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ショートショート3月~2回目

棚掃除

作者: たかさば

「ヤバイ!!もう行く時間だ!!!あ、おべんとう!!」


 ずいぶん気温の上がってきた早朝六時、キッチンに響いたのは天真爛漫な娘の声である。

 朝から元気だなあ、若いってすばらしい…そんなことを考えつつ、私はお弁当の入ったランチバッグを差し出す。


「はいはい、ここにございますよ!お持ちなさい!!」

「ありがとー!いってきまーす!!」


 娘は、毎日お弁当を持って働きに行く。

 社食もあるし、会社の隣にはコンビニもあるというのに、私の作るお弁当がいいと言って毎日持って行くのだ。

 高校、専門学校時代とあわせると、かれこれ6年間…私は毎日のようにお弁当を作っている。


 私はお弁当を作るのが…わりとかなり随分大好きなので、毎日嬉々としてこしらえているわけなんですけれども。


 …五年も経つと、すっかりお弁当箱もへたれてまいりましてですね。


 今娘が使っているお弁当箱は、専門学校の入学祝で買ったもの。

 パッキン付きの、密封できるタイプのもので、かなりいいお値段がしたんだよね。

 雑誌の付録やドーナツセットのおまけのお弁当箱とは違い、使い勝手も良ければ洗った時の泡切れも良く、やはりいいお値段のものがそれだけいい仕事をしてくれるのだとまざまざと見せつけられているというかなんというか。


 …思えばずいぶんいろんなお弁当箱を使ってきた。


 お弁当箱集めが趣味だった私は、ここぞとばかりに埋蔵されてたやつを引っ張り出しては、全部娘に使ってもらったのだ。

 一回食洗機にかけたら蓋が縮んじゃったのや、レンジに入れて変形したのや、みっちり詰めたら割れちゃったのや…いろいろと大変な目に遭いながらも、きっちりお弁当箱をお弁当箱たらしめることができた喜びをしみじみと感じることができたというか。

 一時期サンドイッチに凝っていた時は辞典みたいなタッパーにみっちり詰め込んで持っていかせたし、スープにハマった時はランチジャーを持っていかせたんだよなあ、うーん、懐かしい。


 初めて買ったアルマイトのお弁当箱は、高校生になる時まで使い続けて、もはや何がプリントされていたのかわからないくらいはげちゃって…旦那が寝ぼけて踏みつぶすまで大活躍してくれたんだよなあ。

 つぎに使ってたのは、私が学生時代に買ったキャラクターもののお弁当箱だったな、勿体いなくて使えなかったやつ。あれは特殊なパッキンが裂けちゃって、泣く泣く処分したんだよ。

 高校生のとき気に入って使っていた二段のお弁当箱は、ある日突然内蓋が真っ二つになったんだよね、使いやすいから同じのを探したんだけどもう売ってなくって…めちゃめちゃ意気消沈したんだった。

 私が働いてる時に使ってたお弁当箱なんかまだあるのに、娘の使うお弁当箱の磨耗率及び破損率の高い事といったらもう。

 ……やはり毎日持っていくというのが地味に効いているのだな。息子のお弁当箱はまだまだきれいだし。


 お弁当箱の消耗も激しいけど、案外侮れないのが…箸ケースだったりするんだよね。


 箸ケースは、お弁当箱や箸以上にダメージを受ける割合が高い。

 スライド式のふたが欠けるだとか、蝶番の所が割れるとか、わりと一年持たずに旅立ってしまわれることが多かったりする。

 が、箸自体は案外丈夫なので、どんどんすみかを失くした箸が溜まっていってしまうんだよね…。

 …貧乏性なのが地味に効いてるんだよ、ついつい箸ケース単品じゃなくて、箸とケースがセットになってるやつを買っちゃうもんだからさあ。

 かくして、うちのカトラリーケースには、お弁当用から離脱したプラスチックの箸がわんさかと詰まっていらっしゃるのだ。


 プラスチックの箸ってさ、案外丈夫で長持ちするもんだから、どうも悪くなっていかなくって…短いのや派手なの、いろんなのがごちゃごちゃに入ってて、毎日の食事の際、この箸の相手はどこ行っただのお気に入りの長い箸は私が使うだの、色々と面倒なことになってるんだよね…。日替わりでいろんな箸で食事を楽しめると思えば、多少ワクワクしないでもないんだけど、どうもこう…無駄が多いというか。


 箸ケースも地味にたくさんあったりするんだよね、いきなり割れたりするから、ちょっと多めにあった方が良いよねという謎の気遣いが功を奏して、キッチンの引き出しの中には5つほど常備されていたり。

 中には、すっかりぼろぼろで、触るとプラスチックの粉が付着するほど磨耗しているものもあるんだけど、割れているわけじゃないし、娘のお気に入りだし、短い箸が入る貴重な大きさのもので、なかなか処分することができなくてさあ。あと一回使ったら捨てよう、そう思い始めてもう半年くらい経って…いや、去年の今頃も捨てていい、捨てちゃダメの押し問答をした気がする。


 ……どうもうちは、モノを捨てるタイミングを逃す癖があるんだよなあ。


 そうだなあ、一回くらい箸とお弁当箱の整頓でもしてみるか。

 幸い今日は雨、いつも行くウォーキングはお休みにするから、一時間の余裕がある。……よし、思い立ったが吉日というではないか、やるか、今すぐやろう!

 食器棚の真ん中の段を占領しているお弁当ものをワークトップの上にずらりと並べ、使えるものと使えないものをチェックしつつ、整頓および格納していってみる……。


 すると、どうだ!!!


 蓋のないお弁当箱、弁当箱の存在していない仕切りパーツ、なぜか蓋しかないタッパー、一本しかない箸、歯形のついた箸にがたつくスプーン、乳児用のシリコンおさじにストローマグの替えパッキン、うどんカットする奴にすりつぶし器セット、キャラ弁用のテンプレートにお菓子が詰まったお重箱?!誰だこんなもん入れといたのは!!!こんなもん没収だ、没収!!!

 地味にナフキンときんちゃく袋、ランチバッグも山のようにある、しまったなあ、もらい物とか突っ込んでたら知らぬ間にカオスになっていたらしいぞ。今娘の使ってるランチバッグなんか穴があきかけてるのに…新しいの出そう!ずいぶん古いのもあるなあ、破れてるのやほつれているのは処分でいいな、色が抜けてるのも捨てとくか、新品のやつは袋から出してと。なんかレジ袋の畳んだのが袋に入れて突っ込んである、こんなとこにいれといたら使えないじゃん……。


「これ、捨てちゃうの。」


 ドタバタやってたら、朝ごはんを食べ終わった息子がやってきた。

 何やら不満げな様子で、ゴミ袋の中のナフキンを拾い上げている…。


「ああ、もう保育園の時のはいいでしょう、らいおんぐみって書いてあるし…。」


 ……息子はこのナフキンが大好きだった。

 保育園入園前に一緒に布を選びに行って、糸を選んで、布を切るのもミシンで縫うのも、黙ってニコニコと見つめていた二歳の頃の息子の姿が頭に浮かぶ。毎日お揃いの巾着と一緒に保育園に持って行って…遠足の時はこのナフキンでお弁当を包んで。中身はいつも焼き椎茸とおにぎりだったな、あの頃は食が細くて大変だったんだよ、巾着は布が薄くなっちゃって卒園間際に底が抜けたんだよね。いきなり箸箱が落っこちて、割れちゃって…あのとき使ってた箸は残ってるんだよね、うん。


「まだ使いたい。」


 息子はゴミ袋の中から、ナフキンを何枚か拾っている…あああ、こうして物というのは、捨てられる機会を失ってしまうのだ。

 ……まあいいか、ずいぶん、棚の中はスッキリとした。今日はここまでにしておきますか。息子から手渡されたナフキンを棚にしまって…本日の掃除は完了だ。

 私は小さなゴミ袋の口を締め、ダストボックスの横にそっと置く。


 空間のできた食器棚は…何となく寂しく見える。

 …缶詰めでもおこうかな?でもなあ、あんまり重たいものは棚の中腹にしまいたくないんだよね。

 …ティーセットでもいいな。そういえば…もうずいぶん茶葉を楽しむことをしていない。あれだ、娘がフレンチプレスに手を伸ばして危なくって、趣味のお茶をやめちゃったんだよね。

 …そうだな、もうひっくり返しそうなチビッ子はうちにはいないし、久しぶりに揃えてみるのもいいかもしれない。若い頃はいろんな茶葉をお取り寄せしてさあ、日替わりでアロマ的な感覚で楽しんでいたんだよね♡そうだ、今日は茶葉でも久しぶりに見に行ってみようかな!


 テンションの上がった私は一日中上機嫌で仕事をこなし!!

 帰りにウキウキしながら近所のショッピングモールに向かって、新品のフレンチプレスと茶葉を購入してまいりまして!!

 鼻歌交じりでキッチンに向かった私はですね!!!


「げえ!!なにこれ!!」


 今朝がた空いていた場所に…フルーツグラノーラが、シリアルが…みっちり詰まっているのを発見し!!!


「あ!!お帰り!!なんか場所空いてたから朝ごはん入れさせてもらったー!」


 お茶のセットを置く場所を探している真っ最中だという、お話ですよ……。


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