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第19話 盗賊の住処 

16/6/30 誤字等修正


 隊列は先頭に一番防御力が高いギルツが立ち、その後ろに機動力が高く攻撃力に秀でたユウトが続く。三番目には一番近接戦闘に弱く、遠距離で援護が出来るメイアを挟み、挟撃を受けた際に時間稼ぎが出来る攻守のバランスが良いロアを念のため殿に配置した。

 ユウトたちは盗賊たちが待ち構えているのを警戒していたが、その心配は杞憂に終わった。

 突入したユウトたちを待っていたのは、緊張感無く寛いでいた盗賊たちの姿だった。

 

 「……」


 いきなり襲われることすら想像していたユウトたちは、思いがけぬ光景に呆気にとられて動きを止めた。

 そんなユウトたちに気付いた盗賊たちが、突然の侵入者に色めき立つ。


 「なんだてめぇら! ここがどこ――がっ」


 声をあげた一人の盗賊を先頭のギルツが盾で殴りつけた。言葉の途中で吹き飛ばされた盗賊が壁にぶつかり地面に倒れる。

 盗賊たちの視線が地面に倒れた盗賊に集まると喧騒が一斉に引き、その場が静寂に包まれた。

 それも数瞬だけで、殺気だった盗賊たちは揃って腰につけていた短剣を抜く。しかし、その数瞬はユウトたちが動き出すには十分な時間だった。

 殺気を向けられる前に動き出していたユウトは、既に手前にいる盗賊たちを間合いの中に捉えていた。“強化”により増幅した腕力を奮い、手にした槍を思い切り横に薙ぐ。

 固まってた盗賊たちは、槍の一撃を受け、数人まとめて壁に叩きつけられた。

 少し離れたところでは、ユウトとほとんど同時に飛び出していたロアも、手近な盗賊の腹を槍で貫いていた。

 一瞬のうちに数人がやられたのを見て、盗賊たちの顔に焦りが見える。すると、奥の方にいた盗賊の一人が喚いた。


 「くそっ! 残ってる奴ら全員呼んで来い!」


 ――指示を出したってことは、下っ端じゃないのか?

 頭領かどうかは分からないが、周りに指示が出せるほど信頼されている奴なら、先に排除しておいて損はない。

 数で負けてる以上、相手に統率を取られると個々の実力差を覆されるおそれがある。その危険は出来る限り減らしておきたい。

 ユウトは跳躍し、指示を出した男までの障害物を無くすと、槍を投擲した。槍は男の頭部に向かって飛び、頭を貫いて地面に突き刺さった。

 男の周囲は飛んできた槍に殺された男の様子を見てどよめいたが、すぐに収まった。

 ――駄目、か。

 周囲の動揺が思ったより小さかった。今の男が盗賊たちにとって重要な人物ならもっと動揺は大きかったはずだ。

 着地したユウトに切りかかろうと何人かの盗賊が駆け出した。しかし、ユウトに近づくことは出来なかった。

 近づこうとした盗賊にメイアの放った炎の球が直撃し、身体を焼く痛みに転げまわった。

 一方、ギルツを狙って襲い掛かった数人の盗賊は、大盾で逆に殴り倒されて地面で伸びている。隙を窺おうとしている盗賊もギルツの戦斧が常に振り下ろせる体勢で構えられているため、懐に飛び込めずに距離を取っている。

 距離が取れていれば、メイアの独壇場だ。ギルツを襲うに襲えない盗賊たちはメイアの魔術の的にされ、逃げ惑いながら一人、また一人と倒されていく。

 ギルツを挟んでユウトの反対側に位置するロアは、槍の広い間合いを常に維持し、盗賊たちの間合いの内に入らないように立ち回っていた。正面の盗賊には突きを放ち、回り込もうとする盗賊には槍を薙いで間合いから弾き出す。

 前に出すぎず、深追いもせず、ただただ槍の間合いを支配し続ける。盗賊たちの得物は大半が短剣で、ごく少数が剣だ。ロアが間合いを支配しているかぎり、間合いの狭い盗賊たちは攻めあぐねていた。

 しかし、如何にギルツたちとはいえ、完全に防ぎきれるわけではない。二人や三人ならまだしも五人六人が同時に若しくは続けて襲ってくると、どうしても防ぎきるのは難しい。

 そこをメイアが上手く補っていた。

 ユウトたち三人に守られる形で中央で援護に専念するメイアは、魔術を使って盗賊たちの動きを阻害し、傷を負わせ、数を減らしていた。

 前衛のギルツたちが対処しきれない数で襲われそうになれば、土の棘で足を狙い動きを乱す。前衛組から距離を取れば、氷の刃や炎の球で盗賊の腕を切り飛ばし、体を焼く。

 集まっていた盗賊の約三分の一を戦闘不能にした頃に、奥からボサボサの髪を伸ばした厳つい大男が大剣を手にして現れた。


 「うるせぇぞ、てめぇら! いつまでちんたらやってやがる!」

 「お、お頭っ! 奴ら思ったより手強くて」

 「あぁ? たかだか四人に何やってんだ。男二匹にガキ一匹。ほぉ、女もいるのか……」


 いらついていた大男の顔に、下卑た笑みが浮かんだ。――が、すぐに消え、つまらなそうな表情になった。


 「ちっ、年増かよ」


 喧騒に包まれていたにもかかわらず、何故か大男の声は良く通った。

 ザッと地面をこする音がすると、唐突に喧騒が収まる。メイアが足を踏み出した音だ。

 二歩前に出てギルツの真後ろに立ったメイアは、幽鬼と見まがう様子でふらりと身体を揺らし、異様な気配を周囲に放っていた。

 その強烈な威圧感と恐怖を誘う動きに、敵を前にしたユウトたちですら背中を向けて振り返り、盗賊たちはそんなユウトたちを襲うでもなく棒立ちになっている。

 その場にいる全員の視線がメイアに集まっていた。

 その視線の集まる先では俯いたメイアが立ち尽くしていた。それだけだったが、ユウトたちは動くに動けなかった。


 「ふ、ふふふ……」


 ぞっとするような声が洞穴内に響いた。


 「珍しいわね。人語を操る猿なんて初めて見たわ。でも、理解が及んでいないようね。何て言ったかしら? 年増? きちんと意味は理解しているのかしら?」


 メイアの放つ威圧感に誰もが息を飲み声が出せずにいる中、唯一空気を読めてない男がいた。


 「誰が猿だ。クソババァ」


 ユウトは何かが引き千切れるような音を聞いた気がした。

 メイアが顔を上げる。その顔は穏やかな笑みを湛えていた。――が、その笑顔には感情が全く篭っていなかった。大男を除くメイアを見ていた全員が、一斉に身体を震わせ、その震えを止めることができなかった。


 「あまり躾が行き届いていないようね。ちょっと時間頂戴。……あの野猿を毛の一本残さず灰にするわ」


 言葉の途中からメイアの顔は能面のように感情がなくなっていた。

 ――それもう躾じゃなくて、ただの殺処分じゃん。

 などと思ったが、余計なことを言って矛先が自分に向くのが怖かったので口にはしなかった。

 ――ん? 灰?

 灰にするということは、火を使うということだ。それも人間を灰にするほどの大きな火。そしてユウトたちがいるのは換気の悪い洞穴の奥。

 こんなところで大きな火を使えばどうなるだろうか。そのことに気付いたユウトは顔を真っ青にしてメイアを止めに入る。 


 「ちょ、ちょっと待ったメイアさん。でかい火の魔術はやばいって。俺たちまで死にかねないから!」

 「そう? それなら仕方ないわね」


 ――意外に冷静?

 言葉が届くかどうかわからない不穏な気配を放っていたメイアが、意外にも普通に返事をした。そのことに驚きを覚えつつ、ユウトはホッと胸を撫で下ろした。


 「なら手足を貫いて動けなくしてから、端から小さな火でゆっくり燃やしていきましょう」


 ――全然冷静じゃねぇっ!? いや、俺たちの安全に配慮してるってことは一応冷静なのか……?

 「どうすんだこれ」とロアに視線で問うと、「好きにさせよう」と視線で答えが返ってきた。ロアも今のメイアには触れたくないらしい。

 そんなことをしていたユウトたちに、盗賊の頭領が痺れを切らした。


 「いつまでグダグダやってやがる! てめぇら、ぶっ殺してやれ!」


 大男の号令で盗賊たちが一気に押し寄せてくる。

 しかし、盗賊たちは統率が取れておらず、遮二無二向かってくるだけだ。号令に従ったというよりは、メイアが怖くて恐慌状態になっているため無意識に体が動いただけのようだ。――盗賊たちが総じて泣きそうな顔をしているのが何よりの証拠だ。

 それに合わせてメイアが魔術を発動する。


 「“フリーズ”」


 メイアの魔術で見張りのときと同じように盗賊たちの足元が凍りついた。

 この場にいる数十の盗賊たちの足元に氷が広がり、足を覆った。足を拘束された盗賊たちが氷を砕こうと暴れ、武器を振り下ろすが魔術で生み出された氷はそう簡単には砕けなかった。


 「小猿たちはお願いね」


 メイアの言葉を受けて、足を止められ満足に動けなくなった盗賊たちを、ユウトとロアが襲う。

 恐慌状態の盗賊たちを一方的に襲うのは多少憐れに感じたが、今のメイアを下手に刺激したくなかったため素直に従った。

 元々個々の実力差が大きく、連携も取れず足を拘束されている今、盗賊程度はユウトたちの敵ではない。数分で盗賊の頭領を残して、他の盗賊たちは全滅した。敢えて頭領だけ残したのは、メイアに献上するためだ。

 一人残された大男は顔面を真っ青にして冷や汗をダラダラたらしながら命乞いをしていた。

 大男ににじり寄るメイアの顔は、酷薄な笑みが浮かんでいた。

 ユウトたちは見て見ぬふりを決め込み、周囲を警戒する振りをして、大男とメイアから距離を取っていた。


 「楽で良かったが、いくらなんでも油断しすぎじゃないか、コイツら」とギルツが呆れたように言った。


 盗賊たちは完全に油断しきっていた。まるで襲撃されるなんて微塵も考えていないかのように。盗賊は国から追われる身だ。常に捕まり危険があり、いくら自分たちの根城とはいえ、あそこまで無警戒なのは考えにくい。


 「あぁ……そういえば、最近出るようになったと言ってたな」


 思考をめぐらせていたロアが、得心がいったとばかりに呟いた。

 盗賊たちが襲撃されると微塵も考えていなかったのは事実だ。では、なぜそんな甘い考えに至ったのか。

 通常盗賊が出た場合、領主に陳述し兵が派遣される。有事の際には領民を守るために外敵と戦うのが兵士の勤めであり、盗賊などでは相手にもならない。しかし、兵が派遣されるまでには時間がかかる。すなわち、兵が派遣されるまでの間は盗賊たちにとって安全なのだ。

 ここの盗賊たちは兵が派遣されるまでの時間を利用し、短期間で根城を移りながら強奪を繰り返していた。マドラに現れるようになったのは最近で、今はまだ領主が兵を派遣させる前の安全な期間のはずだった。そのため油断しきっていたのだ。

 しかし、予想外のことが起きた。ユウトたちBランク冒険者のパーティーがマドラに現れ、しかも、イースウェル伯爵が兵を派遣させなかったため、マドラの町長がユウトたちに助けを求めたことだ。その結果、盗賊たちは思いがけない襲撃を受けることになった。


 「だけどよ、昨日襲ってきた奴らは戻ってないんだから普通は警戒しないか?」


 ロアの説明を聞いたギルツが更に疑問を重ねる。


 「それは多分……知らなかったんだろ」

 「は?」


 予想外のロアの答えに、ギルツが間の抜けた声を漏らした。

 ここの盗賊たちは外に出ている者達が襲撃に失敗したことを知らなかった。その理由は二つある。

 一つは、連絡役がいなかったことだ。拠点に残る者と外に出た者の間で連絡を取りあう手段を用意していなかったため、襲撃を失敗したことを知らせる者がいなかった。

 もう一つは、一度外に出ると数日戻らないことが当たり前だったことだ。襲撃するといっても、最初からタイミングを見計らって拠点から出るわけではない。外で待ち伏せて、通りかかった者を襲撃するのが常道だった。いつ通りかかるか分からない以上、数日張り込むのが当たり前で、その間は戻らなくてもなんら不思議はない。

 その間はお互いの状況が分からないため、普通は連絡役を設けて互いの状況を知らせ合うのだが、まだ安全だと思っていた盗賊たちはそれを怠った。


 「……馬鹿なのか」


 ギルツが盗賊の頭領に視線を向けて、容赦の無い言葉を吐いた。――見てはいけないものを見てしまったギルツは慌てて視線を戻し、記憶から消すことにした。


 「そんなんだから盗賊なんぞになったんだろうさ」


 ロアが肩を竦めた。

 メイアと頭領のことは既に三人の頭の中には無かった。時折、野太い男の悲鳴や命乞いをする声がしている気がしなくもないが、聞こえない。

 

 「……ん?」


 野太い声に混じって、他に声のような音が聞こえた気がした。

 ――奥……? まだ生き残りがいるのか、それとも誰か捕まっていたのか。

 気のせいかもしれなかったが、確認しておく必要がある。


 「何か奥にいるみたいだ。様子を見てくるから、ここは任せる」

 「わかった。一応気をつけろよ」


 返事をしたギルツに手を上げて答えると、洞穴の奥に進んだ。

 ――数は一つ。……なんだこの感じ、人じゃない?

 洞穴の外から“探査”で中の魔力を探るのは困難だが、中に入ってしまえばある程度は探ることが出来る。しかし、感じた魔力は今までユウトが感じたことの無い違和感を伴っていた。

 何がいるか分からない以上警戒は必要だ。“探査”で様子を窺いながら、即座に“強化”を使えるように心構えをする。しばらく進むと、広めの空間に出た。

 そこには――


 「……竜?」


 小さな竜がいた。小さいといっても竜だ、ユウトより少し体高が低いくらいの大きさはあったが、ユウトが思い描く竜はそれこそ二階建ての家よりも大きい巨竜であったため、小さいという印象をもった。

 その小竜は二足で立ち、手が小さい恐竜のような体躯をした群青色の竜だった。


 「キュゥ?」


 小竜は「誰?」と言いたそうに首を傾げた。

  

 「あー……」


 どうしようか逡巡しつつ視線を巡らすと、小竜の足に鉄の枷がつけられているのが見えた。

 ――言葉、通じるかな。

 ユウトは竜についてはあまり知らないが、頭が良いという話をカインから聞いたことがあった。


 「お前、ここの奴らに捕まったのか?」

 「キュィ」


 可愛い鳴き声と共に首を縦に揺らした。

 ――分かるみたいだな。

 意思疎通が出来ることにホッとしたユウトは、小竜を解放してやることにした。


 「ちょっと待ってろ」


 小竜に近づき、屈み込んで足枷に触れる。片方の足につけられた足枷は鉄の鎖で鉄球と繋がっていた。

 ――鍵はあの大男が持ってるかな。鍵ごと灰になってない……よな、多分。持って来るより連れて行ったほうが早そうだ。

 先程のメイアの様子を思い出して体が震えたが、気を取り直して立ち上がる。

 白光(ビャッコウ)を抜くと、小竜が怯えたように微かに後ずさり体を強張らせた。


 「鎖を切るだけだから安心しろ」


 笑いかけると、小竜が安心した様子で体の力が抜けた。

 ――本当に言葉が通じてるんだな。

 余計なことを考えながら“強化”を行う。鉄を斬るにはいつも通りの“強化”では足りないかもしれないと思ったユウトは、更に魔力を込める。


 「ハッ!」


 “強化”による白銀の光が白光(ビャッコウ)に反射し、一筋の線を描き出す。

 鉄の鎖が両断されたときには魔力の光は消えていた。

 小竜は鳴き声をあげながらチョロチョロと歩き回ると、ユウトに近寄って頭を擦りつける。


 「よしよし、枷の方もすぐ外してやるからな」


 小竜の頭を撫でながら言い含める。小竜は返事をするように一鳴きして、ユウトから離れた。

 



 小竜を連れてユウトが元の場所に戻ると、存分に報復をおこなったらしくメイアが晴れ晴れとした表情をしていた。――逆に盗賊の頭領はボロボロになっていたが、一応生きていた。


 「お、戻ったか……って、そいつ騎竜か?」

 「ん? あぁ、こいつが騎竜なのか」


 ユウトは騎竜の存在こそ知っていたが、実物を見たことがなかった。

 騎竜とは亜竜の一種だ。この世界において竜と呼ばれるのは火竜、水竜、土竜、風竜の四種のこととされている。それ以外は亜竜と呼ばれて区別されている。以前ユウトたちが戦った蛇竜も亜竜の一種だ。

 騎竜は亜竜の中でも温厚で、基本的に人を襲わない。その上、知性が高く頑丈で足も速いため、一部の高位の騎士などが乗る場合もある。


 「だけど、騎竜の体色は緑色じゃないのか?」


 ユウトはカインから騎竜は緑色だと教えられていた。ユウトが小竜を騎竜だと思わなかったのも、騎竜は緑だという先入観があったからだった。


 「あぁ、普通はそうだ。俺も群青色の騎竜なんて聞いたこと無い。……だから捕まってたんじゃないか? 希少価値があって高く売れそうだし」


 「なるほど」とユウトは納得した。

 竜ほどではないが、騎竜も個体数はそれほど多くない。元々が珍しい上、色違いとなるとさらに希少価値は高いだろう。


 「それは兎も角、こいつの足枷外してやりたいんだけど、そいつ鍵持ってなかった?」

 「持っていたわよ。はい、これ」


 メイアが鍵を投げてよこす。

 鍵を受け取ったユウトは、小竜の枷を解いてやった。喜んで頭を擦りつける小竜の頭を撫でるユウトに、ロアが声をかける。


 「ところで、そいつどうするんだ?」

 「どうって……あ」


 ロアの問いに小さく声をあげる。

 盗賊の類を討伐した場合、その盗賊が持っていた物は討伐者の物となる。

 本当なら元の持ち主に返すべきなのだが、盗賊に盗られた場合は持ち主が殺されていることが多く、またそうでなくても、誰の物かは判別がつかないのが普通だからだ。

 この場合、この小竜は盗賊を討伐したユウトたち四人の共有物となるため、売値を四分割するのが通常の処理になる。仮にユウトが騎竜を欲するのであれば、他の三人が納得する額で買い取ることになる。しかし、色違いの希少な騎竜だ。ユウトの手が出せる額ではない。

 ユウトはしばし考えたが、諦めたように息をついた。


 「俺は、こいつを逃がしてやりたいと思う」


 買い取ること出来ず、三人を納得させる理由もないと判断したユウトは素直に気持ちを告げることにした。


 「だとよ。どうする?」


 ロアが苦笑しながら、メイアとギルツに問う。問われた二人も苦笑を浮かべた。


 「良いんじゃない? 臨時収入としてはもう十分でしょ」

 「俺も良いぜ」

 「だな。そいつを助けてきたのはユウトだし、今回ユウトの尽力は大きかった。他に十分な報酬もある。ってことで、そいつはお前の好きにすると良い」


 ロアがそう言うと、メイアとギルツも微笑みを浮かべながら頷いた。


 「ありがとう」


 ユウトは三人の厚意に対し、素直に頭を下げた。


 「ところで、臨時収入って?」

 「あぁ、こいつら随分貯めこんでたみたいでな。食料、装飾品、道具類に武器防具とよりどりみどりだ」


 ギルツが指をさした方向には大量の荷が置いてあった。

 

 「それからこの大男、おそらく賞金首よ。前に手配書で見たことあるの」

 

 ユウトが奥に行くまでは、今にも殺しそうな雰囲気だったが、わざわざ生かしておいたのはそのためだろう。


 「戻ってからの分配が楽しみだな」


 笑顔のロアに釣られて、三人も笑顔をこぼした。

 大男を縄で縛り、戦利品をまとめてから四人は洞穴の中から出た。ユウトはそこで小竜と別れることにした。


 「ほら、これでお前も自由だ。もう捕まるなよ」


 小竜の頭を優しく撫でる。


 「キュゥ……」


 寂しそうに鳴くと、ユウトに頭を擦りつける。


 「幼いとはいえ、騎竜がこんな簡単に懐くとはなぁ……」 

 「助けられたからかしら?」

 「それにしても……なんか竜に好かれる匂いとか出てるんじゃないか?」


 ロアは感心するように呟き、メイアは首を捻る、ギルツはからかうように笑った。

 竜や亜竜は例外なく気位が高いと言われている。特に知能が高い竜や騎竜はそれが顕著に現れるため、騎竜は自らが認めた人間しか背に乗せないし、竜は人間になびかないと考えられている。それを考えると、仮にも騎竜が短時間でここまで懐くのは珍しいことだった。


 「連れてってはやれないし、お前だって家族や仲間のところに帰りたいだろ?」


 優しく諭すように言うと、小竜はユウトに擦りつけていた頭を上げた。ユウトの目をジッと見つめてから一鳴きすると、走り去っていった。


 「東……あっちに騎竜の生息地でもあるのか?」

 「さぁな、騎竜の生態もそこまで分かってるわけじゃないしな」

 「真っ直ぐあの方向だと、ウェントーリ大山脈よね」

 

 ウェントーリ大山脈はマルクス大陸の東側で南北に連なる大山脈である。ウェントーリ大山脈は竜の支配領域の一つであり、人の踏み入ることのできない秘境といわれ、その実態の殆どは知られていなかった。


 「何はともあれ、マドラに戻ろうぜ」


 ロアは戦利品の山を見て頬を緩ませた。


いつも稚拙な小説を読んで頂き、ありがとうございます。

来週は忙しくて執筆の時間が取れないため、更新を休ませて頂きます。

再来週の月曜か、遅くとも火曜には次話を更新できると思います。


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