命
「ぐはぁっ……」
初めての痛みが襲い来る。
失った部分から命が零れ落ちていくような感覚と共に体から力が抜け、地面に吸い込まれるように倒れていく。
脳の処理能力を超えた状況に思考が追い付かない。
視線の先には力を使い果たしたのか同じように倒れ行く魔物の姿があった。
全力を尽くした、やれることはやった。でもまだ足りなかった。絶対生き残るって決めたのに……だけど力を貸してくれた樹木たちは守ることが出来た。それだけが救いだ。
いや駄目だ。そんな簡単に諦められない。
薄れゆく意識の中で助かる方法を模索する。
魔術で治癒効果のあるものを知識の引き出しから見つけだし、朦朧としながらも何とか試みるが効果は薄い。このままでは回復するよりも死ぬほうが早いだろう……失ったものが大きすぎる。
何か他に、まだ、死に、た……くな……
世界から切り離されていく。もう何も見えないし聞こえない、感覚もない。
孤独だ。
地中にいた時とは違う、ただ寂しいだけ。自分だけが暗闇に取り残されている。
自分じゃこの流れはもう止められない、そう思った。
だけど……僕は一人じゃなかった。ずっと傍にいてくれたんだ。
失った部分から僕の中に入ってくる、僕の一部となる命がこんなにもたくさん。
それらにより存在が補強され世界との繋がりが再び確かなものとなり始める。
温もりを感じる。なんでこんなにも優しいんだ。大地が、大地に宿る命が、芽吹く命がみんな僕を見守ってくれているようだ。
意識がはっきりとしだすのと同時に自然と涙が零れる。
全身に力を入れてしっかりと地面に立つ。
周囲の草木や土が消えていた。
僕は絶対に死なない。僕だけの命じゃないんだ。
それに……何となく、たぶんだけど、僕には何か使命があるんだ。こうして産まれてきた意味が。