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ライフレート  作者: 岡本
第二章 おのぼりさん
13/54

12話 『仕事』

 プロセラとツキヨがバルゼアで働き始めてそろそろ一年。

アルテミアの実家には定期的に、元気にしている旨の手紙と共にいくらかの金を送っている。

収入は当初、適当に有用な生き物を狩り、それをギルドに買い取ってもらって得ていたが、

最近ではより割のいい、クッキーカッターから直に種類指定で狩猟を請け負う方式に変更した。

ギルドの仕事の方も、少しずつ契約護衛や魔物の討伐などを請けるようになった。

リューコメラスやヴァラヌスからは、会うたびもっと上の仕事をやってくれと言われる。

しかし狩猟だけでも、能力をフル活用すれば月あたり金貨20から30枚は稼げるのだ。

何より大森林での狩りは、余った時間でそのままトレーニングや魔法の研究が出来て効率もいい。

効率の差のみが理由というわけではないが、特別にギルド階位のアップを狙ったり、高位の依頼を受ける気はあまりない。

そんな折、リューコメラスが珍しく“アベニー”の二階にある二人の住居まで訪ねてきた。


「よう、久々だなお二人さん。……おい、なんだこの部屋?!」


「こんにちは。フェルジーネは?」


「リューさんこんにちは。ギルド本部やトンプソン以外で会うのは二ヶ月ぶりぐらいですか。

そんなに変かなここ」


 別に、ゴミ屋敷になっているとか、逆に全く無いとかではない。

ただし普通かというと断じて違う。

やや高い天井からは、下処理した各種動物や魔物の爪、牙、甲羅などの素材が大量に釣られている。

在庫やタイミングの問題でクッキーカッターの査定が安かったものや、何かに使おうと思って取ってあるものだ。

奥の扉が開いている大型のクローゼットの中からは、全く同じデザインの作業服が十枚以上。

プロセラの仕事着だ。試行錯誤はしたが結局衣服は完全に消耗品の扱いとなり、鎧の着用は諦めた。

そしてベッド。記憶を頼りに頑張って作ったこの世界の文化に無い寝具。

しかし、別に技術者ではないプロセラが感覚でサイズを決め、木材屋に切って貰って組んだためにやたらと大きい。

その上マットレスにツキヨが生成する(ボード)を使っているため、木の台の上に不自然に布団が浮いている。

そんなわけで、二人にとっては快適で便利なものの、他人から見るとちょっとしたホラーハウスなのだ。


「まあ……お前らがいいならいいんだけどよ、俺はここには住みたくねえぜ。

フェルジーネは移動速度と伝言を飛ばす能力を買われて、最近シトリナ婆さんの店で働いとる。

奴はどうも何かをやらせている間は無害らしい。

離れとっても俺とは相互連絡可能なんで大丈夫だろう。あの地精霊は可哀想かもしれんが」


「ディオス君でしたっけ。可哀想なんてもんじゃないと思いますがね……

んで何しにここまで?外でなら十日に一度ぐらいは会ってるのに」


「だよねー」


「それはだ、ちょっと仕事を手伝って欲しいんだよ。もちろんギルドのな」


「僕はリューさんクラスが請け負うようなの、あんまりやりたくないんですけど」


「違うぜ。あくまで俺が受けた依頼だ。まあ俺のチームメンバー扱いという方向にはなっちまうが。

北の森に亜龍(ワーム)が出たらしくそれの討伐を」


 亜龍(ワーム)。山や森の奥に穴を掘って棲む大蛇のような魔物、つまり魔力を扱える生物の一種だ。

知能が高いとか人類に敵意を持っているなどということはないのだが、なかなか強力で危険度は高い。

一応調教が可能で、闘技場(コロセウム)に出場したりすることもある。


亜龍(ワーム)ってあの長虫ですよね。別にやばい個体って話も無く普通に亜龍(ワーム)?」


「おうよ」


「それって別にリューさんとフェルジーネだけで余裕なんじゃ」


「倒すのはな。だが亜龍(ワーム)は潜るから俺の熱感知じゃ見つけにくいしよ、革とか牙とかも割と高く売れるし肉も食える」


「……要するに僕の生命感知と、ツキヨの運送力が欲しいんですね。

最初からそう言ってくれれば済んだのに」


「わたしも受けてもいいよ、ご主人。亜龍(ワーム)の革って靴とか篭手に最高なんだよね?

クッキーカッターさんに頼んだら職人紹介してくれないかな」


「おっしゃ決まりだ、明日朝から空飛んで出発すりゃ三日もあれば終わるんじゃねえかな。

つかお前らほどのサポート能力があって、守る必要もほぼ無いってのはほんと楽だぜ」


「でもこの三人だと回復はともかく水がちょっと不安なんですよね」


「まあそんなに遠出じゃねえし保水球だけで大丈夫だろ。んなら明日朝、北側の一番でかい関門でな」


 用件を終え、慌しく去っていくリューコメラス。

あいかわらず嵐のような男だなあ、などと思いながら二人は狩りの準備を始めた。 



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 森の上空を、四人の男女が行く。

二人は普通に空を飛び、残りの二人は荷物とともに何らかの生成物の上に乗っている。 

その後ろに、長さ15フット、太さ2フットほどの血抜きし内臓を除去された亜龍(ワーム)の死骸が二匹。

亜龍(ワーム)としてはかなり若い個体だ。

四人のうちの一人、飛んでいる方の男がやや沈んだ声で口を開いた。


「いや、なんかすまねえな二人とも。こんなに小さいとは思わなかったぜ……」


「皮と牙だけならリューさん一人で運べましたよね」


「だからって、二匹分の肉を全部持って帰ることも無かったんじゃないかな。

積載量増やしてるけど、やっぱちょっとだけ重いよ」


 ツキヨも微妙に不満そうである。


「いいじゃないさ、靴とか鞄とかには若いやつの方がいいんでしょ?」


「はあ、フェルジーネは金とか関係ないから気楽でいいよなあ。

あれ何だこの反応、何か戦ってる?音が変だ、爆発?どうしよう」


 遠方に煙が上がっている。プロセラの感知には人型の何かが四体。

うち二体は人間ではなさそうだ。

少し遅れてツキヨやリューコメラス、フェルジーネそれぞれの感覚に情報が入ってくる。


「三人が一人から逃げてるのかな?」


亜龍(ワーム)をどけといて、見に行ってみるか。

割とやばそうな予感もするんだが」


「じゃあ僕とフェルジーネで先行しますよ」


「その前に一旦降りて荷物しまおう、ご主人」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 深い森の中、二人が後ろを警戒しながら走っている。こんなはずではなかった。

彼らは冒険者だった。受けていた依頼はオークの捜索。

オークは遥か北の方に単一種族で構成される国を持つ亜人。

古代の生体兵器の末裔だとも言われるが、それは定かではない。

男女問わず筋骨隆々で、身体に刺青を入れる習慣のある彼らはゼムラシアの共通語ではなく、独自の言語を持つ。

人間や他の亜人種族と敵対しているのが最大の特徴だ。

なお、決して未開の蛮族ではない。

魔法を直接使うのはあまり得意でないが、高い技術を持ち火器と魔法を編み込んだ各種装備で戦う。

彼らも生活があるため、大々的に他国を襲うことはあまり無い。

しかし散発的に工作員や、本国から追放される犯罪者をまとめた小規模部隊を送り出してくる。

バルゼアまでやってくることはさすがに少ないのだが、オークが目撃されたという噂が旅人より持ち込まれたため、彼らが真偽確認の依頼を受けたのだ。


「ありゃ一体なんだ!オークって皆ああなのかいロンディ?!」


 着物のような服にかなりの長身、滑らかな木質の肌と蔓草の髪を持つ木人の女性が叫ぶ。

その肩には目立った負傷は無いもののぐったりとした耳の尖った少年を担いでいる。


「俺が知るわけ無いだろう、パラドクサ!」


 もう一人は金髪の男。服飾からして明らかに神官。

一般的な神官と異なるのは、鈍器ではなく長剣で武装し、背中にクロスボウを携えているところだ。

彼ら三人は休息中のオークを発見、単独だったので攻撃に出たのだ。

しかし、気づかれ逃げられてしまい、どこからか装備を持って戻ってきたオークに今度は逆に追いかけられている。

一息ついたその時、横から爆発音、奴だ!

木々をなぎ倒して現れたオーク。その姿は最初にロンディ達が見たものとは似ても似つかない。

迷彩柄の不思議な鎧。身体の各所から蒸気を噴いていて、その背中にはこれも機械的な造型で迷彩柄のバックパック。

オークの特殊装備、蒸気戦闘服(スチームスーツ)だ。

左手には赤熱した片刃の長剣。右手にはバックパックと繋がった擲弾銃(グレネードランチャー)


「AHHHH......Fire!!」


 オークが向き直る。同時に擲弾銃(グレネードランチャー)から放たれる爆発性の弾!

だが木人と神官には着弾せず。

代わりに突如隆起した地面に着弾、それを吹き飛ばした。


土壁(クレイウォール)……危ないぞ……食らえ、火炎弾(ファイアボール)……」


 肩に担がれた少年が地の防御魔法を使ったのだ。

そのまま土煙の先に向かって火球を放つ少年。なかなかの複数属性持ち(ハイブリッド)

炎の海を眺める三人。しかし……


「ZZZZZ」


 中から現れたオークは無傷。

蒸気戦闘服(スチームスーツ)も損傷無し。

よく見ると、迷彩柄のバックパックから金属の何かが伸び、それが輝いている。

そしてオークの周囲には全く炎が無い。携帯型の抗魔障壁(マジックバリア)

ほんの少しだが古代文明の技を継承するオーク。魔法に対抗する技術の力!

一度防がれた擲弾銃(グレネードランチャー)を仕舞ったオークが両手で赤熱剣を構え、仕掛ける!


「あ、あたしゃ斬られるだけなら平気だが炎は苦手なんだよ!」


「わかってる、いいからフォリアを持って離れろ、幽体化(スペクトラルフォーム)!」


 男の輪郭がぶれる。そこに叩き付けられるオークの燃える一撃!

だが男は切り裂かれず、返す刀で切りつけた。

蒸気戦闘服(スチームスーツ)を破壊するには足りないものの、見事にカウンターで当たったその斬撃はオークを吹き飛ばす。

無事だった理由、それは男、ロンディの魂の魔法(ユニーク)

体質変化タイプだが、使用にかなりのチャージが必要な上効果は短く非常に扱いづらい。

しかし、それが発動する数瞬の間は持ち物を含めた全身が非物質化、ほぼすべての攻撃を透過する。

神官としては微妙な技能の彼が仲間に頼られる最大の理由だ。


「Requiring special attention」


 空中で蒸気を噴き、体勢を立て直したオークがロンディを見下ろしつつ着地。

構えた赤熱の刃から炎が吹き上がり、燃える槍に変化。

反撃を受けづらくするため射程を延ばしたのだ。

オークが槍を振り翳す。その表情は迷彩柄のフルフェイスに隠れて伺えない。

幽体化(スペクトラルフォーム)はしばらく使用不能。


「ああ……」


 恐るべき炎の槍が迫る。

仲間は逃げられただろうか?判らない。思えば短い人生だった。


「何だこいつ、宇宙人?特殊部隊かなんかか?!熱ちちち?!」


「VRRRRRRR!!」


 死を覚悟したロンディ。しかしその時は訪れない。

代わりに困惑する何者かとオークの声。

どうやら、土壇場で誰かが割り込んできたのだ。しかし、何かおかしい。

飛び下がり、剣を構えたロンディの目に妙な光景が飛び込んできた。


「助かった、有難い、へ?ええ?!だ、大丈夫なのかお前?!」


「平気だ!でも熱い、熱いぞちくしょう!炎は良くない!」


「He is whom....」


 ロンディの前に立ちふさがったのは若い男。

なんと、オークの炎の槍がその腹を貫いている!

だが男は不平を言いつつも何でもなさそうに立ち、素手で槍を掴んでいるのだ。

よく見ると、恐ろしいことに燃えるそばから肉体が再生している。

困惑しているのは腹が貫かれたことではなく、どうやら敵の姿の方らしい。

そして、炎の槍による攻撃を身体で止めた謎の男に戸惑うオーク。 

直後、上空からオークと男を両方巻き込んだ雷撃!

抗魔障壁(マジックバリア)が、オークへの影響を打ち消す。

男にはそのまま着弾。だが、一瞬動きが止まっただけでたいして効いていないようだ。

しかしオークはその隙を逃さず槍を取り返し、背中から蒸気を噴出して機械的なバックステップで距離を取る。

フルフェイスから不思議な光と音。機械的な手段で周囲をクリアリングしているのだ。

更に何らかの質量物体が次々に飛来、ドカドカ音を立て地面に穴やひびを作る。

男を仕留める事を考えて、後退が少しでも遅れていればオークは押し潰されていただろう。恐るべき戦闘センス!


「なんぞこれ、オークよね多分?つか放電(ディスチャージ)効いてないわよ?!」


「理由聞かれても困る、機械でバリアみたいなの張ってるぞ!SFかよ、うわビーム撃った!?」


「何わけわかんねー事言ってるのプロセラ、えすえふって?リューコメラス遅い!」


 オークと男の間にスパークに包まれた子供が出現。

非常に薄着だが、電撃を迸らせる曲刀を隙無く構えている。

少し遅れてもう一人の増援が降下。岩の鎧で全身を覆い、斧を担いだ見上げるような大男。

その間も質量物体が散発的にオークの周囲へと降り、牽制。


「はああ?こんな所に機甲(アーマード)オークだと?!冗談きちいぜ……」


 機甲(アーマード)オーク。特殊な改造を受けたオークの戦士で、オーク本国全体で見ても精鋭中の精鋭。

リューコメラスですらも数回しか見たことが無い。

基本的に本国の中央とその周囲を守っていて、外部にあまり出てこないからである。

魔法と機械の高度な融合の結晶である蒸気戦闘服(スチームスーツ)を装備する彼らがこんな所にいるのは割と異常事態なのだ。


「これがオークなんですかリューさん、ほんとに?!ってなんだ喋ってる?言葉が違うのか?」


「うぬ……Hello.....aaaa.....Why did it come here?」


 謎の言葉で目の前の機甲(アーマード)オークに話しかけるリューコメラス。

プロセラはこの発音にそっくりな言語を知っている。多少違う部分がある気がするものの、だいたい英語だ。

問いに、オークが反応する!


「GRUUUUU.....Investigation.」


「こんな所にまでだと、ふざけやがって……Order away!Hurry!Hurry!Hurry!」


 その間も電撃が迸り、質量物体が向かっていく。

それらを器用に回避しながら会話を返す機甲(アーマード)オーク!


「AHHHH......AHHHH......AHHHH......AHHHH......AHHHH......AHHHH......AHHHH......AHHHH......AHHHH......AHHHH......AHHHH......AHHHH......OK.I return.....Please


remember......S H I T!!!!」


 何やら悔しそうに叫んだ機甲(アーマード)オークがバックパックから蒸気を逆噴射!

フェルジーネの電撃移動ほどではないが、それでも凄まじい速度で北へと去っていく!


「やれやれ、言葉が通じる奴で助かったぜ」


「すげー、映画みたいだ」


 大きく息を吐き、鎧を解除したリューコメラス。更にもう一人、上空から現れた。

シンプルなデザインの丈夫そうな服を着た黒髪の少女だ。武器は持っていない。


「なんか逃げてったけど、いいのかな?うわ、ご主人また派手に服燃えたね……」


「まあ、みんな無事みたいだし」


「逃がしたのは仕方ねえ、というかあんま殺したくなかったんだ、機甲(アーマード)オークはオークの重鎮だぜ。

こんな所に居るのが信じられねえ。勝てるか勝てねえかなら全員でかかりゃ余裕だったろうがよ。

自爆するかも知れねえし、立場によっては別の機甲(アーマード)オークが復讐に来る可能性もだな。

引いてくれるならそれに越したことはねえさ。

つうか、逃げてた連中冒険者だよなあ?本部で見たことあるぜ。

それがどうして機甲(アーマード)オークに追い回されてんだ。

いくらオークと俺達が敵対してるつってもよ、あのクラスの奴が森を焼き払いながら無差別に暴れ回るもんかね」


「リューさん、とりあえず僕とツキヨは荷物と亜龍(ワーム)を回収してきますよ」


「おう、すまん頼む。さて」


 先程オークに追い回されていた、金髪の神官と木人の女性が戻ってきている。

木人の肩には動かない少年。尖った耳と不思議な色彩の髪。エルフの特徴だ。

どうやら消耗しているようだが……


「あ、危ない所をどうも。俺は六級探索冒険者のロンディです。あれ?どこかで見たことがあるような」


「色々お世話になって申し訳ねえ。あたしは木人パラドクサ。

五級……うげっ吸血鬼!いや、感謝はしてますよ、はい。担いでる奴は六級のフォリア。

ちょっと魔法撃ちすぎて疲れてるだけで、別に命に別状はねえからほっといても」


「死人が出てねえならいいがよ、ちょっと話聞かせてもらおうか。

俺のメンバーが戻ってくるまでに纏めといてくれ」

オークの国の話も時間があったら書きたいです。

改造兵士。

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