失踪──3
「ソラ、あたしと別れた後、ちゃんとエリザベスに会えたんだな。まぁ、あたしの手紙を偽装するなんて馬鹿そうそういないだろうから、そりゃ会えるんだけどな……ちょっと、予想外なことも起こったみたいだが」
「女中に聞いたよ。レンに会ったんだろ?それも魔物達の森の近くで。それで植民地の話になった……いや、その話も後にするか。そっちの方がやっぱり分かりやすいだろう」
「で、あたしはあの後──あの後って言ったら今日の朝方、アンレスタ国が挙兵したっていう話をお前らに話して、別れて行動に移った後ってことだが──取り敢えず、アンレスタ国の様子を確認しに行ったんだよ。それが急務だったからな。最低でも、アンレスタ国の兵の数は把握するつもりだった」
「……そうだな。アンレスタ国が挙兵したってのが、ことの始まりだったんだよな」
「ただ」
「アンレスタ国であたしが見たものは。アンレスタ国に急行して、あたしが見たものは」
「そこには──何一つ変わらない日常しかなかった」
「わかるな? その異常さが」
「ルークが言うことによれば、アンレスタ国は兵を起したはずだったんだよ。何が目的か分かんねぇが、何かしらのために。アンレスタ国は兵を起こしたはずだったんだ」
「ただ、アンレスタ国であたしが見たものは、いつもと何も変わらない日常そのものだった」
「まぁあたしもアンレスタ国に詳しいわけじゃねぇよ。ただ少なくとも、挙兵したなんていう非日常じゃあ、少なくともなかった。そこにあったのはただの平和だった」
「じゃあ、どういうことになるのか?」
「あたしは考えたさ。そこで立ち止まって考えた」
「ルークが嘘をついたのか? いや違うだろう、ルークが嘘をつく理由なんてない」
「ならルークの見間違いか? これは有り得る。ルークだってアンレスタ国のことを見慣れているわけじゃねぇだろうしな。でも挙兵なんていう一大事を見間違えるなんてことあるのか? それはわからねぇ」
「他に考えられる可能性は何かないか?」
「一国の兵が挙兵した──と思ったら挙兵していなかった」
「そうなるには、どんなパーツがいるか?」
「そこまで考えたところで──ルークが合流したんだよ。空の上からアンレスタ国を見張っていたルークが。それからあたしにアンレスタ国の様子を教えてくれた」
「なんて言われたと思うよ。あたしは、なんて言われたか」
「やはり兵が動いてる──だそうだ」
「あたしは何度も自分の目で確認した。アンレスタ国の様子を見て、アンレスタ国の民が普通に過ごしているのを見て。平和そのもののアンレスタ国を見て──でも、空から見たルークは兵が動いていると言う」
「どういうことか?」
「あたしの目には、平和が映り」
「ルークの目には、挙兵が映る」
「どういうことになるのか?」
「……ソラ、気付いたか? そうだよな、ここまできて気付かないわけないよな。そうなんだよ。あたし達はこんな、摩訶不思議な感覚、何度か味わってるもんな──」
「《有能》が関わっている──そう結論付けるのも、当たり前なんだよな」