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コロン様主催企画参加作品。

姫様の甘言に乗ったばかりに……


朝登校して来てから教室で新聞を広げ読んでいる俺に三木が声を掛けてきた。


「熱心に何を読んでいるんだ?」


「んー……」


無視しても良かったんだが、此奴はクラス一の糞、柔道部に所属していてそれなりに喧嘩も強い俺みたいなのにはちょっかい出さないが、自分より弱いと分かると虐めを行う奴。


返事を返さないとなんやかんやと話しかけてきて読むのを邪魔するだろうから返事を返す。


「学校の前の国道を山の上の方へ登って行くと、隣の県との境のトンネルの手前に旧道に続く道があるじゃないか、その旧道の天辺あたりにある崖の下から3年前から行方不明だった菊地さんって方の遺体が、乗っていたオフロードバイクと共に見つかったっていう記事を読んでたんだ」


「菊池? アイツの親戚かなんかか?」


三木が何時も虐めのターゲットにしている菊池に目を向けながら問う。


「多分違うだろ、亡くなった菊地さんは東京の人らしいから」


「なんだ違うのかよ」


「でも、此処にはおっかない噂があるらしいぜ」


「噂?」


「ああ、此の崖の上には昔、戦国時代の頃、椎名氏っていう豪族の館があったんだけど、此の椎名氏の娘が京の都でも噂になるくらいの絶世の美女だったらしいんだ。


で、ある時、此の周辺を支配していた大名が敵対する大名と戦をするため傘下の豪族たち、此の周辺の豪族は皆此の大名の傘下豪族たちだったんだけど、その豪族たちに兵力の動員が命じられる。


当然椎名氏もそれに応えて集められるだけの兵力を率いて大名の下に馳せ参じた。


当然椎名氏の近くの館に住む菊地氏にも動員するよう命令がくだされたのに、菊地氏はなんだかんだと言い訳して動員を行わず大名の下に行かなかった。


んで大名も菊地氏が来るのを待っている訳にもいかず出陣していったんだけど、大名が出陣して国境を越えた途端に動員令を発動して兵力を集め、あろうことか椎名氏の館に攻め寄せたんだ。


館に立て籠もった椎名氏の残存兵力、っていっても大多数が老人や女子供の下に包囲した菊地氏から使者がきて、絶世の美女の姫を寄越せは包囲を解いてやると言ってきた。


椎名氏の姫様はそれに対し、「心が醜いお前のような者の下に嫁ぐくらいなら、自害するわ!」と言って拒否。


激怒した菊地氏の猛攻を受け館は火に包まれる。


火に包まれた館が崩れ落ちる直前、「菊地! お前の所業は幾年経とうと忘れん、お前やお前の子孫が我らの下にきたら膾斬りにして殺してやるから覚悟しいや!」っていう若い女の声が館の中から響き渡ったらしい。


それから数カ月後、戦から帰ってきた大名が菊地氏の所業を聞き討伐の兵を差し向けたんだけど、後から調べたら菊地氏は敵対する大名と通じていて、所属する大名が負けると思ってたから無事に帰国したと分かった時点で慌てふためき、一族郎党と共に逃亡していた。


逃亡する菊地氏の一族郎党の一部が椎名氏の館があった崖上の道を通ったんだけど、追いついた討伐軍の将兵が見つけたのは、あまり力の無い女子供が寄って集って切ったような乱雑な膾斬りで殺された死体だったんだと」


「へー面白えな、そこにアイツを連れてったらどうなるのかな?」


三木は教室の隅で仲の良いオタクたちとお喋りしている菊池を見つめながら話す。


「止めとけよ、そのあと江戸時代になってからも、菊地氏の末裔が崖の上の道を通ると死体になって見つかることがあったんで、菊地氏の末裔は山の向こうに行くのに態々海沿いの道を通るようになったらしい。


ま、そうは言っても全部噂だけどな」


「益々アイツを其処に連れて行きたくなったわ」


「……」


「明日から夏休み、お前車持ってたよな? 菊池を連れて其処に行ってみようぜ」




翌朝、拉致るようにして連れ出した菊池を連れて椎名氏の館があったところに向かう。


館が建っていた広場の手前に車を止め館があった場所に歩く。


朝から晴れ渡っていた空が突然暗くなる、と同時に、俺たちを多数の老人や女子供が取り囲んだ。


そして正面に5〜600年前は美人だったんだろうけど、現代の美人の範疇からは外れる女性が現れた。


女性は俺の事を睨みながら俺たちに声をかけてくる。


「憎き菊地の末裔! 待っていたぞ」


女性に睨まれて身動き出来なくなった三木が叫ぶ。


「間違えないでくれ、菊池は俺じゃねーぞ!」


「イイや、お前が憎き菊地の末裔よ」


「あ、姫様、そこから先は俺が説明します」


俺を睨みつけながらも姫様は返事を返してきた。


「良かろう、此奴に説明してやれ」


「あのな、お前と菊池、逆なんだわ。


最初に菊池から説明するな。


菊池の曽祖父は菊池の高祖父母に拾われたんだよ」


「え? 曾爺ちゃんまだ生きてるけど、そんなこと一言も言ったこと無いよ?」


菊池が首を振りながら否定する。


「まぁ良いから最後まで聞けよ。


俺が警察の古い資料の中から見つけだしたところでは、太平洋戦争末期にお前の曽祖父は母親と思われる女性に手を引かれ菊池さんの家の前を歩いていたんだが、そこに飛来した米軍の艦載機の機銃掃射で母親だと思われる女性が殺されたんだ、警察がお前の曽祖父の身元を調べたんだけど特定出来なかった時に、お前の高祖父母が引き取ると言い出し菊池家に引き取られたんだよ。


高祖父母はお前の曽祖父を実子として扱い、近所の人や親類縁者にも口止めして高祖父母と曽祖父の間に血の繋がりが無い事を教えなかったから、曽祖父は高祖父母を実の親と思っているんだろう。


それでな、お前の曽祖父の事を周辺の県まで調べに行ったら見つけたよ、曽祖父の実父をな。


此処は憶測だけど、病気で旦那を亡くした母親が自分の実家に援助してもらおうと、曽祖父を連れて実家に帰る途中に機銃掃射にあってしまったんだと思う。


そんでお前の曽祖父の父親は椎名家に連なる家の者だったよ。


姫様の出陣して行った2人の兄の何方かを祖とする家の、分家の分家のそのまた分家の末裔。


まあこんな事知っても今更だろうけど、母親の方の親戚も序でに調べてあるから知りたければ後で教えてやるよ。


此のことをお前の曽祖父に言うか言わないかはお前が判断しろ」


「う、うん……」


「それで三木だけど、お前の高祖父は椎名氏に怨まれてる事を知って苗字を変える事を思いついたんだな。


それもただ他の苗字に変えるのでは無く、安全策として椎名家の家臣だった三木家に養子として入り込み三木家の苗字に代わったんだよ。


まあ浅はかな考えだったけどな。


どういう事かって言うと、姫様が菊地の者だと判断するのは名前じゃ無くその身体に流れてる血で判断してるんだ。


因みに菊地の血の匂いはドブ臭い匂いなんだとよ」


「そ、そんな、俺はどうなるんだ?」


俺は憎しみがこもった目で三木を睨む周りの老人や女子供を指し示しながら答えた。


「彼らに膾斬りにされてそこの崖から落とされるのさ」


「ヒイィィィー! 助けてくれー!」


三木が絶命するまでの数時間、俺と菊池は俺の車の中で待機する。


俺たちのアリバイ工作の為に待機してなくちゃならないんだ。


三木が崖から落ちた理由として椎名氏の館跡に行っても何も起こらない事に激怒した三木が、嫌がる菊池を崖っぷちまで引きずって行き突き落とす素振りをしていたら自分が落ちたってシナリオが俺の頭の中で出来上がっているんでね。


顔を助手席に座る菊地の方に向けて、なんでこんな事に巻き込まれてしまったんだと、真っ青な顔をしてガタガタと震えながら頭を抱えている菊池に声を掛ける。


「お前は自分が一番不幸だと思っているようだけど、一番不幸なのは俺だからな。


お前は椎名家の末裔だけど俺は……。


ただの歴史好きの男なだけで、椎名家とは縁もゆかりも無いんだ!」 


3年前のあの日、椎名家の館跡を調べに来たあの日、人がいないからと傍若無人に旧道を爆走していて俺を轢きそうになった男、悪いのは男の方なのに罵声を浴びせながら俺の胸ぐらを掴んできたんで思わず柔道の技で投げ飛ばしたら打ちどころが悪く、そのままくたばりやがった。


やってしまった事に青ざめていたところに姫様か現れ、私の膝下で憎き菊地の末裔を殺めたのはあっぱれ、それに免じてそのドブ臭い死体の発覚を遅らせてやろうと言われ、その甘言に乗ったばかりに椎名家の(かたき、菊地氏の末裔を連れてこなくてはならなくなったんだぞ!



挿絵(By みてみん)


コロン様作製「菊池祭り」参加賞イラストです。






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[良い点] 殺したのお前かい!
[良い点] 椎名氏の姫が絶世の美女 [気になる点] 現代の美人の範疇からは外れている…… [一言] ★評価をパスします
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