33話 『城前広場の変』
アルテミア教国首都、城前。
広場から大通りにかけ、異様な熱気に包まれている。
今日は国王、ブランチネラ十一世の即位記念日なのだ。
路地には無数の露店が並び、大通りを様々な組織や部隊が行進している。
そして広場の半分ほどを軍と大神殿関係者が埋め、奥の演壇には王その人と王妃。
周りには警備兵と議員たち。
時刻はそろそろ日が傾き始めるかというところ。
祭りそのものは夜更けまで続けられるが、アルテミア教国関係者の出番は終わりが近い。
例年ならば、王の二回目の演説と午後のパレードで終了だ。
((なあ、ツキヨ))
((わかってるご主人、神衛が来てないっていうんでしょ))
((どこかで待ってる、間違いない))
((うん))
重装の警備兵に混ざって立っているプロセラが兜に隠れた表情を少し歪ませた。
口には出さず、思考のみで会話する。
相手はもちろん彼の中に入って運転しているツキヨだ。
アスタサイド将軍とオラトリア将軍が表立って事を起こすならば今日以外有り得ない。
そう念を押されている。
プロセラ達、いやプロセラの当面の任務はクラム・ドポールを含めた議員達を守り、退避させること。
トリオプス将軍と父オストロが旧知であったことを利用して、四日前から警備に割り込んでいるのだ。
王にはもともとの近衛に加えて別の者がついている。
考えをめぐらせていたその時、通信が入ってきた。
現在彼の耳、いや関係者の耳には長門影に渡された小型受信装置が取り付けられている。
長門影とウィステリアを通し、様々な情報が流れてくるのだ。
((先手を打つ。すぐに王の演説で民衆と一般兵、大神殿関係者を退避させ、敵と交渉に入る。
その後はあちらの出方次第也))
((……だってさ))
((トリオプス将軍と王様の勝ちはもう決まってるよね))
((裏工作を一通り止めたから、後は直訴だけって話だし))
((終わった後どうなるんだろー))
((もう何でもいいから収まって欲しい))
周囲を警戒しつつ、待機しているとブランチネラ十一世が厳かに話しはじめた。
演壇には音を増幅する風魔法を仕込んだ機械が取り付けられている。
これにより広範囲に王の声を届けることができるのだ。
例年通りの祝いの言葉、大神殿の祝福について、そして……
「…………皆のもの、直ちに帰宅せよ!広場周辺に在住するものに限り城内へ!
そして本日の外出を禁ず、これは王としての命令である!祭りは明日以降に順延!」
王の言葉にざわめく人々。
しかしいくらかの重鎮に話が通っていたようで、各々部下を引き連れ、撤収していく。
アルテミアは大神殿の権力が大きい。だが王と議会も決して飾りではないのだ。
数度に渡って言葉が繰り返され、兵士達が行進しながら大通りを通って宿舎方面へ向かうのを見るに至って、祭りに熱狂していた民衆も遂に引き始めた。
そしてしばらく後。
広場に残っているのは百人ほどだ。
うち半分以上は何時でも逃げられる体勢で結界と板に守られている議員達とその護衛。
残りが実際の関係者だ。
王が演壇の増幅機を切り、悲しそうに呟いた。
先程まで横に居た王妃は退避済みだ。
「なにゆえ、お主達はここにきて物理工作を起こしたのだ。
刺客を放ったのが誰かはわかっておるぞ。
だが、今までずっと正々堂々議会で戦ってきたというのに……」
王の視線の先に居るのは、白銀鎧のオラトリア将軍と、朱鎧のアスタサイド将軍。
そして、彼らと志を同じくする十数人の精鋭兵。
「王よ、我々はもはや申し開きはせぬ。
だが考えて頂きたい、二十年に渡り軍備を縮小し続けアルテミアはどうなるというのです!
全て大神殿の思うままか!何か起こったらどうする!
我々はずっと主張し続けてきた、だが議会は決して予算を通さぬ!
このままでは来年にも兵達は食っていけなくなります。
退役させても意味が無い、職そのものが不足している、もはや一刻の猶予も……」
アスタサイド将軍が叫ぶ。
辺りは静まり返り、一触即発の緊張状態だ。
ブランチネラ十一世が悲痛な溜め息をついた。
「そんな事は、皆わかっておる。
余も、トリオプスも、議員達も、大神殿の連中もだ。
だがどうしようもない、それぐらいお主達もわかっておろう?
三十年以上の間、何の戦いも起こっておらんのだ。
そしてわが国が国境を接しておるのはバルゼアのみ、しかも広大な森林と山脈を通じてだ。
背後は海までずっと山脈よ。
海沿いには塩と干し魚がわずかに入ってくる漁師町が一つ。
どこから侵略があるというのだ!
そして、何より金が無い!
外貨を獲得できるのは埋蔵量の怪しい鉱物、そして大神殿への巡礼者のわずか二種。
予算も危険も無い、そんな状況でどうして軍備を維持できよう」
王の言葉は真実である。
しかし、アスタサイド将軍の叫びも同様だ。
この争いは今に始まったことではない。
決着をつけるべきところまできている。
その時、今まで静かにしていたオラトリア将軍が動いた。
「偉大なる王よ、議員達と共に城へお戻りください。
ここにいない我々の派閥は全てトリオプスと王に帰属致します。
既に周知済みであり、それによる混乱は無いはず。
なお王子に罪は無い、我々を思って下さったのをいい事にこちらが勝手に利用していただけだ。
さて、先程危険が無いと申されましたな。
危険を、今から見せて差し上げます。さあ、早く城内へ!」
言うが早いか、アスタサイド将軍とオラトリア将軍、その部下達が散開。
各々に魔力、活力が漲り始めた。
無論、トリオプスと部下、そして探索ギルドより遣わされた者達もだ。
議員たちが退避を始める。どうやらオラトリア達はそちらを攻撃するつもりは無いようだ。
そして長門影からの個人通信が議員達を退避させ終え、城門で待機するプロセラに届いた。
((城は神官長が結界を張る。上空から広場の外へ漏れる攻撃を止めよ))
((結局、戦うんじゃないか……))
((でも、なんとかアルテミアがなくなることはなさそうだよ))
((死なないことを考えよう))
プロセラが板に乗り、上空へと舞い上がる。
広場では、戦闘が開始されていた。
中央付近で凄まじい咆哮を上げるのは、家ほどもある炎の獅子。
覚醒したアスタサイド将軍だ!
「GROWRRRRRRRRRRRRRRR!!!」
「もう、言葉も通じぬか」
獅子と向かい合うのは、稲妻と化した巨大な槍を持ち宙に浮くトリオプス。
槍が飛び、刺さるが怯まぬ。
そのまま跳び、巨体を活かした体当たりで敵を地に叩き落とさんとする!
トリオプスは素早く高度を上げ回避。
「ぬああ!」
叫んだのは攻撃をかわしたはずのトリオプス。
獅子の傷から吹き出たのは血ではなく炎!
トリオプスが炙られ落下、それを追撃せんとする獅子を新手が遮った。
割り込んできたのは柿色の機械忍者、長門影。
高速で脇差を振るい、炎を吹き散らす!
だが。
「ROAR!」
獅子の大口から吐き出されたのは高熱の青い炎。
光線のごときそれが長門影を飲み込まんと……いや、まだだ。
「―!!――――!!!」
耳障りな電子音で叫んだ長門影の身体が赤い光に包まれる。
ジジジジジ、雑音と共に謎の斥力が発生、青い炎を遮断!
「限界です」
身体に仕込まれた防御機構が発する信号を呟き、長門影が飛び離れた。
お返しにクナイを数本投擲、獅子の肩を傷つける。
そして後ろから向かってきている別の敵と鍔迫り合いだ!
獅子は復活してきたトリオプスと再び相対する……
その後方、監視塔の近くでは白銀に輝くゴーレムの様な巨兵の肩に乗ったオラトリア将軍が、奇妙な相手と格闘していた。
丸い水球に包まれた細身で長身のスキンヘッド男。
水球の周りから、青く太い水の触手が伸びて白銀ゴーレムに絡み付いている。
彼こそが特務員、“入道”。
水の精霊契約者であり、水そのものの操作に特化した魔道士だ。
対物で圧倒的な強さを誇る。
「おのれ小癪な」
「…………」
白銀ゴーレムの身体が煌き、水を撥ね散らす!
解呪が仕込まれたその外皮は、敵からの魔力操作を主の命令により粉砕可能なのだ。
だが“入道”の水触手は尽きることなく生み出され、長期戦を予感させる。
その周辺ではトリオプスの部下とウィステリアがオラトリア将軍の部下達と切り結んでいた。
((うわあ、怪獣ばっかりだよ))
((わたし達はわたし達の仕事をしなきゃ))
目標を外れた炎が、雷が、水が、岩が、広場の外へ飛び出そうとする。
いくら巨大広場と言っても、数十人の精鋭戦士が魔法で乱戦して周囲に全く被害が出ないほど広くはない。
プロセラは長門影を通じて言い渡されたガノーデの命により、それら流れ弾を必死でカバーしているのだ。
((まずい、気付かれたぞ))
「貴様あああ!!!」
羽根を生やした獣人が二本の剣を振りかざし突っ込んでくる!
慌てて槍で受け止めるプロセラ。
「「僕は街を守ってるだけだ」」
「嘘を付け!」
「くそ!」
「問答無用、俺はラテリ、アスタサイド様の懐刀なり!」
その斬撃は高速で、さらに炎が追従している。
謎の古代物質で出来たプロセラの槍がそれで傷つけられることはないし、恐らく否死者の身体に痛打が入ることもないだろう。
しかし、空中で流れ弾を処理しつつ相手するのは無理がある。
さしものプロセラも下の大乱戦の中に落ちれば命が危ないのだ!
((わたしは街見なきゃだからあんま攻撃に参加できないよ、頑張ってご主人))
「「ちくしょう!!」」
「ハーッ!」
運転により得た怪力で振り回されるプロセラの槍を、ラテリが華麗に回避しながら散発的に攻撃してくる。
火魔道士であるようで、時折火球が混ざり、プロセラの身体が焼け焦げる。
「「熱い熱い熱い」」
重鎧のせいで無駄に熱攻撃の持続時間が長い。
しかし、それでも一対一ならばプロセラに分があるようだ。
剣の片方を叩き割り、ラテリの二刀流が崩れる。
「何たる頑丈さ!」
((ご主人、下!))
「「う?!」」
プロセラの足元が青く輝く。獅子の高熱火炎だ!
咄嗟に飛び退いて事なきを得るが、しかし。
「捕ったぞ、腐食」
ラテリが鎧を掴んだ、その瞬間。
鎧が錆び、崩れ落ち、爆発した!
((やば))
((堕ちる、ツキヨ、ちょっと!))
((運転調整中))
「「うがあああ?!」」
((頑張って?))
刻まれながら墜落するプロセラ。
傷は即座に再生するが運転が復旧しない事には、空中行動が出来ぬ。
横から何者かの放った岩が直撃、脳漿を撒き散らしながら地面に叩きつけられる。
ラテリはそれを確認し、主である傷だらけの獅子のサポートのため飛び去った。
次々と岩石弾が降り注ぐ!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やってますわね」
「そうじゃのう」
高空を飛び、広場へと向かいつつある老人と女性が呟いた。
どちらも神殿騎士の姿。
しかし、二人は神殿騎士ではない。
大神殿教皇直属、神衛だ。
女性は白熱する仮面を被り、足元と背中、そして頭部から炎を発し浮遊している。
老人の方は鎧や服の装飾が金色であること以外普通の姿だ。
「金影隊長、こんなもの副長が出れば一発だったのでは?」
「何があるかわからんのに、教皇様を誰が守るんじゃ。
それにしてもその姿は美しいのう」
「見ないでください。穢れます」
「酷いじゃないかヴェルナ……」
「前も言ったと思いますが、私は金影隊長の前科を全て聞いておりますので」
「何故ばれたんじゃ、全くわからんぞ……まあよい、思ったより拮抗しておる、行くしかあるまい」
「はい、融解士!」
ヴェルナの姿が完全に白炎と化し、速度を上げる。
全身から虹色の光を発しはじめた金影が後に続いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ゴボッ……ゴボボ……」
「ハハハハハ!虚弱!虚弱!」
オラトリア将軍が操る白銀ゴーレムが水球から伸びる触手を掴み、振り回す!
中でふらついているのは“入道”だ。
純粋な力量差が出た形である。
だがその下では。
「あがっががが……ぐ……」
「対象の生命喪失を確認」
ウィステリアが、電磁力で引き寄せていた相手を解き放つ。
短剣がカランと地面に落ちた。
身体はどこにも残っていない。
オラトリア配下と思しきその男は、液体の身体を持ち、物理攻撃をすり抜けながら念力で攻撃してくる厄介な相手だった。
彼により数人のトリオプス配下が殺されたり、戦闘不能に追い込まれている。
脇差もクナイも効果が無かった為、内蔵の戦闘用プログラムに解析させていたのだ。
任されたプログラムが出した結果が先程のもの。
即ち、超音波を照射して、振動で液体人間の思考能力を奪った後の熱光線直当てである。
「うおお!ディキャストおおおお!!」
腹心の死に怒り狂うオラトリア将軍が“入道”入りの水球を彼方へ投げ飛ばし、ウィステリアを破壊せんとする!
ウィステリアの藤色の瞳の奥で、戦闘プログラムが白銀ゴーレムの解析を開始した。
見かけによらぬ敏捷さを発揮した白銀ゴーレムが拳を振り下ろす。
ウィステリアは蒸気を噴いて真横に高速移動し回避、再度ロックオン。
「GRRRRRRRRR……」
炎の獅子が唸る。
元アスタサイド将軍であるそれは、もはや満身創痍。
しかし、血の代わりに炎が噴き出すために負傷で戦闘力が落ちぬ難敵だ。
横を鳥の獣人、ラテリが舞う。
獅子に対して稲妻の槍を振るうトリオプスは体のあちこちが焦げ、やや動きが鈍っていた。
長門影も右腕と左脚が焼き切られ、体内から新たに展開した棒状の代用脚で動いている。
((緊急事態です。空から新手))
白銀ゴーレムと睨み合うウィステリアが突如跳び下がり、警告を発した。
上空から降って来るのは白炎で出来た巨人、そして虹色にぎらぎらと輝く薄っぺらい巨大な人型のようなもの。
それらが広場入り口に悠然と着地、瞳の無い顔で戦場を見据える。
「何だあれは!」
トリオプスが叫ぶ!
更なるウィステリアの警告。
((下からもう一体、危険!))
様々な戦闘の余波で瓦礫だらけになっている広場中央から、輝く触手が湧き出す。
それが歪で巨大な人型をとり、周囲には半透明の輪郭が実体化。
全身が鈍く輝き、顔のパーツがあるべき場所には何も無い。
更に背中や腕から太い魔力触手が伸び、禍々しく蠢いている。
冒涜的な光の巨人!
運転安定したよ。で……どうしよう……
仕方なく制圧者になったけど、どれが敵だ?
ええと、獅子と、鳥人間と、ゴーレムかな
いや、そっちじゃない……
わたしに聞かれても困るよ
生き埋めにされ、地下で運転の調整と様子見を行っていたプロセラとツキヨ。
戦闘が終わる気配が無いため、自動吸収を押さえつつ制圧者として戦場に復帰した。
地上に出てみると全く見覚えの無い、しかしあからさまな強敵が追加で二体。
化身共は身に纏う魔力が濃すぎ、生命反応の感知が不可能。
しかも埋められる前に受信機が破損したために、長門影とウィステリアのメッセージも二人は受信できない。
更に悪いことには制圧者には人語を発声可能な器官が無いのだ。
((なんじゃあれは?!))
((不明です金影隊長、資料にも記憶にもありません。))
元特務員、現神衛の二人が神聖魔法、霊話で会話する。
前もって互いに幽霊を仕込んでおくことで念話が可能なのだ。
化身魔法は人語を喋れない事の方が多い。
((それにしてもでかいな、敵か?))
((味方と思うのは楽観的過ぎるでしょう))
((仕方あるまい、将軍の確保は諦め、奴を殺すか追い払う))
((はい))
やっぱり敵っぽいぞツキヨ?!
距離があるから、その前にゴーレム破壊を
任せた
制圧者の背中から伸びた触手が、呆然と立っていたオラトリア将軍の白銀ゴーレムを巻き取る。
咄嗟の反応が追いつかなかった将軍を振り落とし、魔力を吸い取り、砕いた。
残りはウィステリアたちに任せ、向かうは正面、白炎巨人!
「BOOOOM!」
白炎巨人の拳が爆発!
立ち上がった制圧者がそれを掌で受ける。
プロセラが転換による吸収を試みるが、どうやら強固で崩せない。
諦めて力技で拳を逸らしてもらい、更にオーラを操作。
制圧者の全身から斥力が発生、白炎巨人を弾き飛ばす。
飛ばされた白炎巨人は背中から炎を噴き、空中停止。
首をかしげて制圧者を見下ろした。
「―――・・―・・―・――」
虹色人型が泡立ち、表現しようがない不快な音を立てる。
ぎらつく表面から岩が、炎が、稲妻が、氷が湧き出す!
それを器用に転換、あるいは体で受けつつ、虹色人型に制圧者の触手が伸びてゆく。
インターセプトするのは白炎巨人だ。
刃のように伸びた脚が触手もろとも腕を切断し焼却!
「AAAUGHHH!」
千切れ飛んだ腕を再生させながら制圧者が周囲の空気を振動させ、叫ぶ。
巨大な板が出現し、白炎巨人を背後から殴り倒した。
転倒した巨人は起き上がるのではなく、倒れた背中から一瞬で新しい身体を生やし、元の身体を吸収。不可思議!
地面に叩き付けられた跡が高熱で歪んでいる。
巨大板を虹色人型が呑み込み、消し去る。
((今のは))
((どうした、戦闘中じゃぞ!))
((こいつ敵じゃないわ、撤収))
((どういうことじゃ))
((後で話すわよ、とにかく飛んで街を離れる。将軍の確保は諦め、副長と教皇に謝るのは私もやるから))
((むむ……熱っ掴むな!!自分で飛ぶ、飛ぶから離してくれ!))
うげ、二匹とも逃げるぞ、ヤバい!
あんなの、アルテミアに解き放つわけにいかないよ
勿論、追わないと
白炎巨人が背中に翼を生やし、炎を噴出し飛翔した。
山脈の方に飛び離れていく。
それに続くのは、ひらひらと舞う虹色人型。
更にそれを追う制圧者。
次々に巨大板を生成しては消す作業を繰り返し、空を走る!
三者三様の高速飛行でアルテミア教国首都から離れて行く怪物達。
広場に残された者達は、それを呆然と見送っていた。
“入道”が倒れていなければ、あるいは城内で強力な結界を維持している神官長が外に居れば、この混乱は避けられたやもしれない。
だが全てが遅かったのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「軍備を、か…………
それにしても無茶をしてくれたものだ」
全てが終わったのを確認し、数人の護衛を伴い戻ってきたブランチネラ十一世が肩を落とした。
そこは惨憺たる有様である。
見渡す限り掘り返され、瓦礫が散乱し、様々な魔法の爪痕が残された城前広場。
オラトリア将軍とアスタサイド将軍は、最後まで生き残っていた数人の腹心と共に自刃した。
遺体はアスタサイド将軍の操る青い炎に焼き尽くされ、骨も残っていない。
トリオプス側の被害も甚大だ。
この戦いに耐えられる精鋭の部下を半分ほど失い、残りも将軍本人を含め大なり小なり負傷している。
そして王とトリオプスを守るために派遣されてきた探索冒険者達。
長門影は片腕片足を失う大破。
内蔵武器のほとんども使い切られており、バルゼアに戻ったら即座に新しい身体へと乗り換える必要がある。
“入道”は生きてはいるが、消耗しきって意識不明。
つまり、無傷なのは全員の中でウィステリアのみ。
プロセラとツキヨは行方不明で、残された槍はウィステリアが回収している。
遅れてやってきた神官長が、先程の巨人の内二体が神衛であることを知らせた後に負傷者たちを癒しはじめた。
「まずは夜更けまでに広場を片付けて外出禁止令を解かねばなりませんな、陛下」
「すまぬ、トリオプス」
「この衝突は、絶対にいつかは起こったでしょう。
むしろ被害は最小限だったと思われます」
「どうかのう、まあ、当分忙しいが、勤めじゃな」
「高速で強大な反応が接近してきています」
ウィステリアが王と将軍の会話に割り込み、広場の向こうを睨んだ。
家々の屋根を次々と飛び越え、白い影が向かってきている。
それは広場の入り口から一飛びで王の前に降り立った。
「陛下」
それは神官風の服を来た長身の女性だった。
帽子を脱ぎ、恭しくお辞儀をする。
だがその右手に、泡を吹いて気絶した中年の神官を掴んでいるために礼も何もあったものではない。
「何者ぞ」
「私は教皇よりの使い、神衛副長であります。
謀反者を引き渡しに参りました。
今回の事件の首謀者の一人、神官長補佐マッシュ」
「まことか」
「偽ってどうしましょう。
いずれにしろ、彼の処断をお願いいたします。
……他の謀反者達はどうなされたので?」
「全て終わった後である。ともかく、教皇様に伝えてくれ」
「わかりました。それでは失礼いたします」
言うが早いか、ヴィローサは来た時と同じように一瞬で去って行った。
「どうしたものか……」
「陛下、私達大神殿は、いえ、少なくとも私はアルテミア王家の味方ですよ。
あまり抱え込まれぬ方がよろしいかと」
大柄な中年女性が呟いた。
負傷者を癒し終えた神官長だ。
「陛下、ともかく先程の外出禁止令を」
「そうじゃの」
何はともあれ、明日は祭りだ。
人々は王の言葉を必要としている。
精鋭や将軍=兵器みたいな扱いですね。怪獣大決戦。
ここからアルテミア教国内乱編……とかはやりません。
やっぱり平和がいい。




