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ライフレート  作者: 岡本
第三章 むすびつき
20/54

19話 『遠出』

「ねむ……太陽が黄色いし高いよツキヨ……」


「調子に乗って続けすぎたね、ご主人」


「冷静に考えたら当たり前だよ、魔力の消費が無くても頭と身体は疲れるに決まってる。

何で気付かなかったんだ」


簒奪管(ユザーパー)繋げてる間は何ともなかったし……」


「疲れる云々をおいといても、あれをずっとやってるのは色々よくない気が」


 ツキヨの考案した、“簒奪管(ユザーパー)転換(コンバート)を魔力や生命力の消耗無しにまとめて練習する方法”は成功に終わった。

細い簒奪管(ユザーパー)を使い、二箇所で接続して互いに同じ位ずつ吸収すれば、いくら続けても魔力はほとんど減らない。

吸収量の調整に精妙な操作を要求されるため疲れることは疲れるが、このめんどくさい能力が簡単に鍛えられるメリットの前には些細なものだろう。

だが消耗やらとはまったく別の問題が発生している。


「ん、まあ、ちょっとだけ退廃的かも?」


「ちょっとどころじゃないよね、時間決めなきゃ絶対まずい」


 そう、吸収量が均衡した状態が、異常に心地良いのだ。

昨晩から先程まで簒奪管(ユザーパー)で繋がりっぱなしだったプロセラとツキヨは、窓から差し込む朝日でようやく時間経過に気付いたのであった。

この行為が魔法の訓練を兼ねられる以上、快適なこと自体はメリットなのだが。


「わたしは起きてる間中でもいいよ」


「そりゃ何もなけりゃやってたいけど……じゃない!

明日以降は三日に一回ぐらいで、家にいるときだけにしよう、うん」


「はーい。今日は?」


「今日は、ううむ、まあどうせ休む予定だったしいいか。

でもお腹すいてるし、再接続はなんか食べてからで」


「ご主人のそういう微妙に意思の弱いところ、けっこう好きだよ。

で思ったんだけど、初めてで一晩平気だったんだし、もっと太い簒奪管(ユザーパー)使ってみていい?」


「それは今のに慣れてから」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 二人の生活に平穏が戻って、数ヵ月後。


「困ったな……ロンディさん達、二ヶ月前にバルゼアを出て、故郷の支部で仕事してるらしい」


「そっかー、ほんと困ったね、どうしよ。もうちょっと早く聞きにいけばよかった」


 プロセラとツキヨは、探索ギルド周辺の人間関係に詳しい素材窓口の主、クッキーカッターに人探しを頼んでいた。

探す相手は、念動士であり神官のロンディ。

大して親しいわけでもないのだが、彼は二人の知り合いの中で唯一の念動士である。

色々話を聞くタイミングが欲しかったのに、ここ最近全く見かけず困っていたのだ。


「あの人たちの故郷、ドラドだっけご主人」


「うん、でも確か港の方じゃなく田舎なんだよね。

でもドラド支部でそのまま探索冒険者しているなら、港なのかなあ?」


「クッキーカッターさんが支部にいるって言ってるなら、港の方にいるんじゃない」


「ドラドまで追っかけていくのと、新しい念動士を探して知り合いになるの、どっちが早いか」


「それはさ、絶対ドラドまで行く方が早いよ。

念動士って数少ないし、隠してる人も多いみたいだし大変」


「ツキヨも一応ギルドカードには書いてないしな。

初対面でも無い限り、ばればれだと思うけどね……」


「わたしは念動士としての戦い方しか知らないから、どうしようも。

フェルジーネにちょっとだけ剣術教えてもらったけど、難しい。

一応、魂の魔法(ユニーク)隠したまま念力(テレキネシス)簒奪管(ユザーパー)だけで、どうにかならないこともないかな?」


「無理することはないだろ。

ともかく、ドラドか……列車はもう乗りたくないし、行くなら飛行(ボード)だ、これは譲れない」


「列車はもういいね、一往復したら十分だよ」


 二人は半年ほど前、護衛の依頼でドラドへ行った時に一度だけ魔法列車を使っている。

食事などは専用の車両が存在するため問題ないのだが、いかんせん座席が狭い。

到着までの数日間、排泄と飲食以外全て座ったままで揺られているというのは、地味に嫌な経験であった。

依頼主が多人数のグループではなく一人や二人なら、間違いなく帰りは依頼主ごと飛んでいただろう。


「問題は行くにしてもいつにするかって話で」


「飛行(ボード)全開で飛ばせば一日でつきそうだけど」


「だから無理しなくていいって……でも、移動は一泊すれば十分な感じかな」


「ねね、ご主人、ドラドってさ、近くにジオ教団の本拠地があるよね?

もしかしたらセコイアさん居るんじゃない」


「あーそうか!そうだな!

じゃあ一ヶ月かもうちょっとぐらい休む気でいこう、そうしよう」


 セコイアはプロセラの生魔法を開眼させた、師と呼んで間違いない人物であり、おそらく強大な木人だ。

しかし、幼少時に半日話しただけなので名前と所属しか知らない。

バルゼアに来てから何度か探しに行こうと考えたのだが、その度ごとに何か別の用件が入って流れていた。

そろそろいい機会かもしれない。


「いいけど、そんなに仕事しないと感覚鈍りそうねー」


 探索ギルドの仕事は、一級と二級以外、依頼リストから選んで請け負う形で行うので休もうと思えばいくらでも休むことができる。

極端に休み続けたり請け負った仕事を完遂できない場合ペナルティはあるが、まあだいたい自由だ。


「鈍るって元々僕ら、月に数回しか正式な依頼は請けてないじゃないか……

そいや向こうにしばらく居るとしてドラド支部の依頼、やってもいいのかなあ?

確か本部登録と支部登録って微妙に扱いが違うよな、よく覚えてないけど」


「そっちじゃなくて狩りのほう」


「冬休んでると思えば。

でもクッキーカッターさんには話してから行ったほうがいい」


「普通の動物を納品してくれる人はありがたいとか言ってたもんね。

わたしはよくわかんない魔物より動物の方が簡単でいいよ。

亜龍(ワーム)はすごい捌くの楽だったけど、骨がねじれてる奴とか毒袋外さなきゃいけない奴とか。

しかも値段が強さで決まってるから、あんなに処理面倒なのに、このへんのは安い……」


「なんか理不尽だよな」


 プロセラとツキヨはこの件について、大体いつでも疑問に感じている。

だが、思っているほど理不尽なわけではない。

戦闘能力が足りているならば、魔力を持ちあまり人から逃げない魔物の方が普通は狩りやすいのだ。

二人の能力の組み合わせが、自制しないと獲物を絶滅させかねないほどに狩猟向きなだけである。


「ご主人、めんどうだししばらく居ないって今伝えとこ?

さっきまで素材窓口にいたからちょっとだけ気まずいけど」


 クッキーカッターとヴァラヌスに遠出することを伝えた二人は、売店でドラド近辺の地図を買い自宅に戻った。

当然といえば当然だが、探索ギルド本部の地図や旅の案内に関する充実度は、バルゼアのどんな施設よりも優れている。


「家賃も二ヶ月分ほど前払いしたし、後は荷造りして寝るだけか」


 部屋着に着替えたプロセラが、ベッドに座って地図を見ている。

ドラドは妙な形をした街だ。

正式名はドラド連合共和国。

商業の盛んな町で巨大な港と入り組んだ水路を持ち、南北に細長い。

バルゼアほどではないものの人口も多いようだ。


「ねー、リューさんとフェルジーネには言わなくていいの?」


「仕事でバルゼアから出てるらしいよ。

いつ帰ってくるか知らないけど、何か急ぎの用あったらフェルジーネから通信来るだろうからほっとこう。

……荷造りって別にやること無いな、まっすぐ町に行って宿取るんだし、普段の荷物に食べ物と服詰めるだけだ」


「……」


 無言で横に座ってきたツキヨから二本の簒奪管(ユザーパー)が伸びる。

それはたちまちプロセラの左右の掌に触れ、柔らかな感触で指に絡み付いた。


「そういや、接続は家でだけって決めてたな。

でも寝ないとまずいから、少しだけね」


 少しで済む訳もないのだが。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 小雨が降る薄暗い中、バルゼアからドラドへ行く魔法列車が乗客や物資をいっぱいに乗せ走っていた。

そのはるか上空、雲の少し下飛ぶものがひとつ。

飛行(ボード)に乗り、ドラドを目指しているプロセラとツキヨだ。

だが様子がおかしい。下方に影はできておらず、二人の姿も霞み、歪んでいる。


「雨が降ってくれて助かったなツキヨ、線路のそばを飛んでもまずばれないし」


「低空を飛ぶとたまに迷うからね、昨日それで困ったもん……」


「無理に迷彩かけて、こっちの感知範囲が狭まってるのが問題なような」


「この迷彩、結構性能いいと思うんだけどねー」


 先月シトリナの店で購入した、光を屈折させ遠距離からの視認を困難にさせるという迷彩ローブ。 

狩猟や討伐では獲物の目を欺き、遠見等もある程度妨害して旅の安全にも役立つなかなか便利なものだ。

欠点は近距離だとうまく機能しない事である。

まあそのおかげで暗殺や窃盗といった、物騒な用途に使いづらくなっているプラスの面もあるが。

二人は服の上にそれを着込んで、荷物にも巻いている。

更に念を入れ、迷彩の上から飛行(ボード)ごと互いの魔力とオーラで複数回覆ってある。

見た目どころか、体温や放出される魔力なども遮断している特殊迷彩状態なのだ。

なおこれらの精密操作は、簒奪管(ユザーパー)転換(コンバート)を利用した直接接続を繰り返す事で可能になった。

決して、ただ互いの魔力を貪り合うだけの退廃的な遊びというわけではなかったのである。多分。

しかしこの強力な認識阻害には、ひとつ欠点がある。

こちら側からの感知範囲もかなり狭くなるということだ。

目立つのを嫌った二人はがちがちに迷彩を固めて出発したのだが、途中で魔法列車の線路から出る魔力を見失い迷ってしまった。

結局高空まで上昇し、物理的に線路を見つける事で解決した。

二日目は感知が狭い状態にもどうにか慣れて、雨に助けられつつ線路のそばを飛んでいる。

そして、先ほど列車を追い越したところだ。


「そろそろドラドのはずだけど、なんか見えてこないな」


「霧と雨で暗いから仕方ないねご主人。

それよりドラドって入国管理とかどうなってるの、本部で案内もらってるよね」


「ギルドが出してる簡易の通行証を取ってあるから大丈夫、適当に街に近い場所で降りればいい」


「それって、発行に三日ぐらいかかるとかじゃなかった?」


「ヴァラヌスさんに直接作ってもらった」


「え、後でなんかお礼しなきゃこわい」


「バルゼアに戻ったら、奢りで飲みということにしてあるから平気」


「お財布が平気じゃなくなるよ?!」


「ええと、時は金なり?」


「ご主人がいいならいいんだけど……あ、霧が晴れてきた。

駅があれで街があっちかな」


 前方やや遠くに見えるドラド市街。

雨で薄暗い上、そろそろ夕方であり、明かりがぽつぽつつきはじめている。


「探索ギルドのドラド支部はもっと先、港町のほうにあるはず。

海側から入ろう、できれば完全に暗くなる前に」


「はーい」


 飛行(ボード)が加速、風圧で雨を切り裂き一直線に港へ向かう。

迷彩はかかったままであり、地上で生活する人々はそれに気づかない。

……しばらく後。


「人居ないの確認、一番大きな船着場までしばらく歩く」


「なら、もう(ボード)消すよ。迷彩は?」


「ローブはしまおう、体温遮断は今解除した。魔力と生命オーラ抑えるのは続行」


「あいあいご主人」


 今回プロセラとツキヨは街着ではなく、最初から仕事着でやってきた。

地味で丈夫そうな服を着て、ちょっと遠出しそうな人なら誰でも持っていそうな鞄を背負った二人はすぐに港町に溶け込める。

街着なら酒場などでそこそこ注目される程度に整った顔も、つばつきの革の帽子で隠されている。

プロセラに関しては三日分の無精ひげをあえて伸ばしてあり、更に目立たない。

武器も材質こそいいが刃やトゲのついていない無骨な金棒一本のみ。ツキヨの短剣は鞄の中。

目立つ要素といえば、見る人が見ればツキヨの左手の篭手と、二人の靴が上質な亜龍(ワーム)革製であることがわかるといった程度。


「よしよし、うまく入れたぞ」


「ねえご主人、通行証もギルドカードも持ってるのにこんなそっと入る事もなかったんじゃない?

……あとは宿だよね。何処にしよ」


「飛んできてるし、目立たないほうがいいかと思って。

何処って、お酒がいっぱい置いてるところで」


 傘を差しながら船から下りてくる人の流れに合流し、宿を探す二人。

交易地だけあってやたらとたくさんの店があり、なにやらどれも同じに見えてくる。


「そんなのわかんないよ」


「なら、個室があいててご飯食べられる店なら」


「どこでもいいってことだよね」


「いやちゃんと生命感知で選ぶからさ。

食堂部分に食事中の人が複数いて、二階や奥に空き部屋があるところを」


 慎重に範囲を操作するプロセラ。

オーラを抑制していて、まとめて広範囲を視るのは無理という事情もあり数店舗ずつチェックしていく。

正直なところ生命感知は、街中ではあまり使いたいものではない。

人々が何をしているか大体判ってしまい、気まずいからである。

バルゼアで意識して広げたのは、ツキヨが行方不明になったときぐらいだ。

だが今回は遠慮しない。

どうせ知らない人ばかりであるし、飯ぐらいはなるべく美味しいものを狙いたい。


「どう?」


「……よし、そこの突き当りにしよう。ええと、コメット亭……これが店名なのかな」


「決まった?行こ、お腹すいたよ」


 条件に合致する店はじきに見つかった。

ちょっと建物が古い気がするが、実際問題として疲れているし空腹なためさっさと入る。


「あ、ああ、いらっしゃいませ。お二人様ですか。

食事と宿泊どちらでございますか?」


 ドアを開けると、美味しそうな匂いが流れてきた。これは期待できそうである。

そして店員らしき女性の声。


「こんばんは、両方で。夕食二人分、ブランデーかウィスキーを一瓶。

あと二人部屋か三人部屋を一つ、とりあえず三日分ほどお願いします。

空いてなければ一人部屋でも」


「は、う、承りました。そちらに座ってお待ちください」


 何故か逃げるように立ち去る店員。

プロセラが見た感じやや客層が悪そうだが、気にするほどでもないと判断。

まずは食事が先と、空いている席に座った。


「なんか変じゃないご主人?

わたしはご飯食べて寝られればいいけど」


「おかしいけど別に大丈夫かなあと、まあ……」


「よお、兄ちゃん達、俺と呑まねえかあ」


 二人の横に、いつの間にか壮年の男が一人やってきていた。

リューコメラスより頭一つ分ほど小さいが、それでも十分に大男といえる身長と、鍛えられた肉体。

だいぶ酔っているようで、酒瓶を二本持ち微妙に揺れている。

恐らく男の仲間であろう後ろの客席からも、不安そうな声。

どうやらこれが先程の店員の態度の原因のようだ。

だが、プロセラの頭にまず浮かんだことは、この男をどうこうする等ではなかった。

ツキヨもそれを察し、自分には関係ないとばかりに欠伸などしている。


「いいですね、飲みましょう。

あ、僕はプロセラ・アルミラと言います。バルゼアから来ました。そちらは?」


「おう、俺がディノドンで、そこの奴がダルマと、シュレーゲルと、ハロウェルと……」


 後ろに居る仲間の紹介までしはじめたディノドンから酒瓶を引ったくり、勝手に飲み始めるプロセラ。

生魔道士の彼に、アルコールのリミッターなどは存在しない。歓迎すべきただ酒だ!


「ふう、ええと、ディノドンさん。もっと行きましょう。この店に来てよかった」


「ふははは!面白え奴だ、今日は俺の奢りだぜ!酒もっと持って来い!」


「あーあ、わたし知らないからね。

ごめんね店員さん……と、ディノドンさん、と友達の人……」


 料理を持ってきた店員が先程以上に困惑している。

一応、形だけ謝ったツキヨは、蒸留酒をラッパ飲みする男二人を完全に無視し淡々と食事を開始した。


「「もう一本!!」」

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