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第38話 VS同盟連合③ オズワルドの執着

 意識を取り戻し、マリエッタは瞼をこすりながら目を開けた。


 幾重にも重なる錆びた鉄骨と、その隙間から覗く空に、自分が鉄塔のどこかにいるのだと理解する。背中に感じる鉄の感触。寝そべるだけのスペースがあることからも、櫓にいるのだろう。


「おはよう、マリー」


「ユーゴー!」


 ばっと上体を起こすと、そこにいたのは見知った黒マントの少年ではなかった。

 優男の風貌に赤い瞳、銀色のラバースーツ。


「オズ、ワルドさん……」


「わあ、僕の名前知っててくれたんだね! 光栄だなあ」


 オズワルドは見た目よりもずっと若い、幼子のような無邪気な笑顔を作りながらマリエッタの手を握った。だが力はもちろん幼子なんかではなく、反射的に手を引っ込めようとしたマリエッタをがっちり押さえて離さない。


「い、痛いですわ……っ」


「ごめんごめん、やっと君に会えたから嬉しくて」


「私をどうする気ですの」


「ヤだなあ、そんな怯えないでよ。僕はただ君と一緒に冒険の旅に出たいだけだよ。実はね――」


 口元に片手を添え、オズワルドが耳元で囁いてくる。

「黄金の苗持ってるの、僕なんだ」



 その言葉に、マリエッタの顔が跳ね上がった。

「返して下さいまし!」



「返すよ。でもそれは、僕と一緒に旅に出てからだ。今みんな下で戦ってる。馬鹿みたいだよね、目的忘れてバトルし合ってるなんて。さあ、僕達は今のうちにここを出て、黄金の苗を植えに行こう」


「どういうことですの……。あなたとユーゴーは敵同士なんじゃないんですの? 私を手伝って下さるのでしたら、みんな一緒でいいじゃないですの」

 マリエッタが問いかけると、オズワルドは顔を歪めながら地上を睨んだ。


「あんな奴と誰が一緒に……っ!」

 まるで唾棄すべきもの、とばかりの怨念のこもった言葉だった。


「そんなに嫌いなんですの……?」


「大っきらいだね」



 いきなり抱きすくめられ、マリエッタの全身は総毛立った。



「どうせエンディングは一人しか迎えられない。だから僕と行こうマリー。近づく奴はぜんぶぜんぶ殺してあげる」


 硬直しかけた腕を必死に動かしオズワルドを押し戻そうとするが、彼はそれ以上の力でマリエッタを征服してくる。


「やめて……!」


「一目惚れだったんだ」


「私は、彼と……」


 マリエッタは目をつぶり、地上で戦っているはずの少年を思い浮かべた。

 自分は関係ないのに、巻き込んでしまったと手伝ってくれる彼。

 ドジな自分を毎回支えてくれる彼。

 弱気な自分が飛び出そうになると、力強い言葉で震えを止めてくれる彼。

 たった数日なのに、もう彼のいない旅なんて考えられない。

 だから、自分が一緒にいるのは、ユーゴーでなくては駄目なのだ。


「ユーゴーと、旅をするのですわ……っ!」


 精一杯の力を振り絞って、オズワルドを押し返す。

 べちゃっと尻餅をつくオズワルドは、信じられないといった表情でマリエッタを見ていた。


「どうしてだよ……あいつよりも僕の方が索敵能力は優れているし、どんな奴にも容赦しない。君を守るためなら引き金はいくらでも軽くなるんだよ?」


「ユーゴーは異世界の人の中で、唯一人このグリーンアイルのために苦悩してくれたんですわ。そんな彼の言葉には力があるんですの。立ち止まりそうな私の背をそっと押してくれる、温かい力が」


 ユーゴーがきっとこちらに向かってきてくれている。だから自分は目の前の赤い瞳に飲まれずに意思を貫ける。


「私は、ユーゴーじゃなければ駄目なんですの」


「そうか、じゃあユーゴーを殺したらオッケーなんだね!」

 オズワルドが瞳を輝かせながら、名案とばかりに手を合わせた。


「そ、そうじゃないですわ!」


「オッケーなんだよ!」


 突然の平手打ちに、マリエッタはよろけて鉄骨に後頭部を強打した。

 そして倒れこんだところを、無理矢理顎を掴んで上を向かされる。



「世界を僕と君だけにしてやろうか? 嫌でも僕を好きになるよ?」



 彼の笑顔に、マリエッタは言い知れぬ恐怖を覚えた。


「オズワルドっ! マリーから離れろ!」

 力強い声が、隣の鉄塔の櫓から届いた。


「ユーゴー待ってたよっ!」


 マリエッタを乱暴に突き飛ばし、振り向きながらオズワルドが何もなかった手に狙撃銃を具現化する。

 距離はまだ、狙撃銃が優位。

 二人の間にあるのは道とは言い難い、折れ曲がって向こうの鉄塔に斜めに伸びる細い鉄骨のみ。


 それでもユーゴーは、退こうとはしなかった。

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