公爵 一条宗起
「ふぁっ! これ竹刀でも普通にやばッいなの!」
「フハハハ! これほど心躍ることはなかろう!」
どうしてこういう事態になったのか、それを語るには数時間前に遡らなかればならない。ということで、ゴー◯ド・エ◯スペリ◯ンス・レク◯エム!
***
「大丈夫かなぁ」
「な〜にそんなに緊張しなくても大丈夫じゃよ」
『表彰式が終わったら、さっさと撤収するか?』
「まぁ、せっかくのシロナのための宴じゃ。楽しんでいってくれ」
「あとこの服少し重いし動きにくいなの〜」
『いや戦うわけじゃないんだから』
「大丈夫です。とてもよくお似合いになると思いますよ?」
「こちらの方がよろしいのでは?」
「だったらこちらも!」
「ここはこうして……」
シロナは従者の方たちに着付けをしてもらっている。何たって公爵に会うわけだからな。しっかりとした装いでないと。
従者の方たちもすっかり楽しくなってしまったようで、完全に着せ替え人形状態で、されるがままにされている。
「それはそれは美味し〜いご飯も出るぞ?」
「ご飯!」
「ヨシ! 喰いついた」
やるな、神楽。もうシロナの釣り方を覚えたなんてなんて。流石公爵家の跡取りといったところか。すっかり手なづけてしまった。
「マスター見て見て!」
『とても似合ってると思うぞ』
神楽もシロナもとてもイイ! コイツはグレイトだぜ!
***
「この先じゃ」
「ゴクリ」
神楽が襖を開けると中にはもうすでに人が集まっていた。どうやら俺たちが最後だったらしい。奥にはなんか渋いおっちゃんと、その隣には綺麗な女の人が座っていた。多分この人たちが神楽の両親だろう。
左右には縦一列に偉そうな人たちが座っている。この人たちが重鎮、つまりイースタンの金持ちやら権力者たちなのだろう。あ! あのお爺さんは確か、俺たちが着物を買いに行った店の店主じゃないか?
神楽が入ると、左右に座っていた人たちがサッと立ち上がった。
「皆殿座ってくれ。今回は騒がせてしまったのう」
「いえいえ、姫様が無事で何よりでございます」
その声に他の人たちも、うんうんと頷く。
『みんなから慕われているんだな』
「さすかぐなの」
『何それ?』
「流石神楽の略なの」
『なるほど』
「ほれ、何そこでぼさっとしておる。入ってこい」
「あ、うん」
「おぉ」
「姫様に負けず劣らず美しい」
「大人になったときが楽しみですな」
周りがざわめく。まぁ当たり前だろう! だってこんなに可愛い美少女なんだからな! ふん!
「父上、こちらがAランク冒険者、雪花姫シロナじゃ」
「うむ。私はイースタンを治める公爵、一条宗起である。そしてこっちが妻の」
「一条蒼華です」
「ど、どうも初めましてなの。シロナなの」
「さて、皆も揃ったことだ。乾杯と行くか。皆酒を持て」
『シロナはお茶だからな』
「むぅ」
隙あらば酒を飲もうとするのでしっかりと見張っておかなければ。
「イースタンの平和と英雄シロナに!」
「「「「乾杯!!」」」」
「さて、シロナよ。今回の騒動について、協力してくれたこと感謝する」
「それに娘まで助けてくれて本当にありがとう」
「護衛の仕事のうちなの」
「ハッハッハそうか、仕事か。それで一都市まで救ってしまうとは、いやはや恐ろしい。護衛を任せたよう、団長から聞いた時は大丈夫かと思っておったが、お主に任せて正解だったようだ」
「そうじゃろう? シロナはすごいのじゃ!」
「あなたも見習って欲しいわね」
「う、うぐっ。流石にそれはちょっと……でもいつかは追いついてみせるのじゃ」
「がんばれ〜なの」
「ええい! せいぜい高みの見物でもしておくのじゃな! すぐに追いついてやるのじゃ」
「ほう。それじゃあ、私が毎日直々に稽古をつけてやろうか?」
「それはいくらなんでも体が持たないのじゃ〜」
おお、なんて暖かい空間。この家族団欒な感じとても良きなんだが。神楽もいつもとは少し違う感じがする。親がいると甘えてしまうところはやっぱり神楽も、子供なんだなぁ。
「こんにちは」
「あ、和服のお店の」
「いやはや、まさかあなたがシロナさんだったなんて。店に来た時は美しい娘さんだなとは思いましたが、全く気づきませんでした」
「あの時はお世話になったなの」
「英雄様に和服を売ることができてこちらも光栄です。店にも箔がつきます」
「それは良かったなの」
「ぜひまた機会があれば立ち寄ってください」
「分かったなの」
***
それからもいろんな人と挨拶をしたりして、シロナも疲れてしまったようだ。今はずっとご飯を食べている。あ、またおかわりしている。
『お〜い、ほどほどにしておけよ?』
「うん。分かってるなの。おかわりお願いしますなの」
『本当に分かってる?』
公爵の方を見ると
「あなた、そろそろ飲み過ぎじゃないかしら?」
「うむ。分かっている。ゴクゴク」
「本当に分かってるのかしら?」
分かります。蒼華さん。俺も同じですよ。まだまだ長くなりそうですね。
「おっほん、どれシロナよ。少し私と手合わせしないか?」
「父上、悪い癖が出ているのじゃ」
「ごめんなさいね。この人お酒に酔うと戦いたくなっちゃうのよ」
『根っからのバーサーカーじゃねぇか』
「食後の運動にちょうどいいなの。やらせてもらうなの」
こっちにもバーサーカーいたわ。
***
ということでなぜか急遽始まったシロナVS一条宗起の模擬戦。部屋を移し、道場的な場所へと移動した。
「全く父上ったら、いつも酒に酔う度に誰かを呼んで病院送りにしておるんじゃ」
『え、怖っ』
「いつもやってるなの?」
「そうじゃ。父上は酒が好きじゃからな。全く酒は飲んでも飲まれるなとは良くいったものじゃ」
『だからギャラリーたちが、またか〜って顔してんのか』
「まぁただ今回はお主が相手じゃ。きっと大丈夫じゃろう。勝ってギャフンと言わせてやれ」
「わかったなの!」
「さて、そろそろか。ルールはいたって簡単。この竹刀で、相手の体に一本当てた方が勝ちだ。魔術は流石に禁止だぞ?」
『竹刀なら殺傷性もないしやりやすいな』
「了解なの」
「神楽、合図を」
「では……初め!」
ダンッ
開始の合図と同時に、宗起が踏み込む。気づけばすでに目の前に振りかぶった宗起がいた。
「速っ!」
だが俊敏性ならシロナも負けていない。半身になり竹刀を躱わす。そのまま追撃に入ろうとしたのだが、何だか嫌な予感がしたので、床を蹴って距離を取る。
「ほう、今のを避けたか。それにあそこで攻撃しなかったのも賢い。本物の強者というわけか」
やっぱりあそこで攻撃していたら間違いなくカウンターを喰らっていた。
「まだまだ余裕なの」
「なぁにまだこれからだ。退屈はさせぬ」
「こっちも!」
竹刀と竹刀の鍔迫り合い。力では若干こっちが押し負けてる。マジかよ、シロナの筋力ステータスは結構高いはずなんだが……
ならばと竹刀を傾け相手の竹刀を滑らし、床に落とす。そのまま踏みつけ固定。胴体がお留守になったところを狙う。
「"ライオットスピア"!」
「ふんッ」
「わっ!」
なんと固定していた竹刀をシロナごとそのまま持ち上げてしまった。体制が崩れ、空中に浮かされる。
宗起は流れに乗せて横から一閃。だがこちらも空中跳躍を使い、なんとかバク中で躱わす。別にスキルを使っちゃいけないなんて言われてないもんね。
シロナの頭上を攻撃が通り抜けると、髪の毛が数本切断される。竹刀だよ? 刃物じゃないのに……
「ふぁっ! これ竹刀でも普通にやばッいなの!」
「フハハハ! これほど心躍ることはなかろう!」
それで今に至るというわけだ。




