女と二人の女
三畳の寝所に女が二人寝ている。片側の女はまったく人で無いようである。緑がかって紫色の炎を帯びて、弾力はなく微かに甘い臭気がした。
もう一人、女がそこへ現れると、二人の女を見下ろして、手を腹に当てた。左の女は暖かく、右の女は冷たかった。どうしたものか、と思って首をひねった。左の女は間違いなく死病に取り憑かれていた。これは普通ではどうしても治りようが無かった。右の女は既に死んでいた。ただ、いま両方の裸の腹に手を触れている女だけがすべてを逆転することが出来た。彼女は人を生き返らせることも出来るし不治の病を治すことも容易に出来たが、それは一回限りのことだった。どちらを生き返らせたらいいのやら。彼女は普通の女性であった。神ではない。脳があってその能力の限界で考えることは出来るが、真に正しい結論と言うものを知る術はなかった。片方で、死んだ者を生き返らせるのは道義に反するのではないかと思い、まだ生きているからとて死ぬ運命にあるのなら死者と同じではないかと思った。だったらどちらを助けたらいいのか。欲に聞いたが答えはなかった。道義に聞いても沈黙がかえってきた。結句彼女は死んだ女性のほうを生き返らせるべきだと考えた。頭の中で賽を振ったのである。それから、死者の蘇生は世に稀で人類史の役にも立つだろうと書き換えた。
女は起き上がった。
なんでここにいるのだろう、と問うて、気付き、顔を伏した。どうして人が行きて帰らざるかを死んだ女は知っていたが、甦らせた女は知らなかった。暖かくなった女はぐったりと寝転がった。冷えつつある隣の女に肌をそわせて夢を夢見て目を閉じる。