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ライフレート  作者: 岡本
第三章 むすびつき
24/54

23話 『再会』

 木々はほとんど無く、雪が各所に残る広い岩場。

山の頂上を少しばかり崩して作られたそこは、まさに高山という風景であり実際に標高も高い。

頑丈そうな山小屋が二つ、魔法的に作り出された小さな水場が一つ。

そして、全くと言っていいほど装飾の無い、やや大きな建物。

第十祭殿だ。

周囲は、本来あるべき岩石が地面に埋め込まれ歪な石畳状になっている。

そこでは、一人の木人がゆっくりとした動作で箒や鋤を振り、土埃を払い、雪をどかしていた。

なお遅さは決して怠慢ではない。行の一環なのだ。

その木人が、作業を途中で止めて広場の隅に移動し斜面を見下ろす。

遠くに来客の気配を感じ取ったためだ。

彼の名はメタセ。

その目と耳は特別製であり、この距離でもよく見え、聞こえる。

彼は眼下の光景を妙だと思った。

ヒトの二人組みだが、普段見られる巡礼者よりも明らかに若く妙に荷物が多い。

何より不思議なのはその様子。

全く疲弊を感じさせぬ軽い足取りで、談笑すらしながら歩いている。

と、その時だ。巡礼者が話を止め、片方がこちらを見た。

通常の視力なら、点に見えるかどうかというところ。

遠見の魔法を使えばギリギリ顔の造作が判別できようか?

だが、メタセにはそれが遠見でない事が判った。

何故ならば、巡礼者が使っていたのはメタセ自身と同じ方法だったからだ。

すなわち、生魔法の視力強化(サイトエンチャント)、あるいは感覚強化(センスエンチャント)

つまり、向こうにもこちらが何をしたかわかっているということだ。

正直、あまり行儀のいい行為ではなかった。

こちらが客を迎える方となれば尚更である。


「あー、やっちまった。師父怒るよな……」


 肩を落とし、掃除に戻るメタセの耳に、感覚強化(センスエンチャント)を切る寸前に拾った巡礼者達の言葉が届いた。


「違う」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 長い山道をプロセラとツキヨが歩いている。

時刻は昼前、山はそろそろ八合目といったところ。

第十祭殿と本殿のある山は特別高いと聞いていたので急いだのだが、やや進みすぎてしまったようだ。

もう少し楽しむ余裕を持ってもよかっただろう。


「もうすぐ着くねご主人。

けど、さっきの人はなんだったのかな」


「木人っぽい反応だったし顔見てみたんだけど、なんか若かった。

まあまあ強そうだけど絶対セコイアさんじゃないよ」


「セコイアさんなら、まあまあなんて次元じゃありえないでしょ。

少なくともサリックスさんより強いはずなんだし」


「頂上に木人が二人いるのは間違いない。

だけどさっき見た木人、二つのうち力強そうな方だったんだけどなあ」


「活性落として瞑想なり寝るなりしてるとか」


「かな……あれ?さっきの人が来る」


 木人が頂上の方から走ってきている。

明らかに生魔法の強化エンチャントを身に纏っていて、下りなのも手伝いとんでもない速度だ!

このままではこちらに激突する。

そうでなくても跳ね飛ばされた岩石が向かってくるではないか。

身構えるプロセラ。


「うげ、何こ、ぐわっ!?」


 突っ込んできた木人が、巻き込んできた数個の岩石と共に激突した。

……二人の目の前、ツキヨが生成した大き目の(ボード)に。


「あー……ええと、こんにちは。どちらさまですか?」


「わたしが止めてなかったらさ、大変だったよね」


「ちきしょう、なんだ今のはよ!……あれ?しまった!!」


 一瞬だけぴくぴく痙攣し、生命オーラによりすぐ復活して跳ね起きた木人。

やたらと慌てている。

どう考えても、慌てるべきはプロセラ達なのだが。

とりあえず害意は無いと判断したツキヨが(ボード)を消した。


「「……」」


「あーあ、しまらねえの……俺はメタセです。先程は申し訳ない。

ジオ教団、第十祭殿までよくぞ」


 ようやく落ち着きを取り戻した木人が何とも言えない自己紹介をする。

滑らかな葉の髪をした若者。

身長は7フット程、高いことは高いが木人としてはそれほどでもない。

道着と僧衣のあいのこのような服を纏っている。


「……プロセラ・アルミラです。よろしく」 


「なんていうかさ、いいんだけどね、わたし達、まだ第十祭殿に到着してないよ?」


「ぐ……だってよ、師父が謝ってこいってさあ」


「謝る?」


「いや、ちょっと前にさ、客来たなーって、上から強化視力で観察してたんだけど。

そんときこっち見返してきたじゃん?

そしたら師父にもばれてよ」


 どうやら、メタセは先程遠距離で目が合ったのを謝りにきたらしい。


「あ、はい、それはどうもご丁寧に。

別に気にして無いというかどうでもいいというか。

でも、せっかくだから第十祭殿の案内してもらおうかな」


「もし謝るならさ、感知の件より今、石とか巻き込みながら突撃してきた事の方かなー……」


「ご、ごめんよ」


 あまりにも正論過ぎるツキヨの不平に怯むメタセを適当にあしらいつつ先に進む。

ともかく、二人の目的地はもうすぐである。


「そういやさメタセの師匠ってなんて名前の人?」


「ん?そりゃ第十祭殿の主、センペール様に決まってら」


「ってことはセコイ……じゃない、センペールさんは今居られるのかな」


「もちろん」


「はー、よかった。無駄足だったらちょっと落ち込むところだったし」


 プロセラが安堵する。

生命感知の結果が怪しかったため地味に心配していたのだ。


「よかったね。

ちょっと思ったんだけどさ、その人、メタセって同門になるのかな?」


「うーん、僕は別に……」


「何言ってんだおまえら?

少なくともここ十年は、師父の弟子は俺しか居ねーよ」


「まあ可能性の話、あ、ご主人あれ」


「おお?!このパワー!」  


「し、師父が祭殿から出てきてる、先行くわ」


 すぐ上から強力なエネルギーを感じる。

これだけの活力、さすがに他の可能性は考えられないだろう。

メタセが急いで頂上に戻っていく。

残された二人も後を追った。


「…………何故謝罪と案内に行っておいて先に戻ってくるんじゃあ?!」


「げっ!いやその……あのよ」


 プロセラの耳に、木が軋むような響きを伴う声!

もう一つの方は……まあ、放っておいたほうがよさそうだ。


「なんかさ、変わったとこに住んでるんだねー」


 登り切り、頂上を見たツキヨが呟く。

三つの建物と水場以外は何も無い殺風景な広場。

そして、手前には。


「おっと、これは見苦しいところをすまぬな。

何も無いところじゃが、身を清め、次に備えられると良……うぬ?

お主ら、何処かで」


 あまりに懐かしい姿。

10フットの異常長身、他の木人と比較してもより樹皮に近い肌。

棘だらけで鮮やかな緑色の髪は長い。

唯一服装だけは、襤褸に編み笠ではなく頑丈そうな僧衣を着込んでいたが。


「九年半ぶりですか、あの時はお世話になりましたセコイアさん。

……いや、センペール戦僧正(ウォービショップ)。アルテミア人、プロセラ・アルミラです」


「わたしも居るよ!こんにちは、センペールさん。同じくツキヨです」


 荷物を投げたプロセラが、九年間の成果を見せるかのように全身に生命オーラを漲らせる。

荷物は地面に落ちることなくツキヨの念力(テレキネシス)にふわりと受け止められ、少しの間宙を舞った後(ボード)で作られた台の上に収まった。


「おお、あの時のか!

確かに面影があるぞ、しかしまあ見違えたものよの」


「……師父、この人達って誰なん?」


 メタセが不思議そうに二人を見た。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 二人が十番目の印を打つと、入山許可証の色が変わる。

センペール曰くこの色が変わった金属札が、全ての祭殿を回ったという記念品を兼ねるそうだ。

多少のステータスになるようで、売れば金貨数枚になるができれば持っておいてくれと言われた。

祭殿でサリックスに教わった基本の礼拝を済ませ、宿坊に荷物を置いて食事を摂る。

第十祭殿の宿坊には部屋が二つしかなく、手洗いもただの深い穴だった。

ここに巡礼者が来るのは三日に一回ほどで、住んでいる木人の二人には食事や排泄が必要ないためそれで十分なのだ。

なお本殿はもっとずっと大きく、下から回って入るルートがあるらしい。

祭りの時や、単に参拝するためだけなどの人は十個の祭殿を通らず直接本殿へ向かうとのこと。


「センペールさんほんとに変わってなかったねツキヨ……」


「木人って千年単位で生きるんでしょ。九年十年じゃかわんないよ」


「それもそうか。……で、まだ寝るには早いしさ、話でも聞きに行こうか。

あれ?外でなんかやってる」


「だね」


 表に出ると、センペールとメタセが戦っていた。

最初の印象と異なり、メタセはかなり強い。

少なくとも、体捌きや速度は十分達人と言っていい領域だ。

センペールが相当に加減しているのを考慮に入れる必要はあるが、ちゃんと試合として成立している。

それにしてもジオ教団、というか木人式の体術はなかなか面白い。

生命オーラで体を動かすという話の通り、不自然な挙動で自然に動く。

プロセラとツキヨが他に知っている木人といえばパラドクサだが、彼女がまともに戦うところは見た事がないため、これが初見なのだ。

しばらく見ていると、メタセが体をくの字に曲げて吹き飛び、試合終了。


「あいてて……どうやったら師父より強くなれるのか想像もできねえよ……」


 広場の端まで飛ばされていたメタセが、生命オーラを循環させ体の調子を確かめつつ戻ってくる。

それをちらと確認した後、センペールがプロセラ達のほうを振り向いた。


「おや、お主ら見ておったのか」


「途中からですけどね。興味深いです」


「サリックスさんがさ、センペールさんはやばいって言ってたからね。

もっと頭とか引きちぎったりするのかと思ったら、結構かっこいい動きで驚いたよー」


 とんでもないことを言い出すツキヨ。

慌てるプロセラだが当のセンペールは笑っていた。


「ははは、あいつも面白いことを!

……まあの、自分の弟子にそんなことはせんよ?いくらわしでもな」


「す、すみませんうちのが」


「ごめんね、つい。でもご主人はさ、よくバラバラにされたり、腕もげたりしてるよね……」


「あれはだって仕事中の事故だし、仕方ないだろ!」


 それを聞き、不思議な顔をするセンペール。


「ん仕事?ああ、戦いがある仕事に就いたのだな。

しかしお主は、プロセラは防御はせんのか?

わしが見た感じ、生命オーラ操作に関してはほぼマスターしとるように見えるのだが」


「いや、防御もしますよもちろん。

でも相手のパワーが一定を超えると、受けるより普通に喰らってから再生(リジェネレート)する方がずっと消耗が少ないんで。

さすがに直接に生命オーラや魔力を狙ってくるような攻撃なら別ですけど」


「ふむ、単純に素の肉体の差なんかのう。

わしらは耐える方が楽な感じなんじゃが」


「僕は体もあんまり大きくないし、それはあるかもしれないです。

ただ最近は生命オーラの方が本体のような気がしなくも……」


「それは別に問題なかろう、単にまだ魂が否死者(イモータル)の肉体に馴染みきっておらんだけだ。

半年もすれば慣れるじゃろ。それよりも不思議なのは……」


 重大な報告をさらりと流し、難しい顔をして二人を交互に見るセンペール。

メタセは今は話に割り込むべきでないと判断し、一人で何らかの技の型などをやりはじめた。


「え?え?」


「どうしたの」


「いや、だって、ツキヨは驚かないの?」


「わたしは前から知ってるし。

魔力の流れとかが違うのはずっと前からだし、元々そうじゃないかなーって思ってたけど。

簒奪管(ユザーパー)挿したら、魔力で視るとか比較にならないぐらい詳細に判るからさ。

少なくとも四ヶ月以上前から否死者(イモータル)かな」


「えええ、なんで黙ってたの?!」


「え……種族とかどうでもいいよ。

別に否死者(イモータル)でもわたしのご主人なのは同じだし……

それに、ご主人は前からシトリナさんにヒトじゃなくなってるって言われてたじゃない。

知ってるものとばっかり」


 頭を抱えるプロセラ。

基本的に、ツキヨがプロセラに隠し事をすることは無い。

無いのだが、本人が心底どうでもいいと思っていることまで報告したりはしないのだ。

彼女にとってプロセラの種族云々など、今日の夕食のメニューより優先順位の低いことだった。

そもそも複数人から“ヒトなのか?”と言われ続けて聞き流していたプロセラ側にも非がある。


「ああ、そう……まあ、特に何か変わるわけでもないしいいかな……」


「そうだよご主人」


 二人が落ちついたのを見て、センペールが中断していた話を再開する。

なおセンペールもプロセラが否死者(イモータル)化に気付いていなかったことには、普通に驚いていた。


「まあ実際ヒトか否かなど大したことでは無いわ。

それでだ、こっちはもっと重要な話じゃ」


「「?」」


「わしにはどうも、お主ら二人の魔力が同じものに見えるんじゃ。

無論魂は別個であるし、生命オーラや魂の魔法(ユニーク)化した部分は明白に違うぞ。

だがその前の段階、体に流れている魔力がまるで同じ、分身か何かと言われても違和感が無いほどよ。

……血縁には見えんし、それ以前に前会った時はちゃんと異なる魔力を持っておったのだ。

わしが魔力形質などを見間違えるわけがない、属性適性なども見ただけで判るからな。

それ故気になるのだ、一体何があったらそのようなことになる?」


 センペールがやたら深刻そうに話す。

そのようなことを言われても心当たりが……いや、ある!


「……もしかして」


「もしかしなくても、かな……」


「ほう?」


「どうも説明しづらいんですが、その、修練と言うか遊びと言うか……」


「えっとセンペールさん、わたしとご主人、プロセラは外部から直接力を取り込む魔法を持ってて。

それの練習に、よく互いの力を少しずつ交換して、というか吸ってた。

四ヶ月ぐらい前から?」


「むむ、理由は判ったが全く理解できぬぞ。

どうやれば可能なのかが想像もつかんし……まあ魔力が同一だからと言って特に悪いことはないと思うがのう。

そもそも定期的に魔力が混ざったとしても、四ヶ月ごときで区別がつかぬほどになるとは」


 センペールがキイキイと体を軋ませつつ考え込んでいる。

どうやらこの癖は治ってないようだ。


「魔力接続自体を見せた方がいいのかなツキヨ……」


「うーん……瞑想みたいなものと思えばいいのかな。

あんまり人に見せるようなものでもない気がするけど、何かわかるなら?」


「ふむ、特に準備が必要なものでもないということか。

見せて問題ないようなら、やってみてくれると助かるが」


「やってみる?」


「やろっか」


「出力は」


「どうせ見せるなら最大でいくよ、ご主人」


「了解」


 転換(コンバート)簒奪管(ユザーパー)を利用して力を吸い合う技術は、ここのところ上昇が著しい。

今では流れを絞らなくても問題なく循環できる。

向かい合って座った二人が、ツキヨの両手から伸びる半透明の触手、簒奪管(ユザーパー)で接続される。

普段はもう少し細い管を使い密着してやるのだが、見られていることもあり身体は離れたまま。

かわりに素の太さの簒奪管(ユザーパー)を、数本まとめてプロセラの掌に絡ませた。

すぐに二人の間に力の通り道が形作られ、温かい流れが循環する。


「…………ふう、大体、こんな感じですか」


「やっぱり、はあ、温かいね」


 二人の間で魔力とオーラが変換されつつスピーディに循環する様を、センペールが興味深そうに眺めている。

何とも表現しがたい、実に不思議な光景だ。


「なるほどのう、確かにそんな事をしておれば魔力が均一化されるのも納得じゃ。

ところでその魔力接続とやらは、持続するものなのか?」


「……続けようと、思えば、二日ぐらいは」


「繋がったままじゃさ、話しにくいし、もう……少ししたら切るよ」


 四半刻ほど経過し、互いの力が数巡ほどしたあたりで接続を解除。

何だかんだで満足した二人が立ち上がり、センペールと一通りのメニューをこなし戻ってきていたメタセを見る。


「はーすっきりした。で、なんか判りました?」


「先程から考えておったのだが、お主らのそれにはまだ先があるのではないか?

長くなるでな、順番に説明してやろう。

まず否死者(イモータル)は特性として外部のエネルギーを使える。

その転換(コンバート)ほど吸収効率は良くないが、わしも似た魔法があるぞ。

こう……地租(ランドレート)!」


 それを聞いたメタセが慌てて飛び退く。

センペールが何をするか知っているのだ。

見よ!彼の手が触れた地面がわずかに沈み、力が流入していく!

樹皮の肌が、僧衣が、赤銅色に輝くエネルギー物質に覆われ、歪な人型を取り成長していく。

地面からの力の流入が止まった時、そこに居たのはシルエットこそセンペールに近いが全く別の怪物だ!

30フットはある赤銅色の身体。その棘の髪も金属光沢を持っている。

頭上から低い声が響いた。


「まあ、こんな感じじゃな。途中で止めたが本来はもう十倍ぐらいまで育つ」


 そして見る見るうちに元のセンペールに戻る。


「すごいねーご主人」


「姉さんみたいだな」


「今のは言ってしまえば外部エネルギー吸収の応用というわけなのだな。

わしは木人ということもあって大地と光からが主となるが。

お主は特にそういう指定がないようじゃから、変化できるのはもっと別の姿だろう。

が、現在の問題はそこではない」


「あ、はい」


 またしても重大なことを流された気がするプロセラだが、センペールもツキヨも軽く流している。

そういうものと割り切るしかないようだ。


「重要なのはのう、嬢さんの方だ」


「わたし?」


「そうじゃ、その簒奪管(ユザーパー)、ということは既に精髄(エッセンス)化しとるわけだがな。

特性は知っておるか?」


「魔力を吸ったり吐いたり調べたり、あとある程度再生できたりかな?

まだ完全になりきってない気がするから詳しくはー」


「本とかにも載ってなかったんで、僕らが知ってるのはツキヨが体感してる分だけですね。

精髄(エッセンス)について調べてくれた知り合いも、サンプルが無いしよく判らないと。」


 精髄(エッセンス)の情報は非常に少ない。

単純に念動士の人数が少なすぎるからだろう、と魔法道具屋店主シトリナは推測していた。


「数が少ない、それはその通りよの。

だが、精髄(エッセンス)の共通特性が知られてないのは別の理由にあるのだ。

特性を発揮する機会が極めて限られておるからじゃ。

先手(アンセスター)は自分の魂を操作し色々と変化できる。

幻魔(スペクター)の変化能力はあたりの幽霊や魂を用いる。

帰還者(レヴナント)はその魔力を持って様々な生物、非生物を操る。

否死者(イモータル)は先程言ったとおりに何らかのエネルギーを自身の力に変換するわけじゃな。

いずれも自身もしくはその周囲にあるものを、自身の為に使うのは同じ。

精髄(エッセンス)は別じゃ。

一応魂の魔法(ユニーク)から伸びる簒奪管(ユザーパー)で、適当に力を吸い取って使うことは可能。

しかしそれは副産物に過ぎぬ。

本来は精髄(エッセンス)の文字通り、自身が他人の髄と化す」


帰還者(レヴナント)憑依(ポゼッション)や精霊の契約みたいな状態になるってことですか?」


「うー……ん?よくわかんない」


「違う、身体を乗っ取るわけではない。あくまで一時的な宿主で分離も自由じゃし意思も奪わぬ。

判りやすく言うとだ、精髄(エッセンス)が髄になると、爆発的に強化される。

言うなれば、憑依(ポゼッション)ではなく運転(オペレイション)

ただな、“意思を奪わない”というのが問題でな。

一つの体に行動制御が二つ押し込まれ混乱し、更にやたらと強化された状態で動くために、大抵暴走状態になる。

実際に運用する場合は圧倒的な力に任せてどうにかするというわけだな。

そして暴走しすぎて宿主が滅んだ場合精髄(エッセンス)側は魂の記録、つまり魂の魔法(ユニーク)性を発揮して無傷で分離する。

そこが簒奪の所以じゃ」


「なんか物騒ですね……」


「強化はいいけどさ、暴走は困るねー」


「まあ待て、それを踏まえてじゃ。

先程、お主らの魔力接続とかいう力の共有状態を見てわしは気付いたのだ。

今言った、わしの知識にある精髄(エッセンス)の特性は間違っているのではなかろうかと。

元々互いの力が混ざり合った状態から髄となるのが、正式な手順であり、それなら暴走も無いのではないか?」


 永い時を生きているらしいセンペールの圧倒的な知識量。

ここまで会いに来たのは正しかった。

ツキヨも真剣に聞いている。

完全に蚊帳の外のメタセが悲しそうだが、それはプロセラにはどうにもならない。


「なるほど……」


「なんか、試したいことふえちゃったね」


「お主ら、時間と食料や着替えに余裕はあるか?」


「多少はあります」


「帰るときの分考えたら、十二日ぐらい?」


「十日ちょい空いておるなら十分かの。

その間、ここで修練してみぬか?

精髄(エッセンス)に関してはどうにもならんが、否死者(イモータル)と生魔法については色々教えられるぞ。

突然明日から巡礼者がどんどん来るとか、そういうことが無ければじゃが。まあなかろうが。

後、空き時間メタセの相手をしてやってくれんかのう」


「え俺?いや、別によ……」


「だってさ、どうするご主人?」


「是非お願いします、でもいいんですか」


「どちらかといえばの、わしの方が興味があるので特に気にせずとも良い。

実際変化に飢えておるのだ、わしらのような奥の祭殿担当の僧正はな。

お主ら、サリックスと話をしただろう。

奴も同じようなことを言っておらんかったか?

つまりそういうことじゃ」


 センペールはそう言い残すと、メタセを伴って祭殿内に消えていった。

脱人類!

でも肉体持ってるんでご飯とかは食べるし生理現象も。


次は月曜になります。

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