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第9話 討伐依頼

予定より一日早いです。

今回から一話が短めになります。

16/6/30 誤字等修正


 ――そういえば、手紙を出さないと。

 ユウトは声に出さずに呟いた。 

 ユウトは村を出る前に、王都についたら手紙を出すとエリスたちと約束していた。

 顎を指でさすりながら、何を書こうかと、思案する。

 ――やっぱり近況を書くべきか。書き出しは……そう、こんな感じだ。


 「拝啓、エリス様。孤児院の皆様は如何お過ごしでしょうか。皆様の元を発ってはや二週間、私は王都に到着致しました。王都は私の想像を遥かに超えたところでした。石造りで頑丈な鍵付きの部屋、なんと見張りの方までいるのです。窓は無く、風は冷たく、臭く、汚く、不味い飯もついてきます。そう、私は今……牢屋の中にいます」


 冷たい風にユウトは体を震わせた。


 「ってなんで捕まってんの俺!? 何もしてないよね!?」


 鉄格子を掴んでガタガタと揺らすが鉄格子はびくともしなかった。


 「うるさいぞ。というか余裕あるなお前」


 近くにいた看守の男が鉄格子の前まで近寄ってきた。ユウトの独り言を聞いていたようで、呆れた顔をしていた。

 生涯で初めて牢屋に放り込まれたユウトは、下手にでることにした。


 「いやいや、ほんと勘弁して下さいよ、旦那。一杯一杯ですって、というか何で俺捕まったんですかね? 何もした覚えないんすけど?」


 牢屋の中にいるユウトに悲壮感は無かったが、それなりに動揺していた。覚えの無い罪で捕まり牢屋に放り込まれたのだから仕方が無い。

 ユウトのおかしな態度を気にした様子も無く、看守が答えた。

 

 「今それを確認中だ。安心しろ、ろくに調べずに打ち首にしたりなんてせんよ」


 ユウトは看守の言葉に胸を撫で下ろした。特に根拠は無かったが、ユウトの中では捕まったら最後、拷問を受けたり、そのまま処刑されそうなイメージだった。

 すぐにどうにかなることは無いだろうと判断したユウトは、何か情報が得られないかと看守に話を振った。


 「捕まるときに、クーデターがどうとか言われた気がするんですが、どういうことか聞いても?」

 「……まぁ、王都の人間なら大抵知っているだろうし、ある程度は構わんだろう」


 そう言うと、看守は一度息をついた。


 「クーデターがあったことくらいは知っているな?」


 看守の問いにユウトが頷く。


 「そのクーデターの主犯格の一人に黒髪の少年がいたんだ。この大陸では黒髪は珍しい。俺も見るのはお前が初めてだしな。それで、同じ時期に黒髪の少年が二人も国内にいるとは考えにくい」


 ヴァルドとフードの男が聖櫃に進入したことは、アルシール王と近衛騎士や一部の側近にしか知らされていない。そもそも聖櫃の存在自体が隠されており、それを知っている者は王家に連なる者やそれに近しい者だけだった。

 その結果、ヴァルドたちもクーデターに加担した主犯格という扱いになっており、実際その通りなので間違ってはいない。

 捕まった大臣も、ヴァルドがエイシスの関係者でエイシス兵を連れて来たことしか言っておらず、それしか知らなかった。

 結局、ヴァルドとフードの男が何者で、何故聖櫃のことを知っていたのかは、分からず仕舞いになっていた。

 そのため、その二人については厳しくマークされていた。


 「で、タイミング良く王都に来た黒髪の俺を捕まえた、と」

 

 ユウトが看守の言葉を引き継いだ。

 あからさまな溜め息をつくと、再び口を開いた。


 「いくらなんでも短絡的すぎません?」

 「まぁな、だからこそ手荒く扱ってはいないだろ?」


 笑いかけた看守を、ユウトが恨みがましい目で睨む。


 「いきなり大勢の兵に囲まれて、身包み剥がされて、臭くて、汚くて、冷たい牢屋に放り込まれるのは手荒くないと?」

 「ま、まぁそう怒るなって。違うんだったらすぐに解放されるさ」


 ユウトの視線に看守がうろたえる。

 元々人の良い男なのだろう。ユウトも看守と話しているうちにすっかり落ち着いていた。

 その後は、看守と他愛ない話を続けることにした。

 王都で美味い飯屋の話や、前にいた面白い罪人の話など、何故か看守と仲良くなっていた。

 そんな話を続けていると、外から兵士が入ってきた。兵士はユウトのところまで来ると、口を開いた。


 「釈放だ。出ろ」


 兵士は睨むようにユウトを見ながら、淡々と告げると、鉄格子の錠を外した。

 釈放だと言っておきながら、まるで罪人を見るような目を向けてくる兵士に苛立ちを覚えた。


 「下っ端の癖に偉そうに」

 

 聞こえるように呟いた。

 今にも切りかかってきそうな目を向けてくる兵士を無視して、鉄格子の中から出た。ユウトは兵士の様子に冷や汗をかいている看守を見て、やってやったぜとばかりに笑いかけた。

 普段なら、いくら苛立ちを覚えたからといって、ここまで無礼な態度はユウトもとらないが、さすがに牢屋に入れられたことについては腹に据えかねていた。

 剣呑な気配を放つ兵士の後をついて牢屋を後にする。そのままついて行くと、机と椅子があるだけの簡素な部屋に着いた。

 中には、白銀の鎧を着た騎士風の男が三人並んで待っていた。


 「この者です」

 「ご苦労、行って良い」


 敬礼する兵士に短く返すと、ユウトに椅子に座るよう手で促した。

 促されたとおり椅子に座ると、その間にユウトを連れて来た兵士が去っていった。

 兵士がいなくなったのを確認すると、真ん中に立っていた金髪の男が机を挟んでユウトの真正面の椅子に座った。

 目の前の騎士はまだ三十にならないくらいの年に見えるが、鍛えられ引き締まった体と理知的な目が、男が優秀な騎士であることを感じさせた。

 ユウトが眼前の騎士を観察していると、その騎士が頭を下げた。


 「すまなかったね。門兵が先走ったようだ」


 ユウトは意表を突かれ、言葉が出なかった。

 ――この人、多分かなり高位の騎士だよな。まさか頭を下げるなんて……

 ユウトが見る限り、この男はかなり高位の騎士だ。そんな男がこんな簡単に頭を下げたことが信じられなかった。


 「偉そうな奴が簡単に頭を下げて驚いたかい?」 


 ユウトの心情を察したのか、頭を上げた騎士がからかうように笑った。

 

 「部下に良く言われるんだ。簡単に頭を下げないでくれ、と。私としては間違いを犯したのだから誠意をもって謝罪し、必要があれば償うのが当然だと思うんだがね。紛いなりにも上に立つ者ならなおさらだ。でなければ下の者に示しがつかない」

 「隊長。上に立つ者が簡単に頭を下げては相手に侮られます」


 金髪の騎士の後ろに立っていた騎士の一人が、口を挟んだ。

 振り向いて口を挟んだ騎士を見た後、ユウトに向き直ると「これだよ」と肩を竦めた。


 「まぁそれは兎も角、少し前にクーデター騒ぎがあってね。黒髪の少年がそれに関与していたため、探していたんだが――」

 「あ、はい。その辺のことは看守の人に聞きました」


 説明を始めようとした騎士を遮ったユウトの言葉に、驚いた顔を浮かべた。


 「……入って数時間のはずだが、随分仲良くなったようだね?」

 「優しい看守さんでしたよ?」


 騎士は目を丸くすると、声を潜めて笑い出した。

 ひとしきり笑うと、分かりやすく咳をして真面目な顔を作った。


 「いや、すまない。面白い子だね、君は」

 「どうも?」


 褒められたのかどうか良く分からなかったユウトは曖昧な返事をした。

 それがまた面白かったのか、騎士の頬が僅かに緩んだ。


 「さて、冒険者ユウト殿。貴殿が事件当時ガロにいたことは調べがついた。誤って牢に入れたことを心より謝罪させて頂く」


 形式的なものなのか本人の趣味か、大仰な言い回しで騎士が頭を下げた。微かに笑っているところを見る限り、後者……しかも悪ふざけの類だろう。

 その後、ユウトは持ち物を返して貰い、解放された。予定が大幅に狂ったが、とりあえずギルドに向かうことにした。

 ギルドの場所は、牢屋の中で看守に聞いておいた。

 酷い目にあったな、と思いながらギルドへ向かって歩いていると、あることが脳裏によぎった。

 ――そういえば、ガロの受付の人が行ってたな。着いたらビックリするって。……確かに。

 一人頷くユウトの耳に、「そういう意味じゃありませんよ!?」という女性職員の声が聞こえた気がした。




 ユウトがギルドに着いた頃には既に日が沈み始めていた。

 この後、宿も探さなければいけないため、今日のところはどんな依頼があるかを見るだけにした。

 クエストボードにある依頼の内容を確認する。

 ――手伝いが多いな。採取関係は殆ど無い。……わざわざ採りに行かなくても入ってくるのか、それとも付近に採れる場所が少ないのか?

 採取が少ない理由を考えたが実際のところは分からない。どちらにせよ、ガロのときのようなやり方は難しいな、と結論付けた。

 明日からどんな依頼を受けようかと考えつつ、とりあえず良さそうな宿の場所を聞いておこうと受付に向かう。


 「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが」

 「はい、どう致しましたか?」


 受付の女性職員が、朗らかに対応する。


 「朝夕食事付きで安い宿を探しているのですが、良いところはありませんか?」

 「それでしたら……あら?」


 ユウトの顔を見ていた女性職員が、目線を少し上をあげたのと同時に、何かに気付いた顔をした。


 「もしかして、冒険者のユウトさんですか?」

 「え? あ、はい、そうですが」


 ユウトが戸惑いを見せた。

 ユウトの顔には、自分のことが知られていることについて疑問を覚えているのが、如実に現れていた。


 「黒髪の方は珍しいですから」


 間髪入れずに職員が答えた。

 ユウトが納得している様子を見た職員が、話を続ける。


 「クーデターの犯人と間違われたとか。大変でしたね」

 「牢にぶち込まれたこと伝わってるんですね……」


 ユウトはやるせない気分になり、肩を落とした。


 「はい、事件当日にユウトさんがガロにいたことを保証したのはギルドですから」

 「あぁ、なるほど。おかげさまで無事に出られました」


 軽く頭を下げると、職員が微笑んだ。


 「これもギルドの役目ですから。それから、ランクアップの許可が下りていますよ」

 「ランクアップ、ですか?」

 「はい。ユウトさんがガロを出る前日に申請があったそうで、許可が下りたので、こちらで処理して欲しいと。ですので、現時点をもってEランクに昇格になります。おめでとうございます」


 職員の話を聞いて、ユウトが納得する。

 ――ガロの受付の人が言っていたのは、これのことか。

 ランクアップは、一定回数依頼をこなすと、ギルドの方で各支部長に申請がされる。そして、支部長が審査した上でその許否が下される。そのため、申請されてから結果が出るまで最低でも数日かかる。ユウトの場合、丁度その間にガロを出てしまったため、審査自体はガロの支部長が行ったが、結果の通達と処理は王都で行うことになった。


 「ありがとうございます。これで討伐依頼を受けられます」


 ユウトが笑顔で答える。それに反して職員の顔が微かに曇る。


 「討伐依頼、ですか。余計なお世話かもしれませんが、気を付けて下さい。Eランクに上がりたての冒険者が、初めての討伐依頼で亡くなるケースは結構多いですから……」


 冒険者になる者の多くは若者だ。大抵が成人と同時に冒険者となる。

 そしてEランクに上がると、その多くがすぐに討伐依頼を受けようとする。冒険者になる若者のほとんどは血の気が多く、自信家だ。それ故に根本的な事実を忘れてしまう。――魔物は人よりも強い、ということを。

 生物として、魔物は人間よりも遥かに優れた肉体を持つ。勿論、Aランクの冒険者がEランクの魔物に負けることなど無い。しかし、それは単に身体能力が上回っているというわけではなく、体を鍛え、技を身につけ、経験を積み、武器を用い、魔術を用いることで、本来の身体能力の差を覆しているだけだ。

 だからこそ、それでも覆せない相手には、数を集めることで対抗するのだ。

 しかし、それを忘れた若い冒険者たちが、油断したまま魔物と戦い殺されるというケースは少なくなかった。


 「ご忠告感謝します。その辺りは弁えています」


 ユウトはすでに魔物と戦ったことがある。しかも、一度は恐怖に負けて戦うことすら出来ずに死にかけた。魔物が恐ろしいものだということは身に染みて分かっている。


 「そうですか。……本当に余計なお世話だったみたいですね」


 ユウトの言葉が口だけではないことは、その真剣な目を見た職員にも良く分かった。


 「……討伐依頼に関しましては、特殊な点がありますので、説明させて頂きます」


 通常ギルドの依頼は、先に依頼の受諾を行なってから、依頼の達成に向かうことになっている。

 しかし、EランクとDランクの討伐依頼は、依頼の受諾を必要としない。勝手に魔物を狩りに行って、戻ってきてから報告を行なうだけで良い。EランクやDランクの魔物は数が多く、人のいる場所や、人の通る場所にも比較的頻繁に出現する。そのため、常に討伐の必要があり、討伐依頼も常に出ている。そうすると、これを一件一件処理していては手間がかかりすぎるためだ。

 説明を終えると、職員は、柔らかな笑みを浮かべた。


 「では、ギルドカードを交換いたしますので、カードを出して下さい」


 ユウトは懐からギルドカードを取り出し、職員に手渡した。

 受け取った職員は、カードに記載された名前が間違い出ないか確かめると、別のカードを取り出した。


 「こちらが新しいEランク用のギルドカードになります。今後も頑張って下さい」


 カードを差し出しながら、職員がニッコリと笑う。

 ユウトが受け取ったカードは、Fの文字がEに変わっており、申し訳程度に描かれているだけだった装飾の絵柄が若干豪華になっていた。

 ユウトは改めて宿屋の場所を聞くと、礼を告げてからギルドを後にした。

 教えて貰った宿屋は、ガロで泊まっていた宿屋と同じくらいの質だったが、値段は少し高く銅七十だった。

 旅の疲れと、牢屋に放り込まれた精神的な疲れが相俟って、ユウトは宿のベッドに横になると、すぐに眠ってしまった。




 翌日、ユウトは朝早くにギルドへ行った。

 昨日はFランクの依頼しか確認していなかったが、Eランクにあがったため、改めてEランクの依頼を確認して受ける依頼を決めるためだ。

 ――Fランクの依頼はとりあえずいいとして、Eランクの討伐依頼は……小型の魔物、しかも危険性が低い奴が対象みたいだな。

 ユウトが依頼の内容を確認する。

 Eランクの魔物は、依頼に慣れてきた冒険者が相手にする魔物のため、その対象は小型で危険性の低い魔物になっている。それでも報酬はFランクに比べると倍近い。加えて、討伐の場合、魔物によっては部位が素材として売れるため、さらに増える。

 ――ホーンラビット、クロウモール、ニードルバード、スラッシュバグ……か。どれがいいかな。

 貼られた依頼書を見ながら、考え込む。

 載っている魔物は、カインから特徴などを教わった魔物で、どれもさしたる脅威は感じない相手だ。ユウトが以前倒したジャイアントスパイダーはDランクの魔物で、当然Eランクの魔物よりも強い。さすがに数十匹と群れを成してでもいたらEランクの魔物とて脅威だが、そもそも群れで行動する魔物は、それに見合ったランクになっている。

 魔物のランクを決めるのは、個体の強さだけでなく、群れを成すか否か、毒などの厄介な特性をもっていないかなど、総合的な脅威度によって決定される。ソルジャーウルフが良い例で、個々の強さはEランク程度だが、十体くらいの群れで行動するため、Dランクとされている。

 ユウトにとってはどの魔物を選んでも大差ないが、問題は生息地とその個体数だった。元々、魔物は平原に比べれば山や森に多く、また人が多いところには近寄らないため、特に王都周辺は魔物が少ない。

 ホーンラビットとニードルバードは、王都周辺の平原に生息しているが、全体的に数が少ない。王都のすぐ近くなため、狙う冒険者が多く、頻繁に狩られることも影響していた。

 スラッシュバグは王都の北にある森に生息しており、数はそれなりだ。クロウモールは王都の西にある鉱山で、数が多い。

 行き先を近場に定めて、一回の成果を減らして回数で稼ぐか、遠方に定めて、一回の成果で一気に稼ぐかは、どちらも一長一短だ。

 依頼書を見たまま唸っているユウトの後ろから声がかけられる。


 「迷ってんなら、クロウモールを勧めるぞ」

 「ん?」


 聞き覚えのある声に振り向くと、爽やかな笑みを浮かべたギルツが立っていた。


 「無事に出て来れたみたいだな」

 「おかげさまで」

 「おかげさまでって何もしてないぜ?」


 おどけたギルツに、ユウトが責めるような視線を向ける。


 「そうだな。俺が捕まるのを何もせず見てたな」

 「嫌味かい。っていうか無茶言うなよ。国に喧嘩売れってのか。……まぁ良いけど」


 相変わらず遠慮の無いユウトの態度に苦笑する。

 ギルツは、普段の人当たりが良く言葉遣いが丁寧な態度よりも、遠慮がなく多少言葉遣いが荒い今の態度のほうが気に入っていた。……気に入っていた、というよりは、その方がしっくりくる、といった方が適切かもしれない。――自分たちの距離感はこうだった(・・・・・)、と。


 「ところでアベルさんとタロスさんは?」

 「二人なら次の依頼があるからって、昨日の内に王都を出たぜ」

 「そっか」


 ――ちゃんと挨拶が出来なかったのは残念だけど、仕方が無い。

 色々と面倒を見てくれた二人がいないと分かり、肩を落とす。


 「心配してたぜ?」

 「お前とは違って、か?」

 「俺も心配してたっての」

 「で、なんでクロウモールなんだ?」


 不満気な顔をしたギルツを無視して、話を元に戻した。ギルツも慣れたもので気にした様子もなかった。


 「お前、山道とか狭い坑道の中で戦ったことないだろ? 足場が悪かったり、動きにくかったりと、普段どおりに動けないことが多い。そういう経験は今の内にしておいた方が良いんじゃないかと思ってな。」

 「なるほど……」


 そういう観点からの決め方もあるのか、と感心した。

 ユウトはギルツに対して遠慮がないが、ギルツの実力や冒険者としての経験の多さには一目も二目も置いている。ギルツの助言に従い、クロウモールの討伐依頼を受けることにした。


 「そっちは何を受けるんだ?」

 「俺は少し遠出だな。北東にある小さな村の近くにメガクロウラー、って魔物が出たらしくてな、それの討伐」

 「メガクロウラーって、堅い甲殻を纏った芋虫みたいな形状の大型の魔物だよな? 一人でやるのか?」


 メガクロウラーはCランクの魔物だ。同ランクの冒険者が一人で相手をするには荷が重い。Cランクの魔物は、基本的に体が大きく、攻撃力が高くタフだ。そのため、同タンクの冒険者が数人がかりで相手をするのが普通だった。


 「よく知ってるな。一人じゃねぇよ、現地で他に二人と組む予定だ」

 「知り合いと?」

 「いや、知らない奴」


 ギルツの答えを聞いて、ユウトが微かに気まずげな表情を見せた。


 「こう言っちゃなんだが、信頼できるのか?」

 「……素直なくせにそういうところはしっかりしてるよな、お前」


 冒険者の中には質の悪い輩がいる。難癖をつけた、何もしなかったり、最悪隙をつかれて金品を奪われたり、殺された例もなくはない。勿論、強盗や殺人は罪になるため、そんなことをすればお尋ね者になるが、そのまま盗賊に身を落として、賞金首になったりする者もいた。

 微かに呆れたような表情を浮かべたギルツは、少し考えてから慎重に言葉を選んだ。


 「……ある程度は、な。Cランク以上は単独で魔物に当たるには危険過ぎる。どいつもそれは分かってるから、命のかかったところで馬鹿なことはしない。それに、それなりの経験はあるからな、高度な連携は無理だが、あわせるくらいはやってのける。とはいえ、まったく問題が無いとも言えん。だから、気心の知れた奴と固定で組むのが一番だ」


 ギルツはユウトよりも長く冒険者をやっている。その間に多くの経験をした、その中には当然苦い経験もあった。

 しかし、ギルツとしては、あまり先入観を持たせるようなことは言いたくなかった。確かに信用できない奴もいるが、大抵の冒険者は癖はあっても悪人ではない。いずれランクを上げたユウトが、他の冒険者と組むのを敬遠するようにはなって欲しくなかった。

 ユウトはギルツの言葉に納得したようで、特に悪い印象を持った様子はなかった。

 

 「というわけで、はやくCランクくらいになってくれよな?」

 「どういうわけだ」


 豪快な笑みを浮かべるギルツにユウトが冷たく返す。


 「さてなー。んじゃ、またな」


 ギルツはとぼけた様子で笑いながら、ギルドを出て行った。

 ユウトはギルドを出てから、王都の中にある古着屋によって安い服を買って着替えた。着ていた服は布で包んで荷物の中に入れておいた。

 その後、ユウトはクロウモールのいる鉱山に向かった。


今後、更新のタイミングがまちまちになりますが、週2~3回の更新になります。



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