魔物
不思議な感覚だ。自分が拡がって大地に溶け込むような、そして様々な情報が頭を駆け巡るこの感じは地中にいた頃と同じ。産まれる前に戻ったようだ……しかしなぜ? 俺は外の世界を満喫していたはず。最後に眠ったところまでは覚えている。
周囲数キロの情報に植物を伝って触れることが出来る。大地を這う虫、木の上にいる動物、気温など……ん? なんだこれは。
植物も動物も、普段は恐れを知らないような猛獣までが怯えているのが空気で分かる。何か強大な力を持つ存在が一つ……こっちに来るっ!!
「はっ!! 急いでここを離れないとっ!!」
意識が現実に戻ってきた。動こうとしたとき自分と大地との繋がりが途切れる感じがした。
「あの見ていた情報が正しければ奴がここに来る。おそらく”魔物”と呼ばれる存在が」
魔物とは、許容量を超えた魔力を身に宿し性質が変化した生物の総称。その多くが力を手にするのと引き換えに凶暴性を増したり思考能力を手放したりして邪悪な存在へ変わってしまうという。勿論そうならなかったものや力を御する強者もいるらしいが先ほど見た魔物は明らかに暴走していた。
僕は一目散に逃げ出した。後ろを振り返ることなく真っ直ぐ前だけを向いて全速力で走った。僕の中の第六感がけたたましく警鐘を鳴らしていたから……。
嬉しくないが、その悪い予感は的中してしまった。
肌がピリピリと痺れてくるほどの強大な威圧感を放つ魔物は立ち塞がる木々を物ともせずに次々と薙ぎ倒して僕の後を追ってきていた。決して進路が被っているのではない……狙いは何だ? いや、説明は出来ないが何となく思い当たる節はある。
僕は大地に宿る多くの命をもとに創られた存在だ。それは自分でも薄っすらと理解していたし特別な存在であることは確実だと思う。なら狙われる何らかの理由があってもおかしくない。
そんな事を考えていたら魔物はもうすぐ近くまで迫って来ていた。
くっ……ここまでなのか? せっかく産まれることが出来てこれから楽しいこといっぱいしようと計画してたのに。まだまだ全然足りないよ。試したいこともたくさんあるし、まだ知らないこともたくさんあるはずだ。それに人とも触れ合いたい。だから……。
「こんなとこで死ぬわけにはいかないっ!!」
覚悟を決めた。どのみち逃げ切ることは不可能なんだから戦うしかない。
無謀だとは分かってる。でも、まったく勝算がないわけじゃない。寝ていた時の、大地と繋がり溶け合う感覚で気付いたことがある。仮説でしかないけど他に方法がない。
うまくコントロールできれば……。
「みんな、力を貸してっ!!」