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ライフレート  作者: 岡本
第三章 むすびつき
17/54

16話 『死魔道士』

 幽霊屋敷の地下四十一階、最下層。

聞こえるのは換気口からの静かな風の音のみ。他の階層にひしめくアンデッド達も居ない。

そこは大広間になっていた。高い天井を支える太い柱が数本。

中央部に魔方陣が描かれた金属製の大きな台座があり、周囲は青白いが柔らかい明かりで照らされている。

上に、人が寝ている。地味なワンピースを着た黒髪の少女。胸元には黒いオニキスのブローチ。

台座の横に立つのは青いローブを着た人物。

その周囲に、ごくわずかずつ魔力が動いている。

何らかの魔法を、慎重に操作しているのだ。


「これであとすこし待てば完成ね」


 魔力の流れを慎重に確認し直し、台座から離れた人物が呟いた。

どうやら女性だ。


「それにしても、まさかこんなにかかるとは……あら、お客さん?

え、何よこれ、どうしましょう……ああ、だめね。行くしかないわ。

…………ちょっと待っててね」


 青いローブがふわりと揺らめく。

もう一度だけ台座を確認すると、姿を消した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「右行って奥行って左だぜ」 


「はい」


「その突き当りで降りられるはずだぜ。次は何階だったか」


「三十六ですかね」


 プロセラとリューコメラスが階層を下っていく。

一番不安だった空気に関しての問題が無いので、進むペースは相当に早い。

アンデッド達はもはや居ないも同じだ。

もとより大して強いものでもないのだが、プロセラに転換(コンバート)される速度がどんどん上がってきている。

同じ人物が同じように作ったもののため、動力は幽霊と魔力の二種しかなく、転換(コンバート)の際に波長を合わせなおす手間が不要だ。

もはや、攻撃が当たる前に吸収が可能。


「なんだこりゃ、空き地か?」


「ですね、でももうちょっと下みたいです……む、何か居ます」


「だなあ、雷弾(サンダーボール)!」


 リューコメラスの放った電撃球が奥に居る何かを襲う!


「「「…………」」」


 奥の誰かに指令を受けたらしいアンデッドが身体で電撃を止めた。

そして周囲が明るくなる。どうやらこの空間には照明があるらしい。

明かりにより奥の人物のローブの色が判明。青だ。目撃証言と同じ!


「どうも、こんばんは。カルバティアです。

ここは私の家なので、お帰り頂けると助かるのですが……あら?貴方どうして」


「え……何で……お前……」


「ふん、てめえは……幻魔(スペクター)かあ?

いやちと違うな、ん、どうしたプロセラ?」


 なにやら狼狽するプロセラと青いローブの女、カルバティアを交互に見るリューコメラス。

知り合いなのだろうか?


「そんな名前だったのか、店員さん……確かに、お前なら、ツキヨを連れて行けるかもしれない。

でも、何で今更こんなことを、いや、別に理由がなんでも許さないけど、何故?!」


「貴方はプロセラと言うのね。

それで質問の答えだけど、今更ではないわ、今までかかったのよ。

高魔力者にマーカーを送り込めたまではよかったんだけれど」


「マーカー?」


「そう、私の魔力を固定させた印。そこまでは問題なかった。

けど魂の魔法(ユニーク)のせいかしら。レジストが強烈だし、気づかれそうになるし、すぐ終わる予定だったのに解除に一年、暗示に一ヶ月近く。

本当に疲れたわ。こっちはこっちで、今更ターゲットを変えられるかってつい意地になっちゃって」


 プロセラがギリギリと歯を軋ませる。あのオニキスのブローチが罠だったのだ。

確かにずっとつけていた。ブローチ自体が何かしているわけではなかったため、気づかなかった。

とりあえず話を聞いて、それからあいつを消す。


「何のために」


「友達が欲しかっただけよ……う?!」


「殺ってから考えるぜ、プロセラ」


「リューさん、これどうやったら倒せるんですか!」


 片腕を斬られながら吹き飛ぶカルバティア。

会話中に音もなく回り込んでいたリューコメラスの一撃!

しかし飛ばされたカルバティアの身体から魔力が噴出、腕を引き寄せて接合しながらふわりと着地。


「せっかちな男は嫌われるわ。私はカルバティア。死魔道士カルバティア。

そして……」


「てめえ、死魔道士だと、クソが、暗黒とばかり思っとったぜ。

つうことは幻魔(スペクター)じゃねえ、帰還者(レヴナント)!」


 生来の適性もしくは改造により肉体が変質し、不死化する希少な魔道士。

その系列は通常四種類。

一つ、神聖魔法を扱い続け、魂そのものを肉体と化した先手(アンセスター)

二つ、暗黒魔法を扱い続け、自身の魂を操るに至った幻魔(スペクター)

三つ、生魔法をベースに、外部のエネルギーを自身の命として扱える否死者(イモータル)

最後に、死魔法をベースに、動力を命から魔力に完全置換した帰還者(レヴナント)

まとめられてはいるが、共通点は寿命が無いことだけ。

同名でもそれぞれが独自の能力を持つ超越者だ!


「正解よ!弱体(エンフィーブル)


 浮遊したカルバティアから衰弱の風が放たれる!

鎧を生成しながら下がるリューコメラスの前に割り込む人影。当然、プロセラだ!

弱体(エンフィーブル)がその身体に絡みつくが、反発する生命オーラが呪いの進行を止める。

抵抗力!


「僕がお前を消してやる」


「プロセラ!帰還者(レヴナント)の倒し方はなあ、魔力を削り切る!」


 オーラを纏った打撃がカルバティアを掠め、バチバチ音を立て魔力を減衰させる。

そこにリューコメラスの追撃、足元から岩の腕!

それは浮遊して受け、体勢を立て直しつつ後退するカルバティア。

更に伸びる別の岩の腕!


「む、できる!ちょっと頑張らなきゃ…………侵食(エンクローチ)魔力支配(ドミネイト)!それをよこしなさい!」


「これは」


 プロセラにかかっていた呪いが追加の魔力で侵食、脱力させる。

一度乗った呪いを後から強化する高等技術! 

そして周囲に放たれる新たな死魔法。

リューコメラスの操る岩腕(アームロック)を解除。

そのまま支配権を奪い取りカルバティアの僕と化す!


「おいおい、仕方ねえなこりゃ。あんまり触りたくねえんだが、加速(アクセラレート)


 加速したリューコメラスが再び放たれた衰弱の風を回避しつつカルバティアに斧を叩き込む!

ふわふわ漂いながら魔力でそれを逸らし、加速に対して魔力支配(ドミネイト)を試みる。

だが本体に近すぎる、失敗!

さらに岩腕(アームロック)を操り斧を掴もうとするカルバティア!

リューコメラスがそれを切り飛ばし、少し下がる。


「ううん、こいつもまたしぶといわね!」


 その後方、プロセラ。ようやく弱体(エンフィーブル)との同調が完了。

呪いがじわじわ生命オーラに転換(コンバート)されていく。

大量にカルバティアのアンデッドを食い、その魔力に慣れていたのが大きい。

強化(エンチャント)で無理やり解除しても良かったのだが、後の事を考えればこちらの方が良い。

学習する必要がある。


「はー……さてと」


 呪いを食いきったプロセラが立ち上がり、リューコメラスの行動を阻害する岩腕(アームロック)のアンデッドを狙う。

二人の魔力が混ざっているため転換(コンバート)は試みず殴って魔力を散らす!

それに気づき、顔を歪めたカルバティアから細く黒い影が伸びる。


「……吸命管(サイフォン)


 生命力を魔力に転換し奪う死魔法。影の触手がプロセラに殺到!

しかし、触手と接触した生命オーラは逆に敵の魔力を生命力として吸い返そうとする!生魔法と死魔法は表裏一体なのだ!

物量で押そうと追加の触手が伸び、巻き付く。

その先ではリューコメラスとカルバティアが睨み合っている……



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ゼムラシア探索冒険研究連合体本部、三階事務室。

大量の書類に囲まれたヴァラヌスが大きな欠伸をした。


「あーあ、退屈な仕事よねえ」


「紙を制するものが、神を制するのです。ヴァラヌスさん、あなたは能力があるんですからねえ……」


「うげっ、総長(ギルドマスター)なんでここに?!」


 いつの間にかヴァラヌスの背後に男が立っている。

白髪の老人。微妙な身体的差異が、彼がヒトではなく獣人であることを知らせる。

小柄なその身体からは並々ならぬ活力を立ち上らせ、その瞳の奥には炎がゆらめく。

その男こそ、数々の逸話を持つ伝説の研究者にして、ゼムラシア探索冒険研究連合体本部総長(ギルドマスター)、ガノーデ・アプラン!


「いや、あなたの相棒の操る精霊が、うちの屋上に居たもんでね。

秘密の伝言でも飛ばしてるんじゃないかと思いまして。私用は駄目ですよ?はっはは。

でもね、私はあなた、いやあなた方ギルド職員の味方ですよ。いつでも。

ですから、出かけるときは一言かけてくださいねえ。」


「は、はい……今日は別に、え精霊?単独で?

どうしたのかしら、あいつ、本部で出すの嫌がってたのに」


「おや、てっきりあなたと何か喋ってるものだと、これは失礼。

行ってみたらどうですかね?もちろんそれが終わってからですが。

それにしても、あの男もいい加減、特務か一級になってもらえないもんですか?

ギルドは全てを歓迎するというのに」


「それは、まあ、わたしもそう思いますね。

で上に精霊?わかりました。では総長(ギルドマスター)、これのチェックお願いします。

ではまた明日!」


 言うが早いか、物凄い速度でデスクを整理したヴァラヌスは、最後に残った書類だけをガノーデに渡して事務室から消えた。

残されたガノーデがその紙をペラペラとめくる。


「はあ、もうちょっと落ち着いてくれれば楽なんですけど。

仲間を大切にするのは良いことですがね……」


 ヴァラヌスが屋上に飛び出すと、上空にフェルジーネが浮いていた。

髪の毛をスパークで逆立たせた威圧的な姿で目を閉じ、何らかの感知フィールドを広げている。


「……精霊、こんなとこで何をやっているの?」


「ん?ああ、ヴァラじゃない、ちょうど伝言飛ばそうかと思ってたのさ」


 気づいた、というか気づいていたらしいフェルジーネが降りてきた。

しかしスパークはそのままである。彼女の帯電は、戦闘体勢であるか伝言の交信チャンネルを開いている証だ。


「あなたってここ嫌いとかじゃなかった?」


「んー、別にそういうわけでもないさ、ああそうだ、リューコメラスから伝言ね。

仕事終わったら戦闘準備して幽霊屋敷に来いってさ」


「もっと詳しく言えと馬鹿に伝えなさい」


「えーとー、ツキヨが行方不明でプロセラがパニックでー、リューコメラスと探してて。

一応見つかったっぽいんだけど面倒なことになってるらしいのさ。

ん?リューコメラスがなんか言ってる」


「慌ててることはわかったわ、でリューコメラスが何?」


「今すぐフェルジーネと」


「はい?」


帰還者(レヴナント)



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 地下の戦いはようやく均衡が崩れ、勝敗が見えてきた。

膨大な魔力量を活かし、弱体の呪いを撒きながら消耗戦を挑んできたカルバティア。

それを丁寧に切り崩していくプロセラとリューコメラス。

プロセラが少しずつ攻撃を止め、転換(コンバート)して消化する。

過剰な分を捌きつつ本体を削っていくのはリューコメラス担当だ。


「あああ吸命管(サイフォン)、返せ私の、魔力うううう」


 浮遊する青いローブ、カルバティアが呻く。

中に渦巻くのはいまや身体ではなく、凝縮された灰色の魔力!

最初、女性の姿をとっていたカルバティアは、戦闘を続けるうちに段々と崩壊し、魔力の塊に変貌していった。

魔力のみで頭と身体を動かすという帰還者(レヴナント)

その最終形態が恐らくこの知性的魔力塊なのだろう。

しかし、その大きさは最初にこの形態になった時の三分の一ほどだ。


「捕りました」


「っしゃ、雷刃(サンダーアクス)!」


 伸びた触手をプロセラが掴む。

そしてリューコメラスが、触手とカルバティア本体との魔力の繋がりを電撃により途中切断。

切れた魔力をカルバティアが回収する前に、生命オーラがそれを飲み込む。

同調できた分は吸収、残りは砕いて消去!


「困った……困ったわ……こんな予定は……アンデッド製造(クリエイト)……瓦礫ラブル……」


 カルバティアの言葉に反応し、周囲の岩や壁の破片が歪なアンデッドとして立ち上がる。

それらが群れをなして二人を妨害。

リューコメラスは無視して天井近辺まで浮遊、斧から電撃を迸らせカルバティアを狙う。

今回、地魔法や風による攻撃は使えない。

物質操作による遠距離攻撃は魔力支配(ドミネイト)でコントロールを奪われるからだ。

青いローブの中から再び触手が伸び、リューコメラスを牽制!

一方、床ではプロセラが瓦礫アンデッドを無視してカルバティアを見上げていた。

殺到する瓦礫アンデッドは、魔力を生命オーラに吸い取られて崩れ落ちる。


「……何?うおああ!」


「余所見はいかんよな、帰還者(レヴナント)?」


 床に注意を逸らしたカルバティアをリューコメラスが斬る!

二つに分かれかけた魔力塊が地面に叩きつけられた。脈動する塊。

そこから魔力をちぎり取るべくプロセラが迫るが、何かに気付き急停止。


「え?!リューさん、離れて!」


「……カーッ!」


 瞬間、その姿が爆ぜた!

凄まじい閃光が走り、辺りが砂煙に包まれる。


「あれ……大した威力じゃなかった」


「殺ったか?」


「いや、逃げたみたいです。それより行かないと」


 天井から降りてきたリューコメラスが首をひねった。

プロセラが奥を見ている。

不利と見たカルバティアは、斬られた半分を閃光弾代わりに爆発させ、自身の魔力を隠蔽して逃げた。

別に感覚器官を守る必要が無いプロセラには見えていたのだが、爆発の威力がどれほどか不明なため警告を優先したのだ。

結果的に失敗であったが仕方が無い。


「そうだなあ、まずは下だよな」


「はい、転換(コンバート)


 ポケットに入っている二枚の予備魔力(ボード)

うち一枚を吸収、消耗を回復。プロセラの全身に力が漲る。

できればもう一枚は荷物と共に破損しない場所に置いておきたい。

再び生命感知し、距離を再確認。ツキヨがいるのは四十一か四十二階。


「どうした?」


「いえ、なんでもないです。進みましょう」


 再び移動を開始する二人。

最短距離で三十七、三十八、三十九。

アンデッドはいない。おそらく主のコントロールが切れ、動作停止したのだろう。

そして四十階。


「そこ左だぜ、あん?なんじゃこの反応」


「いる、ツキヨだ、けど、なんだろ……降りましょう」 


 荷物を降り口の手前に投げ落とし、下に。

他の不死身シリーズもそれなりに出していく予定。

ちなみに死にづらい職種ってだけで強さは本人依存です。

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