私の嫌いな推し映画
本当は好きなのに、恥ずかしくてつい拒否反応をしてしまうこと、ありませんか。
本作は、「第3回『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』大賞」応募作品です。
『映画「コック戦隊ウマインジャーVS御面ライダーオカメ」』
「こ、こんなの観るの?」
映画デートに誘われたものの、彼が観たいのは子供向けのヒーロー映画だった。
代金は払うからと、彼は私を連れて映画館に入る。
この映画に拒否反応が出たのは、子供向けだからじゃない。
むしろ逆! ヒーローが好きで好きでたまらない! なので、彼の前で興奮して、怪しい動きをしてしまうかもしれない。
それが怖くて恥ずかしくて、ついあんな反応をしてしまった。でも、いちど否定的な態度を取ってしまった手前、今さら好きとも言いにくい。
微妙な気分を抱えながら、ポップコーンとジュースを買った。
入場口で、特典のミニカーをもらう。チーズ・ブルーが乗るウマイカーだ。
映画が始まる。待ちきれなくて、ポップコーンもジュースも片付いてしまった。
アッ……。声が出そうになり、両手で口を押さえる。お面を着けているせいで不審に思われて、ウマインジャーから食い逃げの疑いをかけられるオカメ。影が落ちたお面に滲む、周囲に理解されない人間の孤独さよ。
ギャヒー! 体臭がコンプレックスのチーズ・ブルーをカレー・イエローが慰める! 似て非なる境遇の二人の関係が熱い。
アウッ、オゥオゥ! ウマインジャーが作る料理をおいしそうに平らげるオカメ! 良い男は食いっぷりも最高なんだよ。
オゴゴゴゴゴ! 敵対していた相手が仲間に加わる感動! オカメの唯一無二の食いっぷりに、食い逃げの疑いが晴れる! そう、あの食い逃げ犯、オカメと同じお面を着けた偽物だったのだ!
「大丈夫?」
彼が、心配そうに耳元へ囁いた。
私は、手で口を押さえたまま頭をガクガクと上下に振る。体は大丈夫だけど、心は炸裂寸前!
映画が終わった。食い逃げ犯は敵の怪獣だったとオカメが暴いて、最後はウマイゾーロボのビームで倒した。
「面白かったね」
「まあね」
映画館を出て、彼が話しかけてきた。感想を言おうとしたら、彼は料理バトルの熱気やウマイゾーロボの造形を語り始める。
同じ映画を観ても、目の付け所は全然違う。でも、彼との距離は縮まった気がした。
「特典のウマイカー、いらないなら俺にくれない?」
「ううん。記念にちょうだい」
そう言うと、彼はちょっと不満げな表情をした。
「また観に行こうよ」
私は、彼を誘う。彼も私も、顔がほころんだ。