表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライフレート  作者: 岡本
第四章 過去を求めて
28/54

27話 『調整』

「やっぱし、あれだけは大っぴらに練習するのは無理がある気がする」


「こんな効果があるなんてね……」


 プロセラとツキヨが立っているのは、昨日見つけておいた運転(オペレイション)を練習するための場所。

バルゼア大森林の中ほどにあるそこは、周囲に大型生物や人間、亜人の反応が無く、山の影になっていて遠見などでもまず街からは見られない。

だが、それでも“制圧者(オーバールーラー)”と二人が名付けた、運転(オペレイション)状態での協力巨大化魔法の練習には不十分であった。

それは、制圧者(オーバールーラー)という名前の原因にもなった巨大化状態での特性にある。

否使者(イモータル)の特性に加えて、転換(コンバート)によりかき集めた膨大な生命オーラ。

それをツキヨが魂の魔法(ユニーク)で鍛えられた空間把握能力で人型に造形し、精髄(エッセンス)の髄と化す特性と簒奪管(ユザーパー)操作を組み合わせ運転制御する。

二人は先程まで制圧者(オーバールーラー)状態をテストしていたのだが。


「整地されちゃったなあ」


「純粋な戦闘か、もしかしたら開墾ぐらいには使えそう、かな」


 二人の周りには、朽ち果てて風化した木や草の残骸が堆肥じみて散乱していた。

動ける動物はすべて逃げ出したと見え、生命感知にはほとんど何もかからない。

生きているものは二人と、ほんのわずかの強靭な植物だけだ。

この狭い範囲にしか生息していない虫や草がいたら絶滅しているだろう。

最初に二人が変身した第十祭殿がある山の頂上付近は乾燥や低温、そしてセンペールの地租(ランドレート)に耐えられる植物がまばらに生えているだけの不毛の地だった。

そのため、制圧者(オーバールーラー)の“近くのエネルギーを常時、自動的に吸い上げる”特性に気付けなかったのだ。

あの時、センペールだけが起きてきて、メタセは出てこなかった。

感覚が鈍いのではなく、力を吸い取られて深い眠りに落ちていた可能性が高い。

ともかく、何となく山に近づかなくてよかったというべきだろう。

森の一部ならまだしも山の木々がまとめて枯れたら目立ちすぎである。

どう考えてもそういう問題ではないのだが。


「とりあえずだ、自動吸収を抑えよう、オーラや簒奪管(ユザーパー)を操作する要領でさ。

たぶん気をつければ簡単なはず、魔力だって引っ込められるんだから。

あとサイズ調整」


「うん、外見の変更と技の研究は後だね。今のままじゃ変化すること自体があぶない」


「そうっと、慎重に小さめに変化してみよう」


「じゃあ、運転(オペレイション)するよー」


 再びツキヨが崩れ、髄としてプロセラに融合する。

この状態だけならそれなりに維持でき、食事などしても問題ない。

寝るのは暴走の危険がありそうでやっていないが。

それはともかく、慎重に制圧者(オーバールーラー)化する二人。

どうにか本来の十分の一ほどのサイズで大型化を止めることに成功した。

それでもかなり危険な力を感じる。


 どうだろう?ちょっとはマシになってるか


 たぶん無差別吸収にはなってない……はず、なんだけど……


 ああ、なんとなくわかる、こっちもだし


 ご主人もかー、このわざとゆっくり息してるような微妙に疲れる感じ


 自動でやってることを止めてるんだし仕方ない気も


 あっちの木に近寄ってみるよ


 おお!大丈夫だ!


 待って、下の草がちょっとずつしおれてる……


 うむむ……ならもうちょっと押さえてみよう


 ……うー……吸収は大丈夫だけど苦しい


 妥協が必要か


 そだね、多少は我慢してもらお


 後は維持……


 半刻ほど後。

その体がだんだんと萎み、本来の姿に戻っていく。

完全に素の運転(オペレイション)状態に戻り、そして。

粘液状の魔力が流れ出し、二人が分離した。


「はあーっ、つ、疲れた……」


「押さえてると時間も短くなるねー」


「今後の課題としか言いようがないな」


「そろそろ日も暮れちゃうし、戻る前に運転(オペレイション)状態で狩りでもしてみる?

もちろん変化は無しで」


「うん」


 二つの影が再び一つに融合し、あっという間に薄暗い森の中へと消えた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「お前さんらが持ってくるのも久しぶりだの。

全部合わせて銀貨8枚ね……しかし状態はもちろんいいが、なんだからしくないな?」


 素材窓口の主、クッキーカッターが二人の狩猟結果を見て微妙な表情をしている。

今日の獲物は小型の狩猟対象が数種類、数匹ずつ。

普段の二人は強力な生命感知と高い移動力でもって、単一の獲物を集中して狩ってくるのだ。


「すいませんバラバラで。今日はいろいろと実験していたもので」


「狩り時間も短めだったしね、ご主人」


「そりゃこっちは来るものを仕入れるだけだからね、別に謝るこたあないんだが。

ただ、お前さんらが狩ってこないと全く入荷が無いのとかもあるんだよねえ」


 プロセラとツキヨは何だかんだで、非魔物素材の供給に関してはそれなりの立場になっている。

特に、“そこそこ値段はするが普通の狩り方では割に合わない”ようなものは二人の独壇場。

ニッチ需要を満たすことで、わりと優雅な暮らしを実現しているのだ。


「あー……それがですねクッキーカッターさん、何日後からかは不明でまたしばらくいないと思うんですよ」


「またどこか遠征するのかい?」


「違うの、なんかわたし達ね、ガノーデさんに名指しで遺跡調査の手伝いしろって言われちゃって。

それが数日後に資料を送ってそれからどうこうとかー」


「なぬ、遺跡調査だと?!」


 突然身を乗り出してくるクッキーカッター。

一瞬何事かと思ったものの、彼が優秀な研究者であることを思い出した二人。


「何か注意しといた方がいいこととかあります?

遺跡とか、探索済みのものにすら行った事が無いので」


「なるべく破壊しない事と、罠に気をつける程度かね。

遺跡でなくても変わらんか。それよりだ、お前さんら二人が行くんだよな?

どちらか片方ではなく」


「ええ、まあ……」


「増えるかもだけどね?メンバーはガノーデさんが決めるわけだし」


「そうかそうか、なら弟をよろしく頼むぞ」


「「え?」」


「いやな、わしの弟は、といっても十も離れとるけども。

三級研究者なのだ。

素材鑑定などはダメだが学者としては相当やり手で、あちこちの調査に行っている。

そいつが昼に愚痴を言ってたわけだ。

“今回護衛が六級二人らしい、ふざけやがって、今度こそ俺は死んじまう”

……とな。他に考えられまい?」


「……」


「でも三級って強いんじゃないの。

それにクッキーカッターさんの家族でしょ?」


 ツキヨの意見はもっともだ。

研究者といえども三級ともなれば並みの連中より遥かに強いはず。

そもそもクッキーカッターの血縁という情報からして凄そうである。

彼より身のこなしが上と思える人物は、それこそ危険な連中ばかり。

その弟だって相当に違いない。


「無力な男ではない、しかし遺跡は何があるかわからんからな。

変な奴だが仲良くしてやってくれ。

どのみち詳細な決定が来るまでは時間があるだろ、それまではだ」


 クッキーカッターが数枚の紙を二人に渡してきた。

もちろん重点対象の獲物だ。


「いつもすいません、助かります」


「これ狩ってくればいいんだね」


「うむ。そろそろ閉めるからまたな」


「それでは失礼します」


 そして翌日。

朝のうちにクッキーカッターに頼まれたもののうちいくつかを処理し、時間を作った二人。

先程までやっていたのは無論、運転(オペレイション)状態の調整だ。

遺跡調査の開始までにはもっと安定させておきたい。


「どうも、繊細な作業には向いてないな」 


「自分の体じゃないしね」


「なんかこうさ、革命的なこととかできないだろうか」


「んー、運転(オペレイション)状態で、ご主人の手足を切り落として念力(テレキネシス)で操作するとかどうかな?

血とかオーラが漏れるのも、わたしが塞げば平気だよ」


 プロセラにだらりと身体を預け、半分精髄(エッセンス)化しかけているツキヨが突然怖いことを言い出す。

簒奪管(ユザーパー)の調査能力と運転(オペレイション)により、プロセラの耐久限界を本人よりも良く知っている。

……要するに、確実に大丈夫だと言える範囲では結構過激だ。


「やめてね?」


「うにゃ……こう、かっこいいかなってー」


「不気味だよ?」


「じゃあえっと……」


「却下」


「わたしまだ何も言ってない?!」


「まあ、本体や魂の魔法(ユニーク)とは別枠で何かを操作するって方向性はなしではないと思うけど。

あれはどうなの、簒奪管(ユザーパー)は?」


簒奪管(ユザーパー)は、わたしがコントロールしてる場所からでないとうまく出せないよ。

制圧者(オーバールーラー)状態なら自在だけどご主人ベースだと難しい。

こうさ、指の延長みたいな感じで操作するから」


「うーん……ま、身体を馴染ませることが優先かなあ」


「わたしは十分馴染んでて、あとは技術の問題だと思うんだけどね。

ご主人の身体が無いともう生きてけないよ」


「変な言い方しないの」


「むー……」


 ともかく、プロセラの身体を切り分けるようなものを除いて、思いつく限り適当に試していく。

無理が利く身体なので非常識なことも可能だ。

もちろん、ほとんどの候補は実用性が無い。

日が暮れるまで、その無意味なのか役立つのか微妙な実験は続けられた。


「……なんだ?」


「知らない人が来てるね」


 夕食を終え、アベニー二階でだらだらしている二人が同時に違和感に気付く。

高い魔力を持つ何者かが階段の途中まで来ている……いるのだが。


「怪しい。男かなたぶん」


「何してるんだろ、別に魔法使ってる様子も無いし泥棒とかじゃないと思うけど……」


「出迎えてみようか」


 店舗の二階である二人の家は、階段の一階側と二階側両方にドアがある。

件の人物は階段の途中で固まっているようだった。

二人が狭い廊下に出、ドアを開けると。


「どちら様ですか」


「おわあ!」


 飛び上がり、転げ落ちそうになる客らしき人物を、後ろから顔を出したツキヨが念力(テレキネシス)で受け止めた。


「危ないよ、階段急だから」


「あ、ああ、面目ねえ」


 その人物は、ゴブリンだった。

慌ててはいるが高い知性を感じる、どことなく見覚えがある顔。

何より近くで視ると、プロセラの良く知る人物と生命の形が似ている。


「ええと、クッキーカッターさんの弟さん?かな?」


「なんかだいぶ違うような気がするけど、そうなのご主人?」


「形が似てるから多分?」


「ん?兄貴と知り合いなのか」


「まあ、そうですかね?

でも本部所属でクッキーカッターさんと知り合いじゃない人なんて、ほとんどいないと思いますけど」


「ガノーデさんが遺跡調査の書類がどうこうって言ってた件かな。

でもずっと階段のところに居たの何故?」


「おう、遺跡調査のことであっとる。

階段で止まってたのは、なんか結界みたいなのが貼られとったからな、入っていいものかどうかと。

とりあえず所属証明を見せてくれ、俺は三級研究者、ミツクリだ。」


「あ、ごめんなさい。あれはただの防音なんで大丈夫」


 ギルドカードを確認しあい、ゴブリンを部屋に招き入れる。

例によって二人の部屋の様子には顔をしかめていた。

十歳違うというだけあり、老人に片足を突っ込んでいるクッキーカッターと比べミツクリは明らかに若い。

大体中年と言ったところか。


「おお……遺跡調査ってこんな感じなのか……

けどこの文字っていうか文章、ほんとに日本語なんですね。

実際に見るまで総長(ギルドマスター)が僕らをからかってたのかと思ってました」


 渡された書類をペラペラとめくり、日程や地図、推測される規模などの情報を確認するプロセラ。

入り口付近の写しだというページには確かに日本語がごちゃごちゃと書かれている。


「成る程な、総長(ギルドマスター)が六級のあんたらを指定したのはそれか。

この言語は面倒臭い、俺は半分しか読めん」


「わたしにはわかんないけどね?

魂の故郷の文字だから読めるんだってさ」


「埋まってる遺跡じゃねえみたいなんで発掘の必要はなさそうだ。

調査自体はプロセラさんと俺で十分だろうよ。

しかし他の護衛はいなくていいのかね。俺はあまり肉体派ではないぞ、何が出るかわからんし」


「危ないんですかやっぱり?」


「危なさは入ってみるまで判らない。

強大な魔法的存在は感じなかったらしいが、機械系の脅威は感知しづらいからな。

総長(ギルドマスター)から話は聞いてるよな?

古いからといって技術が劣っているわけではないわけで、どんな遺跡かにもよるが舐めたら殺られる」


「わたし達の魔法は二人とも防御寄りだから、よっぽど無茶な罠とかじゃなければ大丈夫だと思うけど」


「誰か連れて行った方がいいかなやっぱし」


「いいけど、ご主人が死ぬ状況ならだいたいみんな死ぬんじゃない」


「あんたら、もしかして結構強いのか?」


「弱い方ではないはずだけど、微妙なところですね……」


「勝てそうに無い人も何人かはいるしねー」


 考え込むミツクリ。

発掘が必要無い今回のような遺跡ならば少人数で十分だ。

別に研究し尽したり制圧することが目的ではなく、構造と何があるかを確かめるのが目的なのだ。

だがそれはあくまで無事ならの話、コストをケチって死んでは元も子もない。


「……すまん、強さとか漠然と言われても答えようが無いわな。

ううむ、どうするかね」


「基準、基準か」


「あ、説明思いついたよ、えっとねミツクリさん。

戦闘試験官のヴァラヌスさんいるじゃない?

あの人が覚醒(アウェイクニング)した状態に、わたし達が一人ずつ二回挑んだら両方負けるけど、最初から二対一ならどうにか勝てるぐらい」


「はい?」


「ヴァラヌスさん魔力喰いだから二人がかりでも結構怖いけどね……」


 ヴァラヌスの霊気捕食(オーライーター)は溜めが必要な代わり、極めて性能がいい。

生命オーラや魔力がメイン動力源の二人には、見た目以上に効くのだ。

なお非物質率100%のフェルジーネなどは掠っただけでダウンする。


「牙は怖いけど氷にはわたし達強いからさ、相性自体はとんとんぐらいだよ」


「待て、冗談だろ?」


 ミツクリが二人の顔を交互に見る。

気軽に言っているが、ヴァラヌスは強い。

本部に常駐しているメンバーの中では、総長(ギルドマスター)ガノーデに次ぐ戦闘力を持っている。

特務員を含めても間違いなくトップグループの一員だ。


「いや、本気ですよ」


「むう……そういうことなら別に人増やさんでも平気なんじゃないか?

調査のみだからそれほど長い仕事にはならんと思うが、よろしく頼む。

俺は火魔道士でレンジャーだ、そのつもりで動いてくれると助かる。

兄貴を知ってるんだったな?大体あれの下位互換だと思ってくれていい。

ところでそっちの、ツキヨさんはどういう魔法を使うんだ。

カードに載ってなかったが」


「わたしは念動士だよ。

魔力で透明な(ボード)を生成して、操ります。

さっきミツクリさんが言ってた、“結界みたいなの”がそれ。

あ、えっと……」


 言葉を濁し、プロセラの様子を窺うツキヨ。

どこまで説明するか悩んでいる。


「ガノーデさんの直接紹介だから、大丈夫だよ」


「……あと、生体情報を解析したり、パワー吸い取ったり」


「ほう、興味深い。

だがそうなると属性系列は二人ともダメなのか」


「そうですね、僕らは属性系の適性がほとんどないです。

でも水以外は特に問題ないと思いますよ。

それなりの治療や呪いの解除、気温の調整あたりは可能なので」


「わたしが空輸と休憩場所の生成担当。

水と浄化は球いっぱい持っていくしかないけどね」


「ふむふむ、ならばよし。

とりあえず今回の説明をする、ちいと長くなるぞ」


 ミツクリが、鞄から分厚いノートを取り出した。

どうやら今日はあまり眠れなさそうである。

お気に入り登録が100を越えていました。ありがとうございます!


ゴブリンは頭脳派。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ