アーティファクトになってしまった
『ここはどこなんだ?』
まぶしい光に目を細めながら、あたりを見まわした。朝霧が立ち込める中、太陽が昇るとともにその美しさが際立つ。空はピンクやオレンジ色に染まり、とても幻想的な風景だ。
反対側に目をやると、月が沈もうとしている。二つの月がゆっくりと沈む様子は、まるで別世界にいるかのような不思議な感覚を覚える。これほど圧倒される景色を見るのは初めてだ。ん? 月が二つある。
待て待て。一回状況整理をしよう。たしか俺は、VRギアを装着して、始めようとしたら……
おかしい、それ以降の記憶がない。
『セットアップ完了』
『これよりOSを立ち上げます』
『HELLO WORLD』
『うわっ! 喋った』
頭の中から声がする。まさかこいつ、直接脳に語りかけて……じゃねーよ!
『内部データを解析中……プログラムの最適化を行います』
『ちょっと待って! ここはどこなんだ?』
『これより、セーブモードに移行します――』
『ヘイ? ちょっと聞いてる?』
返事がない。人工音声のような声だった。うーーむ。俺疲れてるのかな? ゲームのUIもないし……てか、こんなにリアルなわけがない。
取り敢えず体を動かしてみる。
『あれ? 体の感覚が……ない?』
目は動かせるみたいだ。なんか360°動かせられるけど……
恐る恐る自分の体を見てみる。
『……なんということでしょう。あんなにムキムキでナイスガイなイケメンだっだ俺がサイコロに……』
白を基調とした、実に近未来なデザイン。一つずつの面の縁には水色のラインがあって、いいアクセントになっている。しかもロゴ? だろうか、ところどころに謎の文様があり、実に高級感がある。
そう俺の体は正二十面体のサイコロ的な奴になっていた。
それでも自分が落ち着いているということは、何よりこれが自分の体であると言うことを示しているのだろう。
『まさか……異世界転移か? いや、元の体がないから転生か』
俺は、謎の台のようのものに乗っていて、辺りは謎の機械に囲まれている。何かの研究所だったのだろうか? 植物が所々に根を張っており、人がいなくなって何年か経っているようだ。
異世界……だよな。月が二つあるなんて、どう考えても"地球"では考えれないし。
異世界転生とかラノベかよッッッ。せめて転生するなら人間にしてくれよ! てか、それ以前に転生させるなよ! 俺まだ前世を謳歌しきってないんだぞ。死・ん・で・な・い・の、わかる? VRギアつけただけなんだぞ?
なんだよサイコロって! あれですか? 最近よく見るようになった非生物系の転生ですか? 流行りに乗ってみましたってか?
「はぁ」
とりあえず言いたいことは全て言った。切り替えが大事だ。喚いていても何も変わらない。
気分を変えよう。そういえば、転生といえば、チート能力がつきものだよな。
ないのか? なんかいい感じのやつ。そうだなぁ、ステータス閲覧とか基本的なのとか。
『……』
そうだよなぁ、ここは現実。創作物の世界じゃないんだ。やっぱりそんなご都合展開なんてあるわけ……
『スキル〈解析〉を発動しますか』
おぉっ、さっきの声の人だ。どうやら幻聴ではなかったらしい。ていうかスキルがあるのか! ということで"発動"と念じてみる。
表示されたのは自分のステータスの様だった。
名称:――――
装備者:なし
種族:スピリット・アーティファクト
攻撃力:5
魔力:300/300
耐久力:150/150
称号:
規定スキル:収納 解析Lv.4 再現 自動修復 自己進化 装備者ステータス上昇(小) 装備者自動回復(小) 装備者スキル共有 念話 アカシックレコード干渉権限Lv.3
スキル:念力Lv.2 形状変化Lv.2
なんかいっぱいある。ステータスは……低いのか高いのかわからん。取り敢えず、スキルとか個別に詳細が見れそうだから見てみる。
念力:ある程度距離が離れていても、その対象に力を加え、自由に操ることができることができる。
形状変化Lv.2:自分の形状を変えることができる。
収納:別空間に物質を収納できる。収納:生きている動物などは収納できない。
解析Lv.4:観測したものの情報を開示する。解析したいものを、収納することによって精度が上がる。
再現:解析した物のスキルを自分のものにすることができる。
自動修復:完全破壊されない限り、自身を修復し続ける。
自己進化:自己進化:収納したコアを使用したり、魔物を倒すことで自身のステータスやスキルを強化することができる。
装備者ステータス上昇(小):装備者のステータス全てを10上げることができる。
装備者スキル共有:装備者と自分のスキルを共有し、使えるようにする。
装備者自動回復(小):装備者のステータスの回復速度を少しだけ上げることができる。
念話:指定した者と言語の壁を超えて意思疎通ができる。
アカシックレコード干渉権限:世界の情報又は真理の一部を見ることができる。
ふ〜む、実に厨二心溢れる単語がいくつもある。明らかにただのサイコロじゃなさそうだ。
名称が空白ということは俺の名前はなくなったのか? それにスピリットアーティファクトってなんだ?
まぁ、わからないからいいや。
不思議と未練のようなものはない。ないったらないのだ。ハードディスクの中身も見られないようにパスワードもつけておいたし。
あ、そういえば、もし俺が死んだらPCを風呂に沈めておいてくれって父さんに言った気がする。まさか、今頃……
『あぁぁぁぁ! 数年かけてまとめた俺のコレクションがぁぁぁ!』
この際一生、童貞なことは眼を瞑ろう。べ、別に気にしてなんかないんだからね!
「ねぇ神様? 俺なんかした? 流石にちょっと酷くない? 当たり強いよね?」
さっきの言葉は撤回しよう。やっぱ未練しかないわ。