タイムリープ
『君を助けるために戻ってきたんだ。』
放課後。
夕焼けに染まる教室で、 転校生の少年はそう言った。
窓際の席。
風でカーテンが揺れている。
突然そんなことを言われた 相沢ミナは、 思わず変な声を漏らした。
『……えっ?』
少年は真剣だった。
黒髪。
眠そうな目。
制服は少し古い型。
彼はゆっくり言った。
『時間をさかのぼってきたんだ』
ミナは数秒黙り――
静かに言った。
『私もなんだけど』
沈黙。
風の音。
グラウンドから聞こえる野球部の声。
少年が瞬きをした。
『……は?』
すると後ろの席から、 別の声がした。
『あーやっぱりお前も?』
振り返る。
クラス委員の神崎ユウトが、 めんどくさそうに手を挙げていた。
『というかこのクラス、 全員タイムリープ経験者ですよ』
『…………え?』
転校生・クロノは固まった。
すると教室のあちこちから、 次々と声が上がる。
『俺、四周目』
『私は七周目』
『私は二十三回死んだ』
『屋上ルートだけ未回収なんだよね』
『体育館地下は行くな』
『保健室の先生は信用するな』
『購買の焼きそばパン食べると分岐ズレるぞ』
クロノの顔色が変わる。
『な、なんなんだよお前ら……』
ミナが小さくため息をついた。
『たぶん…… みんな同じ理由』
教室の空気が静かになる。
夕陽が赤い。
まるで血みたいだった。
ミナが言う。
『殺戮ゲームが始まるんです』
クロノの瞳が揺れる。
『やっぱりか……』
ユウトが机に腰掛ける。
その顔には、 諦めと疲労が混ざっていた。
『毎回、六月十七日。 午後六時になると始まる』
『校内放送が流れるんです』
ミナが続ける。
『――“実験を開始します”って』
誰も笑わない。
クロノは唇を噛んだ。
『俺の世界線では…… 最後にミナが死んだ』
空気が止まる。
ミナは驚かなかった。
ただ、 静かに聞いた。
『どこで?』
『音楽室』
ユウトが顔をしかめる。
『あー…… 三階西ルートか』
『あそこは難易度高い』
『というか鍵イベント不足だろ』
『図書室先行しないと詰む』
クロノが叫ぶ。
『なんで攻略前提なんだよ!?』
すると教室後方で、 ずっと寝ていた少女が起き上がった。
長い銀髪。
無表情。
彼女はぼそりと言う。
『だって百回以上やってるし』
『…………』
『ちなみに今回は、 もう始まってる』
その瞬間。
校内放送が鳴った。
ブツッ――
ノイズ。
そして、 女の声。
『生存実験を開始します』
教室の時計が、 午後六時を指した。
カチリ。
廊下の電気が消える。
窓の外が、 真っ赤に染まった。
そして教室の扉に――
ドン。
誰かが、 外から叩いた。




