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1話

【 まえがき 】


■タイトルどおりに、転生したオッドアイエルフ主人公くんちゃんが好き勝手にいろいろやるお話です

■いろいろご都合展開だと思われます


少しでもお楽しみいただければ幸いです


2025.01.17/金

 自分で設定した締切日に間に合わせるために3日徹夜で頑張った卒業論文。なんとか締切2日前に終わらせることが出来たが、頭の中はふわふわしているので、推敲は少し寝てからの方が捗るだろうと睡眠をとることにした。ワンルームだからベッドはすぐ後ろにあり、すぐに寝る準備は整うわけだ。


 ではおやすみなさいと、誰に言うでもなく呟いてベッドに入る。さすがに頭を使いすぎたのか、目を閉じると数分後には記憶が飛んでいた。



◆◆◆



 微睡みの中で聞こえるのは『聖女様』『世界樹様が選んだ人』『あったかいです〜』というきゃっきゃした声。小さな子供の声独特の高い声がいくつも耳に届く。


『女神様ですー』

『ケット、それは違うです。聖女として扱うように女神様は言っていたのですよ』

『そうだったです! クーはちゃんと覚えていてすごいですー! ケットは忘れることがあるですから』


 ううん? 泥棒にしては『聖女』や『世界樹』、果ては『女神様』という言葉が不釣り合いだし、なによりアパートには金目の物はほぼないので、泥棒もすぐに去るしかないだろう。オレが持っている金目の物なんて二つ折り財布にスマートフォンにノートパソコンぐらいだし。泥棒が狙うには貧相だ。あ、家電があったか! でも最新の物じゃないからあんまり金にならないか……。やっぱり泥棒にとっては厳しいわ、オレの家。


 では――、泥棒ではないならなんなのか? 先程から感じているふわふわふさふさしたものはなんなんだろう。ペットは飼っていないので、毛を感じることはないというのに。


 うぉお!? 本当になんなの!? まさかの幽霊が出ちゃったの!? 霊感なんてない感じだったんだけど、ここで目覚めてしまったの!?


 湧いた恐怖にパニクり、悪霊退散と念じるが、きゃっきゃ声が消えることはない。それどころか、『かわいいですー』『ケットだけずるいです! ケットも触りたいです!』『クーも触りたいですー!』と触りたい論争に移っていった。どういうことなんですかね!?


 少し冷静になった頭で考えるが、なにがどうなっているんだ? 寝て起きただけなのに! いや、まだ目は開けてないから、完全には目覚めてはないんだけれども。でもいま目を開ける勇気はない。幽霊だったら嫌だし。だが目を開けないことには周りの確認は不可能なわけでして。確認しないことには現状が解らないので、どうにかしたい。


 ……片目でいけるか?


 閃きに正直になり、おそるおそる右目を開けてみる。――と。謎にわっと歓声が響いた。なんでだよ。聖女様聖女様とうるさい。


 視界に飛び込んできたのは、白い子猫たちに同じく白い子犬たち。生まれたてのように小さいが、それらと同じように二頭身ぐらいの女の子たちと男の子たちもいる。全部でどれほどの数がいるのかは解らないが、なんだか囲まれているっぽい。


 え、なにこれ? どういう状況なの?


 事態の把握を放棄してぽかんとするオレを尻目に、『聖女様ー!』と1匹の子猫が胸元に飛び込んでくる。それを見ていた周りの子たちも一斉に動き出した。『聖女様〜!』と。群がるのが早いのは触りたい論争があったからなんだろうが、待ってくれ!


 オレ、縮んでませんかね……?


 そんな新たな事実に混乱が混乱を呼んで混乱するしかないわけだが、本当になにがどうしてこうなったわけ!?


 聖女様聖女様と騒がしいままの傍らで、ショックから立ち直れないでいるのはオレだ。いまやふわふわの柔らかな毛の感触も解らなくなっていた。


 なにがどうなってるんだ? ――その言葉だけが脳内をぐるぐると巡っている。


 なんで身長が縮んでおりますの? え、なんで? なにを目的にしてわざわざオレの身長を縮めたの? なんにも面白くないよ?


 そんな風に脳みそをフル回転して考えても、計り知れない謎に解決策などはなかった。人ひとりを変えることができる――できている摩訶不思議な力に答えなどあり得ない。これは人智を超える者が為せる技であろうからだ。オレみたいなちっぽけな存在が解明などできるはずもない。


 暴れたい気持ちを抑えたのは頬を擦り寄せてくる小さな子たちの安全の為であって、オレの気持ちは一切入っておりません。暴れられるのなら、泣いて叫んでいるわい!! 嘆きの海に沈んで浮かんでこられないわけよ!


 気分は急降下であっても、入れ代わり立ち代わりで好き好き〜と頬を擦り寄せられてしまうと、だんだんと怒りの炎が小さくなってくる。純粋な好意は闇を払うんだと教えられ、感心する傍らで再び現状を確認する。どうにか落ち着きを取り戻して、なんなら周りを確認する余裕も出てきたらしい。


 まず手が小さい。どう見ても小さな手だ。握っては開くを繰り返す手の大きさは変わらないので、やっぱり現在のオレは幼児なのだろう。乳児ではないと思いたいが、全身の確認がとれないのでなんとも言い難いのがつらいわ。オレは一体何歳児なんでしょうかね?


 うむむと唸ると、子犬が「あ、苦しかったですか?」と声を出す。


「いや、苦しいとかではなくて、なにが起こったのか解らなくてなー」

「聖女様は聖女様になったのです! 女神様が選んだのですよー!」

「世界樹様の進化に必要不可欠なのです!」


 返る声はすごく明るい。きゃーと辺りが再び騒がしくなる。頬擦りもすごい。テンション高すぎやしないか、この子たち。


「あの、ちょっと、確認できないから……っ」


 多数のふわもこに埋もれながらもなんとか口を開くと「むぁ? 確認してたですか!? ごめんなさいですー! すぐに退くですー!」と子犬があわあわし始めると、小さな子たちがひとりひとり引いてゆく。ゆっくりと。あ、ひとりひとりでなくて1体1体か?


 子犬と子猫が4体ずつ、女の子がふたりに男の子がひとり。つまり、11個分(11人分?)の重さがあるわけでしてね。元の躯でなら重さなんてあまり感じなかったであろう小ささであっても、小さな躯であろういまはまあまあ重いのよ。


 やがて重しがなくなり身軽になると、もう一度確認に入った。手は小さいままだ。見遣った足も小さい。悲しいかな、急成長はしないらしい。いやまあ、急成長したらしたで怖いか。


 あと声が高い。子供特有の高い声と言えばそうなんだけども、違うんだ。子供であっても男女の声の違いはあるだろう? オレが話す言葉は男の声ではない。聖女様聖女様と言われているので、簡単に想像出来てしまうわけだが、これではまるで――女の子だ。聞こえてくる声は女の子の声だから。


 待って。マジで待って。背が低いことを気にするよりも大事なことがあったわ!


「えっ? 聖女様ってそういうことなの?」


 思わず声に出した言葉に返るのは、目の前にふよふよしている誇らしげに胸を張る子犬からの「聖女様は聖女様なのですよー!」という明るい声。


 子犬や子猫の言葉の要領がいまいち掴めないが、オレが女の子だから聖女様なのだろう。だから聖者様ではなかったんだ。――でだ、なんで女の子になってんの?


 頭の中はまたもやハテナばかりだ。どういうことなの?


 緩く首を傾げても答えが返ることはなく、子犬や子猫、小さな子たちがまた抱きついてくるだけ。今度は首から下に集中している。


「君たちの名前はなんていうのかな?」


 胸元に抱きつく子犬の頭を優しく撫でながら問いかけると、子犬は「ふへっ、へっ、ふはっ」と変な声を出し始めた。大丈夫かと思いながらも、意思の疎通が可能ならばやることはひとつだけだ。はっきりとした現状把握のみである!


「クーだけはダメですー! ケットも撫でてほしいですー!」

「はいはい」


 縋るように腕に抱きついてきた子猫の頭も撫でてやると、「ふにゃっ、ひにゃぁぁぁ」とまたもや変な声が聞こえてきた。子犬も子猫も動きがなんかカクカクしてる。残った子も頬擦りに勤しんでいるが、話は振ってこない。どうやら話せるのはいままで話せていた子犬と子猫だけのようだ。上下関係でもあるんだろうか? 意外に体育会系の世界なのかね。いや、この子たちがどういう存在なのかがいまだに解らないんだけども。


「大丈夫かー?」

「大丈夫ですー。問題ないですー」


 とは言うが、まだ動きがぎこちないぞ。それでも聞かなければならないことがあるので、ひとまず脇に置いて口を開いた。大真面目に。


「つかぬことお聞きしますが――ここはどこなんでしょうかね?」

「ここは辺境伯であるヴァンヘルセン卿のお屋敷ですー!」


 回復したらしい子猫が元気よく答えてくれるが、『ヴァンヘルセン卿』とはかっこよすぎだろう。センスが良すぎる。ご当主は一騎当千の匂いさえするぞこれは。猛者だろ猛者。


 疑問が一応解決したので辺りを見渡すと、化粧台が目に入った。姿を確認するのに丁度いい。他人(ひと)のものを勝手に使うのはどうかと思うのだが、それでも時には勝手に使う必要があろう。そう、いまだ。いま行かずしていつ行くというのか! しかしいろいろ言ってはいても、罪悪感は拭えないので、すみませんと心の中で何度も謝りながら広いベッドから慎重に降りていく。


「ぉわっ!?」


 足が短いから目測を誤ったのか、途中でずり落ちてしまった。鈍い音が響いたが、掛け布団を巻き込みながらなので痛くはない。ありがとう掛け布団くん、君の勇姿は忘れないよ。


「あー、びっくりしたー」

「せせせせっ、聖女様ーっ!」


 もそもそ起き上がる間にも、大丈夫ですー? 大丈夫ですー? と小さな子たちがすっ飛んでくる。子犬と子猫はオレの周りをぐるぐる回って怪我がないことが解ると「よかったですー」と安心しだした。ちょっと過保護が過ぎる小さな子たち――子犬と子猫の頭を撫でてやると、またふにゃふにゃし始める。


「オレは大丈夫だよ。そっちは巻き込まれてない?」

「巻き込まれてないですー」


 ふにゃふにゃ子犬の答えにこちらもよかったよかったと胸を撫で下ろしつつも、ずり落ちた掛け布団をみんなで上げていく。小さな子が怪我をするのは痛々しいだけだもんな。怪我がなくてなによりだ。


 なんとか証拠の隠滅はしたし、よしと化粧台に向き直ると、子犬が「あっ!」と短い声を上げる。どうしたのかと見ると、「そうだったのですー!」と今度はあわあわし始める。


「聖女様が目覚めたのを報告するのを忘れていたのですー! クーは報告しにいくですから、聖女様は待っていてほしいのですー!」


 いそいそと出入り口のドアへと飛んでいく子犬。だが――、次の瞬間にはドアが勢いよく開き、子犬の全身がドアに激突する音が響いた。「んぶっ!?」という声ももちろん。そして「リーエちゃんっ!」と明るく元気に誰かを呼ぶ声が向こう側から聞こえてきていた。


 誰か呼ばれているなあと思う前に『うわぁ……、痛そう』という感想が上がる。内開きのドアは思わぬ凶器となった模様。全身打っているから絶対に痛い。思ったとおりに子犬はふらふらしているのだが、なぜだか「うぇぇ……、聖女様ぁ、痛いのですぅ」とオレの胸元に飛び込んでくる。ひぐひぐ泣くのは犬も人間も変わらないらしい。


「大丈夫大丈夫。ほら、痛いの痛いの飛んでいけーってな」

「痛くないのですー! 聖女様はすごいのですー!」


 マジか! オレは背中を擦ってやりながら気休めにおまじないをかけてやっただけなんだが、子犬は高速頬擦りをし始めてしまう。元気になりすぎてるよな、これ!?


 どうしたもんかと頬を掻くと、「リーエちゃんはすごいわー!」と勢いよく抱きついてきた人がいるが、あなたは誰なんでしょうか!?


 「ふぇっ!?」と変な声を出しながら固まる間に「奥様!?」と慌てたような声が聞こえてきたが、奥様かー。つまり、ヴァンヘルセン卿の奥方様なわけね。


 そんな人がなんでここにいるの?

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