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ライフレート  作者: 岡本
第二章 おのぼりさん
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08話 『旅の終わりと風の悪魔』

バルゼア大森林に朝が来る。

薄い霧の中、ツキヨが自身の(ボード)で組んだ小屋の上に座って見張りをしていた。

透明な小屋の中には先程まで見張りをしていたリューコメラスと、プロセラが眠っている。

なお回収され、無駄に無罪放免が確定したスカブルムは、念のため別の小屋というか箱に隔離されている。

ただし、見張りを任せられなかったため睡眠時間は四人の中で堂々のナンバーワンだ。

代償に、リューコメラスとプロセラから鉄拳をそれぞれもらってはいるが。


「そろそろ、みんな起こそうかな」


「その役目私が貰った!」


「え誰?!」


 いきなり、ツキヨの横からやたらと陽気な高い声!


「いやっはー!朝だ起きろ!!放電(ディスチャージ)!!!」


「ちょっとあなたって、うわっ?!」


 いきなり周囲に電撃が撒き散らされた。

意思があるかのように器用に曲がり、小屋の入り口と箱の空気穴を通って進む電撃。

とっさに飛び下がり、防御用の(ボード)を展開したツキヨ以外の三人に直撃!

朝の森に聞くに堪えない男の絶叫が響き渡る!


「うわああ何、何?!ツキヨ大丈夫か?!」


「痛え?!んじゃこりゃ雷?!はああ?」


「アアッガッバババッ」


 プロセラが暴れ、リューコメラスが無茶苦茶に土の壁を展開し、それら両方を喰らったスカブルムが箱ごと吹き飛ぶ!

大惨事だ。全員が落ち着いたときには辺りの木はなぎ倒され、荷物が散乱し、スカブルムは意識を失っていた。


「……で、なんでてめえが居て、しかも実体化して、俺達を電撃で起こしてんだ、風精霊」


「さすがの僕も説明を要求するよ……」


 老けたのでは?というほどしょぼくれたプロセラとリューコメラスが、怪訝な目を向けて口を開く。

スカブルムは目を回したまま。ツキヨはどうすればいいかわからずに、とりあえずプロセラの横に座っている。


「私はフェルジーネ、風草精霊フェルジーネだよ!よろしくね!」


「名前でもよろしくでもねえ!何で居るのか説明しやがれ!」


 フェルジーネがさらさらと自身の緑髪をいじりながら考え込む。

そして、髪と同じく緑色のワンピースの裾をつまみ、丁寧なお辞儀をすると、ややハイテンションに喋り始めた。


「あー……うん、ええと、ちょっと長くなるけど我慢しろ?

私は昔、うすっぺらい空気の体じゃなく実体で世界を見て回るのが夢だったのさ!

今は趣味かな。

んで、私とグレビーは契約、より正確に言うなら私がグレビーに憑依してから、まあ色々好き放題して気ままに暮らしてたの。

でも、一つだけ大事な約束をしてたのよ。

もし、グレビーが老いる前に死ぬか、殺されることがあったならっていう条件で。

その時は、私がグレビーの魔力を丸ごと食べてくれって言われてた。

食べてっていうとあれだけど。

つまり死ぬとき霧散するものを魂以外全て呑むのね、漠然と技術とか好みとか、魔力容量とかを受け継ぐのさ。

簡単に言ってるけどね。日常的に共鳴して、互いによく知ってないとできないことなんだ、すごいっしょ私。

昨日消え始めるまでずっとグレビーの横に居たのは、そういうことなのさ。

一滴も洩らさないように、頑張って食ってた。

で、そのパワーアップした魔力で、グレビーがちょっと気に入った、まあ仇っちゃ仇かもだけど、あんた。

……えーと、リューコメラスと強引に契約、取り憑いたのさ!

都合よく風魔法適性も持ってたし、ラッキーね私。

あの時すぐに出てこなかったのはね、うまいこと貼り付いたはいいけど、予想より魔法防御が高くて困ってたわけ。

仮のじゃない、きっちりした魔力リンクを作成するのにレジストされまくってね。

ようやくさっき突破してさ、正式契約完成したの!

だから自在に実体化できる。わかった?今後ともよろしく!

リューコメラスって吸血鬼だからさ、ヒトよりめっちゃ長生きだよね。

いっぱいいろんなとこ行けるね!はっはー!

でも、私が楽しいだけじゃなくてリューコメラスにもきっと役に立つよ。

さっきも言ったけど、私はグレビーの能力丸ごと受け継いでるからね、普通より何倍も強いのさ。

剣の達人だし、宿主の魔力使わなくても電撃出せるし、片道なら道具無しで通信飛ばせる!

あ、もちろん契約の効果自体は普通と同じだから安心してよ。

例えばリューコメラスの風魔法もちゃんと強くなってる。

具体的には地と同じか、それ以上いけるはずよね」


 胸を張ってとんでもないことを言い出すフェルジーネ。

なお、プロセラとツキヨは自分に関係ないのが確定したため適当に相槌を打って流している。

そして、何とも言えない悲喜交々混ざり合った表情のリューコメラス。


「ほう、ほう、そうか、ってふざけんじゃねえ!なに俺の体勝手にいじりやがってくれてんだ!

しかし俺が精霊契約者(エレメンタリスト)か……確かにすげえ、すげえがよ!何で、何でてめえなんだよ!」


 リューコメラスの行き場の無い怒りを伴った鉄拳がフェルジーネに迫る!

その豪腕を、非実体化すらすることなくひらりとかわしてリューコメラスの肩に座り、そのぼさぼさの頭を撫でるフェルジーネ!


「ふっふーん、精霊契約の常識よね!理由は当然精霊が気に入った人ってわけよ。

まあ、私の場合元宿主の、グレビーの遺志もちょびっとあるかもだけど。

気分的にはグレビーに止め刺した方でもよかったけど、私同性愛者じゃないからさ、女の子はちょっとね。

ところで、自分と死闘を繰り広げた相手の相棒がいつも横に居るって、どんな感じなのかな?

うふふ、もしかして意趣返しになってたりする?

でも実際さ、リューコメラスならグレビーのこと、絶対忘れないよね。うん安心できる!

おっと忘れてた、私は夜の相手もいけるよ。

人恋しい日にお金がなくても困らないさね、でもあんまり痛いのは嫌かな」


「ああ、もういいよ、わかった、わかったから好きにしやがれ、畜生。

あと俺はてめえみてえな狂ったガキじゃ勃たねえ!ノーマルだ!

地獄に居るグレビーに、このくされ異種ペド野郎って伝えとけ、フェルジーネ。

……ま、今更どうしようもねえよな、諦めた。よろしく頼むわ」


 大きな溜め息をつき、仰向けに倒れるリューコメラス。

その一瞬前に肩から飛び降りていたフェルジーネがくすくす笑った。


「あの人たち楽しそうだね、ご主人」


「まあ楽しいのもいいけど、そろそろなんか食べて出発したいよな……」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 飛行(ボード)がややゆっくりと青空を飛ぶ。

座席の上にプロセラとツキヨ、荷物置き場には荷物とスカブルム。

リューコメラスとフェルジーネは自力で飛んでいる。


「精霊契約の影響、思ったよりでけえな……出力はともかく燃費が桁違いだわ」


「でしょー?もっと私を称えていいさねー」


「リューさん、そろそろスカブルム担当代わってよ、定員オーバー」


 ツキヨが心底げんなりした口調で交代を要求する。別に嫌がらせ的な意図は無い。

飛行(ボード)は元々、ツキヨとプロセラと旅の荷物の三点を積載する目的でのみ調整しているため、単純に重いのだ。

動力は当然ツキヨの操作する念力(テレキネシス)なわけで、適正より重ければ余分に疲れる。


「あいよ」


 まるで猛禽か何かのようにふわりと接近したリューコメラスが、スカブルムを攫っていく。

軽くなる飛行(ボード)。なおスカブルムはとうの昔に抵抗を諦めている。


「……朝から気になってたんだけど、なんだかそいつ、見たことある気がすんのよ。

けどもどこでだったか思い出せないのさ」


 リューコメラスのすぐ横に浮いているフェルジーネがスカブルムを覗き込んで首をひねる。


「そりゃ、てめえなら見たことぐらいあるんじゃねえか。これはグレビーの元部下だぜ」


「んーじゃあなんで生きてここにいんの?売ったらお金になったりするわけ」


「色々あってなあ、まあ俺達も悪いしこいつも悪いしで……」


 五人というべきか、それとも四人と一個というべきか。

ともかく妙な団体は空を飛びバルゼアへと一直線に向かっていた。

地面では、リューコメラスの連絡を受けて出動したバルゼア兵が掃討作戦を行うべく行進している。

遠方に見えてくるのは無数の建造物。バルゼア王国の首都、バルゼアだ。

正確には、周辺にもぽつぽつ市街地が広がっているが。


「うわあ……すごいよツキヨ、都会みたいだよ。アルテミアとか首都でも大したことないしね」


「わたしたちの村の何十倍ぐらい人がいるかな、それとももっとかな」


 目を輝かせて市街地を眺める二人。

初見のツキヨは当然だが、プロセラもプロセラで都会といえるレベルの街を見るのが前世以来、時間にして十七年振りである。

何ともいえぬ懐かしさも混ざって感動もひとしおだ。


「正確には知らねえが、一区域の人口としてはゼムラシア、つまりこの大陸で一番なんじゃねえかな。

まあ首都だけで百万は下らないと思うぜ、周りの町も含めたら二百万いくかもしれねえ。

地下に巨大な川があってな、水の心配も無い」


 リューコメラスの簡単な解説を聞き、呆然と街を眺める。


「へえ……僕らの家があった村は全部で150ぐらいで店すらなかったんですよ。

都会はやっぱ羨ましいですね」


「ご主人、百万って何倍、七千倍?……ふええ七千倍ってどれぐらい?小貨が千枚で金貨一枚だっけ?」


 楽しそうに話を聞くプロセラ。ツキヨは数が多すぎて逆に混乱している。

と、フェルジーネが口を挟んできた。


「私はもっと大きい街も見たことあるよ。私とグレビーはゼムラシア出身じゃないかんね。

こっちには数年前来たのさ。でっかい船に乗ってね、ドラドの港から列車でバルゼアよ。ニューワールド!」


「おい何だと、何しにそんな遠くから来やがったんだ」


「リューコメラスったらバカなの、朝言ったよ。世界を見て回るためだけど?」


「それで突然盗賊団が……じゃねえ!旅しててどうやったら盗賊団首領になりやがんだよ?!」


「せっかく新大陸来たんだし、新しいこと始めてみようかってなって。

お金も必要だったしさ、こっちの文字とかも練習したんだよ。スラムの若者連中をぼっこぼこにして舎弟にしてさ。

んで適当に教師っぽいやつ攫ってきて、色々教えさせて、グレビー団結成って流れ。ね?」


「リューさん、僕知ってますよ」


「俺もこういう奴をよ、何て形容するかなら知ってるぜ……」


「「……悪魔」」


「ご主人もリューさんも何言ってんのかわかんないよ?」


「ところで皆様方、もう降りて進んだ方がいいんじゃねえですかい。門を飛んで抜けるのはあんまり良くねえっしょ」


 ぶら下げられたスカブルムの冷静な指摘に、全員が高度を落としはじめた。

バルゼアは決して城塞都市というわけではないが、壁と建物でゆるく周囲から隔離されていて、関門も複数存在する。

山がそのまま壁代わりになっている、盆地のアルテミアとは違うのだ。 

とはいえ今回はリューコメラスが居るため、街に入ることに関しては問題にならぬ。


「みんな荷物出した?(ボード)消すね」


 準備と言っても、地上に降りてそれぞれ荷物を持つだけである。

ただしスカブルムは念のため変装していた。元レンジャーだけあり見事なものだ。


「準備はいいんだけど、僕ちょっと気になってることが」


「どうしたのご主人?」


「それ、街の中で解き放っても大丈夫なんですかね?」


 それ、つまり今リューコメラスの肩に座っているフェルジーネだ。


「契約済みの精霊が、精霊契約者(エレメンタリスト)の意思に関係なく問題を起こした事例は、ほとんど報告されてねえ。

記録はねえんだが、俺の勘ではちょっとまずいぜ……」


「私を猛獣か何かみたいに、失礼しちゃう。バルゼア市街にだって一年ぐらいは居たんだから。

人間の生活習慣とか、ルールぐらい熟知してるのさ」


 フェルジーネがリューコメラスの頭をぺしぺし叩きながら憮然としている。

少なくとも知識的には問題ないのだろう。


「ほう……例えばどういう風にか言ってみろ、フェルジーネ」


「物価もわかるし、各種族ごとの睡眠時間、警備の連中がどこまでの騒ぎなら出てこないかとか。

それに何でも、子供でも財布でも死人のギルドカードでもだよ、買い取ってくれる人の巡回ルートとかもわかるし。

あ、街といえばスラムの顔役のおっちゃん元気かね?

日に六本も酒飲むからいつもお金がないんだ、バカよねー」


「そうか。てめえは単独行動禁止だ。あと人が多いとこでは実体化も禁止な」


「なんで?酷い、それじゃ外で遊べない!

生きがいがなくなる、それに私、非合法行為とかさ、そんなにしないさ。

リューコメラスの命かかってたらわかんねーけどね?」


 リューコメラスの耳を引っ張り涙目で反論するフェルジーネ。


「いてえ!やめろ!……うぬう、なら少しだけ妥協しようじゃねえか。

関門通るときと、俺が仕事の話してる時と、警備兵の前では実体化禁止。一人で飯屋以外への入店禁止だ。

これ以上は絶対に譲れねえ、俺の尊厳と命に直結する」


「んー……むー…………いっか。それならどうにか守れる気がするわ」


 無理な条件と可能な条件を組み合わせた見事なメソッドで、悪魔を説得したリューコメラス。

プロセラからすれば、正直その程度の縛りでは不安で不安で仕方がない。

だからといって、どうにかできるわけではないのだが。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 夕方。

関門での手続きを問題なく済ませて、街へと入った一行。

リューコメラスと、ついでにスカブルムが探索ギルド本部に報告と報酬の話をしにいったため、

プロセラとツキヨは、適当に市街地を散策した後、リューコメラスが待ち合わせ場所に指定した“トンプソン”という店に向かっていた。

一緒に行って紹介状を渡してしまうという手もあったが、とりあえず宿ぐらい決まってからの方がいいと思い、今日はやめたのだ。


「ねえご主人」


「何?」


「これ、どう見てもバーかなんかだよね」


「うん……まあリューさんが指定するぐらいだし大丈夫なんじゃないか?入ろう」


 “トンプソン”のドアを開けるとカランカランと心地よいベルの音。

中はやや暗い。そして長いカウンター席と数個のボックス席。

西部劇のバーのようなものを予想していたプロセラだが、えらく近代的な店だ。

そして客は……


「あれ、誰もいないぞ……すいません?」 


「まだ開いてないんじゃない」


「こういう店が夕方に開いてないってことは無いだろ」


 その時、奥から声が聞こえてきた。


「らっしゃい。けど今日はやってないよ。コックとウェイターが休み取っててね。悪いけどまたよろしく」


「どうしようかツキヨ……」


「何か私に用事でもありましたかね」


 作業着のような地味な服を着た初老の男が奥から現れる。

柔和な表情だが、意外にも隙が無い。料理以外の腕もそれなりに立ちそうだ。


「いや、夕暮れ時にこの店で待ち合わせってことになってたんですよ。すいません帰りますね」


「休みの日忘れてるなんて、リューさんも意外と抜けてるね」


「ありゃ、それは悪い事したねえ。うちに定休日は無いよ、偶然だ。

誰と待ち合わせですかね、私が知ってる方なら中で待ってても構いませんよ」


 店長らしき男の申し出は非常に有り難い。

自分が強制したような流れなのが多少気にかかるが、プロセラは大人しく好意に甘えることにした。

それ以上に、馴染みの店を作っておきたいという個人的事情もあったが。 


「それはどうも。ええと、リューコメラスって人なんですが」


「……リューコメラス?あの?」


「あの、と言われましても僕には何とも」


「強暴な一匹狼の冒険者で、ザルみたいに酒飲んで、8フット以上はある馬鹿みたいな長身の吸血鬼で、武器が斧のリューコメラス?」


 突如怪しくなる雲行き。ともかく店長の知り合いではあるらしい。

それにしても大丈夫なのだろうか?実はこの店リューコメラスから何か被害を受けているのでは?


「むちゃな言われ方してるけど、絶対リューさんのことだよねご主人」


「この表現でリューさんじゃなかったらそっちの方が怖いよ……」


「そうですか合ってましたか……あ、私は“トンプソン”のマスターをやっておるグローブと申します。

その辺に座って待ってて下さい。料理はありませんが、何か飲み物でもいかがですか。お代は頂きますけれど」


 そう言って、プロセラにメニューを渡してくるグローブ。

どうやらちゃんと読める。アルテミアと違う文字を使っていたらどうしようという不安があった。

姉のヴィローサが、大陸内なら言葉は通じると言ってはいたものの、文字については特に言及しなかったからだ。


「ええと……僕はブランデーでお勧めの奴をストレートで。お金あんまり無いので安いのからがいいです」


「わたしはミルク。熱くして甘いの入れて」


「ホットミルクとブランデーのストレートですね……ストレート?」


「はい、ストレートで」


 奥へと引っ込むグローブ。なお、プロセラがストレートのブランデーを頼んだのには理由がある。

プロセラは生命魔法の影響で、異常に健康で再生力の高い肉体を持つ。副次的効果として毒や呪い、病気などにも強い。

だがメリットしかないというわけではない。圧倒的な解毒能力を持つ身体はアルコールでいい気分になるのが非常に難しいのだ。

醸造酒では全く水と変わらず、酒としての効果を受けるには蒸留酒であることが必須だ。それもすぐに醒めてしまうのだが。

ちなみに眠気覚ましのお茶なども無効化してしまう。

ミルクとブランデーはすぐに出てきた。それをカウンター席に座ってちまちま飲む二人。


「リューさんおそいねー」


「遅いというかもう夕暮れどころか完全に夜だよツキヨ……宿探す時間がなくなっちゃう」


「見つからなかったらどっかの屋根に上がって(ボード)組んで寝よ」


「ばれたら不味い気がするぞ」


「そっかー……あ、グローブさんミルクもいっこください」


「はいはい」


 そうして時間が過ぎ、ようやくリューコメラスがやってきたときにはツキヨは舟をこぎ、

店主グローブはあからさまに嫌そうな目でリューコメラスを見ていた。


「ちょいと遅れたぜ。報酬でもめてなあ、マスターもすまんね」


「少しでもそう思ってるならもっと早く来たらどうだ。というかあの二人はお前の何なんだよ、子供か?」


「んなわけねえだろ、つかマジで悪かった、休みだなんて知らんかったぜ。

また明日以降来るわ、またなマスター」


「はやくいこー」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 結局その日宿を探すのは諦め、ツキヨとプロセラはリューコメラスの家で厄介になるはめになった。

バルゼア市街のやや外れにあるそこは、意外な事に一軒家で、水道も付いている。


「それにしてもすごい普通の家だ」


「だねー」


「俺の拠点はバルゼアなんだから、普通に住んでるのは当たり前だろうがよ!」


「ところでリューさん、聞きたいことがありすぎるんですが」


「待て、とりあえず俺の話を聞け。まず収入だが色々とおまけが付いて金貨七十枚になった。

……だがよ、グレビーのせいで俺の装備類はボロボロだ。

買い直しと経費含めたら利益がほとんど出てねえ。よって俺にはお前らに払う金がねえ」


「「……」」


「おい、そんな目で見るな。俺にはねえだけで、スカブルムに金貨二十五枚も支払われたんで、うち二十枚を徴収してきたぜ。

これをそのまま報酬にするからよ」


「なるほど、それはどうもありがとうございます」


「でスカブルムだがな、あんま関わりたくねえが放置するわけにもいかんし、フェルジーネに頼んでよ、スラムの顔役と引き合わせてもらっとる。

押し付けに成功したって連絡が来たんで、とりあえず奴の住処と仕事は問題ないらしい。

落ち着いたら探索ギルドに復帰とかいう話だったが、個人的には勘弁願いたいもんだ。

……ぬ……もう戻る?」


 リューコメラスが玄関の方に行こうとしたその瞬間、窓からスパークする何かが突っ込んできた!

バチバチ音を立てながらあっという間に人の形となる。フェルジーネだ。


「うわっ?!」


「窓の外に(ボード)張っとけばよかったかな」


「帰ったよリューコメラス!あいつはちゃんと就職させたから安心ね。

んじゃ、休も!……あれ、何でここに二人いんの」


「俺が本部でずっと捕まってたせいで、こいつらの宿を探す時間がなくなってなあ。

とりあえず風呂はいってから寝ようぜ」


「この家風呂もあるんですか!?」


「市街の家や宿ならわりと風呂はあると思うが。

正確にはだ、湯が出せる水道が通っている。百万都市は伊達じゃねえぜ」


「おお……借りてもいいですかねリューさん」


「ああ構わん、先に入るか?お湯はもう入れとるぞ」


 百万人が住んでも問題にならぬ、むしろ全体的に便利で清潔といっていい圧倒的なインフラの充実ぶり。

バルゼアの上水道と下水道は、専用の魔法を習得した魔道士が公務として回しているのだという。

アルミラ家の風呂は井戸水そのまま、たまに薪で沸かすかどうかだったので劇的な進化だ。


「じゃあ久々にさっぱりしようかご主人」


「アルテミアを出てまだ三日ちょいだし別に久々じゃないだろ……ま、いっといで」


「気分だよ、色々あったし」


 嬉しそうに着替えを引っ張り出して風呂に向かうツキヨを眺めながら、大きな欠伸をするプロセラ。

本当にこの数日で色々あった。何だかんだで一通り解決し、収入もあり、知り合いもできたので問題は無いのだろう。多分。

と、リューコメラスとフェルジーネがじっとこちらを見ている。


「なあ、プロセラ。今更って感じなんだけどよ、お前らどういう関係なんだ?

兄妹でもなさそうだし、その年で上司部下ってのも、だが恋人にしては砕けすぎっつーか……」


「そうそう、私も気になってたのさ」


「うーん……別に隠すような事は無いんだけど、なかなか伝え辛い……ええと……

幼馴染で、村で唯一の年が近い友人で、雇い主と使用人で、狩りの時の相棒で、あと師を同じくする同門?

探せばまだ色々あるような……無いような……」


「わかった、わかった、もういいわ、二度と突っ込んで聞いたりしねえから安心しろ」


「気にしたら負けよね、リューコメラス。私、先に寝るわー」


「……?」 


 言うが速いか、リューコメラスに張り付き、その体内へと消失するフェルジーネ。

後には、微妙に居づらそうなリューコメラスと、首をかしげるプロセラが残された。

被害者スカブルム離脱&ヤバい精霊がIN!

しばらくはこのメンバーで進むはず。

なお帰省するため次はGW明けとなります。

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