タイトル未定2026/03/23 02:36
「おい」
イヤホン越しに聞こえた男の声が、俺の心臓を無造作につかむ。
「そういう無礼なこと言うの、やめろって言ったよな?」
明らかに怒気のこもった声。
体の末端からぬくもりが消え、全身の皮膚がピリピリと痛痒い。
恐怖、動揺、悲哀、怒り…
様々な感情に心臓が押しつぶされそう、そんな苦しさを感じる。
しかし、俺の心は冷静だった。
この場にあまりにもそぐわないほど、冷静だった。
「俺、なんか言ったっけ…?」
冷静さとは裏腹に、俺の声は震えていた。
かすかに息を吸う音が聞こえた、その瞬間、
「■■■■■!!!■■■■■■■!!!■■■!!■■■■■■■■■!!!!!」
疲れた頭に、怒鳴り声が重く響く。
…何を言っているのか、よくわからない。
英語のリスニングみたいだ。
一つの単語を聞き取って、その意味を思い出している間に、次の単語を聞き逃してしまう。
お前… 馬鹿にする… さっきの… なんで… 言葉…
さっきの言葉…?馬鹿にする…?
俺が、あいつを馬鹿にしたようなことを言った、ってことか?
そんなこと、俺はしない。
しない、絶対にしない!
「度も言ったのになn「違う!」
相手の言葉に割り込む。
「違う!俺はそんなつもりで一旦じゃなくて!あの…」
…そこで、言葉に詰まった。
俺は、さっきなんて言ったんだっけ?
思い出せ… 思い出せ…
「あ、そうだ…!俺が言いたかったのは…」
「もういい」
もういい…?
もういいって、なんだ?
「悪い。…無理に誘って悪かった。…お前も疲れてるんだろ?寝てねぇって言ってたし。」
…?
なんて言った?
寝てない…?
今日、俺は寝た。
「だk「寝たよ!ちゃんと寝たって!」
…
……
………
「悪い、寝るわ」
プツリッ
電話が切れた。
…
え?
…
え?
なんで?
なんで切った?
まだ話してたのに?
ゆっくりと、怒りが湧き出てくる。
指先のくすぐったいような脈動に気が付いたころには、身体の末端まで体温が戻っていた。
震えの止まった指先で、チャット画面のテキストボックスに文字を打ち込む。
俺の中にある怒りを、そのまま文字に起こしたかのような、そんな言葉たちを手癖で入力しながら、先ほどの会話を思い出す。
そう言えば、あいつ、怒ってたな…
あいつがどんな言葉を、どんなふうに言っていたかは思い出せないけど、あいつが怒っていたのは覚えている。
…文字を打つ手が止まる。
あいつ、怒ってたな…
削除ボタンに指を置くと、書き連ねていった言葉たちが、素早く消えていく。
そうしてすべての文字を消し終えると、俺はゆっくりと、自分の意志で指を動かす。
『ごめん』
送信ボタンに指を向かわせる。
途端に指先の震えが戻ってきた。
指の関節がきしむ音が、やけに頭に響く。
ポチッ
送信したメッセージを見る。
『ごめん』と言う言葉の隅には、『2:47』と表示されている。
いつの間にか、ずいぶんと遅い時間になっていたようだ。
ハァ、と短くため息を吐くと、ベッドへ向かうために、椅子から立ち上がる。
ギィ… ィィ…
床のきしむ音が、胸元をざわつかせる。
ぼんやりと、どこを見るわけでもなく、部屋の扉へ向かっていく。
ガコッ
鈍痛と予想外の音。
痛みのする方を見ると、足元にあったらしいゴミ箱が倒れ、中のごみが散乱している。
どうやら、左足をぶつけたらしく、つま先の左側がジンジンと痛む。
腹の底から怒りが湧き、また指先がくすぐったくなる。
…いや、もういい
俺は扉の方に向き直り、そのまま部屋を出ていった。
あとがき~
寝不足って、脳みそが働かなくなるから、嫌いなんですよね
自分がなるのも、他人がなるのも




