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第3話 アイテム名 『黄金の苗』

 呆気に取られるユーゴーを前に、マリエッタは脱兎の如く逃げ――られなかった。

 身体を翻した彼女は、石に躓いて地べたに豪快に顔から転倒したのだ。

 そりゃもう、べちゃっと。


「痛い、ですわ……」


 涙声で地面にうずくまるマリエッタのもとへ、銃を収めてユーゴーは近づく。

 斬新すぎる敵キャラだったからだ。

 撃ち殺すのがもったいないというか。


「細かく作りこまれてるな。赤か。背伸びしやがって」


「ななな何するんですの! 変態っ!」


 ドレスの裾をめくって下着の色を確認したユーゴーに、マリエッタが足をばたつかせて暴れる。

 ダメージ1、と表示された。

 マリエッタは上体を起こし、武器も放ってドレスの裾を両手できゅっと押さえつけた。

 そして涙をうっすら浮かべながら、恨みがましい目でこちらを見てくる。


「普通こういう時は淑女に手を差し伸べるのが紳士ってものでしてよ!?」


「自爆して無様に地べたに這いつくばるような奴を淑女とは言わない」


「う……」

「お前本当に最強の賞金稼ぎか?」


「うるさいうるさい! そんなこと私一言も言ってないですわ!」


「いやさっき言っ」

「予定を述べましたの! 何か文句あって!?」


 最強の賞金稼ぎ――になる予定。

 そんなドジ踏むようじゃ、いつになってもなれない、とユーゴーは思った。

 どちらかと言えば硬派なゲームのGIOで、随分とコミカルなキャラクターを運営側も用意したものである。


「しょうがねえ。見逃してやるよ」


「見逃す!? 情けかけられるほど私は落ちぶれちゃいませんわ――ひゃうっ!」


 怒って立ち上がった瞬間に、今度はドレスの裾を踏んづけて転ぶマリエッタ。


「ほら、傷薬やるから……おうちへお帰り?」


「……たい……さない……」

「あ?」


「絶対許さない、ですわ! 破廉恥なことして小馬鹿にして情けかけて! こんな屈辱は初めてですわっ!!」


「じゃあ戦るか――?」


 ユーゴーはもう一度懐に手を入れて、マリエッタに脅しをかける。

 これ以上聞き分けのないNPCなら、面倒だから殺すつもりだった。


「こ、今度会ったら絶対ぶっ殺してさしあげますわ! それまで待ってなさいですわーーーー!」


 恐怖を感じたのだろう、立ち上がるや否や、ものすごい勢いで逃げていくマリエッタ。

 そして豆粒ほどに小さくなったところでこちらに振り返り、


「ばーかばーか!」


 と言って再びダッシュで逃げていった。


「何なんだ、あいつは……」


 ユーゴーは一人ぼやいて、マリエッタの消えた方向を見つめる。

 きっと顔見せイベントだろう。RPGではよくあることである。

 気を取り直して――手前に視線を戻すと、マリエッタが立っていた場所に白い袋が落ちていた。拾い上げてみると、どうやらアイテムのようだった。


 GIOは石ころでも草でも、民家の小物でも何でも拾えるが、アイテムとして有用でないものは名前が出ない。つまりデータとしてアイテム袋に収納ができないのだ。それらは手に持って投げたりすることは出来るが、それだけだ。

 そしてアイテムか否かを見分けるには、拾ってみるしかない。もっとも名前のあるNPCが落としていったものだ、名前が出ないわけがないのだが。


 アイテム名【黄金の苗】。


 GIOでは基本的に樹木はほとんど存在しない。

 そもそも、ゲームのメインの目的が緑の楽園を探すことである。

 だから植物の種や苗は、重要アイテムである。

 マリエッタは、どうやらこのエリアのメインクエストに関わる重要人物のようだった。

 ちなみに苗は黄金に輝いているわけではない。植物が希少ゆえに名づけられたものだろう。


「なるほどね」


 ユーゴーは不敵に笑った。

 きっと最初の街でマリエッタと再会するのだろう。

 今までにない面白いNPCとの冒険が楽しみでならなかった。

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