陽猿
光線によって失った部分は傷跡もなくすっかり治っていた。
体にも特に異常はない。大丈夫そうだ。
「あれ? さっきの魔物がいない」
倒れているはずの魔物の姿が見当たらない。
まさか、まだ動けたのか? だとしたら戦いは終わっていない。警戒しなくては。
しかし、ソレはそこにいた。その姿をとても小さくさせて。
「どうなってるんだ? 近づいても平気なのかな」
とても苦しそうで辛そうで、先程までの威圧感や凶暴さは消えていて今にも崩れ去ってしまいそうな脆さが感じられた。
それを何故か放っておくことが僕には出来なかった。
ただし、決して危険のないように極めて慎重に歩み寄っていく。
魔物はとても衰弱していた。このままなら死に向かうのみだ。僕としては助ける義理などないが、その瞳を覗くとそこには後悔の念と涙が浮かんでいた。それを見たとき自然と治癒の魔術をかけていた。
まずは命の危険が遠のく程度の回復を施し休ませておく。まだ警戒は怠れないからな。
それから少し経つと魔物が意識を取り戻した。
「大丈夫かい? 僕の言葉は分かる?」
「あ、あぁ」
適当に期待せず発した言葉に返事が来た。どうやら言語を理解する知能の高い者らしい。
「すまなかった。儂が愚かだったばかりに……」
やけに元気がなく見える。何か訳ありっぽいな。
「取り敢えず事情を聞かせてくれる?」
「そうじゃな……」
彼はまだ肉体的に辛いのか言葉に詰まりつつだが丁寧にゆっくり話してくれた。
彼は長い歳月をこの森で過ごしながら少しずつ魔力を蓄えていき進化してきたという。時間をかけ、しっかり段階を踏んで自分の魔力許容量を拡張していくことで自分を保ちながらも生物としてステップアップすることが可能なようだ。
そういえば明らかに普通の生物とは違うのに知性があったり温和な性格の種族がいくつも存在しているのを情報の中で見たけど、時代を重ねて堅実に魔力による進化を繰り返し繁栄してきた種族だったりするんだろうか。
そして彼は長命と高い知能と強さを獲得していったのだが、あるとき森に強力な魔物がやってきて植物も動物も全てを滅ぼしていったと……。
長い時を生きる彼にとってこの森はとても思いの詰まった場所であり、親しい者も多くいたので魔物と戦うことを決意し満身創痍になりながらも見事打ち倒すことに成功した、でもその時の後遺症で力は大幅に落ちてしまったらしい。
僕との戦いのときも放ったあの光線は魔力を凝縮し大量に消費するものだったようで、使うと力を減少させる、最悪命に関わる捨て身の技なのだが、森を襲った魔物との戦闘のときも使わざるを得なかったということだったという。
彼も運が悪く、その後再び強力な魔物の気配を感じ取り急いで自身を強化するため焦って大幅に許容量を超えた魔力を摂取してしまい暴走するに至ってしまったというのが今回僕が巻き込まれた事の顛末だった。
「大変だったんだね」
「しかし結局はお主に迷惑をかけることになってしまった。守るべき森のものたちも無意味に傷付けてしまった」
「そうだけど、理由は分かるし同情もするよ。みんなも分かってくれると思う。勿論謝罪は必要だろうけど、なんなら付き合うよ」
「そうか……感謝する」
「それで、その強力な魔物は?」
「うむ。いまだ気配は消えておらん。おそらく近々森を襲うであろう」
「なら、僕も森を守るために一緒に戦うよ」
「良いのか?」
「この森は僕にとっても大事な場所だから」
「お主にはいくつも借りが出来てしまうな」
「そうだね。あ、覚えてるか分かんないけど僕を狙ってた理由とかってあったの?」
「曖昧な記憶だが恐らく魔力の多さに反応したのであろうな。より魔力を取り込むために」
「やっぱそんな感じか。まぁ良いや」
さて、急いで対策を考えないとな。僕の大地と繋がる技も魔術も特訓は欠かさないとして……。
「そういえば、名前はなんて言うの?」
「儂のか? 儂はヒエンと言う。お主の名はなんと呼ぶのじゃ?」
僕の名前……。
実は産まれた時のために自分で考えてあったんだ。
「僕の名前は――ネイト」