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第9話 風の継ぎ目

仮面は答えない。

代わりに屋根の影のひとつが滑るように降りてくる。

黒い布が夜気を切った。


ルフトの瞳が、強く金色に燃える。


(来る)


マイラは地を蹴った。

カイも同時に動く。

三つの影が交差し、路地に風が走った——。


「カイ!絶対離れないで!」


夜気に跳ね返った自分の声が、思ったより大きく響く。

(怖い…でも、私が引っぱらなきゃ)


黒い布が頬をかすめ、ひやりと線を描いた。

「わっ…!顔に当たるのは反則でしょ!」

緊張して喉が渇いているのに、つい口が軽くなる。


「右だ!」とカイが叫ぶ。

「左!…こっちの方が狭いから、追いつかれにくいの!」

声には迷いを入れず、きっぱりと言い切る。


石壁に肩を沿わせ、ざらつきが服越しに腕へ伝わる。

「カイ、前を見て!私を信じてついてきて!」

(置いていかれるなんて、ごめんだから)


ルフトが「キュッ!」と鳴く。

「ほら、ルフトもそう言ってる!」

息苦しい中でも、思わず笑顔になる。


背後から風が押すように吹き抜けた。

(近い…!)

「絶対に捕まらないんだから!」

決意を明るく、でもしっかりと声に乗せる。


「手!」

カイの手を強く握る。その温もりが心まで温めてくれる。

「ふふ…ちゃんと握ってるね!」


右上で瓦がコトンと鳴る。

「上!…まるで忍者みたい!」

カイを庇い、黒布が月を覆う瞬間を捉える。


ルフトの金色の瞳が閃く。「……キュッ!」

仮面の動きが一瞬鈍る。

「今だ!細い道へ!」


夜露で湿った布が頬を撫でる。

「ひゃっ…冷たっ!帰ったら絶対あったかいお風呂!」

心の震えを、未来の楽しみで上書きする。


小石が転がる音が響く。

(まだ、見つかってないはず…)


「カイ…最後まで走り抜けよう!」

息を整え、足を前へ押し出す。


背後の気配は消えていない。ただ姿を見せないだけ。

(視界の外から、ずっと…)


「行くよ!」

月明かりの先へ飛び出す。

路地を駆け抜ける風が、背中に冷たい視線を乗せてきた。


——つづく——

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