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ライフレート  作者: 岡本
第三章 むすびつき
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20話 『ロンディの受難』

 計画通りにディノドンを酔い潰し、酒の支払いを全て押し付けたプロセラは上機嫌でチェックインした。

案内された部屋は、外見の古さの割りに清潔で居心地がよい。

廊下には共用だが洗面所もあった。

古いだけあり鍵や窓などは信用できないが、その辺はツキヨが(ボード)で強引に解決できる。

風呂が無い以外文句無し、二人は当座の拠点としてここ、“コメット亭”を利用することに決めた。

身体を拭いた後、浄化球で簡単に清め就寝。

……だが、一つ意外な欠点があったのだ。正確には、欠点ができたというべきか。


「ええと、どうも、おはようございます。……ねえツキヨ、この人たち誰?」


「全面的にご主人のせいだよ」


 朝食を摂りに降りてきたプロセラとツキヨ。

それを出迎えたのは四人の男!

各々がひれ伏す勢いで謝っている。

彼らの正体は、昨晩プロセラが呑み比べでノックアウトしたディノドンの部下だった。

皆この店の部屋を借りて、沿岸警備の仕事をしているらしい。

隊長の酒癖の悪さにいつも怯えていたそうで、今にも舎弟にならんばかりだ。

そしてどうやらディノドンは悪い人物ではないらしい。


「あの、それは色々すいません、ディノドンさんは?」


「ボスももうすぐ来ると思いますが、俺達はもう出勤します。

きっと良くしてくれるかと。それでは」


「はあ、わかりました」


 それぞれダルマ、シュレーゲル、ハロウェル、アズマというらしい沿岸警備の四人。

一方的に話しまくった彼らは慌しく出勤していった。

珍しくツキヨの視線が冷たいのは、間違いなく気のせいではない。


「まあ、ドラド支部行こうか」


「そうしよう……」


「よおプロセラ、昨日は色々すまねえな。俺に酒で勝てるやつなんか久々に会ったぜ!

それでだ、俺はこう思ったのよ、この…………」


 プロセラとツキヨが出かけようとしたその瞬間、ディノドンが登場。

例によってものすごい喋り好きだ。

どうにか説得し、今後の関わりについても話をまとめて開放された時には既に半刻以上経過していた。


「ご主人……」


「今後軽率な行動には気をつけます」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ドラド支部はすぐに見つかった。

ドラドの人口からしてそれなりの規模であることは予想できていたが、実際目立つ場所にあり、バルゼア本部ほどではないが人の出入りも多い。

受付に行って話を聞くと、本部のギルドカードはそのまま使え、むしろ支部のものより優遇されるようだ。

どうやらクッキーカッターが連絡をしておいてくれたようで、ロンディ達の話も聞けた。

日をまたぐ仕事の途中でない限り、昼前には必ず現れるとのことである。

ロンディのチームは木人とエルフを含むため目立つ。

支部内に居る限り、まず気づかないことはあるまい。

そこで二人はロンディを待つ間、周辺地理やらドラドの法、そして依頼リストなどをチェックしているのであった。


「なんかさ、護衛や警備ばっかりね……」


「交易地だし仕方ない、でも長期任務こっちで受けるわけにいかないよなあ」


 当然というべきか、その手のものは契約期間が長い。

やることが他にいろいろあるし、そもそもこちらに長期滞在しない二人には受けることができないのだ。


「ご主人、駆除依頼の中に亜龍(ワーム)があるよ。

なんか教団本拠地の手前の山脈あたりに普通にいるみたい。期間は……」


「え、それ請けよう早速請けよう」


 亜龍(ワーム)はプロセラとツキヨにとっていろいろな意味でメリットの多い獲物だ。

だがリューコメラスに誘われた時も含めても二回しか狩った事が無い。

理由は単純で、バルゼアではほぼ絶滅状態にあるからである。


「だね。けど支部、素材窓口に食品の項目がないや。

ちょっともったいない気分」


「仕方ない」


 受付に向かい、亜龍(ワーム)討伐を請けたところで、後ろからわずかに聞き覚えのある声。

ロンディだ。どうやらこちらのことを覚えていてくれたらしい。


「おやずいぶん久しぶり、だが何故あんたらがここに居るんだ?」


「こんにちはロンディさん。……あれ、パラドクサさんとフォリアさんは」


「用事があって探してたんだけど、なかなか見つからなくって。

んでクッキーカッターさんに聞いたら、ロンディさん達はドラドに居る、というか帰ってるって教えてくれたから来たの」


「フォリアは収穫の仕事があるとかで来月まで実家。

パラドクサはジオ教団本拠地に行く必要があってね、一時的にチームを抜けてる。

ほら、俺一応神官だからさ、ついてくのは良くないかなと。

え用事?あんたらが俺に?」


「そうです。ロンディさんって念動士ですよね、ツキヨが色々話してみたいって」


 プロセラとしては念動士の話だけでなく、パラドクサにジオ教団を案内してほしかったのだが、居ないものは仕方がない。

しかし、ロンディはまったく神官に見えない。

一応神官風の服装ではあるのだが、獲物は剣と弓だし、神聖魔法を使っているのも見た記憶が無いのだ。


「教団と神殿ってあんまり仲良くないんだっけ、そういや師匠は木人も嫌いっぽかったよね。

セコイアさんのこと言ってないけど、もし言ったら怒るかな?」


「危険な予感はするよ、というかするから姉さんには秘密にしてるんだけどさ……

ああそうだロンディさん、よければご飯でも食べながら話しませんか」


「かまわんよ、まだ俺も食べてないし。

あんたらはこっちへ来たばかりだよな?なら俺がよく使う店に行こう」


 案内された食堂は新鮮な魚介類を売り物にしていて、山育ちのプロセラとツキヨが見たことの無いメニューが多い。

しかし、注文をロンディに任せ待つことしばし、出てきたものは意外にも見覚えがあるものだった。

魚こそ異なるものの、どう見ても焼き魚定食である。


「こんな所で昔を思い出すなんて」


「ご主人、何が昔なの?」


「なんでもない。けど美味しいですねロンディさん」


「そりゃ良かった。それより話とは一体」


「えっとね……」


 魚の骨と格闘しながらぽつぽつ話しだすツキヨ。

今ひとつ伝わっているのかどうか微妙な感じだが、ロンディは真剣に聞いている。

単純に念動士の数が少ないためどんなものでも貴重な意見ということか。


精髄(エッセンス)ねえ、聞いたことないなあ。

まあそれは置いといて俺はさ、魂の魔法(ユニーク)幽体化(スペクトラルフォーム)が先に使えてたんだ。

それで念動士だってことが判明して後から念力(テレキネシス)を練習したのさ。

だからまず魂のページが開くみたいな感覚からしてよくわからんわけ。

幽体化(スペクトラルフォーム)の妙なチャージ時間も不明だし、こっちがツキヨさんに教えてほしいぐらいで」


 やはり新しい情報はなさそうかとプロセラが考え込んでいると、ツキヨが思い出したかのように再び口を開いた。


「ありがと。うーん……タイプが違うのかなー……

ところでさ、ロンディさんの幽体化(スペクトラルフォーム)、わたしには他の使い方がありそうに見える。

魂の魔法(ユニーク)、魂に刻まれてる魔法なんだからさ、そう極端に時間制限があるはずないよ。

そんなに高出力な魔法にも見えないし」


「そういえば、ツキヨはほとんど一日中魂の魔法(ユニーク)使ってるけど平気だよね。

量とか威力のリミットはそりゃ魔法だしあるだろうけど、ロンディさんみたいに体質変化なのに極端に効果時間短いのは本にも載ってなかった」


「そんなこと言われても」


「全身を一瞬じゃなくて、腕だけ長時間とかは無理なの?

あと、機甲(アーマード)オークの時装備ごと幽体化(スペクトラルフォーム)してたよね。

逆に物だけ幽体化(スペクトラルフォーム)させるとかー」


「どうだろうねえ、まあ色々試してみるか。

俺のは何かリミッターかかってるみたいなんだよな。

それよりツキヨさんってどういう魂の魔法(ユニーク)なの?

空飛んでたり魔力の塊降らせたりしてたのは見てるけど、訳がわからん」


「魔力で透明な(ボード)を生成して、操るだけだよ」


「?」


 迷いなく、非常に簡潔なツキヨの回答。

何故なら自身の魂の魔法(ユニーク)について聞かれた場合、こう答えることに決めているからである。

実際にその通りの能力なので、嘘も言っていない。

“操る”部分でどういう挙動を取るのかは、全く説明していないが。


「ロンディさんって何か仕事請けてます?」


「いや、まだだけども」


「僕達、さっき亜龍(ワーム)討伐を受けたんですが一緒にやりませんか。

こっちの土地勘ないんで。あとツキヨの魂の魔法(ユニーク)も見られると思いますよ」


「ご主人、いいの?」


「見せればなんかわかるかも?あと亜龍(ワーム)に使う分ぐらいなら問題ないというか」


「問題ないのが何のことかよくわからんけども、俺はやってもいいぞ。

しかし亜龍(ワーム)は、倒すのはともかく見つけるのが大変だが大丈夫なのか。

こっちには長期滞在しないんだろ?」


「それは僕がいるから平気です」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 山の中腹を、三人が移動している。

ロンディとツキヨは簡易の飛行(ボード)に乗り、プロセラだけが歩きだ。

生息地近くまでロンディに案内してもらった後、生命感知で亜龍(ワーム)を特定。

そして、近くに居た一匹をプロセラが生命オーラを地下に流しながら追い立てているのだ。

バルゼアで見た個体と同じなら、じきに疲れか怒りで地上に現れる。


「プロセラさんは何をやってるんだい?」


「生命感知で見つけた亜龍(ワーム)を、威圧のオーラ流して追い立ててるとこ」


「なら、今乗って飛んでるこれは何?」


魂の魔法(ユニーク)で出した(ボード)だよ」


「俺が手伝えることってあるのかな」


「すっごい助かったけど?道とかこの辺に何がいるかとかぜんぜんわかんないし」


「そ、そう……」


 飛行(ボード)に座ったロンディが溜め息をついた。

その直後、前方の土が盛り上がり、はじけ飛ぶ。ついに亜龍(ワーム)が痺れを切らしたのだ。

プロセラの声が飛ぶ!


「やれ!」


 飛び出してくる亜龍(ワーム)の頭をプロセラが横から金棒で叩く。

生魔法で強化された腕力で、強引に横を向かせた。

亜龍(ワーム)の顎と頭頂部は非常に硬い。

しかし首元側面の皮は、わずかに弱くなっているのだ。

その部分が一瞬だけツキヨの目に映る。


「ん、依頼終了。捌くからちょっと手伝ってねご主人」


 亜龍(ワーム)の首元から夥しい量の血が噴出、痙攣して倒れこむ。

前もって生成し、滞空させていた槍状の細長い(ボード)で一撃のもとに首を貫き、神経と太い血管を切断したのだ。

プロセラはすでに下がり、血の噴水を回避していた。

念力(テレキネシス)が虫の息の亜龍(ワーム)の体を土から引きずり出し、圧迫してあっという間に残った血を絞り出す。

血が止まり、完全に絶命したそれをツキヨとプロセラが捌いていく。

四半刻ほどですべての下処理が終わり、素材の状態になって飛行(ボード)に積載された。

欠伸をしながら残った内臓を亜龍(ワーム)の出てきた穴に投げ込むプロセラ。

ロンディはその様子を呆然と眺めている。

前から薄々そんな気はしていたが、とんでもない階級詐欺だ。

現在のギルド階級は二人とも六級らしい。

しかし間違いなく三級か、あるいはそれ以上の能力を持っているだろう。

初めて会った時、“あの”リューコメラスと一緒に居て普通にしていたのも頷ける。


「どうにか完全に日が暮れる前に済んだな、なかなか出てこなかったから焦ったよ。

しかしツキヨ、支部って肉はダメなんじゃなかったっけ?」


「あー!忘れてた、どうしよ」


「いや、食品の類も引き取ってくれるぞ?」


「「え?!」」


 ロンディの助け舟が入る。

どうやら、ドラド支部の場合は隣の建物が食品類を扱うそうだ。

やはり現地の人物が居ると心強い。


「ところで、これはどうやって素材窓口に……」


 夕日を浴びながらドラドへと向かう飛行(ボード)の上で、ロンディが落ち着きなく呟いた。


「夜になって人通りが減り始めるまで上空で待機して、直接搬入」


「わたし達荷車とか馬車とか持ってないからね、しかたないよね」


「俺は知らない、知らない……」


「ねえロンディさん、わたしの魂の魔法(ユニーク)見て、なんか掴めた?

絶対なんかまだできそうな気がするでしょ、幽体化(スペクトラルフォーム)


「一つだけわかったかな」


「何?」


「全く参考にならないことが」


「「……」」


 仕留めた亜龍(ワーム)は、各部位と討伐報酬合計で金貨45枚と少々になった。

そこそこの大きさであったのにバルゼアよりだいぶ安いのは、希少度の差だろうか?

ロンディは報酬を受け取るのを嫌がっていたが、そういうわけにもいかないので無理やり渡した。

実際、ロンディの案内がなければもっとずっと発見にかかっていただろう。

さらに肉を引き取ってもらえるのにも気づけなかったはずなわけで、かなり役に立っている。

正統な報酬のはずなのだが、討伐なのに戦わなかったということで引け目を感じているらしい。

次も一緒に仕事しようと誘ったのだが、フォリアとパラドクサが戻るまで魂の魔法(ユニーク)の研究をしたいということで断られた。

ツキヨが望んでいた情報は特に得られなかったが、亜龍(ワーム)狩りもできたし、ロンディ側も得るものがあったようで、ドラドまで来た意味はあった。

ともかく一仕事済ませたため、今後はドラド支部でだらだらしていても嫌な顔はされまい。


「今日はきっとご馳走だねご主人」


「いや、今の時間からじゃたぶん料理になって出てくるのは明日じゃないかな……」


 “コメット亭”に帰るプロセラとツキヨ。

鞄の他に担いでいる子供ほどの荷物は、亜龍(ワーム)の肉である。

昨日迷惑をかけてしまったため手土産として、少し残しておいたのだ。


「それで、明日からどうしよ?とりあえずロンディさんのほうは終わったし。

新しい話は聞けなかったけど、しょうがないかな」


「ジオ教団本拠地にはもちろん行く。

けどツキヨ、もう一回か二回ぐらい支部の仕事してからのほうがいい気がする。

わざわざ話を通しといてくれたクッキーカッターさんにも悪いしね」


「そだね、中長期のは無理だけどなんか請けよっか。

一日休んでもいいけど」


「休んでも買い物って感じじゃないし、コメットじゃ隙だらけになる魔力接続はやめときたいし。

ってことで普通に仕事取ろう、できれば駆除系じゃない奴を」


「はーい」


 この時、まだ二人は気づいてなかった。

亜龍(ワーム)肉を持ち込んだせいで、今朝以上にディノドン達に好かれ滞在がより面倒になることを。

たまには無双

周りがおかしいからしょっちゅう刻まれてるけど普通に強いんです

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