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ライフレート  作者: 岡本
第五章 帰省も楽じゃない
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36話 『子供の扱い』

 一級探索冒険者の本部スタッフ、ヴァラヌスが難しい顔で少年を眺めている。

別に子供が嫌いなわけではない。

問題はこの場所が探索ギルド本部建物であり、勤務時間中であるということだ。

午前の仕事を終わらせ、食事を摂って戻ってきたところで、本部二階の部屋を借りに来たプロセラとツキヨに鉢合わせたのだ。

名をアズレウスというらしい少年を貸部屋に押し込み、ドラドの通行証を申請した二人は本部を飛び出していった。

そうして彼女は小部屋で一人おろおろしている少年の相手をする羽目になったのである。


「あ、あの、こんにちは鱗のお姉ちゃん」


「違いますよ、アズレウス君」


「え」


「私には“ヴァラヌス”という名前があります」


「ひっ!は、はいヴァラヌスお姉ちゃん」


「よろしい。であなた誰」


「ええと、俺はアズレウス、です」


「そうじゃないって……はあ」


 じりじりと後退するアズレウス。

別にヴァラヌスに威圧している気は無いのだが、知らない部屋で知らない人と一対一という状況自体に怯えているのでどうしようもない。

まともに喋れるようになるまでまでかなりの時間待つこととなった。


「十一歳で、吸血鬼で、ドラド人で、魔法もちょっと使えるよ」


「ふうん、将来有望ね。

それで、どうしてプロセラやツキヨちゃんと一緒に居たのかしら。

リューコメラスの子供か何か?」


「違うけど」


「バルゼアに何しに来たの?」


「父ちゃんが死んじゃったから来たんだ。

人がいっぱい居るところがいいって言ってたから。

列車には乗れたけどなんかよくわかんなくて、いつの間にかあの人たちに拾われてた。

で、リューコラスっていうでっかい男の人が家を探してくれるけど、まだ仕事があるとか」


「うん、まあ、大体わかったわ。

全く、三人して私に押し付けなくてもいいじゃない。

後でまた相手してあげるから、しばらくそこの布団で寝てなさいな」


「え……」


「仕事中なのよ、私も。

リューコメラスやプロセラやツキヨちゃんと同じ」


「みんな仕事」


「そうね、アズレウスも大きくなったらわかるわよ。

吸血鬼なら今からでも寝られるでしょ、さあ」


「俺は、うん、はい」


「よろしい」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 その日の夜。

仕事を終え、アズレウスを回収しに本部二階へ向かったプロセラ達を出迎えたのはヴァラヌスだった。


「何か言う事はありますか」


 足元のアズレウスを撫でながら、凍えるような瞳でプロセラとツキヨを見つめるヴァラヌス。


「じ、時間指定の依頼でしたもので抜け難く、連れて行くこともできませんで……」


「そう、そうなの、家に置いていこうとしたらすっごい怖がるし、えっと」


「他には?」


「「押し付けてすいませんでした」」


 震えながら頭を下げる二人。

ヴァラヌスが大きな溜め息をついた。


「よろしい」


 一方、アズレウスは上機嫌だ。


「俺楽しかったよ、魔法属性とか調べてもらった。

あと魔力を見やすくするこつもヴァラヌス姉ちゃん教えてくれたし」


「そ、それはよかったね、うん」


「いろいろ迷惑かけました」


「もういいわよ、それより肝心のリューコメラスが任務中とか。

あいつも間が悪いわよね」


 ヴァラヌスが牙を見せてくすくす笑う。

背中を軽く叩かれたアズレウスが、少し上を見上げた後に二人の方に戻ってきた。


「この子を送り届けるの、一番乗り気だったのはリューさんなんですけどね」


「同じ吸血鬼なのにさ、リューさんとアズレウスって全然似てない」 


 興味深そうにアズレウスの青い瞳を覗き込んでいるのはツキヨだ。

似ていないというより、瞳の色以外の共通点を探す方が難しそうである。


「似てるわよ、物凄くね。

性格と顔の造作は昔のあいつにそっくりだわ、もうちょっと育ってたけど、ふふふ」


「そうなんですか?!」


「不思議だねー」


「俺もあんなにでっかくなるのかな」


「ううん、身長はさすがに難しいんじゃない?

私でもあんな体格の吸血鬼は他に知らないし」


「そっか」


「でも、魔法は強そう。

吸血鬼って風地か、風もしくは地が多いのに、アズレウスは水地だったからね。

十年ぐらいしたらきっと達人になってるわよ。

それはいいとして、リューコメラスはドラドなのよね任務で。

したら、あっちにこの子連れて行くのはあなた達二人?」


「はい」


「わたしが飛んで送るよ」


「五日後か六日後にリューコメラスに届けるとしたら、いくらか猶予があるわけよね。

明後日とその次が私休みだから、アズレウス連れてらっしゃい、色々教えてやるわ」


「いいですけど、明日も僕達時間指定の」


「明日は忙しいから、本部に連れてこないでくれると助かるのだけど。

一日ぐらい家で留守番できるわよね、アズレウス?

そこのお兄ちゃんとお姉ちゃんの話もよく聞くようにね」


「できるよ俺!」


「いい子ねえ」


 異様に聞き分けのいいアズレウスに困惑する二人。

一体何があったのかは不明だが、完全に掌握されている。


「おかしいぞツキヨ、これは不正だ」


「敵が強すぎるよ」


「何の話かしら」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 夕焼けの空を飛ぶ(ボード)。既に眼下にはドラドの街が見えている。

昨日の朝にアズレウスを連れてバルゼアを出たプロセラとツキヨだ。

子供らしい適応力を発揮し、数日で馴染んでしまったアズレウスは、出発前には戻る事を嫌がっていた。

ただし、ツキヨの操る飛行(ボード)が動き始めて四半刻もすると、やっぱ空いいな!等とはしゃぎ始めたのだが。


「リューさん、支部に居るんだよね?」


「五日後以降とか言ってたし微妙じゃないかな。

支部には一応寄るけど、どのみち今日は出発しないでしょ」


「俺は別に夜でもいいよ。リューコラスおじさんも凄い吸血鬼なんだろ?平気だって平気」


 アズレウスが得意そうに言う。


「アズレウス、夜だからダメなんじゃなくて今まで動いてたから休む必要があるんだ。

多分リューさんもすぐ出ようとは言わないかと」


「あと、リューコラスじゃなくてリューコメラスよ。

それとさ、その魔法は汚れるからあんまり荷物の傍とかで使わないでね」


「あーっ!俺の魔法!」


 ツキヨが簒奪管(ユザーパー)念力(テレキネシス)を器用に操作し、アズレウスの出していた魔力を生成物ごと引き剥がして捨てた。

ヴァラヌスの教育だか入れ知恵だかにより、アズレウスは魔法を新たに一つ覚えている。

元々飲み水の精製や簡易な癒し、それに砂の操作などはできていたので、才能はあるのだろう。

微妙にふてくされたアズレウスから、再び魔力が漏れ始めた。


「だめって言ってるでしょ」


「うわ、わかった、わかったって」


 空中に束縛されたアズレウスの足元や手元から、灰色に濁った水がぽたぽた垂れて飛行(ボード)に小さな水溜りを作る。

よく見ると、魔力を含むその泥水が蠢いていた。

彼はそれを操作しどうにか念力(テレキネシス)から逃れようとしているのだ。

しかし、いかんせん錬度が違いすぎる。


「わかってないよね、だめだよ」


「……ごめんなさい」


 アズレウスが抵抗を諦めると泥水が消滅し、残った土埃が空を舞った。

泥沼(モラス)という命名がヴァラヌスによりなされたそれは、水もしくは土を媒介に濃厚な泥水を生成して操る。

子供らしい泥遊びのごとき技だが、属性として相性がいいのかアズレウスの適性が高いのか、簡単な構成で消耗が少ないわりに干渉能力が高く割と危ない。

少なくとも家の風呂場を泥まみれにされ、掃除が大変だったプロセラとツキヨは警戒している。

ヴァラヌスは大丈夫だろうと言っていたが、凍らせれば何もできないからという個人的理由が混ざっており怪しいものだ。


「二人とも落ち着こうよ。それでどっから」


「西の関門から入れば支部に近かったかな?」


 高空を飛んでいた三人がゆっくりと降下する。

関門の少し手前で着地すると、街へと入っていった。

ドラド人が混ざっているので手続きは非常に楽だ。

慌てすぎて通行証を持っているのに密入国という無茶をした最初のドラド旅行からすれば、いろいろと進歩したものである。

隙あらば泥沼(モラス)で遊ぼうとするアズレウスを小突きつつ歩いて支部へと入り、リューコメラスを探す。


「おう、ちゃんと来たか。

お前ら子守りとか出来なさそうだったからよ、放置してたらどうしようかと」


「リューコメラスって心配性だよね」


 意外な事にリューコメラスとフェルジーネは既に待機しており、向こうから声をかけてきた。


「大丈夫ですよ。まあだいぶヴァラヌスさんに手伝ってもらいましたけどね」


「結構大変だったんだよ?」


「俺、大人しかっただろ!」


「気のせい」


「どうやら問題なさそうだな。

マーシュはドラドつっても相当辺境だ、アズレウスがどうやって一人で市街まで来て列車に乗ったか謎なぐらいだぜ。

だからよ、飛ぶにしてもかなり時間がかかるぞ。

ところでお前らは宿の当てとかあるか?」


「あることはあるんですけどね」


「うーん……」


 二人の頭の中に浮かんだのは“コメット”の料理と部屋である。

しかしそのイメージはすぐ、かの店の暑苦しい常連たちの顔に塗りつぶされてしまったのであった。

アズレウスを連れて行くのは少々不安だ。


「何だその微妙な反応は。

後三人ぐらいなら入れる部屋を借りとるが、どうするよ」


「「おねがいします」」


「リューコラ、リューコメラスおじさんありがとう」


「おうよ。

……おじさん、おじさんか、うむむ」


 リューコメラスの取った宿はずいぶんと東寄りにあり、かなり時間がかかった。

吸血鬼の里マーシュはもっとずっと東だということである。

その日は食堂のメニューに載っている酒を、上から順に注文しようとした酒飲み二人を慌てて止めるイベントがあった以外は平穏に終わった。

寝室でアズレウスの話を聞いたリューコメラスだけはどうも悩んでいるようだったが。

翌朝、荷造りして宿を出た一行は当然のように吸血鬼の里“マーシュ”へ行くこととなった。

しかし街の関門を出てツキヨが飛行(ボード)を組み立て始めた時、リューコメラスが難しい顔で口を開いたのだ。


「マーシュにアズレウスを連れて行くのは確定だ。

だがな、アズレウスの出身はマーシュではねえと思うんだよ」


「いや、マーシュだって。死んだ父ちゃんがそう言ってたもん」


 アズレウスが反論する。

プロセラ以下三名は、そもそもマーシュがどういった場所なのかわからないために何も言えない。


「いいか、アズレウス。マーシュはそう広くはねえが、人数は結構居る。

吸血鬼だけでも数千人は暮らしてるだろうよ。

牧畜を主要にやっとるから、木も少なくかなり開けた感じだ。

お前は街外れに親父と二人暮しだったと言っていたよな」


「そうだぜ、他の吸血鬼には会わなかったけど、よく父ちゃんとドラドに行ってた。

でも死んじまったからさ、生きてる時言われてたとおりに埋めて、家のお金を半分ぐらいと、あと証明書とか色々持って出たんだ。

ちょっとバルゼアは遠すぎて、よくわかんなくてこんな事になっちゃったけど」


「だからよ、そこがおかしいんだつってるだろうに。

マーシュとドラドは歩いたら相当かかる、到底お前が一人で行ける距離じゃねえんだよ。

まずはアズレウスの家に行ってみなきゃなんねえ。道はわかるんだろ」


「じゃあ父ちゃんがおかしいのかな、でも、ううん……なんでだ。

道はわかる、案内するよ。

俺の足でも一日かからずに着く」 


 言うと、アズレウスが周囲を見回して脇道に入っていった。

半ば獣道になっている林道をすいすいと歩いていく。


「やっぱ方角違うぜ、とりあえず歩きじゃ時間かかって仕方ないからよ、担いで飛ぶから指差しで方向知らせてくれ」


「わかった」


 地上すれすれに木々の間を飛びながら進む一行。

案内を挟むために停止しつつとはいえさすがに飛行は速く、半刻もすると家らしきものが見えてきた。

切り倒した木と魔法で掘り出した岩を組んだと思しき、小さいが頑丈そうな平屋の周りにちょっとした広場ができている。

そこから少し離れた場所には、小さな池。


「これがそうなのか?」


「普通に家だねー」


「どう見ても街の一部じゃないさね、リューコメラス」


 よくわかっていない三人が適当な感想を呟く。

リューコメラスは溜め息をつき、アズレウスは何がおかしいのかと言いたそうな顔を浮かべていた。


「やっぱりな。

しかしここに十年も居たのかお前は」


「うん、でもさっきも言ったけどずっと引き篭もってたわけじゃない。

それに父ちゃんが読み書き教えてくれたし。

あれがお墓だ、体弱かったから。

そうだ、せっかく寄ってもらったんだし残りのお金も持ってこよっと」


「俺達も家に入っていいか?」


「いいけど面白いものはないぞ。

本と服と、動物のミルクとか血とかを干した奴みたいな保存食とか」


 靴を脱ぎ中に入ったアズレウスが、部屋の隅にある棚の裏から金貨を十枚ほど取り出し、鞄に突っ込む。

周囲には本やら服やらが詰めてある棚、薄い布団、物干し竿。

そして小さな机の上には、筆記用具と期限切れで動作しない保水球と浄化球がいくつか転がっていた。


「本当に何も無いねご主人」


「吸血鬼はなんか身軽な人多い気がするよ、リューさん家も広いわりに物少ないし」


「燃費がいいからな、俺達はよ」


「お酒」


「ぐ、それは別だぜ、ともかくだ、何か情報ぐらい無いものかね。

名前しかわからねえアズレウスの親父は一体どんな奴だったのやら。

書くものがあるつうことは、何か残ってるはずだよな」


「ん?それならある、確か昔の日誌が。

けど何か厳重に鍵かかってるし金属の箱に入ってて、開けられないんだ。

俺じゃ魔法でも無理。だから壊して中見ていいよ」


 アズレウスが棚の横の床を剥がし、一抱えほどの金属の箱を出してきた。

持ち上げてみると確かに本のようなものが入っている音がする。


「いいんだよね、ちょっとどいて……っしゃああ!」


「あ、ちょっと、俺ん家の床が!」


 浮遊しながら横にやってきたフェルジーネが、強烈なスパークを纏った曲刀を生成した。

アズレウスが離れた瞬間、掛け声と共にそれを振り下ろす。一閃!

三つの鍵は床板ごと切断され、金属音と共に割れ落ちた。


「全く、無茶しやがってよ。俺が鍵を壊せば済んだのに。

ところで、これ読んでもいいのかね」


 箱の中からは、二冊の冊子が出てきた。

どちらもあまり厚くはないが日誌のようである。


「いいぜ」


「……こっちはただの出納帳だな。

さてと、何が出てくるやら」


 他の四人に見守られながらリューコメラスが二冊目をめくる。

その表情はしばらくの間険しかった。

だが、途中からまともに読むことを放棄したのか適当に飛ばしている。


「リューさん、真面目に読んでます?」


「お、俺の何が書いてあるんだ」


 一通り読み終わったリューコメラスが舌を出し、肩をすくめた。

なんと言うべきか、脱力している。


「ああ、読まなきゃよかったぜ。災難だなアズレウスもよお」


「父ちゃんがどうかしたの」


「別によ、犯罪者だとか亡国の王子とかじゃねえから安心しろよ。

聞いても絶対に嬉しくねえから忘れるのも手だぜ」


「気になるだろ?!教えろって!」


「そうだ、ええとな、お前の親父さんのアロベイツはだ。

親族は居なかったらしいが、元はちゃんとマーシュに住んでたぜ。

結婚もしていた。

だがよ、身体が弱かったらしいが、まあなんかこう、あったんだろうな。

お前が生まれた次の年に嫁、つまりお前の母さんがだ、浮気相手と国外へ。

その、なんだ、駆け落ちってわかるか、わかんねえか。

それで居づらくなったんだろう、マーシュからお前を連れて逃げ出して。

やっぱり忘れた方がいいぞ、それでだ……」


 ばつが悪そうに日誌の内容を話すリューコメラス。

残りの四人は眉間にしわを寄せていた。

リューコメラスが大きな溜め息と共に日誌を閉じる。

アズレウスが拳を握りこんで肩を震わせた。


「し、死ぬ……死ぬ前に説明しとけクソ野郎あああ!!」


「待て、おい、落ち着けって、な、ああ、俺が悪かった、読まずに埋めときゃよかった。

でもよ、お前の親父さんはお前を大事に育ててくれたんだ、大丈夫だぜ?

だからな、まああれだ、ちょっと見栄っ張りで病弱だっただけでよ。

いや違う、違うええとそうじゃねえ」


「あーあー」


「リューさんが立ち寄ろうって言い出さなけりゃ思い出だったのにね」


「リューコメラスはうっかりだから」


「ああくそ、なんでだよ、何で説明しねえ!

俺もう、いやまだ十一歳だろ、何で死んでんだよ!

思い出もまとめて沈めてやるぜ父ちゃん、違うアロベイツ!!」


「おおい、だから俺が悪かったって、アズレウス、な」


「ちょ、ちょっとリューさん床!床が!」 


「落ち着くまでそっとしといた方がいいよ」


「とりあえず離れるよリューコメラス!」


 叫ぶアズレウスの足元の床から、壁から、猛烈な勢いで泥水が噴き出す。泥沼(モラス)


「あははあはははは!」


 アズレウスのものを含めた荷物を引っつかみ、家から転がるように飛び出す四人!

外の地面はドロドロにぬかるんでいた。

そして家が沈み始める。その光景は底無し沼そのもの。

沈みきった家の屋根を濁流が破り、泥まみれのアズレウスが出現。

その間も周囲からは泥水が湧き出し続ける!

……しばらく後。


「元気出せよ、何とか新しい家探してやるからさ、なあ」


「うん……」


 暴走したアズレウスは元自宅を地下深くに沈めて煙突の先を新たな父の墓標とし、その周囲を泥沼と化した。

そして魔力切れでぶっ倒れ、四人に回収されて今に至るというわけである。


「まあ、少なくとも身体は問題なさそうでよかった」


「心の問題だと思うよ、ご主人」


「精霊の私には今ひとつわかんないのさ、親なんて概念自体ねーから」


「一応落ち着いたよ、ほんとだって。

父ちゃんは、うん、まあ父ちゃんだよな」


 一刻半ほど考え込み、とりあえず納得したらしいアズレウスは自分で身体の泥を洗い落とし、服も着替えていた。

今はリューコメラスの膝に座っている。

吸血鬼が身体の成長は遅いものの、頭は年齢相応かそれ以上というのは事実であるようだ。


「俺が思うにドラドに戻って宿取り直して、一日休んでからマーシュに行ったほうがよくねえか」


「でも、マーシュはこれぐらいの時間から起きて活動するのよね?

なら今から行くほうがさ、リューコメラスの実家の人たちは楽なんじゃない」


「俺は今からでもなんともない!」


「リューさんが決めてくれないと僕はどうしようもないです。

だってマーシュの事とか全然知らないし」


「思ったんだけどさご主人、何でわたし達までマーシュへ行くことになってるんだろ。

ドラドまで届けるだけって話だったような。

だいたいリューさんが実家に帰るついでなのに、わたし達が居たら邪魔なんてもんじゃない気が」


「んんん、あれ、言われてみればおかしいぞ?

でもマーシュは見てみたいかもしれない」


「そういやお前らが俺の家に来ても本当にどうしようもねえな、すっかり忘れてたぜ。

ううむ、アズレウスは大丈夫みたいだしよ、マーシュまでは一緒に行ってそこで別れようぜ」


「ならそれで行きましょう」


「楽しみだ俺、どんなとこだろ」


「んじゃ、(ボード)出すよ?」


 アズレウスを背中に乗せたリューコメラスが飛び立つ。

浮遊するフェルジーネと、飛行(ボード)に四人分の荷物と共に乗り込んだプロセラとツキヨがそれを追った。

なお、吸血鬼の里マーシュは二人を大いに落胆させた。

主にプロセラの日本知識のせいで色々と妄想が膨らんでいたのだが、到着してみると生活時間帯が夜にずれ込んでいるだけの極々普通の街であったからだ。

ちなみにミルクや血を取る為の牧畜が盛んであり、名産物は肉の加工品と毛糸である。

リューコメラス達と別れた二人は、一日だけ宿泊して土産に巨大な肉の塩漬けを購入し、さっさとバルゼアに帰還した。

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