表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私の嫌いな推し映画

作者: 田池 多季

本当は好きなのに、恥ずかしくてつい拒否反応をしてしまうこと、ありませんか。


本作は、「第3回『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』大賞」応募作品です。

『映画「コック戦隊ウマインジャーVS御面ライダーオカメ」』


「こ、こんなの観るの?」


映画デートに誘われたものの、彼が観たいのは子供向けのヒーロー映画だった。


代金は払うからと、彼は私を連れて映画館に入る。


この映画に拒否反応が出たのは、子供向けだからじゃない。


むしろ逆! ヒーローが好きで好きでたまらない! なので、彼の前で興奮して、怪しい動きをしてしまうかもしれない。


それが怖くて恥ずかしくて、ついあんな反応をしてしまった。でも、いちど否定的な態度を取ってしまった手前、今さら好きとも言いにくい。


微妙な気分を抱えながら、ポップコーンとジュースを買った。


入場口で、特典のミニカーをもらう。チーズ・ブルーが乗るウマイカーだ。


映画が始まる。待ちきれなくて、ポップコーンもジュースも片付いてしまった。


アッ……。声が出そうになり、両手で口を押さえる。お面を着けているせいで不審に思われて、ウマインジャーから食い逃げの疑いをかけられるオカメ。影が落ちたお面に滲む、周囲に理解されない人間の孤独さよ。


ギャヒー! 体臭がコンプレックスのチーズ・ブルーをカレー・イエローが慰める! 似て非なる境遇の二人の関係が熱い。


アウッ、オゥオゥ! ウマインジャーが作る料理をおいしそうに平らげるオカメ! 良い男は食いっぷりも最高なんだよ。


オゴゴゴゴゴ! 敵対していた相手が仲間に加わる感動! オカメの唯一無二の食いっぷりに、食い逃げの疑いが晴れる! そう、あの食い逃げ犯、オカメと同じお面を着けた偽物だったのだ!


「大丈夫?」


彼が、心配そうに耳元へ囁いた。


私は、手で口を押さえたまま頭をガクガクと上下に振る。体は大丈夫だけど、心は炸裂寸前!


映画が終わった。食い逃げ犯は敵の怪獣だったとオカメが暴いて、最後はウマイゾーロボのビームで倒した。


「面白かったね」

「まあね」


映画館を出て、彼が話しかけてきた。感想を言おうとしたら、彼は料理バトルの熱気やウマイゾーロボの造形を語り始める。


同じ映画を観ても、目の付け所は全然違う。でも、彼との距離は縮まった気がした。


「特典のウマイカー、いらないなら俺にくれない?」

「ううん。記念にちょうだい」


そう言うと、彼はちょっと不満げな表情をした。


「また観に行こうよ」


私は、彼を誘う。彼も私も、顔がほころんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 映画の感想を脳内で炸裂させてる、あの疾走感! 最高でした(笑) カミングアウトした時にまた距離が縮まるお楽しみがまだ残ってるのもいいですね。
[良い点] 彼氏くんにバレバレな様子なんだけど、隠せてるのと気付いてない(もしくは気付いてないフリ)という距離感が初々しくって良かったです [一言] チーズブルーとカレーイエローが同席してるだろうウマ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ