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ライフレート  作者: 岡本
第二章 おのぼりさん
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07話 『風のグレビー』

 薄暗い通路を二人があたりを警戒しながらゆっくりと歩く。

砦に侵入してから既に五部屋ほど回っている。それまでに出会った盗賊はわずか三人だ。


「罠らしきものも特にねえし、二階から侵入した方がよかったやも」


「もしかしなくても、一階はただの居住スペースなのでは、上にはいっぱい居る感じですし」


「うぬう……む」


「リューさんどうします?」


 プロセラとリューコメラスの感知能力は、人探しに関してはほぼ同等。


「十人ほどか、処理して行くしかねえ、上やってるとき挟まれたらまずい」


「じゃあ囮に……いや、待って、なんか半分ぐらい子供みたいです」


「後回しだな」


「上いきますか、その前に一応他人再生リジェネレートギフトを……あれ?あまり効いてる気がしない」


 首をひねるプロセラ。スカブルムには覿面だったのだが、どうやら効きが悪い。

種族のせいだろうか?


「俺が思うに、攻撃系の魔法と同じように相手の耐久力の影響受けるんじゃねえかなあ」


「うーん……おっと、二人ですね」


 プロセラが呟くより先にリューコメラスが加速、二撃で二人の首を刎ねる。

まさに熟練の業、見事な手際だ。しかし、ぱちんと軽い音!


「くそ、すまん、見張り罠にかかった。今のでばれたぜ、仕方ない力技……ちょっと待て、何だこの速度は!

やべえ、これはやべえ!」


「めっちゃ強そうですよ!?」


 二人が感知している上階の反応が変わった。どうやら騒ぎになっているようだ。

だが問題はそこではない。強力な何かが、こちらへ向かって一直線にやってくる。

爆発音と共に真上の天井が破られる!空いた穴から強烈な風が吹き込み、衝撃波と共に影が落下してきた。

渦巻く天井の破片、それぞれ前方、後方に別れて吹き飛ぶ二人!


「うおおおお石鎧ストーンメイル!」


「痛いじゃないかくそ」


 地魔法を防御に振ったリューコメラスが耐える。プロセラは壁に激突するが、持ち前のスタミナで強引に復帰。

砂煙が晴れ、曲刀を隙なく構えた男が現れた。痩せ気味だが見るからに鍛え上げられた体だ。


「ふん、俺がここの主グレビーだ。では早速だが、お引取り願おうか侵入者」


 その横に、男から分離した何かが実体化する。透けるような肌に、緑の髪と瞳の子供。

遅れて、ノイズ混じりの悪戯っぽい笑い声。風精霊!


「そして私がフェルジーネ。はっはー!帰れ!」


 各種精霊は、本来あたりを気ままに漂っているものであり、決して強力な存在ではない。

しかし、気が合う魔道士に憑く事で宿主の魔法適性を底上げし、同時に精霊側は実体化したり、主の力を一部流用できるようになる。


精霊契約者エレメンタリストだと!聞いてねえぞ!おい、こいつは俺がやる、奥を……」


 リューコメラスが叫んだ瞬間、フェルジーネを体内に引っ込め、舞うように飛んだグレビーが背を向けたプロセラを肩口から両断した。 

更に風が巻き起こり、その身体が斜めにずれ落ちる!とても盗賊の一味とは思えない、凄まじい業前!


「さて、まずは一人」


 グレビーが挑発的に曲刀を構え直す。

その刀身がわずかにゆらめく。風刃(ウィンドカッター)を纏わせ、射程と切れ味を増幅しているのだ。


「下っ!」


 グレビーの耳に精霊の警告!同時に床を破って生えてきた何かがそのの足を掴むべく伸びる。リューコメラスの岩腕(アームロック)だ。

風魔道士ならではの反応速度を発揮したグレビーが、浮遊しつつ曲刀を振って土砂でできた腕を切り飛ばす。

だが床の穴からは続々と土砂が湧き出し、周囲の壁を破りながら外や上階への道を塞いでゆく。


「これでタイマンだ、小僧!軽率だぜ、風魔道士がこんな場所で俺に勝てると思うなよ」


「どうかね、貴様の相棒はもういないぞ。じきにお前も居なくなるがな」


 風を器用に操って土砂をかわし風刃(ウィンドカッター)を飛ばすグレビー。

土操作中で動かないリューコメラスに着弾するものの、展開されている石鎧(ストーンメイル)を突破できない。

実際、地と風の複数属性持ち《ハイブリッド》で、地魔法の熟練者であるリューコメラスは、風のみのグレビーに対して属性優位を持つのだ。

あたりが岩石だらけの屋内とくれば尚更である。


「一対一?私もいるぞデカい奴!」


「うぬ!」


 いつのまにかグレビーから再離脱していたフェルジーネが背後に出現、暴風を纏った体当たりでリューコメラスを突き飛ばした。  

土操作が中断!飲み込まれかけていたグレビーが魔力供給の切れた土砂を吹き散らして復帰する。

即座にリューコメラスの斧がフェルジーネを襲うが、切り裂かれる直前にくるりとターン、その場から消滅。

リューコメラスがグレビーの方へ向き直ると、そのすぐ横にはフェルジーネ!神出鬼没!


「二対一だな、岩男。俺の部下になる気はないか?お前ほどの腕なら特別待遇だ」


「ぬかせ盗賊。ここはもう終わりだぞ。てめえはやりすぎた。

バルゼア商人ギルドの依頼、ゼムラシア探索冒険研究連合体の名において処理する」


「それは残念だ、ならば死ね」


 大きく息を吸い込んだグレビーの身体がバチバチ音を立てはじめる。帯電しているのだ。強力な風属性のエンチャント。 

それを打倒すべく、リューコメラスも簡易の石鎧(ストーンメイル)を本格的なものへと変質させていく……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……リューさん大丈夫かなあ、まあ僕は僕の仕事をしなくちゃ」


 土壁の向こうから響く戦闘音を聞きながら、プロセラが立ち上がり、歩き始めた。切り裂かれた身体は既に繋がっている。

部下を無視して、自らこちらを片付けにやってきたグレビー。恐ろしいまでのワンマンぶりである。

そしてあの身のこなし、今の自分の体術ではなかなか捉えられそうにない。まだまだ修行が必要だ。

考え事をしつつ上の様子を探るプロセラ。と、奥にあるらしい階段を降りて二人やってきた。

即座にプロセラの金棒が一閃。崩れ落ちる二人の盗賊!

ゆっくりと、警戒しながら階段を登る。

二階は意外にも静かだった。こういう時はグレビーが処理すると決まっているのだろう。

時々やってくる見回りか、偵察のような連中がすぐにプロセラの餌食になってゆく。

リューコメラスの言っていた、非戦闘員が多そうというのは恐らく真実なのだ。

だが、捕まってしまえばどのみち同じ盗賊。ごく一部の無理やり働かされていた者以外、死刑か追放、よくて奴隷となるのは免れまい。

この場で殺すより生かして連れ帰る方が懸賞金がわずかばかり増える、その程度の差だ。

そのあたりの感覚は既にそういうものとして割り切っている。

何せ、そうしなければこっちがもっとひどい目にあうだけなのだから。

近づいてくる者、部屋の中で何か作業している者、淡々と殴り倒す。

ツキヨが襲ってきた十一人を即座に殺した時も、あたりが血まみれで気持ち悪い、ぐらいしか感じなかった。

やったのがツキヨだからなのか、生命魔法の影響で生死に対しての忌避感が無くなっているのか、恐らく両方だろう。

とはいえいくら敵とわかっていても、襲って来ないのに積極的に殺したいとは到底思えない。

なるべく頭は割らない様にしている、半端なプロセラではあった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 そして一階。


「ええい、ちょろちょろと、さっさと観念しやがれ盗賊!」


 斧が空を切る。グレビーは風精霊と連携して互いの隙をカバーする上非常に素早く、攻撃が当たらない。

だが、高度な地魔法で編まれたリューコメラスの石鎧(ストーンメイル)は、個人用多重結界とでも言うべき恐るべき硬さを誇る。


圧縮(コンプレス)!」


 フェルジーネの生成する圧縮空気弾がリューコメラスを襲う、だが少々仰け反るだけだ。

そこにグレビーが電撃を纏った斬撃で追撃。そちらはバックラーの様な円形の腕装甲でブロックされる。

地を踏みしめたリューコメラスの足元から石弾!


「グレビー!こいつ硬すぎる!」


 叫びながら消失と出現を繰り返し、リューコメラスの範囲攻撃をかわすフェルジーネ。

グレビーはそのまま電撃曲刀で石弾を叩き落とし、安全圏まで飛び下がる。


「見れば判る、とにかく当てて魔力を削れ」


 戦況は今のところほぼ互角。

わずかずつだが確実にダメージが溜まって行くリューコメラスと、一度のミスが致命的になりうるグレビーとフェルジーネ。

勝負は互いの集中力次第だろうか?


「ふむ、そろそろか」


「何」


 突然発されたリューコメラスの呟きを、風魔道士がその鋭敏な聴覚で捉えた。

動きは決して止めない。だが疑問を返さずにはいられない。


「そろそろだと、俺の勝ちだと、言ったんだよ。さっきからどれ位戦っている?

俺はお前らをここに止めとく必要があった、できればさっさと殺っちまいたかったが。

予想に反して一人じゃ処理できねえほど強かったんでひやひやしたぜ、途中で逃げられたらどうしようかと、なあ!」


「他にも侵入者がいるとな、だが感知には」


「何を言っている、俺達は二人で来たんだ。わかるか?わかるよな、先程会ったもんなあ!」


 笑うリューコメラスが、グレビーの背後に向かって上向きに大振りの一撃を繰り出す。

土煙が上がり砕ける天井!落ちてくる人影、わずかに非難するような、しかし明るい声!


「上は終わったよリューさん。でもさ!何も足元を狙う必要ないじゃないか!

……生魔道士のプロセラです、まあちょっとの間だろうけどよろしく」


 そこには血に塗れて斜めに引き裂かれたボロ服を纏った、若い男が立っていた。


「あーお前!なんで?!」


 実体化したフェルジーネが叫ぶ!


「痛かったよ、すごい切れ味だった。身体がちぎれるなんてのは久々だ。

実際は平気でも、やっぱり気分的に痛いもんは痛いんだ、斬られたら。服もまた買わなきゃいけないし」


 グレビーはすぐに悟った。嵌められたと。

そもそも奴が、若い方の男が自分から背を向けたのが既に罠だったのだ。

逃げなくてはいけない、今の部下どもは、この盗賊団はもうだめだ。だが自分にはまだやることがある。

生魔道士が飛び掛ってくる。頭を破壊すれば殺せるだろうか?

いや、無理に殺す必要はない、一撃与えて振り払い、壁を破るか天井の穴から去る時間が取れればそれでいいのだ。

わめくフェルジーネを急いで収納し、全身に魔力を行き渡らせて備えるグレビー。

両者をじっと見つつ、タイミングを窺うリューコメラス。


「あああ!死ね!」


 グレビーの身体が明るく輝く。強力な放電だ!プロセラを感電させ、振り払い、壁に向かう。

その瞬間を狙ってリューコメラスが動く!石鎧(ストーンメイル)を解除しつつ加速(アクセラレート)を最大で!

グレビーの左足が斧で破壊される!だが速度を出すため石鎧(ストーンメイル)を解除した影響で、電撃を防ぎきれぬ!


「ヤバい逃げられるリューさん!」


「ぬ、ぬかった!プロセラ、おい!」


 グレビーが無い左足を押さえ、苦しみながらも壁を破壊!


「う、ぐ、痛え、痛え、俺は」


 電撃で無理やり止血し、穴へ飛び込む!

何という根性か。壁が次々破壊される音が砦に響く。風に乗り一直線に外を目指している!

プロセラとリューコメラスもふらつきながら追うが、どうやら間に合わない。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 外壁を乗り越え、夜空を見上げ、空を行くグレビー。

痛恨の敗走、しかしまだ自分は終わっていない。皮肉か、それとも逃走成功の祝福か、美しい月夜だ。


「……子供?」


 空中に、月をバックに、何か。それがゆっくりとグレビーの方を向く。

突然、視界が霞む、身体が動かない、堕ちる!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 月光の下、複数の人影。

倒れた一人の男に、子供が縋って泣いている。それを見下ろす三人。


「やってもよかったのかな?」


「いやツキヨ、こいつは盗賊団のボスで、絶対に逃がすわけにはいかなかった。助かったよ」


「……保険が効いたってとこか、ギリギリだったなあ色々と。ずいぶん手伝わせちまった。

さて、もういいか?お前は悪くねえぞ、精霊。勝手にどっか行け」


 足元の子供、つまり風精霊フェルジーネは動こうとしない。

よく見ると、身体が、存在が揺らめいている。


「ねえリューさん、宿主が死んだ精霊ってどうなるんですか?」


「さあ、実体化能力を失うから、どこに行くかはわかんねえな。

だが、別に消滅したりとかはしねえはずだ。というか元々非実体の連中だしよ」


 フェルジーネが呻き、ゆっくりと消えていく。


「……まだ……世…………グレ……あ……り……」


 後には左足を失い、胸部を切り裂かれた男の死体が残された。

非道な盗賊団のボスにして、はぐれ精霊契約者(エレメンタリスト)、グレビー。

その死に顔は、何故か安らかだった。


「ご主人、これでリューさんの仕事とかいうのは終わったの?」


「さあ?」


「終わったつうか、始まったつうかだな……とりあえずギルド本部に位置情報と後始末の要請は送らねえと」


「砦の中の連中はどうしますリューさん、二階の連中は大体まだ生きてると思います。

あんだけいれば水魔道士や神官が混ざってそうなんで、ちょっとずつ復活してるかも。

一階の商品だか盗賊たちの子供だからしき十人は、本部の人たちに任せたほうがよさそうですけどね」


「そうだなあ、後は連絡を、おう!忘れとった、そうだ砦だぜ!

グレビーが各部隊に指示を送っていた発信機が絶対にあるはずだ。機材があるなら俺も使える。

そいつで解決だ!」


 言うが速いか、物凄い勢いで砦へ飛んでいくリューコメラス。

どうやら問題は解決するようだ。


「はあ、なんかどっと疲れた、すごく」


「うん疲れたね、いつもこんなのばっかりだったら、わたしちょっとギルド員嫌かも。

ご主人の服も、また壊れちゃってるから着替えなきゃ」


「さすがにそれは無いんじゃないかな……」


「だといいね」


 二人がしばらく休憩していると、リューコメラスが戻ってきた。上機嫌で鼻歌など歌っている。


「やはりちゃんとあったぜ発信機、本部の連中と話してきたわ。明日にも動いて後を片付けてくれるってよ」


「別の冒険者が来るってことですか?」


「いや、たぶん兵士か騎士団じゃねえかな。どっちにしろ俺たちのやる事は終わりだ。

グレビーの話もちょっとしたんだがな、どうも前科なかったみてえで死体はどうでもいいらしいわ。

あの強さで報酬は達成ものだけとかよ、割りにあわねえって次元じゃないぜ」


「わたしがそいつ落としたときは既に片足なかったし、なんかフラフラだったからよくわかんないや」


「とりあえずさ、戻って荷物掘り出して交代で休みましょうよリューさん……」


「そうだな、後スカブルムだが、面倒なことになったぜ」


「「え?」」


「情報源を聞かれてよお、まあお前らのこと誤魔化しとかなきゃいかんと思って。

とっさに思いつかんかったから、スカブルムがいい仕事したって事にしちまったんだ。

そうしたらなんかちょっとした英雄じゃねえか!みたいな話になってよ、賞金首じゃなくなるらしい。

しかも、特別報酬が出るとか何とか」


「「……」」


「ああ、ああ、言いたいことは判る、でも仕方ねえだろ。

……よくよく運のいい男だぜくそ」


 バルゼア大森林盗賊団騒動は、こうして終わりを迎えた。

残党の処理やなんやらでしばらくの間大騒ぎなのだが、それは三人とは関係の無い話である。

グレビーはかなり強いです。

屋外でタイマンならリューコメラスにも十分勝てるぐらい。

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