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ライフレート  作者: 岡本
第三章 むすびつき
25/54

24話 『覚醒』

「くっそ!どういう体してんだよ!」


 メタセがわめきながら攻撃をギリギリでかわす。

そしてカウンターの刈り取るようなハイキックがプロセラの右腕に吸い込まれた!

腕が折れ曲がるが、左手がメタセの足を捉える。

その間に右を修復、そして!


「捕った」


「うわああ、力が!力が抜ける!」


 地面を叩き降参を表すメタセを解放し、プロセラは軽く礼をした。

第十祭殿に二人が宿泊して今日で九日目。もはや見慣れた光景である。

それを眺めながらツキヨが呟く。


「おっかしいなー」


「わしには別に普通に見えるが。

体術が同程度なら魔法が巧い方が勝つ、当然じゃろ。

何ぞ不審な点でもあるかのツキヨ?」


「えっとねセンペールさん、最初にメタセとやってるの見てからずっと思ってたんだけど。

ご主人の転換(コンバート)は、非物質や魔法生成物にはめっちゃくちゃ強いよ。

でも、普通生身の生物にはあんなに効かないんだ。

体の動作のかなりを魔力でやってるわたしでも、最初から繋がってなければ簡単にレジストできる程度。

猛禽(ラプトル)とか鎧猪(スケイルボア)とかそのへんの地味な魔物でも、転換(コンバート)で吸い尽くすより殴った方がずっと早い。

なんでメタセだけ腕とか足とかちょっと捕まれただけでぶっ倒れるんだろ、意味わかんない」 


「そうなのか?」


「嘘なんかいわないよ……あ、帰還者(レヴナント)にはかなり効いてたらしい?

でもメタセにほどじゃないと思う」


「……そうか、判ったぞ。

あやつの転換(コンバート)は、吸い取る前に干渉して生命オーラに転換する過程が入っておる」


「それは前にわたしが言ったよ、センペールさん」


「ゴホン、あれよ、つまり、木人は元々生命オーラで動いとるから。

わざわざ干渉する必要が無くて、触れただけで丸ごと剥ぎ取れるんじゃな……

更にそこから推測するに、わしがレジストできとったのは、否死者(イモータル)の力が生命オーラを保持しとるからであろう。

地力の差もあるしの。」


「それ、メタセかわいそうじゃない?」


「これも修行……でもないな、意味なさそうじゃ……」


「九日分かわいそうだったね」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 時刻は深夜、星も月も見えず、雪がぱらついている。

ジオ教団第十祭殿……の手前の広場。

闇の中、そこだけが明るい。

広場の中央に一人で立つプロセラに、力が集まり薄く発光しているからである。

センペールに教えられた、“周囲のエネルギーを取り込んで変化する”練習をしているところだ。

曰く、修練などよりイメージが重要らしい。

あるものを吸収するだけなら転換(コンバート)否死者(イモータル)の力を引き寄せる特性で問題ない。

変化の最終段階に必要なのは姿を想像し、それにあわせた形に固めること。


「……姿、ねえ」


 プロセラの体の周りでうねうねと形を変える、輝く生命オーラ。

その時、後ろから声。


「寝ずに何やってるの、ご主人?」 


 少し離れた空中に、ツキヨが浮いている。

(ボード)を操作し、ふわりと隣に着地した。


「ん、起こしたんだったらごめん、変化がね、どうもうまくいかない。

単にまわりから力を取り込むまではいくんだけど」


「要するにさ、パワーは足りてるけど感覚が追いついてないってこと?」


「あー……そうね、形を整えるというかそれを操るというかそういうイメージがなんか?」


「ちょっと接続してみない」


「今ここで?」


「うん。あのさ、精髄(エッセンス)の話、覚えてるよね。

センペールさんがしてくれた髄になるってやつ。

ご主人単独では変化できなくても、ご主人が集めてくるパワーをわたしが成型したらいけるんじゃないかな?

ほら、わたしはずーっと(ボード)操作してたからさ、造形のイメージは得意だよ」


 第十祭殿は極めて安全だ。

住人はセンペールとメタセしかおらず、見渡す限り岩場。

二人がここにきて今晩で九回目の夜になるが、他の巡礼者が訪れたのは四回で、泊まりが居たのは三回。

……なので、完全に精髄(エッセンス)化するという目標もあり、二人きりの晩は必ず寝る前に接続していた。

そして、昨日、運転(オペレイション)に成功したのだ。

魔力接続の効果か違和感などはあまりなかった。

ただし、動作はまだ行っていない。

しばらく融合した状態を維持し、安定を確認のち分離しただけである。

センペールによれば、暴走は誰が見ても明らかなほど無茶なものらしく、髄となった状態で動かずにいられるならまず大丈夫だろうということであったが。


「多分できる、できるけど、もうちょっと慣れてからのほうがよくない?」


「でもさ、明後日ぐらいには戻らないとまずいわけだし、できれば状態をセンペールさんに見てもらったほうが」


 ツキヨがじっとこちらを見ている。どうやら、諦める気は無いらしい。


「…………わかったよ、まあ、失敗したらセンペールさんが殺してくれるだろ。

多分」


「そうだね」


 簒奪管(ユザーパー)が伸び、二人が繋がる。

しばらくはいつも通りに力を流す。


「そろそろ」


「……」


 プロセラが転換(コンバート)を停止、同時にツキヨも吸引を止める。

しかし簒奪管(ユザーパー)は繋げたまま。


「大丈夫そうだ」


「じゃあ、入るよご主人」


 それは、劇的な変化だ。

完全な精髄(エッセンス)、進化の証。

身体が服ごと透け、輪郭が崩れていく。不定形!

簒奪管(ユザーパー)を通し、半透明の白い魔力と化したツキヨがプロセラの体内に流れ込んでくる。

普通に考えれば入りきらないはずだが、別に苦しくも、体型が変わりもしない。

最後に、プロセラの両手に残っていた簒奪管(ユザーパー)も体内に収納され、消えた。

全身に力が漲る。

昨日は、この状態まで。

だが今日は。


「「どう?」」


「「もうちょっと待ってご主人、まだ調整中。

体はへいき?」」


「「平気、調整が終わるまで集められるだけ力を集める」」


 プロセラは転換(コンバート)で辺りのエネルギーを生命オーラとして吸収しようとした。

その時。


「「お、おお?!」」


 予想をはるかに上回る勢いで力が溢れ出す。

地面から、空から、大気から!

どうやら精髄(エッセンス)が体内を循環することによる強化は肉体だけでなく魔法まで及ぶらしい。

下手をすると建物内で眠っているセンペール達からも吸い取りかねない!

慎重に範囲を調整、横を削って縦に伸ばす。

それでも加速度的にオーラは増していく!

これ以上は危険かとプロセラが思い始めた時、ツキヨの声が響いた。


「「運転(オペレイション)完了。じゃあ、ご主人はオーラの維持だけお願い。

うん、暴走はしない……感じ?」」


「「不安だな……」」


 生命オーラが蠢き、渦巻き、膨らみ、プロセラ自体も呑み込んで、新たな姿が成型されていく。

プロセラの思い描く巨大な人型のイメージをツキヨが汲み、操作しやすいように改造したものだ。

薄ぼんやりとした光を放ちながら、それが立ち上がる!

プロセラが喋ろうとするが、言葉にはならない。

その姿には、人語を発音できる器官が無いのだ。

代わりにイメージとして体内のツキヨに伝わる。

ツキヨの声も、音ではなく直接頭の中に入ってくる。


 成功したっぽい、視点も高くなってるし。でも、この姿


 かっこいいでしょ。なんかさ、まさに融合!って感じ?


 どっちかというと冒涜的かな……


 えっと、そこは操作に必要な部位だから諦めて


 どこまで操作できる?


 体は動かせる、軽いぐらい。念力(テレキネシス)魂の魔法(ユニーク)簒奪管(ユザーパー)は使える。生魔法は無理


 それはこっちで使える。オーラの操作もできる。感覚と感知は…………二人分あるような、視界とかなんだこれ……


 感知は大丈夫、視界が異常に広いのは慣れるまで大変かも、後ろが常時見えるのとかちょっと邪魔


 大丈夫?


 まあなんとか、混乱するほどじゃないかなー


 あ、腕ちぎってみてもらっていい?


 いいよ……痛覚は……無いね


 再生はこっちで出来る


 あとは?


 そろそろ戻った方がいいかも、ちょっとだけど光ってるのがまずい、オーラ消すから


 はーい


 オーラの維持をやめると、巨体が霧散し始めた。

光が薄れ、その輪郭が闇に融け、縮んでいく。

全てが消え去ると、広場に元のプロセラの姿……と、もう一人。


「ほう、やはりわしの推測は正しかったか」


「「うわっ?!」」


「「あ、センペールさん起きてたの……」」


「あんなに魔力が渦を巻いて、わしが起きんわけないじゃろ……

下手したらサリックスや大僧正あたりも起きとるぞ」


「「う……すいません」」


「まあ、雪のおかげで山の向こうからならば、何か光っておったように見える程度のはずよの。

しばらく怪談のネタになるやも」


「「とりあえず分離するよ、ご主人」」


 分離は運転(オペレイション)と比べて非常に楽であり、すぐに終了する。

これは昨日の時点で確認済みだ。

プロセラの体表に粘液じみた魔力が染み出し、脱皮するかのようにずるりと剥がれる。

その抜け殻のシルエットがみるみるうちにツキヨの姿に戻っていく。

服もそのまま復元するところからして、髄になる前の状態が記録されているのだろう。

魂の魔法(ユニーク)の“ユニーク”たる所以であろうか?

ともかく、簡単に分離できるおかげでアルテミアの実家に妙な報告をしなくて済むのは間違いない。


「ふう」


「楽しかったねー」


「それにしても何時の間に変化まで出来るようになりおったのだ」


「いや、僕単独では無理ですよ」


「さっきの奴は二人で制御してたの。

運転(オペレイション)してる間は超パワーな感じ?」


「考えること多すぎて疲れますけどね……」


 運転(オペレイション)は恐るべき技だ。

融合自体により全体的に強化され、その上から二人分の能力が丸ごと加算される。

先程、腕の再生にプロセラの操作が必要だったことから耐久性だけは宿主依存になるようだが。


「なるほど、頭が二つじゃから制御能力も二倍か……」


「でもこんなの、どう使えばいいんだろ。

普通の運転(オペレイション)はともかく、さっきの状態が役に立つ状況が想像できないぞ」


「あんなので戦ったらあたり一面更地になっちゃうよね」


「慣れればサイズや細かい動きも調整出来る様になろう。

わしも若い頃はじゃな……山を……(ドラゴン)を……」


 二人はセンペールの話半分にしても恐ろしい昔話を聞き流しつつ、欠伸した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 二人の力を面白がったセンペールに引き留められ、既に第十祭殿への滞在日数は当初の予定の倍、二十日を超えていた。

十一日目に、食料が残り少ないという理由で戻ろうとしたら、既に追加の食料と数枚の着替えが用意されていて帰るタイミングを逸したのだ。

別に山頂での暮らしが嫌なわけではなかったため、そのまま滞在を継続して今に至るというわけである。

しかし、そろそろバルゼアに戻らないと本当にまずい。

最後の仕事をこなしたのがドラドでの峠調査で、既に三十日前だ。

“アベニー”の家賃を払わなくてはならないし、実家に手紙も出しておきたい。

その事をセンペールに話すと、戻る前に一つの頼みを聞いてくれと言われたのだが……


「ちょっと、というかすごく危険なのでは?」


「命がどうこうじゃなくてさ、祭殿とか、地形とか……」


「待て、わしは運転(オペレイション)状態で本気と言っただけで、何も変化しろとは言っておらんだろう!」


「師父はいつも一言足らねーからなあ」


「まあ、それなら」


「どっちにしても帰る準備して、巡礼の人が来なさそうなの確認して、ちょっと山下って祭殿から離れなきゃ」


 そう、センペールの頼みとは“自分と戦え”である。

曲がりなりにも高位僧であるからか、あるいは年の功か、センペールは一見温厚だ。

だが似たような人種を何人か知るプロセラとツキヨは数日で気づいてしまった。

……要するに、戦闘狂である。

しかも、とてつもない強さだ。

プロセラは滞在期間中何度もセンペールと手合わせしているが、手加減してもらわないと勝負にならぬ。

ツキヨが本気なら即終了とまではいかないかもしれないが、壊してはいけないものが多い第十祭殿前では彼女はまともに戦えない。

他に二人が完全に無理と感じた相手にはヴィローサがいる。しかしどちらが強いかと言われると何とも言い難いところ。


「このあたりなら大丈夫か?

運転(オペレイション)でも、センペールさんに届くには到底足りないと思いますけど」


「わしが求めるのは勝ち負けではない、強いか否かじゃあ!」


「あの目はもうだめだね、ご主人。まあ、入るよ?」


「よし」


 山の中腹、やや傾斜が緩くなっている場所。

頂上付近と違い、岩場ではあるが草や低木が多少生えている。

近くにだれもやってきてないことを確かめ、センペールと向かい合うプロセラとツキヨ。

メタセは二人の荷物を担いで距離を取り、心配そうに眺めていた。


「ぬおお!やるぞお!」


 木人独特の構えを取ったセンペールの周りに強力な生命オーラが渦巻き、樹皮の肌が輝く赤銅色に変化。

そして対する二人、プロセラに抱き付いたツキヨが白く溶け崩れ、プロセラの体内に滑り込み消える。運転(オペレイション)

外見上の変化は彼の茶髪茶目が色濃くなった程度。

しかし、その威圧感と纏う生命オーラは比べ物にならない!


「「さて、頑張ろう」」


「「行くよ!」」


 運転(オペレイション)で融合した二人は考える速度で意思疎通できる。

また、二人のどちらでも外と会話が可能だ。

ただし、どちらの声もプロセラの口から出るため多少気持ち悪い。


「ハーッ!」


 センペールが仕掛ける。

一瞬で距離を詰める縮地のごとき歩法からの強烈な蹴り、異常な長身から繰り出されるそれは槍そのもの!

だがその足がプロセラの目前で止まった。


「「この状態なら吸収(ボード)も楽ね」」


 止めたのは魂の魔法(ユニーク)

プロセラがオーラ強化した金棒をセンペールに叩き付ける!

変化時は体の造形をツキヨが行っていたため、体のコントロール権はツキヨにあった。

だが通常の運転(オペレイション)なら肉体を使うのはプロセラ。

つまりヴィローサ仕込みの体術をそのまま扱える。

ツキヨの担当は魔力体力の上乗せと警戒、そして念動士の能力。

文字通り頭二つ分を使用した並列思考戦闘!


「良し!」


 しかしセンペールは全く動じない。

一瞬で超弾性の吸収(ボード)を握り潰す。

対魔力に特化した解呪(ディスエンチャント)の亜種。

暗黒魔法、消去の手(イレイズハンド)

そしてもう片手でプロセラの金棒を弾き、腕を引き千切って、胴を蹴り飛ばす!

腕を再生させながら上空に打ち上げられるプロセラ!

取り落とした金棒は念力(テレキネシス)が回収し、新しい手に収まる。


「「やっぱ無理だろ!」」


「「そのためのわたしじゃない?」」


 背後に柔らかな感触。

当然、(ボード)だ!

そのまま空中に着地し、追撃しようとするセンペールを迎え撃つ。


「うおおい!なんじゃその動き?!」


 プロセラ自身は飛行できない。

空中制御をコントロールするのは運転(オペレイション)するツキヨの仕事。

行く先々に(ボード)の足場が生まれ、どんな無茶な挙動をも実現する。

空を蹴って加速したプロセラがセンペールの背中を狙う。

だが、まだだ。


「「え、あ痛」」


 緑に輝く長い髪が逆立ち、プロセラの蹴りを跳ね返す。

一本一本が針葉樹の葉のごとき鋭い棘。

センペールの力に覆われているそれが、プロセラの肉体と生命オーラを傷つける。

だがただでは終わらぬ。センペールの相手は一体だが、一人ではないのだ!


「うぬ?!」


「「硬くておいしくない……」」


 すぐ横から飛来したのは、ハサミのように交差した二枚の(ボード)

脚に刺さった髪を切り裂く! 

その隙にプロセラはセンペールを突き飛ばし、離脱。

千切れた髪は傷口から湧いてきた簒奪管(ユザーパー)に消化され、抜け落ちた。


「おう、おう、さすがじゃ!」


 髪とはいえ確実に生命オーラごと切断したというのに、センペールにはさほど効いていないようだ。

すぐに新たな棘髪が伸び、元の長さに戻る。

そして空中のプロセラへと向き直ったセンペールの構えが変わった。

腰を落とし右手を後ろへ引き絞る。

そこに、輝く生命オーラが集中!


「「あれはまずい!」」


 プロセラが防御用の(ボード)を次々と生成しながら空へ飛び離れようと。 


「うおりゃあああああああああああ!!」


 矢の様な正拳……が、伸びる!伸びる!

行く手を遮る(ボード)を次々打ち崩し、プロセラの腹に突き刺さった。

地面に叩き落されたプロセラがセンペールの伸びた腕を掴み膝をつく。

でたらめに生成された無数の(ボード)がセンペールを襲う、しかし全て左手で捌かれる。

転換(コンバート)を試みるが、レジストを突破できない。

逆にプロセラ側のオーラが、血と共に持続的に削られていく!


「「う、ぐ、力が」」


「これぞ根源拳(ルートフィスト)よ、いやあ、相当に強かったぞ!

運転(オペレイション)、素晴らしい能……が、何じゃこれは?!ぐわあ!」


 突然、センペールが苦しみ始めた。

伸びた腕を分厚く被っていた赤銅色のオーラが崩れ落ちて行く!

だが、当のプロセラは荒い息を吐いて固まっているだけだ。


「「……体内は、強いよ」」


 プロセラの体内を循環していたツキヨが、腹部に刺さったままのセンペールの腕に侵入したのだ。

内部から直接エネルギーを奪い取る!


「ぬうあああ!ふう、あ、危なかったわい」


「「う……ぐ……」」


 ゆっくり立ち上がるプロセラ。

根源拳(ルートフィスト)によるダメージは深刻で、まだ腹部の傷と骨の修復が完了しない。

一方のセンペールは、右腕を自ら切り落として新しい腕を生成していた。

さすがに腕一本分の生命オーラをもぎ取られたのは効いているようで、息を乱している。


「あれを逆利用されるとはのう……」


 再び構えを取り直すセンペール!


「「だめ!!」」


「む?」


 プロセラが再び膝をつく。

その背中から粘液じみた白い魔力が染み出し、ツキヨが分離して元の姿に戻った。


「ご主人の燃料切れ。降参」


「やっぱ、変な効果つきの攻撃は痛い、疲れた……あ、ありがとツキヨ」


「ふむ、そうか、悪かった。だが、頼みを聞いてくれて本当に助かったぞ。

ここのところ身体が鈍っておったからな」


 ツキヨに渡された補助魔力(ボード)を吸収し、プロセラが息を整える。

終了したのを見て、二人分の荷物を担いで遠くで観戦していたメタセが駆け寄ってきた。


「はあ、何やってるか全然わかんなかったぜ。あ、荷物これ。

それにしてもよ、師父がダメージ受けてるところとか久々に見た」


「オーラごと腹をぶち抜かれた僕の心配をしてくれ、メタセ」


「ご主人、まだ魔力足りない?あげようか?」


「いや、どうにか動けるから大丈夫。

これから帰るんだから疲れるのはツキヨだぞ」


「はーい」


 メタセから荷物を受け取る二人。

プロセラはボロボロになった上着を着替え荷物を再確認、ツキヨは飛行(ボード)を組む。


「さて、とりあえずこれでお別れかのう。

お主らならいつでも歓迎するぞ。

できれば教団に入信してくれると有り難いんじゃが」


「もちろん地神様は敬うけど、入信はちょっと辛いです」


「だねー、実家は神殿、天神様だしね」


「それならそれで良い。

わしは所属など大して重要ではないと思っておるのだが、大抵の連中はそうではなかろうし」


「じゃーな二人とも!今度は勝つ!」


「センペールさん、メタセ、さようなら。

割と本気で帰宅急がないと危ないんで、本殿にはまた今度来ます。

えーっと、祭殿と巡礼ルートにかからなければ飛んでもいいのかな」


「うむ飛行はそれで良い、さらばじゃ。

ここからなら、西か南に迂回すれば道にも祭殿にもかからず行けるはず」


「またねー!」


 (ボード)が静かに浮き、滑り出す。

ドラドに十数日、ジオ教団本拠地には一ヶ月近く居たことになる。

予定以上の長旅。得たものも多い、いや多すぎるぐらいだ。

地上では、センペール戦僧正(ウォービショップ)とメタセ少年が高い視力で二人を見送りつつ、地神に祈りを捧げていた。

変身シーンは書いてて楽しいです

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