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ライフレート  作者: 岡本
第五章 帰省も楽じゃない
32/54

31話 『サプライズ』

「結構早く着いたな。それにしても家少なすぎる、わかってたけど」


「そんなに急いだつもりは。

でも変わんないねアルミラ家の周り……いや、前より畑が減ってる気がするご主人」


「過疎すごい、下手したら、父さんたちが生きてる間に村なくなるぞ」


 眼下に広がるのは、二人にとって懐かしいというほどでもないが久し振りなアルテミアの田舎だ。

本当に何も無い。遠方には少し家の多い隣村。


「なくなったらやだなー」


「まあ降りよう」


「はーい」


 急降下する飛行(ボード)

二年前アルテミアからバルゼアに行った時は、途中のアクシデントを除いても二泊している。

今回は一泊、それも二日目の午前には到着したのだ。

道がわかっているというのもあるが、やはり速度とパワーが上がっているのだろう。


「うわツキヨ、そっとだよそっと」


 プロセラが縄で縛った大きな箱を担ぐ。

今回の帰省最大の目的は、実家にバルゼア産の湯沸かし機を取り付けることだ。

アルミラ家の水道は井戸水だが、ポンプ式で一応蛇口から水が出るし、川が近いだけあって水量もかなりある。

バルゼア魔導ギルドの水道屋に相談すると、まず大丈夫だろうということだった。


「便利になるね」


「使うのは当分の間僕らじゃないけど」


 アルミラ家へ繋がる道をだらだらと歩く二人。

季節は秋、遠くの畑で収穫している人が何人か見える。

他は無人で、通行人は二人以外誰も居ない。

角を曲がれば大した大きさでもないが正門だ。


「考えたらさ、別に直接庭に降りてもよかったよね」


「こういう時は門から入るのがいいんだよ、演出ってやつ?」


「そっか……あ、お父さんだ。帰ってきたよー!」


 家の前を掃いていたカワラがこちらを向いた。

ツキヨの父であるカワラは、猟師であり庭師であり清掃員でもある実直な男だ。

魔法を全く使えないというこの世界では不利な特徴を持つが、それを補うだけの技能は持っている。


「おお、お帰りツキヨ、プロセラさ……も元気そうで。

皆を呼んでくる。今日はオストロ、も居られるから」


 二人に挨拶し、やや涙ぐんだカワラが中へと走っていく。

どうやら今日はヴィローサ以外全員揃っているようだ。

アルテミア首都方面に勤務するオストロは家にいない日の方が多い。

運がいいといえるだろう。


「あ、行っちゃった。

なんかさ、カワラさん様子が変じゃなかった?」


「確かにお父さん喋り方がおかしかったような……

悪いことがあったようには見えないけど」


 妙に挙動不審なカワラに首をかしげながらも門を抜ける二人。

久々の実家は、住人が二人減っていたせいか、それとも帰省に合わせて丁寧に掃除したのか、少しだけ出発前より綺麗になっていた。

玄関に荷物を下ろし、一息ついているとすぐに家の皆が出迎えにやってくる。

先頭は勿論父、オストロだ。


「帰りました、残念ながら長くは居ないけども。

父さん母さん、マンネンさん、それと……」


「ただいまー、お土産あるよ、あ、あります!」


「元気そうだな二人とも!心配したぞ、少しはな」


「相変わらずね、プロセラ」


「強そうになったのう……」


「……」


 一通り再会を喜び合ったのち、プロセラとツキヨがバルゼア土産を開封し、取り付け方を確認しようと荷物の方へ向かう。

久々の帰宅だが、やはり二年前と変わっていない。

だが意外なところから問題はやってきたのだ。

具体的にはオストロの口から。


「ゴホン、なあプロセラ、ツキヨちゃ……さん……」


「んん、どうしたの父さん。

これから土産の湯沸かし器を取り付けるんだ、お湯が使えるようになるよ」


「オストロ様?」


「俺が孫の顔を見られるのはまだか」


「「え?!」」


 二人の宇宙人でも見るような目がオストロ達に向けられた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「なあ、何でそんなことになってんの父さん、母さん、ねえ。

ちょっとマンネンさんたちも何か言ってよ黙ってないでさ!

僕そんなことこっちでも手紙でも一度でも言った?

言ってないよね?!」


「わたしも全然聞いてないんだけど?

さっきお父さんとか、オストロ様の言葉遣いがおかしかったのそういうこと……はあ……」


 積もる話をする予定だった帰省が一転、反省会の様相を呈してきている。

特にオストロとプロセラが互いに引かないため、なかなか話が終わらない。

残りの五人はもうどうでもいいといった感じになっているのだが。


「言わせてもらうがなプロセラ、あの時のお前の話は何だったんだ。

連れて行くとか、成功させるとか、幸せにするとかで二人で家を出るとか結婚以外に何がある?!

しかも告げてから余韻も無くわずか十日で消えやがって!」


「仕事のことに決まってるだろ。

そもそも僕とツキヨのバルゼア行きに許可出したのも、姉さんの用意した探索ギルド本部への紹介状出してきたのも父さんじゃないか。

それでちょっと戻ってきたら、本人が知らないうちに籍が入ってるとか理解不能にも程が!」


「ならお前は他にいい人がおるのか?!」


「いないけど、違う、そうじゃない!

 僕が言ってるのは何で勝手に処理したのかって事で」


「勝手にも何もまず勝手に二人で出て行ったのはお前だろう!

俺が細かいことを話すタイミングは全く無かったぞ」


「いやいやちゃんと説得して出たよ、勝手にって言うなら土下座までした僕の立場はどうなるんだ。

それに、ずっと二ヶ月に一度手紙だって送ってた」


 話し合いというか罵倒合戦は完全に平行線である。

マンネンは容態が心配な人がいるので昼の往診をしてくると言い残し、溜め息をついて立ち去った。

実際、彼女はツキヨの祖母であるということ以外この騒ぎには無関係なのだ。

カワラとエノキはどうにも口を挟めない雰囲気に黙り込んでいる。

ツキヨは落ち着くまで放置するしかないと判断し、湯沸かし機の荷解きをはじめた。


「いーやそういうのを勝手と言う!

嫌いだから嫌だと言うならお前が自分で破棄せい!」


「ふざけんな好きに決まってるだろ!僕が何に怒ってるかわかってないよね父さん」


「ぐぬぬ……もう今日という今日は!」


 既に一刻近くが過ぎようとしている。

そんな中、怒りを溜めている人物が一人。


「いい加減にしなさい、二人とも」


「わからんのか俺の心……モ、モリーユ?」


「かかか母さん……」


 辺りの温度が下がった気がするほどに冷たいモリーユの声が響く。

別に水魔道士というわけではない。単に怒っているだけだ。


「いいですか?」


「「はい」」


「紛らわしいにも程がある説得方法で、ツキヨさんを連れて家を飛び出していったプロセラには無論責任があります」


「は、はい……」


「ほれ見たことか」


「黙りなさいあなた!

あの後、私に相談も無く、カワラさん達を丸め込んで勝手に二人の籍を入れたあなたが一番悪い。

そりゃアルテミアは両方の親が許可すれば本人不在でも結婚可能です。

でもおかしいでしょう?!」


「いや、じゃってあれだぞ。モリーユも後で納得してくれたではないか。

実際あれは誰がどう見ても……!

あの時点では二人が生きているどうかすらわからなくなって、俺は肩身が狭いし、しかもこの村の若者はプロセラとツキヨちゃんで最後だ!

もう十年は人が増えておらん、滅亡秒読みだぞ」


「いい加減認めなさい」


「うむ、むむ」


 痛いほどわかる、わかるが勘弁願いたいオストロの先走りと自分の不注意に頭を抱えるプロセラ。

残念やら嬉しいやら今後どうしようやら、と空を仰いだ。


「はあ、もっとずっと先だと思ってたのにな……っていうか父さん、そんなこと考えてたならまず姉さんに人探してあげなよ」


「無理じゃ」


「言い切るね……」


「私でも無理なものは無理よ、プロセラ」


 変な意思の統一が行われるアルミラ一家。

その横で湯沸かし器を組み立てていたツキヨが振り返りもせず呟いた。


「後でわたしにもわかるように話してね、お父さん、お母さん、オストロ様。

ご主人……は別にいいか、今と何も変わらないと思うし」


 更に一刻ほどの話し合いの結果、当分保留ということで両親たちとどうにか和解できた。

その件もあって夕食を七人全員で囲んだ時は、オストロが再び問い詰められていたが。

なお湯沸かし器の接続は成功し、皆大喜びしていた。

後付けできる高性能のそれは、バルゼア魔導ギルドの新製品である。

バルゼア市街の建造物は大抵建てた時点で給湯システムがついているので、基本的に他国向けのものだ。

アルテミアでも首都や大神殿ではだいぶ広まっているはずということだったが、当然アルミラ家があるような僻地だと珍しい。

ともかくそれにより、プロセラを含めた全員が暖かい風呂といつでも飲めるお茶の恩恵に預かったのである。

久々の実家の布団での睡眠は、快適は快適だが隣に誰も居らず、少しだけ寂しかった。


「もう戻るのかプロセラ?」


 そして数日が平和に過ぎた。

夕日を浴びながら荷造りをしているプロセラを見てオストロが声をかけてくる。

元々湯沸かし器をつけてちょっと思い出話をしたら動くつもりだったので、むしろ長めに滞在しているのだ。

勿論原因は結婚騒ぎのため、あまりオストロの立場は強くない。


「あんまり長く滞在する予定じゃなかったし。

でもまた来年辺りには来るよ父さん。

今度は、こんな衝撃の報告は勘弁して欲しいけど。

別に休みがもう終わるとか、家の居心地がなんてことはないよ。

今回は早く行く必要があるんだ。

大神殿の姉さんとこに寄っていこうと思ってる、あと探索ギルドのアルテミア支部をチェックするのも」


「首都にしばらく居るのか、気をつけたほうがいいぞ」


「どういうこと」


「今アルテミアはきな臭いんだ。

前に、そうお前の就職の話の時、軍が縮小しとる話をしただろう。

その件で反乱が起こるのではないかという話で持ちきりだ」


「アルテミアの軍ってあんまし強くないんじゃなかったっけ」


「大神殿と事を構えることは無いと思う、明らかに戦力が足らんからな。

だが将軍三人のうちアスタサイドとオラトリアの二人が王子を担ぎ上げて何か画策しとるんだ、そろそろ危ないらしい。

情報源は俺の元上官トリオプス、つまり穏健派の将軍であるからまず間違いなかろう。

いくらなんでも市街を巻き込みはせんだろうが、注意するに越したことは無い」


「うーん……まあ、ありがとう。心には留めておくよ」


「うむ、何かあったら、いやよしとこう。

探索ギルドや大神殿より安全な場所はあるまい。

それで出発はいつなんだ、すぐか?」


「いや、明日朝だよ。まあ時間はある程度どうにでもなる、飛んで行けるし」


「言っとったな、お前が飛ぶのか」


「ツキヨの方」


「そうか、まあなんだ、気をつけてな」


「出発の時言ってくれ」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「どうしようかなあ」


「んー?」


 アルテミアの抜けるような青空を飛行(ボード)が漂っている。

アルミラ家を出発したものの、行き先について悩んでいるのだ。


「首都情勢微妙なんだってさ」


「そっか、わたしはてっきりあれで悩んでるのかと」


「結婚の話はとりあえず考えないことにした。

そもそも僕等って、生殖機能残ってるんだろうか」


「どっちにもあるよ。

簒奪管(ユザーパー)でわかるし、そういうの。

帰ったらやってみる?」


「まだやらなくていいからね?

二人とも身体が劣化しないんだから急がなくても問題ないし、触れ合うのも魔力接続で足りてる。

それよりアルテミア支部と大神殿を」


「それもそうね、思ったんだけど劣化しないならもしかして……ま、今はいいや。

それでどうしよ?あ、今わたし達ってバルゼア人なのかな」


「アルテミア人のままで、身元保証をゼムラシア探索冒険研究連合体がやってるって状態のはず」


「なら首都に居てもなんか言われることなさそうじゃない?」


「ううむ、大神殿は後でいいとして、先に支部で話聞いて考えよう。

あれ無いぞ、本部でもらった首都の地図どこだ」


「あるよ」


 数枚の紙が浮きあがり、プロセラの手に収まった。 

探索ギルド産の地図だけあってアルテミア支部の場所が一目でわかる。


「ええと……城があって監視塔があって商店街に闘技場(コロセウム)があって、反対側と。

結構外周にあるんだな」


「昨日のうちにアルミラ家出てもよかったね、夜なら迷彩すれば街中飛んでも目立たないし」


「夜じゃ宿探す時間が無いからどっちもどっちだよ。

降りて、あと着替えてから行こう。

この服汚したら大変だ」


 近くの林に着陸して仕事着に着替え、市街へと向かう。

アルテミア教国首都は当然アルテミア最大の街だが、百万都市バルゼアに比べるとずっと人がまばらだ。

そして大神殿の影響か、あるいは城を中心とした街だからかバルゼア以上に壁が多い。


「あんまり首都来た事なかったけど、この道地図あってもわかりにくい……」


「そこの突き当たりを右に行って、少し進んで左。

待てツキヨ、何か来る」


 街中が故絞っていた生命感知の片隅に、危険そうな反応が引っかかった。

即座に索敵範囲を広げ、荷物を降ろして身構えるプロセラ。

ツキヨは魔力の動きによりもっと早く気付いていた。

普段の装甲以外に、髪や腕から小型の(ボード)が展開されている。


「五人、いや三人になったね」


「追われてる?

けどあいつら、通行人殺しながら来てるような。

父さんの情報正確すぎるだろちくしょう!」


「全然正確じゃないよ、だって市街を巻き込んでる……っと」


「ぬあ!」


「!?!」


「また新手だと、奴を侮りすぎたわ!」


 左の角を曲がって突っ込んできた三人のうち二人が、一瞬で道を塞いだ大型の(ボード)に激突!

残った一人が身体を翻し跳ぶ。

新たに生成された(ボード)も砕き割り、プロセラ達の前に着地した。

どうやらリーダー格のようで、他の二人と雰囲気が違う。

三人は全員男で、フードで顔を隠し鎖帷子のような防具を身につけている。

激突した二人もすぐに起き上がり、片方が神聖魔法の解呪(ディスエンチャント)(ボード)を消す。

何にしろ真っ当な人種ではない。

戦闘態勢に入ったツキヨの冷たい瞳が三人を見つめた。

大方の予想通りのトラブル二連打

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