第6話 システムへの違和感
【Location:吹き溜まりのボトムス 19:34】
街の裏側はまさに戦場だった。
爆発によって壊された外壁付近では、三人の男達が街の住人達と激しい銃撃戦を繰り広げていた。
ユーゴーは強烈な違和感に焦りを隠せなかった。
何故なら、その三人はゲームのプレイヤーだったからだ。頭の上にプレイヤー名が表示されている。
街は基本的に【プレイヤー本人にしか】干渉できない。
確かに、このゲームは街のNPCを殺すことも、現状のように外壁を破壊することも出来る。
だがそれはシステム上、ユーゴーの世界ではユーゴーにしか出来ない筈なのだ。
普通は、他のプレイヤーが外壁を壊した結果は、ユーゴーの世界には反映されない。そうじゃないと、イベントに必要なキャラや店のキャラが街に来た時には死んでいて、何も出来ないという状況が出来上がってしまう。
そうしたらもうクリアは不可能なのだ。
だからこその強烈な違和感なのである。
「こいつら知能あるなー」
「なんか面倒じゃね?」
「雑魚のくせに隠れ続けてんじゃねえよ!」
プレイヤー達は崩れた壁の淵からたまに身を乗り出しては、街の中へと発砲を繰り返す。
「おい、ちょっといいか」
「なんだよ、今いいとこなんだ」
ユーゴーが話しかけたプレイヤーは、振り向いている暇はないとばかりに銃撃を繰り返していた。
「俺の世界にまでこの戦闘が反映されてるんだが」
「ああ、すげえよな。仲間が外壁ぶっ壊したんだけどさ、俺の世界でもぶっ壊れたもん」
「街の様子も反映されると思うか?」
「そりゃそうだろ。よく分からねえけど、ここは多分テストエリアなんだろうな。だって公式サイトで告知もされていない。だからここはシステムの実装が未完なんだろう、【全員同じ世界】なんだ。つまり早い者勝ちってことだ、はは」
緊張感のない台詞と共に、ユーゴーが話しかけていたプレイヤーがロケットランチャーを街の中へと放つ。
轟音と共に悲鳴が聞こえてきた。
街の住人とプレイヤーのこの温度差は、ゲームだから仕方ない。
プレイヤーはこの世界で誰が死のうと、悲しむことはないのだ。
たとえそれが自分であっても。
ユーゴーは彼らの背後でそっと銃を抜き戦闘体勢に入ると、直近の二人に向けてヘッドショットを連続で決めた。【レムリア・クイーン】のクリティカル倍率補正のおかげで、二人とも一撃で死んだ。
そして光の塵となって消滅する。
これがGIOでのプレイヤーの死だ。
死んだ後は、その場所に死んだ時のシルエットが三十秒間残る。大抵は倒れて死ぬので、殺人現場の保存のように見える。なんともいやらしい作りだとは思うが、ユーゴーはもう慣れてしまった。
ちなみにこのシルエットに触れれば、死んだ相手のアイテムを、装備品を除き一つ奪える。
「お前! なんてことしやがる!」
反対側の壁にへばりついていた残る一人が、銃口をこちらに向け――驚く。
「【流浪の支配者】ユーゴー!?」
「光栄に思え、俺に出会えた事」
男が引き金を引こうとした時には、すでにその脳天には風穴が開いていた。
容赦などしない。
街を襲っていたプレイヤー達は、ユーゴーに一撃も浴びせることなく全員沈んだ。
「全員同じ世界、か。ならお前らに好き勝手はさせない」
リロードして、懐に銃を戻す。
「な……何なんですの、あの人達……。身体が、消え……」
遅れてやってきたマリエッタが、状況を見て絶句する。
「俺達プレイヤーはそういうもんだろ。危ないから顔出すなよ」
自分の後ろに来るよう指示して、街の住人の戦闘体勢の解除を待つ。
尚も不可解な状況に不安を表すマリエッタだったが、戦闘の忌避への感覚が勝ったようだった。
「この街はもういいですわ! 危険だから先に行きますわよ!」
「いいや、夜に荒野を歩くのは危険だ」
というのは方便で、ユーゴーとしては買い物やイベントを楽しみたいだけなのだが。
しかし――街からの銃撃が止まない。
「おかしいな」
普通は敵として認識されたプレイヤー達が死んだら、それが見えていようといまいと、攻撃はすぐ止むはずなのだ。
ゲームのシステム上、NPCや敵キャラは【敵として認識した者が死んだ瞬間、戦闘体勢を解除】するようになっている。
つまり黒煙で視界が遮られていようと、プレイヤーが死んだのだから攻撃は止まなければおかしい。
ユーゴーはまだ街の住人に気づかれていない。壁から顔すら出していないのだから。
「本当に不思議なエリアだな……」
とは言え、今がチャンスなのも事実である。
この黒煙は街に侵入するのに丁度いい。
ユーゴーはマリエッタの手を引いて、当て推量な銃撃をかいくぐり街の内部へと入ると、壁伝いにすぐ曲がって街へと潜り込んだのだった。