見合った実力者だった。実際のところ、この二人は冒険者としてはベテランと言って良い年齢だ。アベルに至っては引退していてもおかしくないくらいだ。

 それゆえ、二人は目に見えて派手な強さはもってなかった。身体能力だけで見れば“強化”を使ったユウトより低いかもしれない。彼らの強さは、巧いの一言に尽きる。

 二人が対峙した魔物は、全ての動きが二人に操られているのではないかと勘繰ってしまうほどに、二人の思い通りに動かされていた。

 僅かな視線の動きや、動作で自分が有利になるように相手を動かす。それは蓄積された経験と磨かれた技術の賜物だ。間違っても今のユウトには真似できない。

 しかし、それに負けていなかったのが、まだ若いギルツだ。ギルツは重量の重い鉄製の全身鎧を身につけ、右手に大きな戦斧、左手に鉄の大盾を持つ重戦士だった。動きは装備の重さも相俟って遅いくらいだったが、それを苦にしない技術があった。アベルたちほどの熟練の技はないが、相手を捌きながら常に優位に立ち回る技術は、ユウトにはないものだった。

 ユウトのように力押しで戦うタイプとは全く異なる戦い方とその深奥に驚き、その技術を身につけたいと思ったユウトは、三人に模擬戦をお願いすることにした。

 



 刀を構え、難しい顔をしているユウトに対し、対峙しているアベルは余裕の笑みを浮かべていた。

 アベルは短剣と剣の中間くらいの長さの小剣を二本使う。左右にもつ小剣はそれぞれ形が少し違っていた。


 「ハァッ!」


 ユウトが踏み込んで刀を振り下ろす。アベルは小剣で刀を逸らす。容易く剣筋を読まれたユウトは、速度を上げる。

 ――これならっ。

 剣は刀と違って連撃に向かない。アベルとて連撃を受けた経験は然程無いはずだ。

 そう考えたユウトは、間隙なく斬撃を放つ。

 ――マジかよっ!?

 全ての斬撃を両手の小剣で逸らされた。

 ならば、と片手で振っていた刀を両手で持ち、アベルの懐に踏み込んで、刀を振り下ろす。

 アベルは左手の小剣で刀の軌道を僅かに逸らし、半身になって避ける。逸らされた刀の軌道を変え、横に薙ぐ。剣のぶつかり合う音と共に、刀の鍔元をアベルが小剣で押さえた。鍔元を押さえられた刀はそれ以上動かない。

 ユウトは舌打ちして距離を取ろうと飛び退こうとしたが、できなかった。アベルが刀を押さえていた小剣を持っていた手でユウトの手首を掴んでいた。

 後ろに飛ぼうとしたところを掴まれたユウトは、体勢を崩した。アベルはそこを引き寄せ、小剣を首筋に当てた。


 「俺の勝ちだな。坊主」

 「……参りました」


 笑顔を浮かべるアベルに、両手を挙げて答えた。


 「当たり前といえば当たり前ですが、歯が立ちませんね……」


 武器を納めながらユウトが溜め息混じりに呟く。


 「そうでもないぞ。おそらく坊主が感じているほどには差はねぇよ」

 「あぁ……Fランクの強さではない」


 二人がフォローするが、ユウトは気落ちしたままだ。

  

 「軽くあしらわれている気しかしないんですが……」

 「あしらわれてるのは事実だろうな。俺の見た限りユウトは素直すぎるんだよ。動きは速いし剣筋は鋭い。だけど読みやすいんだ」


 ギルツの指摘はアベルとタロスも感じていたことだった。そもそも二ヶ月程度の鍛錬しかしていないのだから仕方ないのだが、ユウトの動きは基本に忠実すぎた。

 幾ら速かろうとも、どう動くのか分かっていれば、避けるのも反撃するのも難しくはない。しかも、相手は経験と技術に長けたアベルだ。読みあいや引き出しの多さでは勝負にすらならない。

 ユウトにはまだそういったことをアベルと対等に行なえるだけの経験も知識もない。ユウトが今出来るのは覚えた基本動作を忠実に行うことだけであり、それが熟練の冒険者からは読みやすいと言われる原因だった。


 「こればっかりは経験を積むしかないな。王都に着くまで幾らでも相手するから、吸収すれば良いさ」


 ユウトはギルツとも模擬戦を行なったが、ギルツの実力はユウトよりも数段上だった。

 ギルツはまだ二十一歳で、冒険者としては若手の部類に入る。その若さにしては珍しい技巧派タイプだが、これはギルツの体質によるところが大きい。ギルツは魔力が極めて少なく、ほとんど無いと言って良い。簡単な魔術すら使えない。ある意味ユウトとは対極にいるわけだが、そのため武術にのみ力を入れた。他の冒険者が魔力の制御を覚え、魔術を使うための訓練を行なっている時間を全て体を鍛え、技を磨くことに使った。魔術に頼ることが出来ないからこそ、全てを武術に費やした。その結果、若い冒険者には無い熟練ともいえる技術と動きを会得した。

 ユウトにとっては、ギルツもユウトに無い技術と経験を持つ格上の相手で、教わることは数多ある。

 ギルツの宣言通り、王都に着くまでの間、ユウトはギルツを含む三人に訓練に付き合ってもらった。




 「そろそろ王都に着くぞ」


 ユウトは、胡坐をかいて、瞑目しながら体内の魔力を思うように操作する訓練――魔力制御の訓練を行っていた。前方からあがった声に訓練をやめ、目を開いた。

 ガロを出てから七日目の昼頃、王都の外壁が見えた。ガロとは比べ物にならないくらい高い壁が長い距離にわたってそびえ立っており、堅牢な要塞のようにも見える。王都の中央にあるらしい王城も一応見えるが、壁の更に遠くにあり、王都の広さが窺えた。

 旅馬車の乗客は、王都の外壁が見えるようになってから、明らかに活気が出た。何を見に行こうか、どこに買い物に行こうか、と各々王都での過ごし方を想像し、楽しみにしているようだ。

 ユウトも、自分の記憶に関する情報が手に入るかも知れないという期待と、初めて行く王都に胸を躍らせていた。

 ユウトが胸を躍らせているのを察したのか、笑いを堪えている様子のギルツが声をかけてきた。


 「ユウトは王都で活動するのか?」


 首を縦に振ったユウトに、更に言葉をかける。


 「んじゃ、また会うこともありそうだな。はやくランク上げろよな、組んで依頼行こうぜ」

 「善処するよ。機会があったらな」


 当初は鬱陶しかったギルツとも、別れとなれば寂しく感じるところがあった。ギルツにも慣れ、鬱陶しさよりも親しみが勝つようになっていたユウトは、再会を約束する。

 そんな中、進み続ける馬車は王都の門前に着き、入るための順番待ちをしている。王都は多くの人が毎日のように出入りする。アルシールの中心部にあり、旅馬車の交差点にもなっているため、旅人も商人も王都を中継するためだ。

 しばらくすると、ユウトが乗る旅馬車の順番になった。

 最初に御者が身分証を見せ、その後、乗客がそれぞれ自身の身分証を見せていく。全員の身分証が確認されてから、馬車ごと中に入る仕様だ。

 乗客たちが順調に済ませていき、ユウトの順番になったため、奥の方にいたユウトが手前に出て行く。懐に手をいれ、冒険者証を出そうとしながら、馬車の端に寄る。馬車の屋根で影になっていたユウトの顔に日差しが当たった。一瞬目が眩んだユウトが、視力を取り戻すと、目の前の門兵から槍の穂先を向けられていた。


 「え?」


 ギョッとして、何の冗談かと門兵を見たが、その顔は真剣そのものだった。


 「賊だ! 例の賊がいるぞ!」


 ユウトに槍を向けている門兵の声に応え、続々と門の詰め所らしき場所から兵が出てきた。瞬く間にユウトの周りには、多数の兵が集まった。

 ユウトは、呆然としたまま自身を取り囲んでいく兵たちの姿を見ていた。他の乗客も唖然としたままで、誰も動かない。

 そうしていると、他の門兵たちよりも質の良い金属の鎧を着込んだ男が前に出た。おそらくは門兵たちの隊長なのだろう。男は手にしていた抜き身の剣をユウトに向けて突きつけると、大きな声で宣言した。


 「そこの黒髪の男! お前をクーデターに加担した国家騒乱の罪で捕縛する! 抵抗するなら命は無いと思え!」

 「……え?」

 

 訳も分からず首を捻ったユウトが、困惑の声を漏らした。


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