第12話 廃教会戦
外の敵を無視して教会内に飛び込むと、ショットガンとナイフで武装した二人の男が目に飛び込んできた。一人はマリエッタを床に組み敷いている。
「おい、早く黄金の苗を探せ!」
「その護衛を殺せば問題ねえ」
二人の男はマリエッタの黄金の苗が目的のようだった。
頭の上にプレイヤー名が表示されていないのでNPC――いや、この世界の住人のようだ。
「悪党相手だと燃えるな」
残った一人が容赦なく発砲してくるのを予想していたユーゴーは、まっすぐ伸びる通路ではなく、脇に並ぶ長椅子の背を足場にして跳躍した。
立ち止まったらマリエッタを人質に、武装解除を要求してくるだろう。そしてそのまま殺されるのがオチだ。
もっともそれこそがイベントなのかもしれないが。
予想外のルートだったのだろう、男の散弾は一粒たりとてユーゴーには当たらない。
背もたれから背もたれへ、薄氷を軽やかに渡るが如く駆け抜け、ユーゴーは敵に肉薄する。
そして相手の利き腕に狙いを定め、引き金を絞る。
その瞬間にスキル名を発し、条件が揃ったユーゴーの右手はたった一度の発砲動作にもかかわらず込められた全弾を発射した。
正直、まだクランの話は信じられない。
だって、このように現実にはあり得ない動作を見せるスキル【全弾発射】などもちゃんと使えるのだ。
六発のうち四発を右腕に食らった男が、ショットガンを落として床をのた打ち回る。
「おいこの女がどうなっても――」
「よくねえに決まってんだろ」
マリエッタを拘束していた男が彼女の首にナイフを押し当てた時には、ユーゴーは男の目前にまで迫っていた。
一瞬でリロードを終え、最後の跳躍と共に右肩を撃ち抜き、勢いのままに回し蹴りを男の顎に決めて着地する。
男は説教壇にまで吹っ飛び、後頭部を強く打ち付けてうめいた。
「大丈夫か、マリエッタ」
手を差し伸べると、目の端に涙を溜めたマリエッタは無言で小さく頷いて、ユーゴーの手を取った。銃を抜く暇もなかったようだ。
「悪い、一人にして」
「死んで、たまるもんですか」
短い呼吸と共に涙を拭くマリエッタの姿に、ユーゴーは胸を締め付けられる。
迫真、と言えばいいのか。
まるで本当に死ぬところで、そこから危機一髪生還したかのような。
ここまでの表情を見せるNPCを、ユーゴーはGIOで見たことがない。
人間。それも自分よりも遥かに表情豊かな。
RPGとして見るなら、この街に寄るのは次のイベントの指針のためにも絶対必要なことであった。
しかしそれが揺らぐ。
果たして本当にこの街に立ち寄る必要があったのか。
これがゲームではなく現実なのだとしたら、自分はいたずらにマリエッタを危険に晒しているだけではないのか――と。
夜が明けたら街を出よう、マリエッタを見つめながらそう思った時だった。
ガォン、という激しい銃声がして、鈍い衝撃と共にユーゴーの視界が赤いフラッシュに包まれた。
右上に表示されている緑色のHPゲージが376という表示と共に四割弱減るのを、目の端で確認しながら振り返る。
最初に右腕を打ち抜いた男が、ショットガンを拾って倒れたままユーゴーの背中めがけて発砲したのだ。
「ユーゴー!」
「くそっ」
もう一度銃を抜いて、今度は男の左腕を撃ち抜く。
絶叫を響かせ、男は再び床を転がった。
完全に油断していた。なんせGIOでは【完全に倒れた状態から攻撃する】なんてモーションはNPCには存在しないのだ。倒れたら気絶あるいは死亡であって、もう自分では動けない。
やはり、本当の人間なのだろうか。
疑問が確信に傾いていく。
しかし、戦闘体勢を解いていたのと背中を向けていたという状態が合わさって、最高レベルだというのに結構なHPを削られてしまった。このエリアの武器が強いのかもしれないが――これでヘッドショットを決められていたら半分以上HPを奪われていただろう。
「大丈夫ですの!?」
「心配ない。痛くなんかないしな」
答えながら腰の小さな袋から傷薬を取り出す。
実際には袋に手を入れる動作に加え、袋の中で指を動かし、視界に表示されたアイテム欄から傷薬を選択している。そうやってさも傷薬を袋から取り出したように見せているのだ。
二回使用して、HPゲージを最大の999に戻す。
「マントに穴、開いちまった」
防具には耐久度という数値がある。これが一定値を下回ると防具は破壊されてなくなる。
修理は出来るが、このエリアで修理できる場所をユーゴーは知らない。まあまだ耐久度は心配するほどではないが。
「おいお前、殺されたくなかったら外にいる奴に撤退を指示して帰れ」
説教壇の方に転がったナイフ男の襟首を掴み上げ、脅す。
敵は外にまだ最低一人いる。マリエッタを守りつつ戦闘を続けるのは避けたかった。
「知らねえよぉ、俺達は二人で来たんだ……」
「嘘をつくな。外で俺を撃った奴がいる」
「本当に知らないんだよぉ、頼む殺さないでくれ……!」
縮こまりながら命乞いする男。
表情から見るに本当に知らないようだ。
「じゃあ外の奴は――」
ユーゴーが教会の扉を振り向いた瞬間。
入れ違うように鋭利な風が頬を掠め、耳にパシャッという音が届いた。
教会の入り口に佇むシルエットが、哂う。
嫌な予感がして、襟首を掴んでいた男を見る。
男の頭は、上顎から上がきれいさっぱり吹き飛んでいた。




